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とある休日、アタシはリビングでソイツが来るのを待っていた。約束の時間の5分前、9時55分にチャイムが鳴る。インターフォンで確認すると、その人物はこちらにヒラヒラと手を振った。待ってたと画面越しに伝え、玄関を開ける。そこにいたのは、同僚の越水であった。
「おはよう、望月ちゃん」
「おう。悪いな、休日に」
「いいえ。むしろ少し早かったかしら」
「いや、ンなことねぇよ」
「はい、これ、お土産ね」
「さんきゅ。上がってくれ」
「おじゃまします」
そう言って、越水は靴を脱ぎ、家にあがる。事前に準備していた座布団に座ってもらい、上着をかけてもらっている間に、アタシはキッチンで飲み物の準備をする。ついでに、越水がもってきたクッキーを並べる。
「なんか飲みたいものあるか?」
「んー、珈琲と言いたいところだけれど……」
「生憎ねぇな」
「お茶で構わないわ」
「悪いな」
さっき沸かして移しておいたポットのお湯を注ぎ、少し待つ。緑色が出た辺りで、2人分のお茶を注ぎ、そのままリビングへ。
「粗茶だが」
「ありがとう」
対面に座り、ズズッと茶をすする。珍しくこうして越水と駄弁るのも悪くはないが、それこそせっかく来てもらったんだ。本題に入らなきゃな。
「それで、そいつが……?」
「えぇ」
越水が背負ってきたバッグから『それ』を取り出し、ゴトッと机に置く。思ったよりは、
「小さいな」
「まぁ、一人暮らししてた時に使っているものだから、だいぶ簡易的なものだもの……それにしても、本当なのかしら?」
「部屋に盗聴器が仕掛けられてる、なんて」
「…………あァ」
眉をひそめる越水に、アタシは神妙に頷いた。
これに関しては、ほぼ間違いねぇ。陽田あかり。アイツはアタシの部屋に盗聴器を仕掛けてくる。疑った理由は簡単だ。アイツはアタシの私生活を知りすぎているから。どこの局のニュースを見てるとか今、飯を食おうとしていたとか、そういうのを平気でメッセージやら通話やらでぶちこんできやがる。だから、この際、この越水が持ってきた『盗聴器発見機』を使って、全部暴き出してやるよォ!!
「ハ、ハハハハッ! 見てやがれ、いや、聞いてやがるか! 陽田ァ!!」
「…………はぁ、警察に任せればいいのに」
こうして、アタシの私生活を懸けた陽田との戦いの火蓋が切って落とされた。
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まずはリビングだ。ここはアタシが生活のほとんどを過ごす場所。となれば、ここに仕掛けられてないわけがないだろう。なにやら聞いた話だと、コンセントからとるのが一般的らしく、アタシもその例に漏れず、コンセント辺りに発見機を近づけてみる。すると、
『ピピッ』
「「!」」
早速、反応あり。フッ、なんだよ、余裕じゃねぇか。アタシはそのままコンセントのカバーを外しにかかる。コツはいるが、すんなり外れる。その後、そこのブレーカーを落とし、内部を確認してみる。
「ほう、こんな感じになってるんだな」
花粉撲滅のためにチェーンソーやら火炎放射器やらの使い方は学んだわけだが、流石に工学系までは手を出してない。だから、こうしてコンセントの中身を見ても、なにがなんだか。なんだったら1つずつひっぺがしていくかと思いかけたところで、越水が助け船を出してくれる。
「これ」
「あ?」
「コンセントの中なんて見たことないでしょう? 今はネットになんでもあるから」
そう言って、スマホでコンセントの中身の画像を出してくれた。動画もあるわよ、とも言うが、とりあえずはこれで十分だ。画面と実物とを見比べながら、確認していく。やがて……。
「コイツか!?」
画像にはなく、目の前のコンセントにだけ引っ付いていた黒い小さな機械を見つけ出した。アタシは準備していたゴム手袋をはめ、その部品に手を伸ばす。どうやらそれは導線かなにかで電気系統から電源をとっているようだった。それをニッパで切り外して。
「取ったァァ!!!」
アタシはそれを高く掲げた。取ってやった! どうだ。聞いてやがるか、陽田!
「さて、どうしてやろうか」
このまま大声でコイツに叫んでやってもいいが、健康被害が出るのはまずい。それにまぁ、外したことで電源はオフになっているはず。とりあえず破壊でもしてみるか。その前に……。
「越水、その辺にマイナスドライバーないか?」
「ええと……これね。はい」
「おう。さんきゅ」
「……何をするつもり?」
「どうせだからなァ。後学のために、分解して構造だけは知っておこうかと思ったんだよ」
「こんなところでDIY脳が出てるわね」
「悪いかァ?」
「いいえ、私も工学系の知識はあるから、構造自体には少し興味があったりするもの」
盗聴器らしきそれの隙間に、マイナスドライバーを当て、てこの原理でそのまま。
「おらァ!」
解体完了。2人して、中身を覗き見る。そこにあったのは、
『はずれ♡』
「は?」
丸文字で『はずれ♡』と書かれた紙切れであった。
「これ、一応、電子部品もあるけど。たぶん電波を出してるだけの偽物ね」
「くそがッ!!」
盗聴器もどきを床に叩きつけ、叫ぶ。そんなアタシの隣で、やるわねぇ、なんて呑気なことを言う越水。あのヤロウ、アタシがここを探すのも計算に入れてやがった!!
「望月ちゃん、これ、物証としてあるからーー」
「ーーぜってぇ見つけ出して吠え面かかせてやるッ!」
「…………まぁ、あなたがいいならいいけど」
結果から言うと、リビングのコンセント全てを確認しても、本物は見つからなかった。偽物がさっきの含め4個あるだけ。
「チッ、ここじゃなかったか」
「…………本当に例の子見てみたくなったわ。どんな子なのよ……」
「あ? ガキだよ、ガキ。アタシに結婚しましょーとか言ってくるただのガキだ」
「……なるほど。望月ちゃんがこれだから余計に拗らせてるのね」
「あ?」
「いえ、なんでもないわ」
「んじゃ、今度はキッチンだなァ」
「はいはい。手伝うわよ」
越水を連れ立ってキッチンに向かう。そこまで得意じゃねぇが、自炊もする。だから、ここで過ごす時間もまぁ、それなりだ。それにここには動かしにくい家電もある。
「なるほど。ここは確かに狙い目かもしれねぇなァ」
だからといって、動かさないアタシだと思ったかァ、陽田ァ!! 甘いンだよ、アタシはやるとなったら徹底的にやるぜ?
「聞いてるか、お前の悪ふざけもここまでだァ!」
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「は~い、聞いてますよぉ」
わたしは自室で、イヤホンをつけながら1人答える。こんな風にセンセの独り言と会話するのが最近のマイブームです。それもこれも、それなりに高い性能のものを買い、知り合いに少しいじってもらったことで、音質も上がったおかげですね。
「あとで何か奢ってあげなきゃ……っと」
イヤホンからゴトゴトと何かを動かす大きな音が聞こえる。どうやら冷蔵庫を動かしてるみたい。確かに冷蔵庫の裏にあるコンセントは狙い目でした。けれど、そこだとどうしても音が遠く、そして、冷蔵庫の駆動音が邪魔をする。だから、
「は~ずれ、ですよぉ。クスクス」
悔しがるセンセの声。フフフ、かわいい。って……。
「チッ」
耳に入ってくるセンセ以外の声。たしか同僚、でしたっけ。なんでわたし以外がセンセの家に上がり込んでるんだと怒りは湧く。それにこの間、センセと何かあったみたいだったし。
「…………まぁ、今日の会話でそれも掴めればいいか」
結局、センセはキッチンにあるすべてのコンセントを開けたみたい。そこまでしてくれるなら、冷蔵庫のところ以外もダミー仕掛けたらよかったなぁ。今更ながらにそんなことを思います。
「さ、次はどこかなぁ」
ぜーんぶ見つけてくれるといいなぁ。
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「くそッ! キッチンでもねぇ」
「……うーん。ねぇ、望月ちゃん?」
「なンだ?」
「例の子は、あなたに恋愛感情をもってるのよね」
「ごっこ遊びだろうがな」
「えぇと、じゃあ、劣情を抱いてる相手のどんな場面を彼女は盗み聞きたいのかしら」
「劣情って……」
いや、あの屋敷での反応を見るに、間違っちゃいねぇのか。なるほど、奴の側に立って考える……アイツがあの時一番反応を示したのはなんだ? 思い出せ、思い出せ!
「! 寝室か!!」
アタシの格好にいちいち反応してた陽田だったが、一番反応を見せたのは寝室のとき! つまりは、そこに盗聴器はある!
「行くぞ!」
越水に声をかけ、寝室に向かう。電気をつける。ここのコンセントは少ない。ベッドの側に1つだけ。なら!
『ピピッ』
「……反応はある」
さっきまでのダミーでも反応はあった。だが、確信がある。ここには確実に!
「あったわね」
あった。さっきより一回り大きい。
「問題はッ、中身……だッ!」
バキッと音がして、盗聴器のカバーが外れる。中身は……。
「大当たり、だな」
基盤やら配線がみっちり詰まっていて、例のこっちをおちょくるメッセージなど入る余地がない。当たりも当たり、大当たりだ。
「ハッ!」
アタシはそれを口元に近づけ、そのままデカイ声で叫ぶ。
「オマエの魂胆は分かったぜ! ハッ! アタシの勝ちだな!!」
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バキッと音がしてすぐに途切れた。残念、見つかっちゃいましたね。そこから考え方を転換したセンセは、脱衣場に隠していた1つも見つけることができたみたいです。それにしても……。
「勝ち誇るセンセもかわいいなぁ」
いつもはダウナーでしっかり者なセンセが見せる、変にハイになったテンションな姿もとてもいい。そそります。盗聴器2つでそんなレアなセンセを見れたんです。安いものですね。
「……あ」
よかったよかったと安堵の声をもらすセンセの声が聞こえる。どうやら2つの盗聴器を見つけたことで、解決したと思っているみたいです。
「そっかそっかぁ……さぁて」
わたしは受信機のチャンネルを変える。6つあったチャンネルも残り『4つ』。まぁ、4つ残っただけでもいいかな。脱衣所からはもう撤収したみたいで、音はしない。寝室も出入りなし。今聞こえるのは、リビングのテレビの音とキッチンでセンセがお茶を淹れる音だけ。
「フフッ、残念。わたしの勝ち、ですよ」
今後もセンセの音、たーくさん聞かせてくださいね♡
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