『ジリリリリリリリリリリリ!』
大爆発、そして異常を知らせるサイレンの音。
デンジは唖然とした様子で、レゼ? を見る。
「え、おま。これ——」
「はい、急いで急いで〜デンジくん中に入るよー」
「え、ええ⁉︎」
困惑したデンジの様子をよそに、『武器人間』へと変身したレゼが促す。
「早くしないと警備員さん来ちゃうでしょ?」
「オマエこれどうすんだよ⁉︎」
「だ〜か〜ら、さっさと盗んでずらかるよ」
レゼがデンジの手を引いて、中に入っていく。
そして、内部の捜索を始めた。
凍結された悪魔の姿や、ホルマリン付けされた死体の一部、それら数々の間を縫うように歩いていくと。
「あっ発見〜!」
レゼが指をさす。
その先には、透明なガラスケースに詰められた、大量の弾丸——『銃の悪魔』の肉片があった。
「発見って……これ多すぎるだろ!」
デンジは目の前の光景に思わず声を漏らす。
それは人がとても持ち運べる量ではなく、つまるところ見ただけでも、数トンはありそうだ。
「大丈夫、だいじょうぶ。想定済みだよデンジくん。こんなこともあろうかと、MIBから”コレ”を借りています」
「なんだぁ……コレ?」
レゼが手のひらサイズの立方体を持っている。
それは、銀色に輝く謎の箱だった。
すると、レゼが。
「はい『ボンっ』!」
肉片を守る防弾ガラスを、いとも容易く破壊した。
透明の障壁が粉々に割れ、『銃の悪魔』の肉片が雪崩れのように地面に広がっていく。
「いたぞ! あそこだ‼︎」
「おい、何をやっている!」
「お前たち、捕まえろ!」
クレムリン宮殿を守るKGBが異常事態に気付き、ここ現場に大挙して駆けつけてきた。
「おい、悪魔がいるぞ!」
「隣には人間もいる!」
「何としてでも逃すな‼︎」
レゼはその様子をみて、呆れて言った。
「デンジくん……おおごとにし過ぎだよ」
「オレじゃねえよ⁉︎」
デンジによるレゼへの迫真のツッコミ。
彼女は「ふふっ」と微笑むと、その片手に持っていた、立方体をポンとデンジに投げ渡した。
「お、おお……?」
「私が時間稼ぎしておくから、デンジくんはそれを使って、お肉たちを集めておいてね〜」
「どうやるんだy——」
と、デンジが尋ねる隙もなく。
レゼは集っていたKGBたちに突撃していった。
「——『クマの悪魔』!」
「——『ダンピールの悪魔』!」
「『ボンっ』!」
KGBのデビルハンターたちに、レゼはその圧倒的な火力——『爆弾の悪魔』の力を振る舞う。
「えぇ……これどうすればイイんだよって……」
後ろの方で聞こえる轟音を背に、デンジは先ほど渡された立方体をいじっていた。
さわさわ、さわさわ、さわさわ。
「わっかんねええええ……! あっ」
デンジは意味不明のあまり、その立方体を空中に高く投げてしまった——その瞬間。
——カチリ。
宙に浮いた箱が、その場で静止する。
そして、銀色に輝いたソレが大きく”展開”された。
中から青白い光が漏れ出し、周囲を包む。
『対象を確認。回収シークエンスに移行』
機械的な音声が響く。
すると、宙に展開された立方体が、『銃の悪魔』の肉片を吸い込み始めた。
肉片が列をなして中心部に消えていく。
「なんか知らねえけど、成功したわ!」
どうやら、装置が上手く稼働したようだ。
最初はゆっくりだったが、だんだんと加速度的に速くなっていく。
「おお、すっげえ! はえええええ‼︎」
そしてバキュームされていく肉片の数々。
あっと言う間に、大質量が回収されていく。
そして暫くが経ち。
床に転がっていた最後の一個が吸われ——箱がカチリと音を立てて閉じた。
『対象の圧縮完了。形態を元の状態へ回帰』
立方体は元のサイズに戻り、デンジの手に収まる。
軽いのに、中に大量の肉片が入ってるなんて信じられないことだ。
デンジはそっと手に握って見つめる。
「これで全部か……すげえな、この箱。宇宙人の技術ってマジでヤバいな」
——『ボンっ』!
——『ボンっ』‼︎
——『ボンっ』⁉︎
背後から複数の爆音と叫び声が響き渡る。
レゼの戦いがまだ続いていた。
「——『ボンっ』!」
レゼの声が響き、KGBのデビルハンターたちが吹き飛ばされる。
爆弾の悪魔の姿になった彼女は、火薬の匂いを撒き散らしながら敵を薙ぎ払っていた。
クマの悪魔を召喚した巨漢が突進してくるが、レゼは軽く跳んで爆発を起こし、相手を壁に叩きつける。
ダンピールの悪魔が血の鞭を振るうが、レゼはピンを抜いたような動きでカウンターを決め、契約者を爆発で吹き飛ばした。
「ふ〜ん……みんな強いね。でも、もう終わり」
レゼの周囲で爆風が渦巻き、残りのハンターたちが後退する。
そして相手が最後の攻撃をしかける……が。
「——『ボンっ』‼︎」
正面から粉砕された。
部屋は煙と焦げ臭で満ちている。
KGBの面々は全員倒れていた。
もう、戦える体力の残った人間はいない。
「ふう……疲れたつかれた」
レゼは満足げに息を吐き、元の少女姿に戻る。
チョーカーのピンが戻り、髪を直す。
デンジと、視線が交差した。
「終わったよデンジくん。お肉集め、できた?」
デンジは立方体を掲げて頷く。
「おう、全部入ったぜ! ほらこの通り」
「ふふ。良かった〜、デンジくん天才!」
「そう、オレ天才! 最強! カッコイイ‼︎」
レゼはくすっと笑い、デンジの腕を掴む。
「でも、早く逃げよ? 警報で更に増援が来るかも」
「そうだな、こんな煙くせえ場所。とっととオサラバしなきゃな!」
二人は部屋を飛び出し、廊下を駆け抜ける。
警備員が駆けつけてくるが、黒サングラスをかけたレゼがニューラライザーで対処する。
「はいっ、見たものは全部夢ですよ〜。楽しいお昼寝を! さようなら〜!」
光が広がり、警備員たちはぼんやりと立ち止まる。
デンジも同じく、クレムリンの警備員にニューラライズを施す。
「おいお前ら、ここで何も起きてねえぞ。昼飯……ヒンカリでも食って寝ろ!」
赤の広場に出ると、観光客が騒いでいる。
爆音を聞いた人々が集まっていた。
その人混みに紛れて。
デンジとレゼはKGBの制服を脱ぎ、まるで人々の記憶から溶けるように、消えていった——。
■ ■ ■
デンジとレゼはMIB本部に帰還した。
「ご苦労、モスクワの飯は旨かったか?」
開口一番、Kはそんなことを言ってきた。
デンジが答える。
「なんか餃子みたいなもん、ありましたよ」
「ヒンカリか」
「ヒンカリです。味は——」
「いや、ヒンカリはもう結構だ」
Kが手を前に出してきて、言葉を遮る。
そして咳払いをすると。
「二人とも、ご苦労だった」
「おっす!」
「は〜い!」
珍しく、お褒めの言葉を二人はもらった。
そしてKが話を続ける。
「モスクワ、クレムリン宮殿の大爆発事故。お前たちの暴れっぷりは、今や大ニュースになっている。……もっとも、民間人にはガス漏れによる引火と表向きには報道されているがな」
「いやー照れるっすね〜。ばくはつ」
「デンジくんは爆発させてないけどね」
レゼが冷静にデンジの肩を叩いた。
——その時、オフィスのドアが開いた。
それは、疲れた顔のエージェントJだった。
黒いスーツに埃がつき、肩を落としている。
「よう、お前ら。生きて帰ってきたぜ。中国出張、きつかったなあ……」
Jはデスクに腰を下ろし、ため息をつく。
デンジが驚いたように目を見開く。
「J先輩⁉︎ 中国ってどういうことっすか? 餃子でも食いに行ったんすか?」
「餃子じゃねえよD。こっちも”肉片集め”さ、中国にある11%の『銃の悪魔』を俺も回収しに行ってたってワケ。めちゃ強ぇ女がいて難航したが……あっ、でも水餃子は食ったぜ」
Kは無表情でモニターを操作し、数字を更新した。
「俺もだ。MIB本部の職員を総動員して、アメリカの20%を回収した。全く、骨が折れる」
モニター画面にグラフが映る。
世界地図の赤い点——シグナルが減っていた。
デンジは口をぽかんと開ける。
「これ……つまり、みんな『銃の悪魔』の肉片集めしてたってことっすか?」
Kが静かに頷き、コーヒーを啜る。
「米国20% ソ連28% 中国11% 合計……59%だ」
「59%……すげえ! これで肉片の半分はオレたちのもんってことっすね⁉︎」
「ああ、だが忘れるな。MIBの保有分30% ソレを勘定に入れないとな」
モニターに式が構成されていく。
20 + 28 + 11 + 30 = 89
「つまり合計で『銃の悪魔』の肉片89%分だ」
「すっげえー! ほとんどオレたちのもんじゃないっすか‼︎ ……でもなんでこんな事を?」
デンジがふと疑問を投げかけた。
それにJが答える。
「おいD、聞いてなかったのか? このヤバい悪魔の肉片を9割くらい集めると、凄いことが起きるらしいぜ。なあK、そうだろ?」
「ああそうだ。今からそれを実践してみせよう。お前たち、キューブをこっちに集めろ」
米国、ソ連、中国、MIB。
この4つの肉片入り立方体。
それを持って、Kは皆を引き連れて、エレベーターに向かって乗り込んだ。
そして、Kが最上階と最下階のボタンを一定の間隔でタップすると——。
『天蓋空間解放。"上"へ向かいます』
凄まじい勢いでエレベーターが上へと進み始めた。
ガタガタと内部が揺れる。
壊れてしまうのではないかと不安になるほどだ。
そして数分が経ち。
——キン。
厳かにベルの音がなる。
エレベーターが最上階へと到着したようだ。
デンジたちは外部へと出る。
「な、なんだぁここ?」
それは真っ当な疑問であった。
そこは超巨大な空洞であり、無人の空間。
生命の気配はなく、”おわり”の静寂を感じるのみ。
するとふと、Kが指を鳴らした。
——パチン。
その瞬間、謎に包まれた空間が露わになる。
それは、表すなら天の杯。
遠く宙には星々が煌めき、中央にはまるで玉座のような謎の台が安置されていた。
「こ、ここは?」
デンジは先輩であるJの方を見る。
だがJは首を振って、知らぬと言外に伝えた。
Kがこちらに振り向く。
「今からコイツ——『銃の悪魔』を復活させる」
足元を見ると、そこには水の惑星が。
大陸が映り、それは間違いなく地球であった。
ああ、もしかしなくとも。
ここは宇宙なのであろう。
ぐるぐると惑星の周りを、足元はまわっていた。
「さあ、始めるか」
Kが台に近づき、四つのキューブを投げる。
ふわりと吸い寄せられるように、立方体は集った。
くるりくるりと回転し、それらが引き寄せ合う。
『パターンGを承認。対象の再構築を開始します』
Kが不敵に笑んだ。
デンジたちは固唾を吞んでキューブを見守る。
——ガコッ。
キューブが青白く光り、大きく展開された。
圧縮されていた『銃の悪魔』の肉片が、まるで洪水のように宙から大量に流れ出す。
そして、静寂。
「……? な、なにが起きてるんすか?」
「落ち着け小僧。まだこれからだ」
瞬間、空間が胎動した——。
「ま、まさか……」
レゼが何か異常に気づいたような声を発した。
そう、全てはすでに始まっていた。
『グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……』
肉片が互いに引かれ合っていく。
構築、再生、誕生——。
「こ、これは……‼︎」
Kがにやりと笑って言った。
「そうだ、これは——」
デンジは聳え立つソレを見上げる。
ああ、間違いない。
この恐ろしい異形の怪物は。
これが、人間を100万人以上殺した。
「——そう、『銃の悪魔』だ」
───
「おいそこのデカブツ!」
『グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……』
Kが全く恐れずに『銃の悪魔』に声をかける。
「お前には地球への不法侵入という罪状が付いている。つまりお前は”悪い宇宙人”ってわけだ。少なくとも良き隣人にはなれたかったようだな」
『グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……』
『銃の悪魔』は何を言っているかわからない。
「だが悪い宇宙人とはいえ、今すぐに処理されるのも気分が悪いだろう。だから交渉——ディールをしようじゃないかデカブツ。まあもちろん、ジャムパンとコーヒーは付いてこないがな」
そしてKはさらに『銃の悪魔』に近づいていく。
ヤツは謎の声を止め、沈黙を保っている。
「おや、食事がつかないのが、そこまで気に食わなかったか?」
Kが目前に迫り声をかけた、その瞬間——。
『グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!‼︎』
大量の弾丸が音速を超えて、津波のようにKのいる方へと向かっていく。
だが、しかし。
その銃弾は全て、空中で静止した。
まるでそこに、透明な障壁があるかのように。
「熱烈な返答をありがとう」
Kは当然のように、堂々と言って見せた。
静止した銃弾の雨を指で軽く払う。
無数の弾頭が、音もなく、銀色の玉座に転がった。
『グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……』
『銃の悪魔』
その巨体は、Kを睨むように低く唸る。
「悪いな、デカブツ。お前はもう、地球のノイズの一部だ。Outer PatternのGタイプ——人類の恐怖が産んだ、最高の不法移民さ」
Kの声は穏やかだが、どこか恐ろしい。
『銃の悪魔』も対抗するように、”地球上全て”の肉片を取り込み始めた。
青い星から、キラキラと輝いた弾丸が『銃の悪魔』の体に取り込まれていく。
「なるほど結構。それがお前の100%完全体の姿か」
——ズドドドドドドドドドド。
大雨のような弾が再びKに向かって降り注がれる。
し、か、し。
「どうやら目の前のパイしか見えていないようだ。とはいえご苦労。地球上から全ての”種”を自主回収してくれるとは……まあ、それが狙いだったのだが。これで地球もようやく少しは安寧を取り戻せる」
——ズドドドドドドドドドド。
——ズドドドドドドドドドド。
——ズドドドドドドドドドド。
『銃の悪魔』からの連射は止まらない。
目の前の敵を屠らんと、我を忘れている。
そんな悪魔に、Kはとある”黒い紙”を渡した。
それは……デンジも受け取ったことのあるもので。
「あ、アレって……まさか⁉︎」
シンプルな白文字が、黒い背景に浮かぶ。
『MEN IN BLACK』
Kはそれを、悪魔の表面にそっと押し当てる。
冷たい金属のような感触が、紙片の端を震わせる。
「この『名刺』をお前にあげよう。……何を言ってるか、理解はできないがな」
瞬間、名刺が光った。
黒い光沢が、闇を裂くように広がる。
低く唸る悪魔の体が、わずかに硬直する。
そしてその煌めきが『銃の悪魔』を包み——。
「良い宇宙人は保護される。だが悪い宇宙人は……こうやって”処理”されるわけだ」
肉体が分解、凝縮、結合されていく。
悲鳴とも聞こえる音が木霊する。
そして訪れる、静寂。
黒い名刺は、”全て”を飲み込み、封印した。
……最後に残されたのは。
『キュココココココ』
小さな、小さな、『ミニ銃の悪魔』だった——。
デンジは目を丸くして、その小さな塊を見つめた。
そしてKに謎を問いかける。
「え。これは……なんなんすか?」
「ふむ、見ての通りだ。小僧」
宇宙の静寂が、ゆっくりと広がる。
巨体が消え、代わりに転がる小さな塊——これが、あの100万人以上を殺した恐怖の元凶?
「おいK、俺からも質問がある。これはなんだ?」
「うむ、見ての通りだ。J」
Jからの質問。
しかしKは「見ての通り」の一点張りである。
「その……単刀直入にこれは『銃の悪魔』ですか?」
レゼが真剣な表情でKを見ると。
Kはにやりと微笑んで答えた。
「いいや、ペットだ」
「「「ペット⁉︎」」」
「詳しくは、Pacified Exo-Threat(鎮化済み外来脅威)略して、PETだ——」
■ ■ ■
あれから数日。
早朝のMIB本部キッチン。
デンジはカウンターに肘を突き、トーストにたっぷりジャムを塗ったパンをゆっくり齧っていた。
甘酸っぱい果実の味が口いっぱいに広がり、続いてブラックコーヒーの苦みが喉を滑る。
熱い湯気が立ち上る中、目を細め、ため息をつく。
「ふぅ……これだよポチタ。オレの”普通”の日常ってやつだぜ」
銃の悪魔を封じてから、世界は少し静かになった。
ニュースでは悪魔被害の激減が報じられ、街の空気が軽さを取り戻した。
ふと、カウンターの隅から小さな影が動く。
拳大の黒い塊——『ミニ銃の悪魔』だ。
『キュココココココ?』
”封印の残滓”としてKからデンジに託されたそれは、今や本部のマスコットになっている。
銃口をぷくっと膨らませ、蜂蜜瓶にじゃれつく。
「おい、ミニ。お前も一緒にコレ食うか?」
デンジは笑い、トーストをちぎって蜂蜜を塗る。
小さな悪魔は銃口でちゅうちゅうと蜜を吸い、満足げに転がる。
ミニがデンジの膝に飛び乗り、じゃれついた。
そして、ブラックが冷める前に、もう一口啜る。
「ん、これだよコレ」
皆が当たり前のように享受する日常は。
地球の『普通』は、人知れず保たれている。
最高機密機関『MEN IN BLACK』
名も知られぬ”彼ら”によって——。
—第二章 完—
『DENJI IN BLACK』
【進捗】4/4
……工事完了です。
これにて『DENJI IN BLACK』は一旦完結です。
デンジのあの素朴な願い——パンにジャムを塗って食べるような、平凡で穏やかな日常——きっと彼は、それを叶えられたことでしょう。原作では「ドロ水だ!」と言っていたコーヒーも、今では格好良く飲んでいる姿がとても似合っています。
もしこの物語が、皆様の日常に少しのワクワクや笑顔を加えられたなら、それ以上の喜びはありません。作者冥利につきます。
またどこかの物語でお会いできたら幸いです。
それでは、この光を見て……?
\ /ピカッ\ /
読了、ありがとうございました。
次回: #9「ニューラライザー」