DENJI IN BLACK   作:深紫Sιn姉

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2話:エージェントD

 ニューヨーク・02:13 A.M.

 

「エージェント”D”! ターゲットがそっちに向かった‼︎ ソイツをとっ捕まえてくれ!」

 

 エージェントD——そう呼ばれた男は、ニューヨークの街並みを走り回っていた。

 黒服を着こなし、対象の”宇宙人”を追いかける。

 

「らじゃ!」

 

 黒服の正体は、最高機密機関『MEN IN BLACK』。

 彼らの仕事は、現在地球に数千近くいるエイリアンを監視・隠蔽することである。

 そして今まさに、その職務の真っ最中であった。

 

「スペースガンは使うなよ! あくまで捕縛だ!」

「了解っす‼︎」

 

 エージェントD——デンジ。

 そう彼こそが、新米MIBのメンバーだった。

 

「ほら止まれ! じゃないとぶっ殺すぞ!」

『ヒイッ! コレ絶対逃げなきゃ……‼︎』

 

 デンジは、人間の姿に模して走り逃げ続ける宇宙人を恐喝……説得して追いかける。

 だが逃走者は、まるで聞く耳を持たない。

 ゆえにデンジはその背中を追う。

 深夜のニューヨーク市内を走り回る。

 

「おいアホ! 殺すとか言ったら誰でも逃げるに決まってるだろうがD!」

 

 挟み撃ちにしていたはずが、デンジの一言で宇宙人が別の方向の道へと進み逃げてしまったことを、デンジはMIBの先輩であるJから怒られていた。

 

「さ、さーせん」

「いいから! ほらもっと早く走るぞ!」

「はいっ‼︎」

 

 彼らは肩を並べて、全力疾走で宇宙人を追う。

 

「あっ! 路地裏に入りましたよ!」

「よしチャンスだ! あそこは行き止まりだからな」

 

 そしてエージェントJとDの二人も路地裏に入った。

 ここまで来れば、相手も観念することだろう。

 

「おいお前! 悪い宇宙人は殺されるんだぞ‼︎」

「よしD、お前は一旦その口を閉じておけ」

「はいっ‼︎」

 

 デンジはJに叱責されて、大きな声で従う。

 そしてJが逃げ惑っていた宇宙人と会話を始めた。

 

『ひ、ヒイッ! 殺さないで……!』

「ああ、お気になさらず。我々はあなたを害するつもりはありません。ただ、あなた方はニューヨーク市内から外に出ることは許されていなくてですね。このルールに従っていただければ殺すなんてまさか!」

『ほ、本当に? でもボク……ロサンゼルスに行ってみたくて。どうしてもダメかな……?』

「ええ、残念ながら。でもご心配なく。ロサンゼルスはただの田舎の辺境地です。そんな場所、行っても面白くない! それに、エイリアンはここマンハッタンのイーストサイドから離れることは許可されません」

『そ、そっか……じゃあ、仕方ないね』

 

 デンジは「すっげえ……」と先輩の様子を見守る。

 どうやらJの説得により、エイリアンはニューヨークからの逃走を諦めたようだ。

 

 空気が緩んだ——と、思った瞬間。

 

 エイリアンが人間の体からうねうねと分解されていき、巨大な芋虫のような形状に変化していく。

 そして成人男性の3倍はある大きさになると、その大量の歯をこちらに見せつけてきた。

 

「な、なんだぁコイツ?」

『仕方ないよね……なら、殺すしかないもんね』

「まずい避けろD!」

 

 ドシン、とその巨体がこちらに降ってきた。

 Jの一言のおかげで、デンジも何とか咄嗟に体をひねって回避をした。

 

 頭の回転が速くなる。

 デンジは上に判断を仰ぐ。

 

「J先輩! 殺しますか⁉︎」

「いってて……仕方ねえ。やるしかないか」

 

 そう言うと。

 二人は銃——スペースガンを片手に構えた。

 銀色にメタリックな光沢を放つそれは、宇宙の異星技術を応用して作られた、対エイリアンの特注品。

 デンジとJはすぐさまソレを相手に打ち込んだ。

 

 ほとんどの場合、一発で相手を屠ることのできる、技術の結晶ともいえるスペースガンだが……。

 

『痛い、痛い痛い!』

 

 敵には、あまり通用していなかった。

 効いてはいる、だが薄皮一枚。

 体の一部を少し怪我させたのみで健在だった。

 

 巨体はさらに膨張し、ビルの二階に迫る高さに。

 影が彼らを飲み、重みで路地の空気が沈む。

 もし、アレの質量攻撃を受けたら、地面の染みになることは間違い無しだろう。

 

 ゆえに二人の黒服は両手をあげて、訴える。

 

「ちょっとストップ! 一時停戦にしないか?」

「そ、そうだ! てーせんだ、てーせん‼︎」

 

 しかし、相手は聞く耳を持たない。

 

『ロサンゼルスに行く……だから殺す、殺す』

 

 デンジとJは顔を見合わせる。

 互いの瞳を合わせて、サムズアップしてみせる。

 

「J先輩、オレらピンチみたいっす」

「そうだなD、でも今ならまだ助かる方法がある」

「そうっすね。まずはJ先輩が囮に——」

「違うぞD! ここは新人のお前が身代わりを——」

 

『殺す、両方とも殺す!』

 

 二人の醜い会話を待たずに。

 エイリアンがチャンスとばかりに攻撃をした。

 ずるり、と天蓋のような影が落ちた。

 

「おい逃げるぞ!」

「やっべ!」

 

 間一髪、躱わすことのできた彼らだが、即座に二撃目が彼らを襲いかかってきて——。

 

 ズドン! と鼓膜を震わせる大きな音が鳴った。

 直後、空気が押し潰され路地裏の空間が震えた。

 

『ギィエエエエエッ⁉︎』

 

 ふと断末魔のような声のする方を向くと。

 そこでは巨大な芋虫の腹が、欠けていた。

 そして次の瞬間——。

 

 ズドン!

 

 巨大芋虫の全身が吹き飛んでいた。

 真横のレンガ壁がえぐれて凹み、夜気に焦げた匂いとオゾンが混じ合っている。

 周囲には、肉片やら謎の液体が飛び散っていた。

 

「小僧、J。作戦は失敗したみたいだな」

 

 煙の向こう、路地の奥には、Kが立っていた。

 デンジが驚いたように声をかける。

 

「け、Kさん⁉︎ いつからそこに?」

「お前らが来るずっと前からだ」

 

 黒服に、人の腕の大きさほどの巨大なスペースガンを両手で支えている。

 間違いなく、これが先の爆音の正体であろう。

 

「まあ気にするな。人間様に手を出してきたんだ、支払いは命でと決まっている……さあ片付けるぞ」

 

 だが、その前に。

 路地の入り口に、多くの人の群れが。

 野次馬が十数人、眠気まじりに三人を見ている。

 音を聞きつけやってきた近隣住民などが主だ。

 

「なんだなんだ? 何が起きた」

「くっさ……なにこの黄色の液体」

「壁にまで飛び散ってるぜ」

「ねえ、あの黒服の三人組は何かしら?」

 

 騒めき、困惑、好奇心。

 最悪の三点セットだ。

 

「全く……」

 

 Kが呆れたようにため息をつく。

 そしてサングラスを目にかけた。

 銀の細筒を取り出し、それを衆目に向ける。

 

「あっやべ!」

 

 その行動の意味を理解して。

 デンジとJも慌ててサングラスを装着する。

 Kが群衆に柔らかく微笑みかけた。

 

「はい、お兄さんお嬢さん方。今見た不思議な光景は一体なんだったのでしょうかね? もしや宇宙人? エイリアン? いいや、まさか。これはきっと”悪魔”のせいでしょう。その悪魔とはずばり……それではこの光を見て? そうだな、きっと芋虫の悪魔なんて名前がつくのでしょうな。どうぞ楽しい夜を」

 

\ /ピカッ\ /

 

「悪魔が出現するなんて、皆様に被害がなく、FBIとしても幸いであります。目撃情報につきましては、最寄りの警察署にてどうぞ。それでは解散」

 

 群衆は「なんだ、悪魔がいたのか」「デビルハンターがいて良かった〜」と口々に言いながら、散る。

 

 銀の細筒——ニューラライザーの効果は抜群だ。

 これは、ペン型の記憶消去装置であり、ここから特殊な光が放たれることにより、宇宙人の目撃者の記憶を失わせるための装置である。

 Kは今まさにそれを使って、自身をFBIと偽り宇宙人の所業を”悪魔のせい”と置き換えたのだ。

 

 路地に残るのは、焦げた匂いと、黒服三人だけ。

 Kがサングラスを外し、デンジへ視線を向けた。

 

「それと小僧」

「は、はいっ!」

 

 デンジは背中をピンと張って敬礼する。

 

「お前に、言い忘れていたことがあった」

「そ、それは……なんすか?」

 

 Kはポン、と肩に手を置き微かに口角を上げた。

 

 夜風が、路地の熱を少しだけ冷ましていく。

 デンジの腹が、ぐう、と鳴った。

 

 

「MIB本部では——コーヒーはおかわり自由だ」

 

 

■ ■ ■

 

 

 一方、東京のとあるカフェで。

 マキマは窓際の席に座り、柔らかな午前の光が差し込む中、サンドイッチをゆっくりと口に運んでいた。

 トーストされたパンに挟まれたハムとベーコン、レタスの新鮮な食感が、控えめな味わいを生む。

 

「ふふ……美味しい」

 

 彼女はフォークとナイフで丁寧に切り分け、時折コーヒーのカップに手を伸ばす。

 ブラックコーヒーの苦みが、口内に広がり、ほのかな酸味が余韻を残す。

 

「カフェイン補給完了、っと」

 

 外の通りでは、通行人たちが行き交い、遠くから電車の音が微かに聞こえてくる。

 店内は穏やかなBGMが流れ、他の客もそれぞれの時間を過ごしている。

 

 マキマの視線は窓の外へ。

 午前の静けさにゆっくり溶け込む。

 空は淡い青で、雲がゆっくりと流れていく。

 

「今度は姫野ちゃんでも誘おっかな?」

 

 今はただ、このひと時の平穏を味わう。

 紅い髪が光に映え、彼女の表情は穏やかだ——。




【進捗】2/4
次回:#3「宇宙不法移民」
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