あなたの転生特典は『ナックルボーラー』です。
頭の中に声が響く。
気づいたら知らない天井の下で寝かされていた。知らない女の人が俺の小さくなった手を触る。
どうやら、転生したらしい。
自分が転生するとは思っていなかったが、女の子になってしまったこの体を見ると本当に転生したようだ。
そして
「転生特典は『ナックルボーラー』です」
と言っていた声はあれ以来一度も聞こえていない。
テンプレから言えばあれが神の啓示というとこになるのだろう。
転生があるなら神ぐらいいてもおかしくないが説明書くらいはつけてくれ。
『ナックルボーラー』か。
シンプルに考えるなら野球のナックルボールが投げられるようになるのかな。
魔球とも呼ばれる不規則な変化をするボールを極めれば将来プロ野球選手になれるかもしれない。なんとも夢のある話だ。
不親切な神のせいで能力の詳細は不明だが実際に投げて確かめてみるしかないか。
今世の両親は一人娘に甘い。特に父親の方は娘に甘くおねだりをすればだいたいお願いを聞いてくれるのでありがたい。
そして、今日はついにはじめてキャッチボールをする日だ。
庭に出てグローブをはめる。
父さんには悪いが転生特典の実験に付き合ってもらおう。
まあまずはアップとしてストレートから投げていくかな。
「パパ!いくよ!」
右手を振り抜いて、ボールを放った。
初めてにしては上手く投げられたと思った。
しかしボールは空中でふらつき、左右に揺れ、父さんのグローブをすり抜ける。
「おっと!ごめんな!とれなかったよ」
父さんは苦笑いして取りこぼしたボールを追いかける。
まっすぐ投げたはずなのにな。
俺が未熟だから綺麗なストレートになってなかったのだろうか?
次こそは、そう思い胸元を狙って腕を振る。
しかし、ボールはまたブレた。一瞬浮いたボールが次の瞬間急激に沈み奇妙な軌道を描く。
父さんは再び捕球できずに、慌ててボールを取りに行く。
「パパ、ごめん」
「いやいや栞は悪くないよ。取れなくてごめんな」
俺は2回ともストレートを投げたはずだ。
しかし、2回ともボールは不規則な軌道を描いた。そう、テレビで見たことがあるナックルボールのように。
なんどかストレートを投げようと試してみる。しかし、同じ結果がそこにはあった。
俺の右手から放たれたボールは不規則に揺れ、狙ったところにいかない。
「これは……」
そこで悟った。
俺の転生特典『ナックルボーラー』はナックルを自由に投げられる力でも、ナックルを投げられるような才能でもなかった。
右手で投げたボールは全てナックルボールになる。
それが俺が神に与えられた力だった。