「なっ……? コ、『エンマ』? 星徒君? 今、なんて言った?」
星徒の言葉の中に聞き捨てならない単語があることに気づいたぬ~べ~は星徒に話しかけるのだが、星徒が答えるより先に彼が机に置いた機械から子供の声が聞こえてきた。
「そうだな……。確かにこれは地獄……霊界の失態で無視はできんな……」
星徒が机に置いた機械は霊界との通信機で、通信機から聞こえてきた声はコエンマのものであり、ぬ~べ~達が通信機の画面に映っているコエンマの姿を見ると広が声を上げる。
「何だ? このガキンチョは? 何だか偉そうな口ぶりだな?」
「なっ!? 何だとこの……!」
広の言葉にコエンマは思わず怒鳴ろうとするのだが、その前に星徒が止める。
「落ち着いてください、コエンマ様。その子供の姿では無理ありませんよ。それと広君も口を慎んでくれ。この方はコエンマ様。『あの』閻魔大王様のご子息で、こう見えてここにいる誰よりも歳上なんだよ?」
「え〜? コイツが? とてもそうは見えないけど?」
日本の地獄の管理者である、死後に死者の魂を裁く裁判官、閻魔大王。その名前は当然この場にいる全員が知っているのだが、広は納得いかないという表情で星徒に反論をして、他の生徒達も似たような表情をしているのを見た星徒はため息を一つ吐いてからコエンマの方を見る。
「……はぁ。コエンマ様。やっぱり『子供の姿の方が楽だ』とか『疲れる』とか言ってないで大人の姿でいた方がいいんじゃないですか?」
「それもそうかもしれんな。……おい。そこのガキ共。これならどうだ?」
「え? ……ええっ!?」
通信機の画面の中で星徒の言葉に頷いたコエンマは一瞬で二十代前半くらいの(ただしおしゃぶりはつけたままだが)姿となり、コエンマの変身を見て広達は驚きの声を上げる。
「ふむ。どうやら少しはワシの凄さが分かったようだな? ……さて、それでは本題に入るとするが、鵺野鳴介よ」
「は、はい! 何でしょうか!?」
広達の驚く顔を見て満足そうに頷いたコエンマがぬ~べ~に声をかけると、伝説の閻魔大王の息子と会話ができるだなんて夢にも思っていなかったぬ~べ~は緊張した声で返事をする。
「……まず最初に言わせてほしい。我々、霊界はお前に二つの意味で迷惑をかけた。……すまなかった」
「……え?」
通信機の画面の中にいるコエンマはぬ~べ~に向けて頭を下げて謝罪し、予想もしなかった出来事にぬ~べ~は呆けたような声を漏らす。
「あの、コエンマ様? 二つの意味で迷惑とは一体……?」
「まず一つは先程の地蔵虐の発見が遅れ、結果としてお前の生徒を苦しませてしまった件。そしてもう一つはお前の恩師、美奈子の魂が悪霊によって地獄の刑場に送られたのを気づけなかった件だ」
ぬ~べ~に聞かれてコエンマは心から申し訳なさそうに答える。
「霊界の鬼は人間と同じように千差万別でな。理性的で書類作業をしてくれる鬼もいれば、目の前に獲物がいればそれが何であれ襲いかかる猛獣のような鬼もいる。地獄の刑場にいる鬼はそんな猛獣のような、犯罪妖怪一歩手前な鬼ばかりなのだ。お前の左手の鬼もな。鵺野鳴介、お前が封じている鬼は『覇鬼』という名で、地獄の深遠である『焦熱地獄』にある刑場の獄卒をしておった、地獄でも高位の鬼だった」
「焦熱地獄……! 八つある地獄の層で六番目の……地獄の鬼は深い層にいる程強いと聞きましたが、そこまで強い鬼だったなんて……!」
自分が封印していた鬼の正体を知って驚くぬ〜べ〜の言葉にコエンマは頷き言葉を続ける。
「うむ。しかし覇鬼は典型的な地獄の鬼でただ目の前の獲物、罪人の魂を喰らうことしか頭になかった。だから悪霊により地獄に落とされた美奈子の霊もためらいもせずに食ってしまったのだ。我々霊界が悪霊の動きに気づいていればそんなことにはならなかったのに……本当にすまなかった」
「い、いえ……。コエンマ様は悪くありませんので……」
再び頭を下げて謝罪するコエンマにぬ〜べ〜は複雑な表情で答え、そこで星徒はあることに気づく。
「あの……コエンマ様? その覇鬼が地獄から人間界にやって来たのって本当に偶然なんですか? 鵺野先生の恩師である美奈子先生の霊を食べた覇鬼が人間に来て、しかも鵺野先生の近くに現れるだなんて偶然にしては出来過ぎなような気が……」
「いい所に気づいたな、星徒よ。ワシもそれは美奈子の霊が影響しておると考えておる。美奈子の霊を食った事で覇鬼は美奈子の記憶の影響を受け、生前面倒を見ていた鵺野鳴介に引かれて人間界に脱走したのだろう。……恐らく、美奈子は鵺野鳴介がちゃんと生きていけるのかと強い未練を持ったまま死んだのだろうな」
「美奈子先生……! コエンマ様!」
星徒の疑問に答えるコエンマの言葉を聞いてぬ〜べ〜は思わず涙を浮かべ、次の瞬間には通信機の前で土下座をしてコエンマに頼みこんだ。
「お願いします! 俺ができることならなんでもしますから、どうか美奈子先生の霊を覇鬼から解放してください!」
「むう……。こちらとしてもそうしてやりたいのは山々なのだが……詳しく調べないと分からないが、恐らく今の美奈子は覇鬼と完全に融合していて、無理に引き剥がそうとすると、美奈子の霊が破壊される可能性があるのだ」
「そんな……!?」
絶望した表情を浮かべるぬ〜べ〜にコエンマは焦ったような表情で話しかける。
「あー、待て待て! だからといって何もしないとは言っていない。霊界でも鬼の力を制御するアイテムがないか探してみるし、人間界にも鬼に関するアイテムの情報があったらそこにいる星徒に回収させる。星徒も協力してくれるよな?」
「そうですね。ここまで話を聞いた以上は協力しないというわけにはいきませんからね」
コエンマの言葉に星徒が頷き、こうして霊界探偵と霊能教師との協力関係が結ばれたのであった。