通過者及び視聴済みの方のみお読みください。
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「…………ん」
目が覚めると、わたしは白い部屋に座り込んでいました。視界がぼやけているせいで、周りを見渡してもぼんやりと部屋が白いことだけが分かる。それに、耳の調子もおかしい。耳栓がついているみたいに、周囲の音が籠って聴こえている。それに、
「ん……はぁ……」
立ち上がろうとしても、力が入らない。神経系もおかしくなっているのでしょうか。監禁された、にしては、手枷や足枷もないし、一応口も自由だから、声も出せる。とはいえ、まともに動けないから、できるとしたら自分の体を含む周りを調べるしかないけれど。
「なにも、なし」
スマホはない。他のものも取り上げられているみたい。
「ふぅ……」
体が重い。疲れている感じ。まっすぐ前を見てるのも辛くて、首の痛みから俯く。その瞬間に、視界の端に何かが映った。ぼんやりと白いその部屋で、『それ』だけがやけに鮮やかに映った。『それ』は人だった。
白いワンピースを着た中学生ほどの女の子だ。彼女はぴくりとも動かない。不意に鼻をつく臭い。これは……。
「…………酷い、匂い」
死臭、だ。臭いの元は、わたしではない以上、その少女から。つまりは、目の前の少女は既に死んでいる……死体だった。
「なんで、死んでるんだろ……」
異常は目の前の死体しかない。軽く這いながら、調べてみる。ぼけた視界ながらも死因はすぐに分かった。首に縄の痕があったから。
「窒息死…………めんどうな殺し方……」
この殺し方だと抵抗されるのに。まぁ、苦しむ様を見るためなら、話は変わるけど。
「他に、何か…………あ」
死体のポケットからスマホを見つけた。電波は、入ってない。だけど、画面はオンラインの頃に繋いだままだったのか、あるサイトが表示されている。タイトル部分には 『おかるとにゅーす速報』と真っ白な下地に黒くて太いフォントが表示されている。あまり作り込まれたものではないらしく、素人でも作れそうなページ。
「………………」
更新してしまうと、きっとこのページに戻れなくなってしまう。慎重に、そのページを見ていく。まず目につくのは『都市伝説:殺人鬼の白い部屋について』という記事だ。
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貴方は『殺人鬼の白い部屋』という都市伝説をご存知だろうか?
この都市伝説は、とある匿名掲示板に書き込まれた投稿が起源とされている。 書き込みは以下のとおりだ。
【オカルト体験談】
ほんとにあった怖い話を語るスレ Part.442
188 名前:名無し
こんなスレあったのか...今もずっともやもやしてる話を記念にカキコ。 (中略)
ある時から、友達のSが突然学校にもバイトにも来なくなった。 俺は S の家を尋ねることにした。Sは酷くやつれてて、目には濃い隈ができていた。 どうしたのかと尋ねると、Sは顔をクシャクシャにして、「眠りたくないんだ」って言ったんだ。 おどろいたよ。Sの声は、まるで夜通し叫んだみたいに掠れていたから。
「何いってんだよ、すごいクマだぞ。無理矢理でも寝たほうがいい」 って言ったら、Sはこう言った。
「何度も同じ夢を見るんだよ。その夢を見たくなくないんだ」
「それでも何日も寝なくちゃ死んじゃうだろ……」
少し呆れながら、 俺がそう言った。 Sは顔面蒼白の顔で言った。
「うさぎの殺人鬼に監禁されるんだ」
189 名前:名無し
「殺人鬼? うさぎが?」
「違う、うさぎの着ぐるみを着た殺人鬼なんだ」
Sが話してくれた夢の内容は『うさぎの着ぐるみを着た殺人鬼に白い部屋に監禁される』というもの。S曰く、殺人鬼はいつも包丁とか、毒薬とか、物騒なアイテムを持っているという。そこで、うさぎの着ぐるみを着た殺人鬼に殺され、死んだところでいつも目が覚めると。そこでは夢の中であっても、まるで本当に殺されたような痛みや苦しみを感じるらしい。
Sは何度も殺人鬼に殺され、それで寝るのが怖くなってしまったというのだ。 俺はSが可哀想になった。 だから……。
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「白い部屋とうさぎの着ぐるみ……ね」
タイムリーな記事だと思った。ぼやけてはいるけど、確かにここは白い部屋で。ただ、うさぎの着ぐるみって方はーー。
『おはようございます』
「っ」
誰かの声が聞こえて、前を向くために頭を上げる。まだ体は重く、首に痛みが走るけれど、顔を上げた価値はあった。
「うさぎの、着ぐるみ」
そこには、ウサギの着ぐるみが立っていた。着ぐるみは、ゆっくりと歩き、こっちの近くに『何か』を置いた。小さな小瓶? 中にはたぶん紫色の液体が入っている。続けて、そのウサギは告げる。
『これは毒薬です。全部飲めば 5 分も経たずに、あなたは死にます。さぁ、飲んでください。全て、一思いに』
ウサギは淡々と言葉を紡ぐ。
「…………なぜ、わたしが飲まなくてはいけないんですか」
わたしの質問には答えず、ウサギは続ける。
『それでは、ルールを説明します。『私』はあなたの死を望んでいます。あなたはこの部屋で、死ななくてはいけません。死ぬ以外の方法で、この部屋から抜け出す方法はありません』
見下ろしてくるウサギ。早く飲め、そう言ってると感じた。抵抗できるなら、この毒をそのままこのウサギにかけてやりたいんだけれど、生憎、身体が思うように動かない。なら、わたしがやるべきは……。
「ルールって…………あなたは一体、なんですか? このサイトの都市伝説?」
例のスマホを見せながら、そう聞くわたし。今は目の前のこいつから情報を聞き出すしかない。
『この部屋は『殺人鬼の白い部屋』です』
「はぁ……それは、分かってる。馬鹿でも察しますよ。だから、聞いてるんです。あなたはどこの誰で、なんでわたしの『死』を望んでるのか」
それだけでも知りたくて、わたしはそう聞いた。けれど、
『『私』はあなたの死を望んでいます。あなたはこの部屋で、死ななくてはいけません。死ぬ以外の方法で、この部屋から抜け出す方法はありません』
そのウサギは同じことを繰り返す。なるほど。そういう舞台装置ね。目の前に置かれた小瓶をよく見る。紫色の見るからに健康に悪そうな液体で、目を細めてよく見るとなにやら文字が彫られている。
「『100回死ね』……イラッと来ますね」
ここまでさっきのサイトと同じだ。白い部屋、ウサギの着ぐるみ、毒薬。都市伝説と同じ。なら、これからわたしがしなくてはいけないのは…………はぁ。
「これ、わたしが死んだら、返してくれるんですか、この部屋から」
『死ぬ以外の方法で、この部屋から抜け出す方法はありません』
「………………」
やっぱり、同じ答え。このウサギは人形みたいなものでしょう。決められたことを伝える人形。ここでごねても、恐らくこれ以上の情報は出てこない。ならーー
「……っ」
小瓶の中の液体を流し込む。瞬間、喉に痛みが走る。それはいつしか大きく膨らんで、とてつもない激痛に変わった。真っ赤に温められた鉄の球を飲み込んだような強烈な違和感と激痛。逃れる術のない純粋な痛みが襲ってくる。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。喉が、焼けるように痛い。
「………………あ゛」
ある一点を超えると、痛みは急になくなる。そして、耳元でプツン、と音がして、視界が真っ暗になった。
『私は一体、誰でしょう?』
ウサギの着ぐるみがそう言ったのが、聞こえた気がした。
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目を覚ます。わたしは真っ白な部屋に座り込んでいた。視界は真っ白でチカチカと明滅している。耳の調子もおかしい。耳栓でもつけたような籠った感じ。目の前には恐らく昨日と同じ少女の死体。また昨日と同じかと思ったけれど、しばらくすれば、視界だけはクリアになった。
ちゃんと言う通りに死んだ。けれど、自分はまだこの部屋にいる。つまり、
「100回死ね、ね…………んっ、ダメか」
立ち上がろうとしても相変わらず力が入らず、立ち上がることが出来ない。できるのは、昨日と同じ、周りを見渡すことくらい。昨日よりもまぁ、視界はクリアだからまだマシですね。壁を見ると、そこには沢山の引っかき傷が残っていた。わずかに血も滲んでいる。
「……ちがう、どうでもいい」
辺りを見渡すと、昨日は見つけられなかったものを見つける。すぐ側に散乱したメモと壊れたボールペンの破片。ボールペンの破片には黒いインクに似たものがべっとりとついており、インクはほとんど無くなっている。つまり、誰かがメモを遺したってこと? なら!
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正気のうちにメモを残しておく。
ここは夢の中であり、森の中であり、海の陸である。きっと、この場所は間違いなく、もしかしたら殺人鬼の白い部屋である可能性は低いかもしれない。うさぎの殺人鬼は何者で、何が目的で、どうして自分たちが殺されなければいけないのか、調べて、考えて、書いて、それは知っておいた方がいいのだ。 相手との会話でわかったことだが、うさぎにチーズを与えると、唇からネズミが分泌されるらしい。そして夢から目覚めて気がついたが、どうやら自分たちは勘違いしていたらしい。Sの夢について。現実について?わからない。わからない。わからないと真相にはたどり着けない気がする。きっと S は錯乱をしていたから、楽を共にすることは出来なかったのかもしれない。とすると、目覚める方法はやはり殺人鬼を倒すしかない? 殺すしかない、それしかない。だってこれは夢なのだから。痛くても苦しくても、夢なのだから。だけど考えなくちゃ。どうすれば?死にたくない。99989796959493929190898887868584838281807978777675747372717069686766656463626160595857565554535251504948474645444342414039383736353433323130292827262524232221201918171615141312111098765432
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そこでメモは終わっていた。確かにこれは前にここにいた人、もしかしたら、この少女の遺したものかもしれません。けれど、内容がほぼない。正気のうちに、と書いているけれど、たぶんもうこれを書いている時には狂ってしまったんでしょう。それにしても、
「……気味悪い」
これじゃあ手がかりにはならない。はぁ、あとは手がかりらしいのは……。
「うさぎさーん」
わたしは部屋に響くよう、声をかけます。すると、また声が返ってくる。
『おはようございます』
わたしの背後には、いつの間にかウサギの着ぐるみがまた立っていた。ウサギは、ゆっくりと、側まで歩いてくる。
「それではルールを説明します。『私』はあなたの死を望んでいます。あなたはこの部屋で、死ななくてはいけません。死ぬ以外の方法で、この部屋から抜け出す方法はありません』
同じ文言。けれど、さっきと違うのは、ウサギはその手に包丁を持っていたこと。なるほど。違う殺し方、ってこと。
「今度は刺殺?」
『……』
「……痛いのは嫌なので……それ、貸してもらえませんか? 自分のタイミングでやりたいので」
『……』
そう要求するも、残念ながらウサギはこちらにそれを渡してはくれなかった。
「ちぇ……渡してくれたら、殺してあげたのに」
「…………」
まぁ、この体の重さでそれができるとも思いませんけど。ともかくこのままただ殺される気もない。少しでも謎を解明しなきゃ、死に損ですからね。
「ねぇ、うさぎさん、あなたはだーれ?」
毒を飲んで死んださっきの死に際に、訊ねられた質問。それをそのまま返す。けれど、返ってきた答えは変わらない。
『『私』はあなたの死を望んでいます』
「それは前にも聞いた。もしかして、わたしを恨んでる人?」
『……』
「それとも、わたしが会ってきた『化物』と同じ存在?」
『……』
「はぁ、そうだよね。分かりました。死なないと先に進めないんでしょう」
これ以上は押し問答、どころかただの壁打ちになってしまう。今回は視界がよくなったんです。次でまた何かが変わるはず。無駄な抵抗はできませんし、ただ……。
「どうせ殺される夢を見るなら……センセに殺されてみたかったけどなぁ……♡」
『……』
「はい、どーぞ」
ごろんと仰向けになる。それを見て、ウサギは包丁を、振り上げ、まっすぐ包丁を心臓に向かって振り下ろした。
始めに感じたのは『熱』だった。その後、胸に激痛が走る。その場で暴れたくなるような痛み。けれど、変わらず体は動かない。意識が遠ざかっていく。そして、またプツンと耳元で音がして、
「アタシは、どうして、オマエを殺しているのでしょうか?」
音声がクリアになった。クリアにウサギの中から声がした。その声は聞き覚えのあるものだった。知っている……ううん、よく見知った人物の声。
キョーカセンセの、声だった。
理解はできなかった。理由も思い至らなかった。センセに殺される理由なんて思い当たらない。胸が熱い。ドクドクと鼓動がなる。そのはずなのに温度はどんどん、下がっていく。寒い。けれど、
「え、へ……これが、セン、セに殺さ……れる感、かく……?」
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