通過者及び視聴済みの方のみお読みください。
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昨日、世界は終わるはずだった。
今日から遡ること1週間。突如、SNS上に現れた新興宗教団体は『1週間後、世界は終わる』と犯行予告にも似た予言を残した。そして、連日、信者らしき人たちが神を召喚するとか、生贄を集めるとかなんとか発言して世間を賑わせていた。
最初は誰かの悪戯と思われていたそれは、瞬く間にネット上に信者を増やし、各地でその宗教団体が残した神を記すマークが発見された。また、宗教団体による誘拐事件や立てこもり事件など様々な事件が起き、警察は連日対応に追われた。
そして、昨日。空一面に緑色のオーロラが出現して、海では巨大な渦潮が巻き起こった。件の予言からちょうど1週間経っていたこともあり『世界の終わりだ』だなんて騒がれていた。
けれど、その全ては夜にはパタリと終わった。宗教団体の本拠地を誰かが壊滅させた後、一連の騒動を引き起こした犯行グループは警察に突き出されたという。
ネット上では、『警察の作戦によって一網打尽にされた』『一般人が突然敵地に入っていき壊滅させた』『誘拐された人の中に軍関係者がおり内側から崩された』など、様々な憶測が交わされている。
世間を騒がし、世界を脅かした『どこかの誰か』は『また別の他の誰か』の手によって捕まった。本当のところ何があったかなんて分からないはずもない。けれど、来ないはずの今日が来て、怖いことも恐ろしかったことも怯えていたことも、全部笑って「大丈夫だったね」と言える今日が来た。
これはそんな今日のお話。
わたし、陽田あかりとセンセ、望月鏡花の本当の始まりのお話。
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「………………」
センセのお家のベランダで、夜空をぼけぇっと見上げる。またここ1ヶ月くらいのおかしな空模様の影はちっともありません。急に晴れたり、雨が降ったり、雪が降ったり、日が異様に早く落ちたり。そんな異常気象はもうなさそうです。外は少し騒がしい。世界の終わりだと騒いでいた人達が、今度は世界は救われたとか言って騒いでいるみたい。ああいう人種はたぶんただ大きな声を出したいだけなんだな、と思ってみたり。
「そんなぼーっとしてどうした」
「センセ」
わたしにかけられた声は、もちろんセンセのもの。あんまり色気のない寝巻き姿(それはそれで素敵だけど♡)で、手にはコーヒーカップが2つ握られていた。
「ホットミルクでよかったか」
「ありがとうございます♡」
「おう」
フーフーとカップに入ったミルクを冷ましながら、センセはわたしの隣に来てくれる。
「で、どした?」
「いやぁ、世界、終わってないなぁって思っただけですよ。ほら、もう1時」
「あァ、そーいえばそうだな」
事件のこともあり、学校はほぼ早帰りだったけれど、センセの勤める病院はこの1週間も変わらずやっていた。しかも、なんなら忙しかったみたい。センセ曰く、不安に思う奴もいたんだろ、とのこと。当のセンセはというと、相変わらずこんな調子で。
「もう! せっかくセンセと一緒に死ねるなぁって思ってたのに~! というか、センセ、余裕過ぎません? 世界が終わるかもっていうのに……結局、終わりませんでしたけど」
「別に、アタシがどうこうできる事じゃねーからな。終わるんだったら……ま、そん時はそん時だ」
「リアリストというかなんというか……」
「まぁ、別に終わんなかったんだからいーだろ」
というか、オマエの家に泊めろなんていうわがままを聞いてやったんだ。アタシだってやっぱり動揺してたんだろ。そんな風にセンセはクールに言って、ホットミルクをすする。
「で、ほら、世界は終わんなかったんだ。明日も学校だろ。それ飲んだら、ガキはさっさと寝ろ寝ろ」
せっかくこうしてセンセのお家にお泊まりできたんだ。まだ眠りたくなくて、わたしは何かごねられそうなものを探す。あ、そうだ。
「って、ニュース! ニュースだけ見ましょ?」
それだけ見たら寝ますから。そう告げて、テレビをつける。確か『目覚めのもの』とかいう団体だっけ。惑星を模した丸いマークの中心に目。趣味の悪いマーク。『年に一度、死の星が地球に近づく日。生き血と歌で道を作れば世界の破滅が訪れる』『大量の生贄が必要だ』『星が近づくとき神々は目覚めることだろう』など不可解な発言をワイドショーで大きく取り上げ、不安を煽ってきた頃とは一転して、今度は事件は終わったと、事件映像を一部使って報道していた。
連日テレビを騒がせていた新興宗教団体もとい、犯罪グループが捕まったらしい。
映像には教祖を名乗る首謀者の男が連行されていく様子が映っている。アナウンサーが粛々と原稿を読み上げていた。
「連日SNSで殺害予告、脅迫等を繰り返していた犯罪グループが一斉に取り締まられました」
首謀者の男は頭から黒いローブを被せられ警察に囲まれながら連行されていく。留置所の扉を潜る前に男は振り返り、叫ぶ。
『私が失敗しても次がいる。また誰か同じことを繰り返す。この世界に終末をもたらすヒーローが現れる。そのうち世界が終わることは定められた未来だ。せいぜいその時まで足掻いてればいい』
「…………」
「…………」
カメラに向かって、まるでテレビの向こう側のわたしたちに言ってるようだった。ふと男の口角が上がっているのが見えた。
正直な話、この1週間ずっと嫌な予感はしていた。美術館や謎の屋敷、桜の木、紅葉の世界、白い部屋。あれらの出来事を考えれば、きっと世界の終末ですらも実現できる力が、この世にはあり得ると容易に想像できてしまったから。
「……あ、本当にちゃんと捕まったんですね。よかったよかった」
「とりあえず一安心だな」
「はい。でも、次がいるらしいですよ」
「あんな奴がまだいるなんて考えたくもねーなァ」
「フフッ、センセ、こわいです♡」
「あ゛ー! ひっつくな!」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃねえっての!」
どうにかセンセの腕に引っ付きながら、まだ会話を終わらせまいとチャンネルを変えてみる。すると、テレビは古いアニメを流す。仮面を被ったヒーローと仮面を被った悪役が戦っている。
『君はどうしてこんなことをするんだ!世界に何の恨みがある!』
『……話すだけ無駄だ。幸せに生きていたお前たちにはきっとわからない』
『それでも……聞かせてほしい。君のことも助けたいんだ!』
ヒーローが悪役に手を伸ばした。その手を払う悪役。
『世界を終わらせたいだなんて、きっと思ったことがないのだろう。思ったとしても、次の日にはそんな気持ちも忘れてなんとなく日々を送ってきたんだろう。そんな奴らには、わからない。俺のこの虚しさと決意はわからない。世界を終わらせる理由がないなら、世界が続かなければいけない理由もないだろ』
「………………」
そこまで聞いて、テレビを消す。理由は簡単。少しだけ悪役の気持ちに共感してしまいそうになったから。『あの世界』の記憶が、わたしをそんな気持ちにさせた。確かに世界を終わらせてしまいたい、なんて普通の人には理解してもらえないんだろうな、なんて。
「センセ、明日も仕事ですか?」
「あ゛? そうだが、急にどうした」
暗くなりそうな頭をブンブンと振ってから、そう切り出します。今はセンセがいるんだから、考えたところで無駄ですしね。
「んー、なんだかほら、ここ最近、非日常が続いたじゃないですか。だから、もう少しだけ……センセとお話ししていたいなって。センセ、患者さんの対応で忙しかったですし……」
「ちょっとだけ、ダメ……ですか?」
「ハァ…………少しだけな」
センセはため息を吐きながらも、そう言ってくれた。ホットミルクでいいよな、ともう飲み切ったわたしの分のカップも、ひょいと受け取って。
「わーい、だから、センセ好きです♡ 結婚しましょ~!」
「しねェわ! 元気じゃねーか……ッたく」
センセの後からキッチンに入る。深夜ってこともあって、キッチンはしんと静まり返り、冷蔵庫の稼働音が妙に大きく聞こえた。
「ホットミルクと……あー、これも持ってくか」
普段なかなか入れないセンセの生活空間。キョロキョロと辺りをみると、ふと電波時計が目に入る。
「あれ?」
「あ? どうした?」
「あ、時計、時間ずれてるなって」
「あ゛? 時計ズレてんじゃねーか。電池切れかァ? 後で変えとくか」
時計を叩くも、直る気配はないみたい。急ぐもんでもねぇ。センセはそう言うと、キッチンを出た。わたしもそれに続く。
「こっち置いとくぞ」
部屋に戻ると、センセは机の上にカップと持ってきたクッキーとはちみつの容器を置く。その際に、チラリと部屋の隅を見れば、新聞や郵便物が雑多に積まれてるのに気づいた。本当に忙しかったんですね。
「……………なんで有象無象のために、センセが……」
「あ? なんか言ったか?」
「……いえ」
「あ、やべ、座布団仕舞っちまったな。ちっと待ってろ」
そう言うと、センセは寝室に向かってしまった。手持ち無沙汰になったわたしは、スマホをポチポチと操作する。なんとなく目に入ったのは、まとめニュースで、一連の騒動がまとめられていた。
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1週間と1日前:SNS上に新興宗教団体『目覚めのもの』が現れ、終末を予言。
1週間前:SNS上で犯行声明文が出る。
6日前:犯行声明文通り、各所で神について英語で記された本や爆破予告などが記載された紙が投函。警察が動き始める。
また、各地で新興宗教団体のロゴがペイントされているのが発見される。
5日前:都内数か所で新興宗教団体を名乗るものにより、強盗事件が起きる。警察により、特別対策本部が立ち上げられる。また、爆発物処理班が各地を駆け回るように。
4日前:小学校の校庭で爆発が起こった。この爆発について巻き込まれたものはいないが、新興宗教団体『目覚めのもの』が神の供物をいただいたと供述。その後数名の生徒が行方不明、誘拐されていたことがわかる。
3日前:新たに声明文が出る。『この地を新鮮な血で濡らし、道を作れば世界の破滅を呼び覚ます』某飲食店が従業員全員を一時休暇にし、SNSでうらやましがる声が広がった。
追記:ここ最近天気が急に悪くなり嵐になったり、晴れたりしている。関係あるのだろうか。
2日前:コンビニや銀行で立てこもり事件が発生。また、関係ない犯罪においても『目覚めのもの』を名乗る者が増え、警察が対応に追われる。
昨日:警察が組織の本拠地に突入。教祖と思われる男、ならびに事件に加担したと思われる信者を複数名逮捕。
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コメント:結局こいつらって何がしたかったの?
コメント:新鮮な血で濡らすってあと一歩捕まるのが遅かったら誘拐されてる人たちも殺されてたのかな。
コメント:ちょっと世界騒がせてみたかったんじゃない?無職って書いてあるし。俺すごいみたいな。
コメント:世界終わらせるの意味が分からないもんな。
コメント:嫌なことあって終わらせてやるー!みたいな? 迷惑で草
コメント:私は世界が終わったらいいなって思ってたけどな。
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匿名コメントも不安がっていた声から一転して、そんな風に犯人グループを揶揄したり、嘲笑したりするものが多かった。他のSNSも同じ感じで。
「……ふーん。いろいろやってたんだなぁ……センセに害がなかったし、別にそこまで興味はなかったけど」
ネットをそのまま流し見していくと、『#もし、明日がくるなら』なんてハッシュタグが目に入った。世界が終わるってことで、この話題が流行ったんだろうなぁ。この話題から派生したのか、『もし、〇〇だったら』という例え話がたくさんあるみたい。『もし、他の惑星に移住できるとしたら』『もし、億万長者だったら』『もし、好きな動物になれたら』なんて、友人や恋人、ネットの友人同士、はたまた専門家の人達がそんな話題で盛り上がっていた。
「待たせたな、ほれ」
「ありがとうございます」
センセから座布団を受け取り、そこに座る。そして、ふと切り出した。自分でもミーハーだな、とは思うけれど。
「センセ?」
「ん?」
「もう少し話をしませんか。今日の最後に少しだけ、あり得るかあり得ないか分からない、もしものお話を」
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