陽田あかりと望月鏡花に関する記録   作:藍沢カナリヤ

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6 ある休日(望月視点)

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「あァ……ねみぃ」

 朝、洗面所にて、顔を洗う。鏡を見ると、きっちりと隈ができていた。昨日、いつもよりも遅く寝たせいだろう。今日、休日だからといって、調子に乗りすぎたな。

 欠伸を噛み殺しながら、リビングへ。なにはともあれ朝飯だ。休日とはいえ、朝飯を抜くわけにもいかねぇ。これ以上生活リズム崩して、医者の不養生なんてアホなことにならねぇようにしないとな。さて、

「……珈琲、はあり得ねぇな」

 とりあえずケトルでお湯を沸かす。確かインスタントのスープがあった気がする。それとパンでも焼けばいいだろ。

「…………」

 椅子に座り、テレビをつけた。平日に非番なのは珍しく、いつもは見ないような時間に朝のニュース番組を見る。これほど有意義な時間の使い方もない。

 少しして、ケトルのスイッチがオフになる音がした。キッチンに行き、デカフェの紅茶を淹れる。あァ、何分だったか。まあ、その辺は適当でいいか。パンもちょうど焼き上がる。トースト2枚を皿にのせ、ドカッと座る。あァ、そういえば、スマホ見てなかったな。そう思い、スマホをチェックすると、新着は5件ほど。3件は公式からで、あと2件は……。

「ゲっ」

 陽田からである。いつものようなラブコール。ッたく、毎日毎日飽きないもんだな。これもいつものごとくあしらう返事を送る。また返ってはくるが、それには返さない。正直通知をオフにしてやりたいが、万が一ってこともあるからな。はぁ、面倒だ。で、もう1件は

「お? 越水から?」

 同僚の越水からだ。どうやらDIY関係のイベント情報をもってきたらしい。相変わらず耳が早い奴だ。感謝の言葉と日程調整をすると伝えると、

『ねぇ、今日、暇かしら? 少し使いたい木材が足りなくて、ホームセンターにでも行こうかと思うのだけれど』

 そんなメッセージが返ってくる。まあ、この後何をするかと聞かれたらニュースを見ながら、ダラダラと時間を浪費するだけだろう。なら、越水の買い出しに乗るのもいいか。

『了解。準備して向かう』

 パンにバターを塗り、食う。ん、ウマイ。ジャムもあったらよかったんだが、生憎切らしちまってた。帰りにでも買ってくるか。

 アタシはそのままパンとスープを腹に入れ、多少ぬるくなった紅茶を飲む。さて、テキトーに身なりだけ整えていくか。

 

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「どうかと思うわよ、望月ちゃん」

「あ?」

 ホームセンターでの買い出しを終え、近くの喫茶店で休憩していると越水がそう言ってきた。何がだよと返すと、彼女はそれと指を差してくる。

「メイク。それ、ほぼノーメイクでしょ?」

「あー」

 多少、眉をかき、隈をファンデーションで隠しただけ。だから、越水の言う通り、ではあるが。

「別に同僚とホームセンターに行くだけだぞ? ンなこと気にすんなよ」

「はぁぁぁ、それでも人の目はあるのよ? どこに運命の相手がいるか分からないんだから。そんなんだからいい歳して、いい人の1人もいないんじゃない」

「ハッ、運命の相手って…………ンなのどうでもいいな」

 夢見がちな越水の言葉を一蹴する。チューッとストローでメロンソーダを飲むアタシを見て、越水はまたため息を吐きやがる。

「…………ご両親からも言われているんじゃないのかしら?」

「うぐっ」

 アブねぇ。メロンソーダ、変なとこ入るところだった。越水の言うことは図星も図星であった。実家に帰る度に、両親から彼氏はいないのか、結婚はまだか、孫を早く抱かせろと、さんざん言われている。キョーミねぇ、するわけねぇ、アタシに期待すンなと返すが、多少は引っ掛かるものはあり……。だから、絶妙に越水の言葉が刺さる。

「……てめぇもだろうが」

「あら? 私は婚約者いるわよ」

「あー」

 そういや、こいつ、実家がそれなりにいいお家柄だったか。そりゃ婚約者の1人や2人いるか。

「だ・か・ら! 異性がいる前では、バッチリメイクしておきなさい? あなた、素材は本当にいいのだから」

「…………あァ、ハイハイ」

「する気、ないわね?」

「まァな」

 ただでさえ日々気を張っているのだ。休日にそういう方向で気を張ってたら死んじまう。

「……はぁ、分かったわよ。でも、今度のDIYイベントの時はもう少し作ってくるのよ?」

「おう」

 そんな話をしていると、タイミングよくケーキが運ばれてくる。アタシの方はチョコレートケーキ。越水のはミルクレープだ。フォークを入れると分かるみっちりとした感覚。それを1口大にして、口に運ぶ。

「ん、うめぇな」

 口に広がる少し苦めのチョコレートの風味。舌触りのよく、みっちりとした食感ながら、しっかりと口の中で溶ける感じがする。脇に添えられた生クリームをつけると、口の中でそれらが混ざりあってちょうどいい甘さになった。

「うん、美味しいわね」

「あァ」

 しばらく静かに、ケーキを食べる。やがて、

「ふぅ、美味しかった」

「あァ、なかなかいい店だった」

 いつもは利用しない喫茶店だったが、悪くなかった。グラタンやらナポリタンやらの食事系もあるみたいだから、今度は昼食で利用してみるのもありだろう。そんなことを考えながら、食後に頼んでいた紅茶をすすっていると、

 

「で、どうだったの、デートは」

「ぶッ!?」

 

 唐突かつ語弊のある言い方に、思わず軽く吹き出した。越水を睨み付けながら、口を拭く。

「行ったんでしょ? 美術館、だったかしら」

「行ったが……そもそもデートじゃねェ」

「はいはい。ただそう言いつつ、付き合ってしまうのは、あなたの……なんというか……」

「あ? ンだよ?」

「人の良さがでているわね」

「そンなんじゃねぇよ。あいつはアタシを……そうだな、心の拠り所にしてる部分がある。いずれ離れさせねぇといけないが、今はまだその時じゃねぇよ」

「……はぁ、お人好しよね、望月ちゃんも」

「うるせェ」

 吐き捨てるように返すと、越水は困ったように笑った。それから、まぁ、一応、美術館での話をしてやった。あれは妙な体験ではあったからな。それなりに話の種にはなる。……勿論、あの時にアタシが感じていた陽田への妙な感情のことは伏せて、だが。

 そんな話をしていると、ふと越水はうーんと唸って、口を開く。

「まるで、『オカルト』の世界ね」

「……『オカルト』なぁ」

 医者で病院に勤めている関係で、幽霊だのの類いの話はよく聞く。だが、今回のは幽霊というよりも、なんかの白昼夢だったと言われた方が納得がいく。あとは集団幻覚とかな。

「気をつけた方がいいわよ? そういうの、1回体験すると続くって、前、美容院で読んだ雑誌に書いてあったわ」

「ンだその雑誌チョイスは……」

「80万部くらい売れた雑誌らしいわよ」

「世も末だな」

「とにかく! 気をつけること!」

「ハイハイ」

 越水の話を適当に流し、話は次のDIYイベントの話へ。そんなよくある休日をアタシは過ごした。

 

 まあ、そんな妙なことに巻き込まれるなんて、二度とないだろ。

 

 そんなアタシの予想は簡単に裏切られることになるのだが、それはまた別の話。

 

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