少女は落ちていった。ビルの屋上からどこまでも。
「...あ、れ。」
少女は目を覚まし、あたりを見渡す。路地裏である。こっそりと外を覗き見てみるとどうやら今は夜も夜、深夜のようで、人通りはほとんどない。少女はその路地裏の奥の方まで引き返すとうずくまってしまった。
「わたし...なんで...」
ふと気づくと、なぜだか涙が出てくる。少女は涙に咽、そしてまた、泣く。何故泣いているのか。自分のことなのに、少女にはそれがわからなかった。
30分ほどしてからだろうか。少女は突然立ち上がった。
「...寝床、探さなきゃ」
少女は当てもなく歩き出した。頭の上にヘイローを浮かべ、この日本においてあまりにも異質な──銃を大事そうに抱いて。
だが、少女は気づいていなかった。この街において、彼女のような人間がいかに目立っているかを。
同時刻、すぐ近くの家に身を潜めていた男は、魔力などとは違うような圧を感じて立ち上がった。双眼鏡を取り出すと窓を開け、ある一点を凝視する。男が見たときには少女はちょうど移動を始めた頃で、すぐに見えなくなってしまったが...男の目にはその姿がまだ色濃く写っているように感じられた。
「誓ってもいい。」
男は誰にともなくそう呟く。男は確信した。
「彼女の...あの少女から出ていたアレは...」
魔力などではない、と。
例えるのならば、元々魔術が再現しようとしている、魔術などよりも自然で力のある。
そう、もし言葉とするのなら。
「あれは...あれは神秘だ。」
男は喉を鳴らして笑った。それは実に不愉快な笑い声であった。
そして、誰かを呼び寄せるような格好を取った。と、そこに確かに一つの人影が現れた。男はその人影に声を掛ける。
「ランサー...あの少女を俺のもとにつれてくるんだ。今晩中に。」
「...」
ランサーと呼ばれたその人影はそれに頷くと、瞬く間に姿を消した。
そのまた同時刻、書斎で本を読んでいた天沢 翠という魔術師もまた、特別な気配を感じた。彼女は困惑したような顔をすると書斎からまた別の本を取り出した。もちろんただの本ではない。彼女がページを開くと、その中に映像が紡がれていく。
「この子は...何?魔術師ではないのは確かだと思うけれど...」
「サーヴァントではないのですか?」
「キャスター...いえ、違うと思うわ。第一サーヴァントはだいたい召喚されきってるでしょう?」
そういうと翠は男、キャスターの方を向いて話す。
「あら、でも、この子...傷だらけ。...保護しましょうか。」
「保護、ですか。」
彼女は根っからの善人なのでそう言ってたちあがる、と...
「キャスター...」
「...なんですか?」
「この子、危ないかも。近くにサーヴァントらしいのがいるわ。」
「わかりましたよ。私はサポートしかできないですけど...」
翠は書斎の扉を思い切り雑に開いた。
「十分よ。急がないと」
少女は走る。
先程から気配を感じるのだ。それは徐々に近くなってきており、少女は恐怖を感じた。そしてまた走る。知らない街の、知らない景色がどんどん視界から消えていく。
やがて、明かりを見つけた。そこは公園であった。彼女は知らないだろうが。翠の家に若干近づいた場所でもある。
息を整え、後ろを振り返る。いや、振り返ろうとした。
と。
少女の胸に向かって槍が突き出された。