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目が覚める。わたしはまだあの白い部屋にいた。今は、目と耳もはっきりと聞こえる。足も何とか動きそう。そして、また目の前に少女の死体。途端にフラッシュバックする前の死の光景と音。
「あれ……センセの声だった……センセ、なの?」
ブンブンと首を振り、一度それを頭から追い出す。まずは手がかり、だ。前回と違い、少し足が動く。まずは壁際に何かないか確認しよう。そうして、わたしは壁際へ。相変わらず引っかき傷はあって。
「ん?」
ただの引っかき傷だと思っていたけど、なにやら何か書いてある。そこに書いてあったのは、
『夢を終わらせる方法は一つだけ。死ぬことだ。100回』
「100回死ぬ……センセに殺されるならやぶさかではないけど。流石に少し、疲れるかなぁ」
あとは何かないか。そう思い、辺りを見渡せば、部屋の隅に何かの紙が落ちている。壁に手をつきながら、近づいてみると、それは
原稿用紙だと分かる。中身は……?
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彼女には『人を痛めつけてみたい、殺してみたい』という願望があったらしい。と言っても、話を聞いている限り、彼女が特別異常だったというわけではないようだ。最初は、くだらない妄想だったのだろう。彼女は、クラスに一人はいるような、変わり者の中学生の少女だったはずなのだ。
そんな彼女が、両親の部屋にあった古い本を、大人ぶって読んでしまったことが悲劇の始まりであった。 その古い本は、少女の思春期にありがちな歪んだ願望を叶えてしまったのだろう。 彼女はこう言った。
『夢の中なら、いくらでも殺せたよ。面白かった。楽しかった。 すっごくグロくて、ネットで見る画像なんかより、ずっとずっと鮮明で。 どうせ、起きたら全部なかったことになるし』
その夢を見る方法は驚くほど簡単だった。
『寝る前に呪文を唱えるだけだよ。たったそれだけ。 面白いんだよ。毎日違う凶器が出る。毎日違う凶器で、毎日違う人を殺すの。殺したあと、凶器は何故か消えちゃうんだけど......』
最後には、呪文のようなものが書かれている。
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「……明晰夢に閉じ込める呪文。なるほど、これで他人を閉じ込めて、そこで人を殺してたのか」
チラリと見る。ここで人を殺してたその『少女だったモノ』を。種さえ分かってしまえば、この部屋自体の謎はない。けれど、人を殺したい、ね。変わってるなぁ。
その後も壁伝いに歩くけれど、目新しいものは発見できなかった。じゃあ、そろそろ……。
「うさぎさーん」
「おはようございます」
「はい、おはようございます、うさぎさん」
「それではルールを説明します。『私』はあなたの死を望んでいます。あなたはこの部屋で、死ななくてはいけません。死ぬ以外の方法で、この部屋から抜け出す方法はありません」
「今回はなんですか? 銃? 縄? 殺し方のバリエーション的にはあまり思い付かないんですが」
ここまでは前回と同じ。聞きたいことはもうない。だって、
「うさぎさん…………その着ぐるみ、脱いでもらえませんか? どうせ殺されるなら、自分を殺す相手は知っておきたいじゃないですか」
「……」
「ね?」
「......」
「あなたがわたしを呼んだんですか? 呪文を使って。それとも……」
「......」
「んー、しょうがないです…………ねッ!!」
「…………!」
言うが早いか飛び付く。ウサギの不意を突けたようで、バランスを崩し、尻もちをついた。そのまま着ぐるみの頭を剥ぎ取る。中のその人物の目には、疲れと涙が浮かんでいる。沈黙。それを破ったのは、わたしで。
「あ、やっぱり、センセだぁ♡」
「陽田……どうして? 思い出したのか?」
キョーカセンセはこちらを驚愕の表情で見つめていた。
「思い出した? なにがですかぁ?」
「………………っ」
「…………疲れてるのは、よくありますけど……センセが泣いてるの、珍しいですね。どうかしたんですか? よしよし、します?」
「……ウルセェ…」
「ねぇ、センセ? なんで、わたしを殺すんですか?」
「言えない。黙って殺されてくれ」
「えー♡ でも、さっきまではただ変なことに巻き込まれてるだけでしたけど……フフフ、いいですよ♡ センセに殺されるなんて、経験できないこと、ですから♡ でも、知りたいなぁ」
そう言って、わたしは押し倒したセンセの額に自分の額を重ねる。
「ね? 教えてくださいよ、センセ」
そのまま、じーっと目を見つめると、センセは目を反らして話し出す。
「……アタシとオマエは、これまでに99回死んでいる。だが、オマエはいつしか、この出来事を忘れた」
「……ふーん、センセから殺されたのに忘れるなんて」
「アタシはこの格好だったからな。けど、もう安心だ。あと1回死ねば。あと1回死ねば、この部屋から出られるんだ」
そこでセンセは立ち上がる。そして、
「だから、頼む。死んでくれ。オマエのためなんだ」
センセは銃を向ける。手はかたかたと震えている。センセはふらふらで、立っているのがやっとみたい。
はぁぁぁ♡ センセから伝わってくる。わたしを殺そうとする意志。でも、医者として、人を、わたしを殺したくないって感情が、わたしだけに! わたしだけに向けられてるっ!! フフフッ、ぞくぞくしてくるぅ♡♡
「ね、センセ」
「……なんだ」
「少しだけ質問してもいいですか?」
「…………」
それ以上の動揺は見られない。だから、わたしも、淡々と告げる。
「センセとわたし、99回死んだんですよね。で、次が100回目…………それで、センセはわたしのことを殺そうとしてくれてる。そうすれば、わたしは出られるかもしれないんですよね」
「あァ」
「…………じゃあ、センセはどうするんですか?」
「大丈夫だ。あたしも死ぬ。そのうちな」
嘘。視線が下がった。
「センセ、誤魔化してもダメですよ? その凶器、使ったら消えちゃうんですよね?」
「…………オマエが心配することじゃない」
嘘だ。フフッ、本当に嘘が下手。なら、わたしの次の言葉は……。
「ね、センセ? ひとつ、提案があるんですけど」
「……」
「…………センセ、知ってますか? 拳銃の弾1発で、ふたりとも死ねる方法」
「いや……」
「フフフ、センセ、ほら、座って? それからわたしのこと、後ろからハグしてください」
そう促すけれど、センセは動いてくれない。
「……何をする気だ」
「えー? 心臓の位置を重ねて、そのまま引き金引いてもらおうかなぁって。そうしたら、わたしの体を貫いた銃弾がセンセの体に届くんです。フフフ、素敵じゃないですかぁ♡」
「そう、上手くいくとは思えない」
「でも、どーせならやってみませんか? どちらにしろ、センセはわたしを殺してくれるんですよね? なら、試してみる価値はあるんじゃないですか?」
わたしの提案に、センセは首を横に振った。
「上手くいかなかった場合、オマエが変に苦しむことがあるかもしれない、だから試す価値はない」
「そう、ですか」
「…………あァ、これだけは譲れねぇンだ」
一瞬、俯く……フリ。そうしたら、センセは一瞬だけど弛んでくれるもんね。
「隙あり」
「な!?」
身を屈め、センセに体当たりする。センセは体勢を崩し、拳銃を手放してしまう。わたしはそれを拾い上げ、銃口をセンセに向けた。
「テメェ……っ!」
「ダメですよ、センセ? 大事なものはちゃーんと持ってなきゃ」
「それを返せ! 陽田!」
嫌ですよ、と応え、センセに銃を向けたまま、1歩、また1歩と近づいていく。
「ほら、センセ、質問に答えてくれますか? このままじゃ、撃っちゃいますよ? ねぇ、センセ、わたしのことを殺して……そのあとどうやって死ぬ気だったんですか?」
「……くそっ、オマエは何も知らなくていい。黙って殺されてくれ……ッ」
「はぁぁ、強情ですね……」
だから、わたしは核心を突く。
「これでわたしを楽に殺してくれて、自分は最後までこの部屋に残って、餓死とか考えてた訳じゃないですよね?」
「ッ!」
ホントに嘘が下手。図星も図星、ですね。
「じゃあ、尚更です。これはセンセにはお返しできません。わたしはセンセを撃って、このままここで死にますよ」
「……ァ、ダメだ……!」
「だって、好きな人には苦しんでほしくないじゃないですか」
「オマエが苦しむ必要はねぇ! 返せっ、なァ!!」
必死に、センセは叫ぶ。今までに見たことのない表情でした。本当に優しい人。わたしを苦しませたくないから殺すという歪んだその優しさが、わたしに向けれているのが……ホントに最高♡
うん、そうですよね。センセはきっと苦しみながら死ぬわたしを見たくない、想像もしたくない。だから、それに漬け込みますね?
「じゃあ、そうですね。もし餓死した後、現実に帰れたわたしが弱ってたら…………」
ーーカチャッーー
「責任、とってくださいね♡」
ーーパァァァンッーー
引き金を引く。センセの額から鮮血が吹き出て、わたしの顔と体にかかる。
わたしは、殺した。大切なセンセを、殺した。
頭を撃ち抜かれたセンセは、目の前でどさりと倒れた。頭を中心に、血がじわじわと広がっていく。広がる血は、いつしか足元を侵食していく。いつの間にか、手の内にあった銃は消えていた。
「………………」
目の前には、センセの死体が転がっている。
目を閉じても、また開いても、広がる景色はそのままだ。
「………………」
目の前には、大切な人の死体が転がっている。
この世界が、夢か、現か、よくわからない。
「………………」
目の前には、大切な人の死体が転がっている。
もしかしたら、センセはこのまま目覚めないんじゃないだろうか? そんな不安が一瞬だけ胸をよぎって、消えた。
「………………」
目の前には、大切な人の死体が転がっている。
わたしは、ただ、発狂して、狂って、殺して。それだけかもしれない。それでも大丈夫だと信じてる。約束をしたから。
「………………」
目の前には、大切な人の死体が転がっている。
少し疲れた。だけど、微睡みはいつまでたっても訪れない。
ああ。そうか。この世界は、夢なのだから寝れるはずが、なかった。
「……………………フフフ、フフフ」
目の前には、大切な人の死体が転がっている。
喉が渇いてきた、お腹が空いてきた。いつしか体は動かなくなる。これで、消費するエネルギーは最小限だ。
「…………センセのこと、殺しちゃったぁ」
目の前には、大切な人の死体が転がっている。
この部屋で過ごすしかない。悪夢が目覚めると信じて。
そんなの、推測だけで、確証も、確信も、ないけれど。
「センセ、センセ♡ フフ、フフフ」
目の前には、大切な人の死体が転がっている。
1日目。
目の前には、大切な人の死体が転がっていた。
2日目。
目の前には、大切な人の死体が転がっていた。
こんな気持ちで、センセは今まで死体を眺めていたのかもしれない。
3日目。
目の前には、大切な人の死体が転がっていた。
自分が正気なのかすらもわからないまま。
4日目。
目の前には、大切な人の死体が転がっていた。
ずっと、この場所で、眠れもせず、自分が死ぬのを待っていた。
5日くらい、経ったころ。
来るはずのない眠気がやってくる。これで、終わり。
あぁ、センセ、センセ♡
愛してます、センセ♡
いま、そっちにいきますからね♡
声は出ない。けれど、心の中でそう唱え続ける。
これだけが、この『愛』だけが、わたしの拠り所だから。
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目を覚ましたのは、病院のベッドの上。隣にはセンセが疲れ切った顔で眠っていた。頰には涙を流した跡がある。
一瞬、怖くなる。死体、なのではないだろうか、と。恐る恐る、センセの胸に耳を当てる。どくん、どくん、と柔らかな心音が聞こえた。心臓は動いている。温かい。
「……よか、った」
その瞬間に微睡みが襲ってくる。わたしはその微睡みに逆らわずに身を任せる。センセが例え悪夢を見ているとしても。どうか、同じ夢が見られますように。そう願いながら。
完全に眠りに落ちる直前、わたしは彼女の耳元で囁いた。
「責任、とってくださいね、センセ♡」
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END『君の隣で眠りたかった』
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