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『2』の扉を開ける。そこに広がる光景は、夕日が差し込む教室だった。黒板があり、教壇があり、机があり、ロッカーがある。わたしもよく見るような場所。
「ということは!!!」
「制服!? ふッざけやがって!!」
「セーラー!!!?!?? はぁはぁはぁ、はぁはぁはぁ」
セーラー服姿のセンセがいた。いいえ、センセと呼ぶのは相応しくありませんね。ここはキョーカちゃんと!!
「聞こえてンだよ!!」
「……………………」
「その目やめろォ!!」
「誘ってます?」
「んなわけあるか! 早く出るぞこンなとこ!」
ズカズカと教室を見て回るセンセ。教室は何度見ても一般的な教室で、窓の外には校庭が広がっていた。黒板には誰かが残した数式やメモのような文字が残り、ロッカーには誰かの忘れ物のような荷物が詰まっている。
「なんだぁここ、よく見るとおかしいところだらけだなァ?」
「どこがですか? スカートの長さですか? もう少し捲りましょうか?」
「やめろや!!」
スカートに手を伸ばすわたしを阻止しながら、センセは言う。
「チグハグなんだよ、ここぉぉ」
「な、にぃが、ですかぁぁ」
「ロッカーと机の数がぁぁ、合ってねぇぇ、あとは掲示物がァ、適当だァ!」
「ふむ」
「っ、おい! いきなり力抜くな!?」
そう言われ、わたしも教室を見てみると、確かにセンセの言う通り。ロッカーと机の数が合ってないし、掲示物の内容はフワッとしている。それに、
「…………掃除用具も、絶妙に足りないですね」
掃除ロッカーの中には雑巾と箒だけがあり、バケツやゴム手袋、ちりとりといったものがない。必要なものが分からない人が用意したような……。
「んだァ? この出鱈目な本は」
センセは教室に置いてある文庫本を見たみたい。わたしもそちらへ駆け寄り、中を見ると分かる。適当な文字が並んでるだけ。
ーーキーンコーンカーンコーンーー
「「!」」
チャイムが流れてくる。その後、スピーカーから声が流れてくる。
『テスト開始時間です。生徒の方は、着席してください。見学の方はご自由にお過ごしください。繰り返します、テスト開始時間です』
アナウンサーのような声が着席を促してくる。この場で生徒なのは、おそらく制服を着ているセンセのことで、見学の方がわたしでしょう。
『着席後は机の中からテストを出し、テストを受けてください。目標点は50点以上です』
「……これか」
やるしかねぇかとげんなりするセンセ。隣で見てましょうかと提案するけど、気が散るってあっさりフラれてしまいました。ため息を吐きながら、センセは解き始める。さすがのわたしもその間邪魔するわけにはいかない。かといって、何かすることもなかったから、ついうとうととしてしまいました。完全に眠りに落ちる寸前、
『テスト終了です。お疲れ様でした。隣の席の人とテストを交換し、採点を始めてください』
「っ」
放送が入り、反射的に体を震わせた。どうやらたった今、テストは終わったみたい。
「よし! 案外簡単だったなァ」
「わ、100点……ちゃんと頭いいんですね、センセ」
伸びをするセンセの背後から答案を覗き見れば、燦然と輝く100点。隣の人はいなかったはずだけど、いつの間に採点終わったんだろう。
「あぁ? どういう意味だそりゃァ」
「いや……わたし、全然わからないので……純粋にすごいなぁって」
「そうかぁ? まぁ、まだ習ってないとこもあったんじゃないのか?」
「………たぶん。って、ん?」
チャリンと音がした。机の上、そこに銀色の鍵があった。
「テストが今回の試練?だったんですかね」
「まー、いい。鍵は手に入れたんだぁ、次行くぞ次」
「あ、はい」
さっき同様、入ってきた扉は開いていて、扉をくぐれば、やはり服は戻る。
「ちぇ~」
「おい」
「さ、『3』の部屋に行きましょうか」
「……今度は何もねぇといいが。というか、なンでアタシばっかりなんだよ」
「まぁまぁ、眼福眼福ですよ」
「心の声が溢れ出てんぞ」
そう言いつつ、わたしたちは『3』の扉をくぐった。
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「……今度は暗い」
『3』の部屋は派手なクラブだった。全体的に薄暗く、ネオンライトが室内を照らしている。わたしには縁遠い大人な雰囲気の場所。中央には小さなステージ。端にはバーカウンター。激しいBGMが響いているのは、少し耳障り。
「…………今回もわたしの方は何もありませんけど、センセはーー」
「あぁぁ!?!?」
「!!!!!!!!!」
バニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニーバニー。
「バニー服だぁぁぁぁぁ!!!」
「んだよこのカッコ!!っざけんな!!!」
「っ、鼻血が出るかと思いました……」
「クソッタレがよォ……」
「どこかっ!! どこか暗がりに連れ込めばっ!!!」
「ウルセェ! 陽田落ち着けや!」
軽く後頭部にチョップを受けることで我に返ります。
「はっ! あ、す、すみません……つい……」
ついつい暴走してしまいました。でも、仕方ないですよね、バニー服ですよ、バニー。
「ついってなんだ、ついって……」
とても大きなため息を吐いたセンセ。まぁ、いいですよ。バレないように写真さえ撮れればーー
「おい!」
「あ」
「勝手に撮るな。没収だ、没収」
「あ~~~!」
スマホを没収される。なら! なら、せめて、その魅惑の谷間に入れてください、お願いします!
「はぁぁぁ、あそこに置いとくからな。撮るなよ」
「むぅ」
少し不貞腐れながら、わたしも部屋の探索をする。部屋の隅にあるバーカウンターには、お酒やドリンクの瓶、グラスもある。バーカウンターの上にはメモが置いてあって『鍵集めは順調ですか? ドリンクは好きに飲んで構いません。酔ってしまわないように気をつけて』と書いてあった。
「………………」
チラリとセンセの方を見ると、センセはフロアにある人形を調べてるみたい。ふむ。
「…………よし」
「うげっ、また人形かよ……」
「センセ、センセ!」
「あ?」
「こちら、どうぞ。喉乾いてませんか? 乾いてますよね? ね!」
バニー姿のセンセに、飲み物を差し出す。多少、色が変わって青くなっていますが、まぁ、この暗がりなら……イケる!
「訳のわからんとこで出されたものなんざ飲んでられっか!」
「………チッ」
仕方ありません。素敵な服装のセンセを拝めるのはありがたいですが、あまりセンセはお気に召さない様子。探索をして、鍵探ししましょうか。
「ここのはボロボロだなァ」
『1』の部屋とは違って、小さな布と綿でできた人形で、ぼたんで目が、毛糸で髪が作られている。着ている服も簡易な作りだった。しかも、
「……センセ、なんだかこの人形、直した跡がありますよ。しかも、直した人、結構不器用だったのかも? ほら、血の跡が」
「あぁ? 本当だなァ」
どの人形もボロボロで、修繕された跡がある。
「これも、動くんでしょうか」
「さァな。あとはこれ……ジュークボックスかぁ?」
センセがジュークボックスに近づいた次の瞬間、
『さぁ! うちの目玉、バニーちゃんのショータイムだ!』
ジュークボックスから声が響いた。声は続ける。
『バニーちゃんがショーを成功させたら貰える報酬は……鍵! さぁバニーちゃん、ステージへどうぞ!』
「はぁ!? やらねぇぞ!?」
声はセンセの抗議を無視して意気揚々とそう語り、同時に置かれていたぬいぐるみたちが、申し訳程度に手を振ったり頭を振ったりし始める。そして、天井から下がっていたミラーボールが輝き、眩しく辺りを照らし出した。さらに、声はわたしのことも認識したようで、
『おっと、今日は特別なお客さんも来てるね! お客さん、ステージ前のスペースへどうぞ!』
ジュークボックスはそう言う。確かにステージの前には、人ひとりが座れそうなスペースがあいていた。センセが乗り気ではない以上、わたしもあまり気は進まない。けれど、ご指名なのだから仕方ないです。
「特等席だぁぁぁぁぁぁ!!!! バニーちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
「クソがよっっっ!!!」
近年稀に見るぶちギレっぷりで、センセがステージにあがる。そこから先は覚えていない。わたしもトランス状態に入ってたんでしょう。気づけば、最高のショータイムは終わっており……。
「サ゛イ゛コ゛~~~!!! もっと!! もっと腰をー!!!」
「もうやらねーよ!!」
「そこをなんとか!」
「っざけんな! 早く出るぞこんなとこ!!!」
いつの間にか手に入れていたみたいで、センセは鍵を持って、扉を乱暴に開けたのだった。
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『4』の部屋。そこは中華風のインテリアが置かれた一室だった。格子付きの丸い窓があり、彫刻が施された椅子があり、棚には薬研や薬の材料らしきものが並んでいる。
「か~ら~の~!」
「はぁぁぁ」
そこにいたのはチャイナ服に身を包んだセンセであった。
「スリット!!! スリット生足!!!」
「もう反応するだけ無駄だなァ」
「センセ」
「はぁ……で、次は何をやらされンだァ……」
「その、スリットの中って……履いてるんですか?」
「何アホなこと言ってんだァ!!」
「あいたっ!?」
センセ渾身のデコピンがわたしの額を捉えた生足。とっとと調べるぞとセンセは大股で歩を進め生足。落ち着いてみれば、部屋の隅にある薬箱生足が目につく。
「ん? なんかあンぞ」
センセは薬箱の底の方にメモがあるのを見つけたみたい。覗き見ると、こんな内容が書かれていた。
『屋敷の仕組みと構造を少しだけ解析してみたら、屋敷を管理する特殊な部屋があることがわかった。 玄関扉を扉を6回ノックしてから開ければ、その部屋に行けるみたい。あたしはこれ以上関与する気がないけど、これだけ残しとくね。 さすらいの魔法使いより』
色々と気になる文章ではあるけれど、特に気になるのは、
「……なんだァこれ。というか、さすらいの魔法使いだァ?」
「管理部屋……ふぅん」
「ったく、魔法ときたか。だが、こんなワケわかんねぇこと、魔法でもなきゃ説明つかないわな」
そう言って、センセは薬箱とは反対の隅にあった棚を見る。どうやら本棚か何かのようで、中には和綴の本が詰まっている。わたしも1冊手にとって中を見てみるけれど、本はどれも滲んだ文字が記されているばかりで、何が書いてあるのかわからない。ただ、そんな中に紛れ、漫画のコマが印刷されている本を何冊か見つける。漫画はどれも中華をモチーフとした漫画で、少女漫画から少年漫画まで様々だ。この部屋はこの漫画たちに出てくる部屋と似ているな、と思う。
「…………この漫画を参考に、作ったんでしょうか、ここ」
「さァな。だが、また始まるみてぇだ」
「え?」
ガコンと音がした。音の方を見ると薬箱がひとりでに開いていた。その中から薬っぽい匂いがすると同時に、箱の中から声が響く。
『薬作りの時間ですよ。さぁ、あなたは薬研と薬となる葉を用意してください。薬を作らないと鍵はあげられませんよ。お客様はそこで待っていてくださいね』
箱は椅子に座って待っていろと言っているのが直感的に分かりました。どうやら今回は激しいことは何もないようで、センセはひとつ安堵のため息を吐いてから、薬箱から何かを取り出す。
「はいはい、やりゃぁいいんだろ」
箱はセンセに何かを指示している。専門用語も多いから分からないけれど、流石はセンセ。薬学が専門ではないとはいえ、淡々と作業をこなしていた。時間にして、10分くらいかな。
『ご苦労さん。じゃあ、鍵をやろうね』
そう言われたと同時に、扉の方からかちゃりと鍵が開く音がした。この部屋はこれで出られそう。
「なんでこん中なンだよ……」
粉まみれの鍵を苦い顔をしながら取り出したセンセ。どうやら鍵は調合した薬の中に落とされたみたいでした。
「ほれ、行くぞ」
早くここを立ち去りたいようで、センセは吐き捨てるように行った。けど、わたしは……。
「………………」
「陽田ァ? どうした?」
「センセ」
「もうちょっとここいません? 特に3部屋目とか」
「ふざけンな!」
「あ、待ってくださいよぉ」
軽くキレながらセンセは部屋を出る。わたしも追いかけるように部屋を出ると、『4』の扉はやはり固く閉ざされてしまった。生足。
「はぁぁ、次で最後だ。とっとと行くぞ」
「うぅ、はい……」
名残惜しい。どの部屋もよかったなぁ、と思いながらわたしたちは『5』の扉を開けた。
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この先、『5』の扉で待ち構えている『労働』を、この時のわたしは知る由もなかった。
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