通過者及び視聴済みの方のみお読みください。
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ふと目を覚ます。床で眠ってしまっていたみたいで、身体をゆっくり起こすと、身体が少し痛い。ぼやけた頭で辺りを見回すと、そこはどこかのお屋敷のような場所の廊下でした。高そうな絨毯や廊下の装飾。それに、いくつもの部屋の扉があり、廊下は長くどこかへと続いていた。 そして、
「ん……ど、こだぁここ……」
「あ、あれ? センセ……?」
「ぁ……? 陽田ァ……?」
隣には、センセがいました。どうやらセンセも状況が飲み込めていないみたい。
「あ、センセだぁ♡」
きゅっとセンセの腕に抱きつく。
「センセ、ここどこでしょう。わたし、怖くて……」
「なんだァひっつくな! 暑苦しい」
「えー、そんなこと言わないでくださいよぉ……わたし、センセの患者さんですよ?」
「患者なら尚更ひっつくな」
今はコンプライアンスとか厳しいから、センセの言うことももっとも。なら、
「じゃあ、お嫁さんにしてくれます?」
これで解決!
「ったく……なんでそうなんだァ? するわけねぇだろ」
「むぅ…………」
膨れてみせても、センセはとりつく島がない様子。まぁ、仕方ありません。それは追々どうにかするとして……。
「でも、本当にここ、どこでしょうね?」
目が覚める前の記憶を辿っても、こんな場所に来た覚えはない。家で普通に過ごしていたはず。なのに、突然意識が途切れて、気がついたらここにいた。
「とりあえず状況確認だ。立て、陽田」
「はーい」
改めて辺りを見れば、長い廊下の途中にどこかの部屋に繋がってるようなドア何個かあり、反対側の先は曲がり角になっている。
「どこなんだろうなァ」
そう言って、センセは長い廊下を歩き出す。もちろんわたしも連れ添って歩く。
「1、2、3、4、5……部屋は5つか」
「そうですね……って、あれ? センセ、これ、なんでしょう?」
「なんだァ?」
絨毯が少しだけめくれているのに気が付いて、その下にくしゃっと折りたたまれたメモがあった。その内容は……。
『目が覚めると知らない屋敷にいた。奇妙な状況なので、何かあった時のためにこのメモを残しておく。 一体何をさせられるか分からない。部屋は五つあるが、今からそのうちの一つに入る』
「前にここに来た人が残したもの、でしょうか」
「だろうな。しかし……」
たぶんセンセも考えてることは一緒だと思います。この廊下は手入れが行き届いてて、掃除も完璧。塵1つ落ちていないのに、わざとらしくめくれた絨毯にわざとらしく挟まれたメモが見逃す、なんてことありえないだろう。もしかするとこのメモはわざと残されている、とか?
「うーん、なんだか不自然というか作為的というか……」
「そうだな……きぃつけて出る方法探すぞ」
「! センセ、もしかして、わたしを心配して……っ」
「あぁ? 患者を心配すンのは当たり前だろうが」
「えへへ♡」
非常に浮かれた気持ちで探索を進める。窓、は鍵がかかっていることくらいしか分からない。外は磨りガラスになっているせいでよく見えなかった。
「鍵がかかってんな」
「ですね…………はっ!!」
「どーした。なんかあったか!?」
「あ、いえ、なんでもないですよ?」
「そうか」
鍵のかけられた謎の屋敷で、センセとふたりっきりっていうのもアリかと思いましたが、それを口にすると怒られてしまいそうなので、ギリギリ口をつぐみます。
「おい、これ」
「あ、はい!」
不意にセンセから声をかけられる。廊下の隅に置いてあるテーブル。その上にまたメモが置いてあった。
『ようこそ。この屋敷には合計5つの部屋があります。 そして、ひと部屋につきひとつ、鍵があります。鍵は部屋の中で課題を達成すると入手できます。鍵を全て集め、廊下の突き当たりにある玄関から脱出してください。 部屋は1から順に行くといいと思います』
「?」
文脈から予想するに、恐らくこれは屋敷の主からなんでしょうけれど。
「………………なんだか、丁寧語で……違和感ありますね。人を拉致?して連れてくる奴ですし、上から高圧的な表現を使ってもおかしくないと思うんですが……?」
「んー? そういうもんかァ?」
「はい。まぁ、根拠なんてないですけど」
そんな話をしながら、わたしたちは廊下の曲がり角へ。さっきの屋敷の主からのメモ通り、そこには扉があった。ご丁寧に5つ分の南京錠がかけられていて。
「こっから出るのか」
「みたいですね。けど、鍵が……やっぱり、あの扉に入るしかないでしょうか」
「そうっぽいなァ」
「…………」
正直、腸が煮えくり返りそうでした。わたしはともかく、センセを拉致した挙げ句に、どんな危険が待っているかも分からない扉を5つもくぐれというんだから。もしセンセに危険が降りかかることがあるならーー
「ーーろしてやる」
「あ? なんか言ったか?」
「あ、いえ。なんでもありませんよ、セーンセ♡」
危ない危ない。思わず漏れ出るところでした。センセに笑顔を返して事なきを得た。
「で、問題はこの扉だな」
センセの言葉に頷く。これまたご丁寧に、扉には1から5までの数字がふってある。まるで、アトラクションか何かのよう……悪趣味な。
「1から、だったな。ほら、入るぞ」
「……はい」
最大限の警戒をして、わたしたちは『1』の扉をくぐった。
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中に入ると、そこは落ち着いた書斎でした。大きな窓に古い文机、本棚に革張りのしっかりした椅子、小さなソファ。少し埃っぽいですが、雰囲気のある部屋でした。中に化け物がいるなんてことはなくて……危険はなさそーー
「あ゛ァ!? なんだァ!?!?」
「ッ、センセ!!」
しまった。部屋に何かはなくても、センセの身に何かが起こっていたら意味がない。慌ててセンセの方に振り返ると、そこにはーー
「メイドさんだ!!!!!!!!!!」
メイドさんがいた。フリフリのメイド服ではなく、いわゆるクラシカルなスタイル。露出はなく、だからこそ、上品な印象を受ける。そんな姿に、センセは変わっていた。
「なんだぁこれ!!」
当然、困惑するセンセ。それに対して、わたしは至極冷静に答えます。
「センセ!?!? なんですか!?!? え?? お金払えばいいですか!?!? あれですね!! 谷間に諭吉を! 諭吉を挟めば!! って、露出してないじゃないですか!?!?」
「ふざけたことぬかしてんじゃねぇ! ふざけんな! んだこのカッコ! 元の服どこいった!」
2人が落ち着くまで10分はかかったでしょう、はぁはぁ。部屋を見渡してみると、本棚とよく見なくても目立つ等身大の人形が椅子に鎮座していることが分かります、はぁはぁ。
「こんなとこ出てっ……って扉あかねぇじゃねーか! あぁ……くそっ! 早く鍵探して出るぞ!」
「はぁはぁはぁ、メイドなセンセと密室でふたりきり……」
落ち着け。落ち着くんです、陽田あかり。まずは深呼吸をして……ふぅ、はぁ……センセの匂い、ヨシ!
「センセ」
「……なんだァ」
「そのスカートめくってみても?」
「っざけんな!!」
「┐(´∀`)┌」
大興奮のわたしとは対照的に、怒り心頭で辺りを探すセンセ。やっぱり目につく人形を調べてるみたい。チラリとそちらの等身大人形を見ると、白いデッサン人形のような見た目のそれは、顔や髪や指はなくて、顔の部分には『ご主人様』とかかれた紙切れが貼り付けられているみたい。
「ご主人様だァ?」
軽く、いや、だいぶキレながら、センセは人形に触れた。それを見てわたしも慌ててセンセの方に行く。
「ンだこれ、冷てぇ……?」
「冷たいって……」
センセの動きを真似するように、人形に触れると、ふにゃりと冷たい皮膚を触ったような感覚があった。布や綿では再現できない冷たさ、弾力、触り心地。それはまるで、
「死体みたいだな……」
「………………」
あまり触れたくはない。センセもそう思ったみたいで、2人、それから離れた。違うところを見ようかと本棚の本を数冊読み終えたところで、背後からぐちゅりと濡れた音がした。
「っ」
動いていた。あの人形が。そして、その身体が不自然に曲がる度、身体の中から生肉を掻き回すような気味の悪い濡れた音がする。
「あぁ!?動いてる!?」
人形は無理矢理な方向に足を曲げつつ強引に立ち上がる。そして、こちらを見るように首をぐい、と無理やり捻って、声を発した。
『掃除の時間だ。メイド君、客人が来ているから掃除を頼んだよ』
不気味な動きとは裏腹に、どこから出ているのか分からないその声は、やたら落ち着いた声色で。
『メイド君が掃除をしている間、客人はこちらにどうぞ』
「ち、ちょっと待て。メイドってのはアタシに言ってんのかァ!?」
人形に表情はない。けれど、声からわたしに対して微笑みかけているのだと感じた。人形はソファにわたしを誘導し、座らせる。
『メイドが掃除を終わらせたら、鍵を渡してあげようね。客人はここでゆっくりとくつろぐといい』
人形はそう言い、センセに部屋の隅にある掃除用具を示した後、どこからか取り出したティーセットで、わたしに紅茶を淹れ始めた。
敵意は感じない。こんな場所で出されたお茶なんて、恐ろしくて飲めたものではありません。わたしは毅然とした態度で、その人形を突っぱねます。
「は!? うるさいですね!! わたしも見ますよ、センセもといメイドさんの汗水垂らして働く姿を!!」
次の瞬間には、わたしはスマホを起動していた。スマホのカメラを連写モードに。自らの身体を死角にして、センセの姿を撮る準備は万端です!
「チッ、あ゛ー、やりゃァいいんだろやりゃァ!!」
センセはそれに気づかず、ズカズカと怒りのステップで掃除用具を手に掃除を始めました。
時間にして、30分くらい。センセが部屋を隅々まで磨きあげると、人形が不自然に足を引きずりながら、こっちに来て。
『お疲れ様。それじゃあ鍵をあげようね』
人形の手には小さな鍵が乗っていた。同時に、扉からかちゃりと鍵が開く音がした。 さらに、わたしが鍵を受けとると、人形はその場に倒れ込み、動かなくなってしまう。
「あ゛ァァァ!!」
「お疲れさまでした、センセ♡」
「早く出るぞ、こんなとこ!!」
「はーい! でも、とってもお似合いでかわいいですよ、センセ?」
「ウルセェ! なんでアタシなんだよ……こんなフリフリしてんの落ち着かねぇ」
ブツブツと文句を言うセンセと一緒に、鍵の開いた扉をくぐった。いつか、センセに『ご主人様』って呼ばれてみたいですね……フフフ♡
「「あ」」
扉をくぐれば、その途端にセンセの服が元に戻る。くるりと後ろを見れば、『1』の扉は閉まり、
「……開かないですね」
「開かなくて結構だ」
「仕方ありません。次です次!」
「なンか、お前……楽しそうじゃねぇか……?」
わたしはスマホを握り締めながら、スキップで『2』の扉に向かったのでした。
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