ゾンビパンデミック世界でバッタ怪人になった話 作:半田五手
思い浮かんだのは……今世の家族に対する隔意。
前世のころの家族とこの人たちは違うのだという無意識かつ無遠慮な俯瞰的な差別意識。
2度目の人生が故の愛情不足。
上辺だけの家族ごっこで満足して、結局これっぽっちも両親も妹も自分の人生にさえ深く興味を持たず愛された分の愛を返すこともせずに生きて他人事。変わり果ててしまった家族を動揺しながらもアッサリと殴殺できてしまったのだって、愛情にあふれた家族の中でお前だけが誰も愛していなかったからだろう。
生まれてから誰にも心を打ち明けず勝手に世界で自分だけだと心の殻に閉じこもって、今世の人を人とも思わないお前に2度目の人生の資格なんて──
「黙れ! ……っぐ」
意識が覚醒する最中まるで自分の胸中から別人のように語りかけてくる声を必死に否定しようとして首の噛み傷が痛んだ。
……おかしい、妹のリナが付けた噛み傷からの出血は止まっていない。時間から考えて失血死相当の量が流れ出ているはずなのに何故死ねない。何故父さんや母さん、リナのようにゾンビにならない? これも個人差の範疇なのだろうか。
身体が燃えるように熱く、骨がきしむような痛みが倦怠感と共に体中を包んでいる。眼孔の裏側から強く押し出されるような痛みがあるので鏡で自身の顔を確認すると眼球が今まで見たことが無いほど赤く充血している。
ひどい顔だ、両親や妹の死に顔でもここまで変容はしていない。私が化け物になるのも時間の問題かと項垂れると同時に、せめて家族をこの手で埋葬してやりたいと思い、庭の裏手にある道具入れからショベルを持ち出した。
数日前のゾンビ襲撃がウソだったかのように自宅の周辺は静まり返っている。ニュースやネット掲示板、SNS等での限られた情報交換の中での推測でしかないが、蝗害で知られるバッタの群生相のようにゾンビもおそらくある程度の集団を形成すると移動を開始する習性でもあるのだろう。
それに巻き込まれた私たち家族は運がなかったと言わざるを得ない。この辺りの地域全体としてみれば、人が少ない地域で発生してしまった被害者の増加と共に鼠算式に増えるゾンビ集団が初期発生段階で壊滅という形に終わったために他地域からの集団の襲撃を想定しなければしばらくは安全になったとも言える。そんな慰めを考えても、もうしばらくで死ぬ私には甲斐の無いことではあるが。
民家もまばらで比較的田舎の立地である我が家周辺でも、散発的にゾンビの襲撃事件が発生し出しているのが現状だ。
前世のころもパンデミックの被害は人の往来頻度の関係ゆえに都市部で最初に拡がり田舎にも徐々に拡大していく形だったことを考えると。
都市部の惨状など考えたくもない。
身体が怠くてもやろうと思えば働けるのは前世で社会人を経験しているが故の面目躍如だなと、自嘲しながらショベルで穴掘りを開始して流石におかしいと気付いた。穴掘りという本来ならば重労働のはずの作業があまりにも楽に進められるのだ。人1人がすっぽり収まる深さ2メートルの3人分の穴を2時間足らずで掘り終えた。
倦怠感は消えず首の血も止まらないのに、発汗はなく体が焼けるように熱い。人間としての身体機能が壊れるにしても家族と比べて私のソレは一線を画しているように思えてならない。私の身体は一体どうなっているのか。