陽田あかりと望月鏡花に関する記録   作:藍沢カナリヤ

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4 なんでもない日に(陽田視点)

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 わたし、陽田あかりの朝は早い。

 

「おはようございます、おばさん」

「っ、お、おはよう、あかりちゃん」

 自室で着替えを済ませたわたしは階段を降り、キッチンへ向かう。そこにはわたしを引き取った親戚のおばさんがいた。一声かけると、彼女はビクリと肩を震わせ、それに応える。

「朝御飯はいる、かしら」

「いいえ、今日はいりません。お気遣いいただき、ありがとうございます」

「い、いえ」

「………………」

 そんなにビクビクしなくてもいいのに。何を恐れているのか……は明白でしたね。

「大丈夫ですよ。わたしのすることの一切を黙認していてくだされば、息子さんのことは警察沙汰にしませんので」

「っ、ありがとう、ございます」

「では、いってきます」

 ガチャリと玄関の扉を開け、外へ出る。天気は快晴。まるで、わたしとセンセの未来を暗示しているみたい。

「フフッ」

 ああ、ホントにいい天気。

 

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「おい、なんでいる、陽田ァ」

「おはようございます、センセ♡」

 センセの家の前で、新聞をとりに玄関を出たセンセに朝の挨拶を交わすわたし。センセは照れているのか、眉をひそめていた。

「なんでって、一緒に病院に行こうかと」

「……今日は通院の日じゃないだろうが」

「だから、来たんじゃないんですか。病院で一緒にいられない分、こうしてぇ……えいっ」

「うっとおしい! 絡んでくるな」

「もう~! 照れなくてもいいじゃないですかぁ」

「はぁぁ……」

 頭を抱えるセンセ。大丈夫かな、今日はお仕事休んだ方がいいんじゃないでしょうか。

「お前、朝飯は?」

「まだですよ。コンビニかどこかで買おうかと」

「……チッ、入れ。パンしかねぇが文句言うなよ」

「フフッ、はーい」

 なんだかんだ言っても、こうしてわたしのことを案じてくれる。ああ、本当にセンセは優しいなぁ。結局、登校ギリギリまで粘って怒られてしまったんですけれど。

 

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「あ、陽田さん、お昼こっちで食べない?」

 そんな声をかけられたのは、4時間目が終わってすぐのこと。この人は確か…………名前、思い出せませんね。

「ありがとうございます。でも、先約がありますので」

 そう言って、いつものように断り、教室を後にするわたし。教室の中からは、やっぱりとか、無駄だよ無駄とか聞こえてくるけれど、気にしない。いつものように、わたしは購買に向かった。

 これもまたルーティーンのように、焼きそばパンだけを買い、中庭へ。

「よいしょ」

 木陰に設置された木製のベンチに座る。いただきますと手を合わせてから、戦利品を口に運ぶ。あまり食べるのは速くないから、ゆっくりしっかり噛んで食べる。

「……ふぅ、ごちそうさまでした」

 昼休みの半分くらいを使って平らげた焼きそばパンの包みはビニールに包んでひとまずポケットに入れておきます。あとで教室のゴミ箱にでも捨てればいいでしょう。さて、ではーー

「日課に入りましょう」

 ベンチからおもむろに立ち上がり、わたしは中庭の一区にある花壇に向かう。そこはわたしが用務員さんに任せてもらっている場所だった。じょうろを手に水をあげていく。チューリップ、牡丹、百合などなど。様々な花が区画ごとに少しずつ植わっている。花が咲いたら摘んでいってもいいとも言われているから、綺麗に咲いたらプレゼントしたいな、なんて。

「…………あ、これ、いい感じ」

 そう考えていたこともあって、真っ赤な薔薇を一輪切り取る。そのまま棘をとっていく。フフッ、これ、今日の帰りにセンセのお家のポストに入れておこうかな。そうしたら、センセ、喜んでくれるかな。

「っ」

 ふと指先に痛み。見たら、棘が刺さっちゃったみたい。咄嗟に指を口に含もうとして、止まる。思考。その後、わたしは目の前の真っ赤な薔薇にそれを垂らす。1滴、2滴、3滴。

「フフッ」

 わたしの血液が花弁に染みていくのを見ながら、わたしは自分の指を舐めた。

「……あ、そういえば」

 たしか、薔薇は本数で花言葉が変わるんでしたっけ。1本で大丈夫かな。あんまりよくない言葉だったら、あと何本かもらっていってもいいですよね。そう思い、わたしはおもむろにスマホを取り出し、調べる。赤い薔薇、1本、花言葉……。

「『ひとめぼれ』『運命の人』………………フフッ」

 よかった。ピッタリ。

 

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「セーンセ」

「あ゛?」

 仕事終わりのセンセを待ち伏せ、もといお出迎えすると、センセは一瞬、驚いた後に、呆れたような表情をわたしに向けた。

「ンでこんな時間に学生が彷徨いてんだよ」

「センセにこれを渡したくて」

「あァ?」

 そう伝え、わたしは赤い薔薇を1本手渡す。それを見たセンセはため息を吐き、頭を軽くわしゃわしゃとした後、

「理由になってねェよ」

 眉をひそめたまま、そう言った。

「もういい時間だ。家まで送る」

「! やった♡ センセ、やさし~♡」

「くっつくな! うっとおしい! 未成年をこんな時間に1人で帰らせられねェだけだ、ったく」

 そんなことを言いつつ、センセはわたしの渡した薔薇を潰れないように、カバンにしまっていたのをわたしは見逃さなかった。本当に、ほんとに優しい人。

 

 でも、この優しさはわたしだけに向けられてない。センセの優しさは『患者』であるわたしへのもの。それは分かってる。だから、種を撒く。センセがわたしから離れないように、離れられないように、種を撒く。こんななんでもない日に、少しずつ、少しずつ。

 

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