DENJI IN BLACK   作:深紫Sιn姉

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7話:赤いクレムリン

 KGB・モスクワ本部。

 

 室内は無骨で、制服姿のハンターたちが行き交う。

 壁に悪魔のポスターが貼られ、銃や剣が並ぶロッカー室が見える。

 

 レゼが耳打ちする。

 

「よし、まずはロッカー室に行こう」

 

 デンジは頷き、周囲を警戒する。

 心臓が少し熱くなる、緊張だろう。

 

 そして、到着。

 二人はロッカー室に忍び込んだ。

 誰もいない隙を狙って制服を拝借する。

 

「ああ、誰もいねーな。今がチャンスだ」

「そうだね、じゃあ急いで着替えちゃおう」

 

 デンジは男物の、レゼは女物のを素早く着替える。

 鏡で確認すると……よし、ぴったりだ。

 

「どう? デンジくん。似合ってるかな?」

「ああ。レゼ、似合ってるぜ。なんか……本物のスパイっぽいな。……オレはどうだ?」

「ふふっ、デンジくんも似合ってるよ。まるでKGBのエージェントみたいだね」

「そうか、ならバレねーようで良かったぜ」

 

 レゼがくすくす笑い、デンジの頰をつつく。

 温かい指先が、デンジをドキッとさせる。

 

 ——その時だった。

 

「おい、そこの二人とも。何をしてるんだ」

 

 ガタイの良いナイスなガイが、デンジとレゼに警戒したような声をかけてきた。

 

「見ない顔だな……名前は?」

 

 レゼはちらりとデンジを見ると、ゆっくりと呼吸をしてから、慎重に答える。

 

「はっ、新人デビルハンターのレゼと申します」

「同じく、新人デビルハンターのデンジっす」

 

 二人の言葉に、男は疑うような視線を送ってくる。

 そして、こんなことを言ってきた。

 

「証明書はあるか? 見せてくれ」

「「はいっ!」」

 

 男はデンジたちから渡された本物そっくりのMIB特製、偽装証にじっくりと目を通す。

 そして暫くが経ち……。

 

「ふむ、問題ないな」

 

 その偽装証を信じ切って、二人に返却した。

 だが少し不思議げな顔を浮かべている。

 

「今日は新人の研修はなかったはずなんだが……お前たち、担当は誰だ?」

 

 話の雲行きが怪しい。

 デンジは「やべっ」と冷や汗を流す。

 だが、レゼは落ち着いて話を続ける。

 

「先輩、その前にコレを見てほしいのですが……」

「……なんだ? その銀の筒は」

「ええ、説明します。ですが、その前にサングラスをかけますね」

「……?」

 

 レゼの視線がデンジの方へと向き、「早くサングラスをしろ」と訴えかけてくる。

 それを認識したデンジもサングラスをかけた。

 

「お前たち、一体何をする気だ?」

 

 レゼは警戒する男を確認したのち。

 素早くニューラライザーを閃かせた——。

 

\ /ピカッ\ /

 

「はい。あなたは今日、私たち新人デビルハンターの担当者です。そしてクレムリン宮殿内部まで私たちを案内するのがあなたの今日の役割です」

 

 二人はサングラスを外す。

 

 男はぼんやりとした顔を浮かべていた。

 しかし数十秒が経つと……。

 

「おお! 失敬、ぼーっとしていた。そうか、お前たちが今日からKGBに配属された新人デビルハンターたちか。担当はこの俺、マレンコフだ。レゼ、デンジと言ったな? よろしく頼む」

 

 あら不思議、都合よく記憶を書き換えてしまう。

 レゼは可愛らしく微笑み、ぺこりとお辞儀をした。

 デンジもそれに倣い、頭を下げる。

 男は快活に笑ってから、こんな質問をしてきた。

 

「ところでデンジ、お前の名前は随分と珍しいが、どこ出身なんだ?」

「え、えぇと……それはにほ——」

「彼はサハリン出身です。名前が不思議なのも、それはきっと極東出身だからでしょう」

「なるほど、サハリンか。カムチャッカの方と考えると、確かに納得だ」

 

 デンジの危機に、レゼが上手くカバーしてみせた。

 

「よし、じゃあ俺は先に本部の入り口前で待っている。着替えや諸々が済んだら来てくれ」

「わかりました、マレンコフ先輩!」

「おっす、了解です」

 

 そして男——マレンコフが去っていく。

 残されたのは、デンジとレゼの二人だけ。

 

「すげえ……これでイケんのかよ」

「デンジくん、ボロ出さないように気をつけてね」

「お、おう! ところでなんだけどよ……サハリンってどこだ?」

「日本の北……いや、上の方にある島だよ」

「オレ、そんなとこ出身じゃねーけど」

「はぁ……まあいいっか。デンジくんだし」

「あぁ? それどういう意味だ?」

「ん、デンジくんカッコイイ! 最強‼︎」

 

 二人はそんな雑談をしながら、KGBの制服に着替え終わると、本部前へと移動するのであった。

 

「おっ、来たかお前たち。今日はクレムリンの見学だ。早速、赤の広場まで向かおう。すぐ近くだ」

 

「了解で〜す、先輩!」

「ういっす、マレンコフさん」

 

 三人は本部を出て、モスクワの街路を歩き始める。

 空は灰色で、冷たい風が制服のコートを揺らす。

 

 赤の広場はすぐそこだ。

 広大な石畳の広場に、荘厳なクレムリン宮殿の赤い壁がそびえ立っている。

 

「ここが赤の広場だ。クレムリンはソ連の心臓部さ。新人諸君、今日は内部のセキュリティシステムを見学してもらう。悪魔どもから国を守るためのな」

 

 マレンコフが胸を張って説明する。

 デンジは周囲をキョロキョロ見回した。

 

「すげえでけえ……オレ、こんなお城みたいなトコ初めて来たぜ」

「デンジくんったら。観光気分?」

 

 レゼがデンジの袖を軽く引っ張り、にこっと笑う。

 デンジは少し照れくさそうに頰を掻く。

 

「はい……はい。今日は新人研修でして」

 

 その間、マレンコフはパスを警備員に見せていた。

 そしてそれが承諾されると、三人を内部へ導いた。

 

 宮殿の門をくぐると、重厚な廊下が広がる。

 金色の装飾、天井のシャンデリア。

 豪華絢爛とはこのことか、美しい景色が目に映る。

 

「ここがクレムリンの内部だ。普段は立ち入り禁止区域が多いが、今日は特別に案内するぞ」

 

 マレンコフが歩きながら話す。

 三人は階段を上り、奥の部屋へ進んでいく。

 デンジはレゼに耳打ちした。

 

「レゼ、この先輩にいつまでついてくんだ? 肉片の場所、早く探さねえと」

「もう少しだよ。タイミングを見てからだね」

 

 やがて、三人は厳重な扉の前に到着した。

 マレンコフが鍵を開け、中へ入る。

 そこは保管庫のような部屋で、様々な物が並ぶ。

 多くの悪魔関連の資料や武器。

 だが、肉片はまだ見えない。

 

「ここは『悪魔記録室』さ。今まで討伐した悪魔の情報が集められている。新人諸君、よく見ておけ」

 

 マレンコフが棚を指差しながら、説明を続ける。

 

「見ろ、このファイルは『銃の悪魔』の事件に関するものだ。数年前の惨劇……世界中で100万人以上が犠牲になった。あの悪魔の肉片は、国力の象徴さ。俺たちKGBは、それを厳重に守っている」

 

 デンジは興味津々にファイルに目をやり、ページをめくるふりをした。

 実際は中身なんて読めないが、演技だ。

 

「へえ、すごいっすね。銃の悪魔の肉片って、そんな大事なもんだったのか。食ったら強くなれるって、聞いたことありますよ」

 

 マレンコフが笑い、デンジの肩を叩く。

 

「よく知ってるな、新人。だが、食うなんて馬鹿な真似はするなよ。あれは国家機密だ。悪魔どもが狙ってるからな。ここクレムリンには、そんな危険物を保管する特別な施設がある。次はそっちを見せてやる」

 

 レゼが目を輝かせて、質問を挟む。

 

「マレンコフ先輩、それって”封印室”のことですか? 研修資料で読んだんですけど……」

「ほう、勉強熱心だなレゼ。お前たちみたいな新人がいて、KGBの未来は明るい。さあ、『悪魔封印室』へ行こう。悪魔の残骸や生け捕りにしたヤツを封じてる場所さ」

 

 三人は部屋を出て、廊下をさらに奥へ進む。

 マレンコフが別の扉を開けると、薄暗い部屋が広がった。

 

 ガラスケースの中に、奇妙な形状の悪魔の断片やそのものが浮かんでいる。

 液体に浸された触手のようなもの、鋭い爪、歪んだ顔のマスク。

 ここの空気は冷たく、重い匂いだ。

 

「ここが悪魔封印室だ。見ての通り、討伐した悪魔のサンプルを保存してる。研究・契約用さ。お前たちもその内、これらのどれかと契約を結ぶだろう」

 

 デンジはケースに近づき、ガラスを叩く。

 

「うわ、気持ち悪ぃ……これ、動いてないっすか? オレ、ゾンビの悪魔に殺されかけたことあるんっすけど、こいつらも似たようなもんなんすか?」

 

 マレンコフが頷き、厳しい顔で答える。

 

「ゾンビか……あれも厄介だな。悪魔は人類の恐怖を糧に実体化する。封印室のセキュリティは万全だ。万一暴走したら、即座に焼却炉行きさ」

 

 レゼが感心したふりをして、手を叩く。

 

「すごいです! 先輩、もっと詳しく教えてください。たとえば、あの奥の扉は? なんだか、禍々しい雰囲気を感じるんですけど……?」

 

 マレンコフが振り返り、奥の扉を指す。

 

「気になるか……? だが、すまん。あそこは私の権限では通れない。そう、つまり何とは言わないが——”国家機密”が眠っている。まあこれで十分だな」

 

 デンジが疑問を投げかける。

 

「先輩ほどの方でも通れないんすか?」

「ああ、残念ながら。あそこは、この国の大統領かそれに近しいKGBや赤軍に国防省トップの人間しか入室を許可されていない」

 

 レゼが続けて質問を挟む。

 

「カードか何かが必要なんでしょうか?」

「まあそんなところだ。俺のパスくらいじゃ精々ここまでだ……とはいえ、ここまで案内できるのも結構凄いことだと思ってくれると嬉しい」

「はい! ありがとうございました、先輩‼︎」

「あざっす! ご苦労様です、マレンコフさん」

 

 そしてデンジとレゼは仕上げに取り掛かる。

 良き一日を、ひとときの忘却のために祈って。

 

「ん? お前たち一体何をしてい——」

 

\ /ピカッ\ /

 

 ガタイの良いナイスなガイが、とぼとぼと何か用事を思い出したかのように、帰っていく。

 

 それを見送る、デンジとレゼ。

 

「じゃあ、始めようか」

「よし、そうすっか! で、どうやってアレを開けるんだ……?」

 

 立ちはだかるのは、重厚で硬そうな扉。

 

 デンジの疑問。

 すると、レゼがとんとん、と頭……ではなく、”首元”をその細い指で叩いた。

 特にチョーカーにつけられたピンを触っている。

 

「……?」

「デンジくん、いい? 物事ってのは、そんなに複雑に考えなくてもいいの」

「んんんん?」

「つまりね、この扉は大きな力で壊されるなんて事は想定してないの」

 

 ——ピン。

 

 レゼの少女姿から頭が投下型爆弾に変形する。

 両腕に導火線で編んだオペラグローブ。

 爆竹を束ねたようなスカートが顕現した。

 

 

「はいっ『ボンっ』!」

 

 鋼鉄の扉が赤く歪んでいき、融解する。

 凄まじい爆音と共に、壁ごと扉が吹き飛んだ——。




【進捗】3/4
次回: #8「『悪い宇宙人』」
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