DENJI IN BLACK   作:深紫Sιn姉

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3話:宇宙不法移民

 MIB本部。

 

 デンジは、バッテリー・パークの近くにあるトンネルの通気孔管理塔に辿り着き、新聞を読んでいる爺さんに挨拶をしてから、エレベーターで地下に降りる。

 

 一見なんの変哲もない場所であるが、それは否。

 地下には透明感のある清潔な宇宙空港がある。

 そこは宇宙と地球を結ぶ入り口であると同時に、数々のMIB職員(人も宇宙人も!)が働く施設だ。

 

 黒服を纏い、デンジは皆に挨拶をしにいく。

 

「おはようございまっす!」

 

 職員たちがちらりとデンジを見て、再び仕事に取り掛かりに戻る。

 別に彼が無視されているわけじゃない、これがここでの普通でありいつも通りの光景なのだ。

 そこにちょうど、エージェントJが通りかかった。

 

「ようD、今日も元気じゃないか。ええ?」

「J先輩、おっす! オレ、昨日めちゃめちゃ良いことあったんすよ!」

 

 デンジが目を輝かせてJを見る。

 Jは微笑みながら、顎をしゃくって続きを促す。

 

「昨日、夜飯食いに珈琲屋行ったら、めっちゃ旨いサンドイッチ出てきたんですよ! サンドイッチ! 中にハムとベーコンが入ってて、意味わからないっすよね! めちゃくちゃ美味かったんです‼︎」

「それは最高だな。近い内に俺も連れてってくれ」

「もちろんすよ!」

 

 デンジは興奮冷めやらぬ様子でJの隣を歩きながら、MIB本部の廊下を進んでいく。

 

「ん……?」

 

 そんな中、デンジの胸がふと熱くなった。

 デンジは無意識にそこをさする。

 

「おいD、どうした?」

 

 Jが心配げにデンジの肩を叩く。

 

「いや、その……ただ、オレの胸がなんか熱くて。そういやあ、ポチタのヤツ、元気かなって」

「ポチタ? ああ、お前のよく言ってた“ペット”みたいなヤツか。まあ、シグナルが出てるってのは前から言ってるけどな。なら、Kに聞いてみたらどうだ?」

「……そうっすね!」

 

 そう言って、デンジたちは本部の奥の方、Kのオフィスへと向かった。

 オフィスはシンプルで、無駄なものが一切ない。

 白いデスク、紙のファイル、コードと端末。

 壁一面にモニターが並び、地球上のあちこちのシグナルを監視している。

 

 Kはデスクに座り、コーヒーをすすっていた。

 

「来たか。座れ」

 

 Kの声はいつも通り、淡々としている。

 デンジは椅子に腰を下ろし、Jも隣に座る。

 

「その、オレの胸のシグナルについて、詳しく聞かせてくれないっすか?」

 

 デンジはストレートに切り出した。

 

 Kはコーヒーカップを置き、モニターを操作した。

 画面に、宇宙の星図のようなものが映し出される。

 無数の点が点滅し、地球を中心に渦を巻いている。

 

「いいだろう。説明してやる。お前の胸から出ているシグナル——それは“Outer Pattern”だ」

「アウター……パターン?」

 

 デンジは首を傾げ、Jが補足する。

 

「要するに、外宇宙から来るヤツさ。宇宙のノイズみたいなもんさ」

 

 Kが頷き、続ける。

 

「いいか、聞いて驚け。これはまだFBIのデビルハンター集団ですら知らない未公開情報なんだが……」

 

 そこで一区切りして、ニヤリと言った。

 

「”悪魔”と呼ばれる存在は、実は皆全て”宇宙人”だ」

「あ、悪魔が宇宙人⁉︎」

 

 デンジは驚いた様子でKを見る。

 

「ああそうだ。我々の定義するところによると、正確には“情報生命体”。そしてだな、宇宙には無数の“恐怖”が漂っている。あらゆる生命が感じた恐怖が、観測され、記録され、形を持った情報として存在する。それが、地球に具現化されて届くんだ」

 

 デンジの目が丸くなる。

 

「恐怖……? それが悪魔なんすか?」

「ああ。人類の集合無意識が、それを受信してしまう。宇宙ノイズとしてな。そして、恐怖が共鳴すると、現実に顕現する。それが悪魔だ」

 

 モニターに、抽象的な波形が表示される。

 山と谷が人の心拍のように脈打ち、幾つかの波が地球のアイコンの上で重なる。

 デンジはそれをじっと見つめ、理解しようとする。

 

「いいか、天国は知らないが”地獄”は確かに存在する。それは宇宙全体の情報構造の中で、恐怖が蓄積し、圧縮され続ける“共有メモリ領域”だ。あらゆる生命の恐怖が、そこに溜まっていく」

 

 デンジは首を60度くらいに曲げる。

 

「わ、わっかんねえ……」

 

 Kが肩をすくめて言った。

 

「ともかく。俺たちは、それを隠す。悪魔が宇宙人だってことを、一般人に知らせてはならない。まあ理由は……簡単にいえば、世界が滅んでしまうからだ」

 

 デンジは頭をひねりながら、考える。

 悪魔が宇宙人? バレたら世界が滅ぶ?

 何を言ってるのかさっぱりだ。

 でも一つ確かめたいことがあったのだ。

 

「オレの胸のシグナル……ポチタは、宇宙人?」

「そうだ。お前は厄介なことにそいつと融合している。だから未知の危険なシグナルを発しているんだ」

 

 デンジは少ししょんぼりする。

 が、すぐに顔を上げた。

 Kがこちらに近づいて、目を合わせてきたからだ。

 

「小僧、『銃の悪魔』くらいは知ってるだろう?」

 

 この質問に、デンジはこくんと頷いた。

 それを確認して、Kは話を続ける。

 

「いいだろう。あの銃の悪魔は、“Outer Pattern”の中でも最悪の部類だ。人々による宇宙のあちこちで蓄積された“銃”という恐怖の情報が、ギュッと凝縮されたヤツさ」

 

 Kがコーヒーを一杯飲む。

 ブラックの匂いが香ばしく漂ってきた。

 

「“Outer Pattern”は数十年前、突如として地球に現れた。悪魔だなんだと言われているが、MIBにとっては宇宙人と同義だ。我々にとって言わせてみれば”不法移民”との言葉の方が正しいだろう」

 

 デンジは目を丸くする。

 Kの言葉をなんとか飲み込もうとする。

 

「つまり、情報生命体? の宇宙人が地球に”勝手に入ってきた”って意味で合ってるんすか?」

 

 Kが静かに頷く。

 

「ああ、概ね間違いない。小僧。悪魔ってのは、宇宙から勝手に地球に流れ込んでくる存在だ。宇宙の共有メモリ領域——我々はそれを“地獄”と呼んでいるが、そこに溜まった恐怖のノイズが、地球人の集合無意識に共鳴して実体化する。許可なく入国して大惨事を引き起こしていく……全く、迷惑なやつらだ。俺たちMIBはそんな連中を監視し、必要なら”処理”もする」

 

 デンジが30パーセントくらい理解したところで、Kは立ち上がって、コーヒーの入っていたカップをゴミ箱に投げ捨てた。

 

「小僧。MIBの仕事とデビルハンターの仕事、これになんの違いがあるか分かるか?」

 

 言われてみて初めて、デンジは「そういえば」と頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。

 

 Kはその様子をみて、とんとんとモニターを叩いて、画面を表示した。

 そこには、組織の名前が映されている。

 左に「FBI」、右に「MIB」。

 左側では制服の隊員がテープを張り、右側では黒服が銀の細筒を掲げている。

 

「違いは簡単だ。FBIは事件を片付ける。MIBは世界を元に戻す。それだけだ」

「……世界を元に?」

「そうだ、だがこれを詳しく説明するには七日以上かかってしまうだろう。よし話は終わり、以上だ」

「えっ、ええ⁉︎ ここからじゃないんすか⁉︎」

 

 Kが途端に話を切り上げると、デンジは驚いたように立ち上がる。

 すると、存在感皆無だったJが苦笑いをしながらデンジに声をかけた。

 

「まあD、そういう時もある。この爺さんの気分屋には慣れていかないとやっていけないからな」

「そ、そんなあ……オレもっと、心臓——ポチタのこととか知りたかったっすよ。シグナルとかもまだよく分かってないし。宇宙人が悪魔だってことしか——」

「諦めろ、D。また今度の機会だな」

 

 Jがデンジをやんわりと慰める。

 すると、Kがそっとデンジの肩に手を置いた。

 

「ん……なんすか? Kさん」

 

 デンジは不思議げに上司を上目見る。

 

「早めの昼飯としよう、ブランチだ。旨いサンドイッチの店があるんだろう? 小僧、さあ案内してくれ」

「……っ、はい‼︎」

 

 三人はオフィスを出て、MIB本部の廊下を歩く。

 エレベーターが開き、地上のニューヨークの喧騒が待つ中、デンジはサングラスをかけ直した。

 

 

「まぁいいっか、まずは飯だぜ!」

 

 

■ ■ ■

 

 

 一方、東京の公安本部。

 マキマはデスクに座り、書類をめくっていた。

 穏やかな午後の光が、部屋を照らす。

 事件は少なく、平和な日々。

 ふと、棚の隅に置かれた本に目が止まる。

 それは、ニューヨークの旅行ガイドブック。

 表紙には、エンパイア・ステート・ビルディングが輝いている。

 

「ニューヨークか……行ってみようかな、休暇で」

 

 彼女は微笑み、ページをパラパラとめくる。

 タイムズスクエアの喧騒、セントラルパークの緑。

 遠く異国の街に、思いを馳せる。

 

 紅い髪が、優しく揺れた——。




【進捗】3/4
次回: #4「普通の味」
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