その少女は、物心のつく頃にはブラックマーケットで暮らしていた。『あちら』では退学になってからそこに入り浸る生徒は腐るほどいるが、生まれたときからそうだという事は滅多にないことであった。
そして同時に少女はあまりにも無知だった。そのため悪い大人に騙され、つらい思いをしたことも沢山ある。その経験が彼女を臆病にした。
ただ、同時に優しい大人だっている。そのおかげで彼女は学校にこそ行けなかったがある程度の教育を周りの人々から受けていた。
それに───先生。
少女にとって先生という存在は希望であり、憧れであり...少女にとって最も大事なものの一つ。
いつでも会えるわけではなかった。
だがそれでも、彼女はそう思っていた。なのに、それなのに...
「...ッ!?」
走馬灯のようなものを頭から追い出すと、少女は自分の胸を咄嗟に抑える。だが、出血はしていなかった。
「殺してしまうかと思ったが、ピンピンしてるか。無事に届けられそうで安心したわ。」
どうやら本気で来ているわけではないとわかりつつも、彼女はその槍使いと距離を取る。暗いのでよくは見えないが、どうやら甲冑を着ているようだ。相手、つまりランサーはそんな彼女を見て声を掛けつつ、距離を詰める。
「ん?逃げるのであれば...少し手荒になるぞ?」
「...大丈夫」
そう言うと少女は──
「逃げるんじゃなくて...」
「ぬ..?」
相手の懐に入ると、彼女は自身の愛銃を素早く取り出す。
現代人からすると少し古めかしいその銃の名は『アミュレット』。正しく言うならばトンプソン・コンテンダーである。
「お返しだよ。」
そしてランサーに向かってためらいなく発砲する。
「ふん...」
が、ランサーは高速で槍を振り、弾丸を切り落とした。
かの、様に見えた。
「なにッ...!?」
「これが、私の弾。」
槍は砕け、弾丸はランサーに命中する。ランサーは思わず呻いた。
その隙に少女は逃げ出そうとした、が。
「あ、だめだ...」
力が抜ける。実のところ、もう限界だったのだ。
彼女は意識を手放した。
天沢翠は結局、少女を見つけることができなかった。遠くから公園にいる彼女を見つけることはできたのだが、其処につく頃にはもういなくなってしまっていたのだ。
「うぅん...心配ね。」
「マスター、気になっているんですが。なぜその子のことをそこまで気にして?」
「特に理由はないんだけど...」
本越しに見た少女の体は細く、目は虚ろだった。少なくともあの年齢の子がしていいような目ではない。
「...マスター、ええと、あなたも確か高校生ではなかったですっけ?」
「あらら、声に出てた?」
フフと笑う翠。その顔はあまりにも大人びており、キャスターはまた別のタイプの不安を感じるのだった。
『監督役』峰崎字城は頭を抱えた。
「準備したところで、結局こうなるのか...」
あの少女は誰なのか。明らかに普通の人間ではないだろう。槍に当たっても怪我をせず、明らかに威力のおかしな銃を扱う。更にコスプレのような格好をしていると来た。
まぁそこはいい。取り敢えず巻き込まれておいてもらおう。
「...いるのか?」
「もちろん。」
宇城は背後の女に問いかける。期待はしていなかったのだが...
「あの子。」
「あの、銃を持った?」
「うん。あの子、令呪が浮かんでる。」
「ッ令呪、だって?」
動揺する宇城。そんな彼に女はなおも言葉をかける。
「見に行く?」
彼は大きくため息を付くと頷き、そっと首飾りを握りしめた。