DENJI IN BLACK   作:深紫Sιn姉

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第二章
5話:エージェントR


 MIB本部のオフィスは、静かで無機質だった。

 白い壁に並ぶモニターが、地球のあちこちから届くシグナルを淡々と映し出している。

 

 デンジはそんな中、椅子に腰を下ろし、対面に座っているKの方向へと体を向けた。

 お呼び出しであり、何やら話があるようだ。

 

「小僧、授業だ。よく耳を傾けるんだな」

 

 Kの声は低く、淡々と響いた。

 デンジは背筋を伸ばし、首を傾げて耳を澄ます。 

 

「例の宇宙人……いや、『銃の悪魔』が世界中に出没して100万人以上もの人を殺したのは知ってるな?」

「は、はい。なんとなくっすけど……」

 

 デンジは曖昧に頷いた。

 遠い記憶のようにぼんやりとした知識が頭に浮かぶが、詳しくは知らない。

 Kはそんなデンジの反応を無視するように、ゆっくりと説明を続けた。

 

「そう、『銃の悪魔』は大量の殺戮を行った。だが、重要なのはそこじゃない。いいか。大事なのは、ヤツが世界中に”恐怖の種”を撒いた、ということだ」

「恐怖の、種ぇ?」

 

 デンジは首を傾げて続きを聞く。

 

「つまり、ソイツを喰らえば強くなれるヤツさ」

「へぇ……便利なもんがあるんすね」

 

 Kがデンジに問いかける。

 

「世界中の国がなぜ『銃の悪魔』の肉片を追い求め、隠し、そして保有するのかを考えたことはあるか?」

「いんや……特に、ないっすね」

 

 その答えにKは頷く。

 彼は続けた。

 

「これはな、いわばゲームなんだ。どの国がどれだけ多く『銃の悪魔』の肉片を手に入れられるか、とな」

 

 米国……20%

 ソ連……28%

 中国……11%

 その他の国々……4%

 

「全然面白くなさそうっすね」

「ああ、大いに同意しよう」

 

 デンジの反応に、Kは無表情で語った。

 そして、唐突に一つの数字を言う。

 

「37%」

「……それは一体?」

 

 デンジが当然の疑問に、Kは答える。

 

「残り地上にある『銃の悪魔』の肉片の総量、つまり各国の保有率を除いた数字さ」

 

 モニターの画面に、国とその比率が書かれている。

 確かに、これらの数字を100から引いたら37だ。

 

「へー、随分あるもんだ。それなら、悪魔のやつらも食いたい放題じゃないっすか?」

「ああ、だからMIBはよく”出張”をする」

 

 デンジは首を傾げ、Kの言葉の意味を測りかねる。

 

「どういうことっすか?」

「肉片集めだよ、文字通りのお仕事さ」

 

 Kはそう言いながら、背広の内ポケットから小さな小瓶を取り出した。

 瓶の中身がわずかに揺れ、光を反射する。

 デンジの視線がそれに釘付けになった。

 

「……?」

 

 そして、Kは小瓶から血濡れた弾丸のようなものを、そっと取り出す。

 

「ああ。コイツはな、”とある用事”で日本に出張した時に処理・回収したもので——小僧、お前にも少しは覚えがあるんじゃないか?」

 

 とある用事、日本に出張、処理。

 言葉の羅列に、デンジははっと思い出した。

 廃倉庫の血の臭い、死体の山。

 ゾンビの悪魔、それが無惨にも全滅していた光景。

 となるとつまり。

 

「オレの時のやつ、ってことっすか」

「正解だ」

 

 ということは——目の前にあるのは。

 『銃の悪魔』の肉片。

 

「小僧、お前に初めて会った時、Jのやつが言っていたことを覚えているな?」

「えぇと確か……」

 

 デンジは必死に思い出そうとする。

 頭を掻き、何か大切なことを。

 ……だが。

 

「すんません。オレよく覚えていないっす」

 

 舌を出して、デンジは苦笑いしてみせる。

 Kは無表情ながらも呆れて反応する。

 

「『シグナルを追ってここまで出張して来た』だ」

 

 デンジは「ああ!」と手をポンと叩いた。

 だが同時に、不思議げに首を傾げる。

 

「それで……それが何なんすか?」

 

 Kは淡々とそのデンジからの疑問に答えた。

 

「我々MIBの仕事は世界から宇宙人の存在を隠すことだ。そしてその中には『銃の悪魔』の肉片集めも含まれている。俺たちが小僧の前に現れた理由は……」

 

 Kが言葉を一瞬区切り、デンジが先に言う。

 

「シグナルが理由っすね?」

「そうだ。シグナルを追い求めて日本まで来た。シグナル——”Outer Pattern”の中でも特に危険な『Gパターン』、つまり銃の肉片を回収するためにな」

 

 なるほど、とデンジは理解した。

 あの時は銃の肉片のシグナルを追って日本に来たというわけである。

 

「そして先の37%の内、現在MIBが保有している『銃の悪魔』の肉片割合は30%近くと見積もられている」

「さ、30%も⁉︎」

 

 デンジの驚きをよそに、Kはさらに続ける。

 さらりと、とんでもない情報だったのだが。

 

「これは超機密事項だ。口を滑らしそうならお前の記憶を消去してやっても構わない」

「そんなまさか! オレは絶対大丈夫っすよ」

 

 Kの脅しに、デンジは冷や汗を流しつつも耐える。

 そして話の方向を元に戻す。

 

「そ、それで! オレは何をすれば……?」

 

 Kはモニターを操作し、地図を拡大した。

 赤い点が東ヨーロッパで点滅している。

 そこはソヴィエト連邦の首都モスクワだった。

 

「小僧、お前には海外出張をしてもらう」

「オレなんかが、出張ですか⁉︎」

「ああ、そのためにも相棒(バディ)を用意した」

 

 デンジは頭をこんがらがせている。

 

「相棒? J先輩かKさんじゃねえんです?」

「俺たちはまた別の仕事があってな、無理な話だ。それに、お前はもう一人前のMIBだ。まあ心配するな」

 

 ——コンコン。

 

 その時、オフィスのドアがノックされた。

 そしてKの「入れ」との言葉に応じて、ドアがゆっくりと開き、何者かが入ってくる。

 

「だ、誰だオマエ……?」

 

 首元まで伸びた、清楚なお団子の黒髪。

 目元、鼻と整った容姿に、エメラルドの瞳。

 そして色白い肌色のスキンと、柔らかな笑み。

 首には小さな輪金具の付いた黒いチョーカー。

 

「エージェントRで〜す、よろしくねDくん」

 

 それはもう、凄い美人がそこにいた——。

 

「う、うおっ……⁉︎」

「ふっふ〜ん」

 

 デンジの手が少女に握られる。

 彼女——Rは甘えたような上目遣いで、デンジのことを見つめている。

 デンジはポカンとして彼女を見つめた。

 

「え、女性? 相棒? オレこの娘と組むんすか?」

 

 Kは静かに頷いた。

 デンジの困惑をよそに、Rがこんなことを言う。

 

「んー。本当にこんな男の子で大丈夫なのかな〜? 弱くてすぐに倒れちゃったりしないかなあ」

「はぁ⁉︎ オレってばチョーエリートですけど! 何か? オマエの方が弱くてふにゃりするんじゃね?」

 

 デンジはRの挑発に言い返す。

 だが相手は大人しく微笑んで収めた。

 

「冗談だよ、じょーだん。Dくんったら、本気にしちゃぅて……。全く、可愛いなあ。もう」

「か、カワイイ? このオレが?」

「うん、そうだよ。だって君の心臓は——」

 

 Kが咳払いをして、Rの言葉を遮る。

 

「そこまでにしろ。二人とも、仕事の話だ」

 

 Rは肩をすくめてデンジから手を離した。

 デンジは若干頰を赤らめ、首を傾げている。

 内心のドキドキを悟られないよう、すまして。

 

「仕事? あ、そうっすね。で、何するんすか?」

 

 デンジが姿勢を正すと、Kはモニターを指差した。

 画面には先ほどと同じく、雪に覆われたソ連首都のモスクワの衛星写真が拡大されている。

 赤い点が、街の中心部を示しては点滅していた。

 

「我々MIBに新たな目標が定められた。それは各国の保有する『銃の悪魔』の肉片の奪取……いや保護だ」

 

 そして重ねるように、Rがこう言う。

 

 

「つまり、ソ連に行って肉泥棒! ってことだよ〜」




【進捗】1/4
次回: #6「モスクワ作戦」
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