暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、湖底の墓標

湖底の洞窟はかなり曲がりくねっていて、チューブの作成作業は大変だった。途中、空気が溜まっている場所もあったのだけれど。流石に、何も動物は住んでいないようだった。

 

其処を中継地点にして、チューブを進める。

 

曲がりくねった洞窟は、上に行ったり下に行ったり、本当に進むだけで苦労させられる。皮肉な話だけれど。ロロナとジョネフェスがあれだけ対立したのに、洞窟に入ってしまえば、結局進行速度を落とさなければならなかった。

 

洞窟を抜けたとき、思わずロロナは呻く。

 

何しろ、底知れないほど深い穴に出たからだ。

 

魔法のカンテラで照らしているのだけれど、上も下も見えない。こんな恐ろしい空洞が、下にあったのか。

 

「此処は、かってシェルターと言われていた場所らしい」

 

長老が来て、教えてくれる。

 

昔の人達の中には、自分たちだけ終末の地獄から逃れようとしたのがいたそうだ。彼らは土の中に空洞を造り、其処に逃げ込んだ。

 

核兵器という恐ろしい武器には、どうにか耐え抜いたシェルターもあったらしい。

 

しかし様子を見ようと、外の空気を入れてしまったら、それで終わりだった。

 

まだ仕組みはよく分からないけれど、劣悪形質排除ナノマシンという恐ろしい毒が、一気に流れ込んでしまったからだ。

 

このシェルターも、そんな人達が逃げ込んだ場所の一つの、成れの果て。しかもこの様子からして、恐らくは攻撃に耐え抜けなかったのだろう。

 

チューブを、底へ底へと伸ばしていく。

 

壁に沿うようにして、ゆっくりとらせん状に。真下に伸ばしてしまったら、そのまますとんと落ちてしまう。

 

マリンナイザーを、此方に持ってくる。三つでは足りなかったかも知れない。

 

思案の末、途中でエアドロップをまとめて、幾つか水を掛けて焚いておいた。こうすることで、一気に空気を排出することが出来る。

 

水底に到着。

 

其処は、とても恐ろしい場所だった。

 

辺りには、無数の残骸。

 

何だったのか、正体が分からないけれど。どうやら家だったもののようだ。四角くて、穴が開いていて。

 

そしてどれもが、壊れていた。

 

死体の類は見当たらない。

 

魚もかなり泳いでいるし、みんな粉々か、食べられてしまったのだろう。だけれども、何となくわかるのだ。

 

此処は怨念の塊。

 

地獄が顕現した場所。

 

どれだけの人が、此処で死んだのだろう。想像もつかない。

 

しばらく魔力を計っていた悪魔達が、一方向へチューブを伸ばしはじめる。吐き気をこらえていたロロナだが、リオネラが袖を引いた。

 

「一度出る?」

 

無言で首を横に振った。

 

見届けるためだ。

 

何があったか、ロロナはもう知っている。だからこそ、事実を見届けなければならない。人類の罪業を。何が起きたかを。

 

クーデリアが来た。

 

外に悪魔の集団が来ているという。もう一つ、護衛のために一族が派遣されてきたらしい。

 

更にそれだけではなく、アーランドの巡回部隊が二つ来ている。

 

「ホムンクルスが五人も混じっているわ。 フォーマンセル二隊で五人よ」

 

あきれ果てた様子で、クーデリアは吐き捨てた。

 

確かに相当な数だ。

 

もはやアーランドは、臨戦態勢なのかも知れない。いずれにしてもその数なら、生半可な相手の襲撃ではびくともしない。

 

マリンナイザーを抱えたまま、慎重に奥へ。

 

崩れていない建物を見つけた。

 

苔どころか、藻さえない。

 

何だか奇怪な魚たちが、周囲を泳いでいた。ごく少数だけれど、此処にも魚が住んでいるようだ。

 

頑強な扉があったけれど、窓が空洞になっていたので、其処から侵入。中にはまだ健在な扉もあるようだった。

 

「此処からは、技術者が調べる」

 

ぞろぞろと悪魔達が入ってくる。

 

そして建物全体に空気チューブを広げて覆い、徹底的に調べはじめた。

 

何だか不安だ。

 

彼らがロロナを排除したりしなければ。いや、彼らはむしろ人間より、余程純朴な一族だ。

 

ロロナが疑うべきでは無い。

 

それに万が一の場合も、簡単にやられるような戦力ではない。

 

リオネラが悲しそうに、拾ってきたものを見せてくれた。どうやら人形らしい。ただ、材質が全くわからない。水中で劣化していないと言う事は、よほど優れた技術による人形なのだろう。

 

ただ、服も髪も、禿げてしまっていた。

 

「此処にも、子供がいたんだね」

 

「うん。 世界中にいた子供達も、容赦なく破滅に巻き込まれていったんだと思う」

 

「酷い。 どうしてこんな事になったの?」

 

全くだ。絶対に繰り返してはいけないことなのに。

 

私欲で、同じ事をしようとするなんて。しかも、スピアの錬金術師達は、真相を知っているような気がする。

 

どうしてそんな事が出来るのか、理解できない。話を聞いてみたい。それで、どうしても会話が成立しないのなら。止めなければならない。場合によっては、力尽くでも。

 

扉の一つが、開いた。

 

中に入ると、むわっと嫌な臭い。ミイラ化した死体が幾つか散らばっている。無言のまま、クーデリアが荷車に入れていた包装用のゼッテルを掛けて、埋葬布代わりにした。

 

どの死体も、苦しみ抜いたらしい。

 

身をよじって、顔には絶望がありありと浮かび上がっていた。

 

「電気系統は」

 

「調査中です」

 

分からない事を、悪魔達が話し合っている。

 

どうやらこの建物、かなり深く下にまで続いているようだ。

 

何カ所かの扉を無理矢理開ける。或いは悪魔達が何か機械を操作して、開かせる。

 

不意に、辺りが明るくなる。

 

「非常電源復旧!」

 

「ガーディアンシステムがいる可能性が高い! 周囲に警戒!」

 

「何だろう」

 

嫌な予感がする。

 

悪魔達も、明らかに武闘派の大柄な戦士達が、周囲を油断なく見張っていた。

 

明かりがついたのは良いけれど、光源の正体がよく分からない。棒状で、光っている。あれはどういう仕組みなのだろう。

 

クーデリアはとっくに銃を抜いていた。

 

何か危険を察知しているのだろう。リオネラに言って、自動防御を展開してもらう。

 

程なく、嫌な予感は、現実のものとなった。

 

下の方から悲鳴。

 

ジョネフェスが飛び込んで行く。ロロナも、階段を駆け下りて、それに続いた。

 

下に、広い空間があって。

 

そこには、真っ白な体の、何か大きなものがいた。

 

あれは、ひょっとして。

 

「ドラゴン……!?」

 

畏怖とともに、生物界最強の存在の名が、口から漏れ出る。

 

何しろそれは、巨大な蜥蜴によく似た、非常に大きな姿だったからだ。

 

全身は白銀色に輝き、背中には巨大な翼。ドナーンなどとは比較にもならない威圧感。巨大なドナーンはドラゴンに匹敵するサイズになる事もあると聞いたことがあるけれど、これは違う。

 

醸し出す威圧感が、桁外れだ。

 

強い。

 

生唾を飲み込む。

 

しかし、よく見ると違う。形はドラゴンに似ているが、鱗が見当たらない。体は機械で出来ているようだ。侵入者に反応して、動き出したのだろうか。

 

白い大きなものは、丸太のように太い足で、先行していた悪魔の一人を踏みにじっていた。口からは、光が漏れている。あれは、ブレスか。

 

悪魔達が、周囲に散る。戦闘態勢を取ったのだ。

 

「りおちゃん!」

 

無言で、リオネラが自動防御の形状を変更。前面に、壁のように造り出す。

 

白い殺戮兵器は、唸り声とともに、光の束を此方へと撃ち込んできた。

 

ぐんと、体が後ろに引っ張られるような感覚。

 

気がつくと、リオネラと一緒に、壁に叩き付けられていた。咳き込む。思わず、呼吸が止まるほどの衝撃だった。

 

リオネラも苦しそうに表情を歪めている。

 

これだけ力を増しているリオネラの自動防御を、一撃貫通。冗談じゃ無い。何という火力だ。

 

クーデリアは、今の一撃を逃れていたけれど。逃げ惑う悪魔達を、白い怪物は容赦なく蹂躙して廻っている。尻尾を振るう度に肉塊が千切れとび、鮮血がまき散らされる。

 

大柄な悪魔達でも、同じ。

 

勿論やられてばかりではない。反撃して、魔術を叩き付けている。大きな武器をふるって殴りつけたり、時には肉弾戦も挑んでいる。

 

しかし、大きな蜂に、小さな羽虫が挑むような光景だ。力が違いすぎて、攻撃がことごとく通じていない。

 

これでは、一方的な虐殺だ。

 

詠唱開始。

 

これ以上、好き勝手はさせない。

 

クーデリアも、連続して火焔弾を叩き込みはじめる。だが、表皮で溶けるように、火焔が霧散してしまう。

 

何だろう、どういうことだろう。

 

機械の白竜が、雄叫びを上げた。

 

背中に飛びついたジョネフェスが、太い拳を固めて、何度も殴りつける。だが、体を揺すって、振り落としに掛かる白竜。

 

不意に、そこに出現した巨大なホロホロが、竜に組み付く。

 

「今です!」

 

「攻撃を集中!」

 

悪魔達が、反撃を集中。四方八方から、術式を浴びせる。

 

ロロナの詠唱も、此処で完成した。

 

射線から逃れて。そう叫ぶと、全力で魔力砲をぶっ放す。今までに無い破壊力の、極太の魔力による殲滅の一撃。空間を蹂躙し、白竜を直撃。ずり下がる竜。背中から飛び退くジョネフェス。

 

だが。

 

大きく口を開けた白竜が、気合いの雄叫びを上げると同時に。

 

ロロナの魔力砲は、打ち消されてしまった。

 

愕然とする。

 

今のは、どういうことだ。

 

クーデリアが、至近から、スリープショットを連射して叩き込む。だが、鬱陶しそうにそちらを見た白竜が、尻尾を振るうだけで、吹っ飛ばされる。クーデリアの速度でも、避けられなかった。

 

壁に叩き付けられたクーデリアは、悲鳴さえ漏らさない。そのまま、動かなくなる。

 

ホロホロが飛びつくが、それもはじき飛ばされた。同じくらいの体格の相手なのに、圧倒的なパワー差だ。

 

白竜の口に、殺戮の光が宿る。

 

まずい。攻防ともに、桁外れすぎる。悪魔達も、もはや逃げ腰になり始めていた。

 

持ってきていた発破を、次々に投げつける。

 

だが、時間稼ぎにもならない。

 

白竜の口が凍った。レヘルンによるものだ。

 

だが、白竜が頭を振るうだけで、凍結していた口が、自由になる。

 

ホロホロとアラーニャが、左右から組み付く。しかし、白竜が両手をふるって、二人を吹き飛ばす。その時、爪で大きく二人が引き裂かれるのを、ロロナは見た。

 

悲鳴を上げたリオネラが蹲る。

 

血が流れているのがわかった。自分の別人格だ。致命的な打撃を受ければ、本人も怪我をするという事か。

 

這いずって逃げようとしていた悪魔が、容赦なく白竜に踏みつぶされる。悪魔達はもう戦意喪失も良い所で、逃げ回っている者の方が多い。

 

飛び散る血を見て、ロロナは。

 

必死に精神を立て直した。

 

杖を構えて、相手に向ける。

 

このままでは、全滅してしまう。さっきの魔力砲が駄目なら。

 

試してみるしか無い。

 

今までに無い威力での、全力での砲撃を。

 

しかし、普通に撃って効くとは思えない。もし、撃ち込むとすれば。

 

口の中。

 

竜の弱点と言えば、それだ。しかし、ブレスを吐く寸前にそれを叩き込むとして、タイミングをどうするか。

 

ふと、目の前に影。

 

血だらけの、クーデリアだ。

 

「口の中に、それをぶちこむのね」

 

詠唱中だから、応えられない。だが、クーデリアは、意図を察してくれていた。

 

同じように、前に立ちはだかる者。

 

満身創痍のジョネフェスだ。

 

「やってやろう。 この程度の危機、我ら悪魔の一族は、今まで何度も乗り越えてきたのだ」

 

手を、胸の前で打ち合わせるジョネフェス。

 

膨大な黒い光が、両手を包むようにして集まっていく。

 

クーデリアは、詠唱を既に終えているようだった。

 

白竜が、此方に気付く。

 

忌々しげに、きっと機械で出来ているだろう目に、光が宿る。それは、生物では無いのに、露骨すぎるほどの殺気を放っていた。

 

後ろ足で、白竜が立ち上がる。

 

口の中に、凄まじい光が宿っていく。

 

あれを撃ち放たれたら、終わりだ。この広間そのものが、消し飛んでしまうだろう。悪魔達が、恐怖の声を上げた。

 

瞬間、クーデリアとジョネフェスが、左右に飛び退いた。

 

手を、床につくジョネフェス。

 

黒い光が拡散し、辺りを覆っていく。白竜の足にそれが絡みついて、登りはじめる。面倒くさそうに、下を見た瞬間。

 

クーデリアが、おそらく二十発以上のスリープショットを、殆ど瞬く間に放った。

 

今のは、おそらく銃器の稼働加速。

 

魔術を利用して、銃弾を、何より銃器の稼働を超加速して、連続発射したのだ。指先や手の動きも、魔術で瞬間的に加速したのだろう。

 

しかもその弾丸のことごとくが、白竜の口に集中。

 

ブレスが、誘爆する。

 

詠唱は、完了している。

 

ロロナの後ろに、リオネラが。

 

彼女の魔力が、流れ込んでくる。これならば、想定以上の破壊力を出す事も、可能だ。

 

目を開ける。

 

口から煙を上げているドラゴンが、此方を見た瞬間。

 

術式の、最後の一節を唱えあげる。

 

先ほど、壁に叩き付けられたダメージだけで、体中はがたがただけれど。それでも、やらなければならない。

 

術式を、発動する。

 

凄まじい衝撃に、一気にロロナ自身もリオネラと一緒に壁に叩き付けられた。

 

光の柱が、白竜を飲み込む。

 

周囲に展開した魔法陣が、あまりの魔力に、ぎしぎしと悲鳴のような音を立てる。内側から崩壊しそうになる。

 

これが、今のロロナに出来る、最強の術式。

 

白竜が、口の中に殲滅の砲撃を浴びながらも、必死に体を立て直そうとする。その全身から、光が漏れているのがわかった。内側まで潜り込んだ光が、体内をズタズタに破壊しているのだ。

 

断末魔の、悲鳴。

 

いや、違う。それは、使命を果たせないことに対する、怒り。

 

踏みとどまりながら、最後の魔力の一欠片まで、叩き込む。

 

貫通する、手応え。

 

気がつくと、目の前には。

 

大量の水が流れ込んできていた。

 

あの材質もわからない壁を、ぶち抜いたらしかった。

 

その中で、半壊した白竜が、まだ鎌首をもたげようとしている。頭は綺麗に消し飛んでしまっているというのに。

 

全身の装甲が内側から吹き飛ばされ、穴だらけになっていると言うのに。

 

戦慄する。

 

それ以上に悲しくなる。

 

それほどまでに、此処を守りたいのか。

 

「チューブの修復作業を急げ!」

 

「支援部隊!」

 

悪魔達が、悲鳴を上げながら走り回っている。

 

その中で、まだ不死身の白竜は、立ち上がろうとしている。ロロナは既に魔力を全て出し切った。

 

クーデリアも、今の絶技を放った後だ。もう動けまい。

 

倒れそうになる所を、リオネラに支えられる。

 

「後は、任せてもらおう」

 

ジョネフェスが、膨大な水を全身から浴びながら、立ちはだかる。

 

ようやく、後方から来た増援の悪魔達が、ジョネフェスと一緒に、白竜に躍りかかった。もはや抵抗する力も無いだろうに、それでも機械の塊は、激しく暴れる。しかし、装甲も失った今、もはや勝ち目は無かった。

 

 

 

完全に破壊された白竜は、機械の塊と言うよりも、臓物と肉の集まりに見えた。

 

体中のアクセサリに蓄えていた魔力も、ことごとく使い切ってしまっている。これでは、しばらくは戦えない。

 

まともに動けもしない。

 

リオネラが見かねてか、耐久糧食を持ってきてくれた。

 

噛んでいると、力が湧いてくる。それでも、体を支えられながら起こすのがやっとだ。クーデリアが来る。

 

無理をしたからか。

 

両手が、真っ赤に染まっていた。手首の辺りから、いや手全体、指からも、大量に出血していたのだ。傷がひび割れのように走っている。骨もダメージを受けているに違いない。血は止まったようだけれど、数日は引き金を触らない方が良さそうだ。

 

座り込んだクーデリア。手が時々震えているのがわかる。本当だったら、叫び出したいほどに痛いはずだ。

 

排水作業が終わって、悪魔達が調査を再開する。

 

どうやらこの広場が、最下層であったらしい。

 

長老が来た。

 

「多くの一族を失いましたが、どうにか発見できたようです。 あなた方には、感謝してもしきれません」

 

そう言って頭を下げる長老を見ると、悲しくなった。

 

ロロナがもっと強ければ、もっとたくさんの悪魔達を救えたのに。

 

排水時、ぐちゃぐちゃに潰された悪魔の死骸を、無造作に片付けていく様子を見て、ロロナは涙が止まらなかった。

 

悪魔達にとって、死はアーランド人以上に、身近なのだ。

 

だから、同胞の死は。こうも軽くなってしまうのだろう。

 

渡されたのは、石版。

 

いや、これはアーランドにもある、情報表示板に近い。解析はされていないのだけれど、遺跡から発掘されたもので、情報を何も無い空間に表示する。噴水のある大広間などには設置されていて、王宮からの発表や、仕事などの求人情報が表示されるのに用いられている。

 

触ると、文字が出てきた。

 

何とか読める。

 

「いうならば死者の書、とでもいうべきものでしょう。 我らの求めていたものです」

 

「どうして、私に」

 

「勘違いなされますな。 貴方にも、です。 既に我らも、同じものを多数確保しています。 貴方なら、これを正しく使う事が出来ると信じておりますぞ」

 

悪魔の長老が言うことを信じるなら、これは空間転移を可能とする技術を乗せた書物。

 

ロロナは、きちんと約束を守った長老に、深々と頭を下げることしか出来なかった。今はもう、状況次第では、信頼を守らなくても良い筈なのに。

 

この人は、きちんと約束を守ったのだ。

 

大事にしなければならない。

 

そして、正しく使わなければならない。

 

此処に眠る人達のためにも。

 

信頼してくれた、悪魔の長老のためにも。

 

 

 

 

アトリエに戻ると、ステルクが待っていた。

 

ズタズタに傷ついているロロナ達を見て、咳払いしたのは何故だろう。いずれにしても、ロロナはもう精神的にも限界近い。途中耐久糧食を多めに食べて体力を回復はしてきたけれど。

 

今回は魔力を根こそぎ使い切ったこともあって、疲弊が酷かった。

 

まだ、立ち直りきったとは言えない状況である。

 

「今回の課題の結果だ。 少し早いが、渡しておく」

 

スクロールを見せられる。

 

あまりにも魔力を使いすぎて、まだ全身がだるいけれど。これは目を通さないわけにはいかない。

 

緊張しながらスクロールを開く。

 

大きくため息が漏れた。合格となっていたのだ。

 

ジオ王の護衛には成功したのだし、当然だろう。これで不合格だったら、流石にひとこと言いたいところだった。ただ、それでも不安がついてまわっていたのは、事実なのだ。

 

これで、あと二回。

 

それに、状況を見て、オルトガラクセンに潜らなければならない。どうにかして時間を捻出しなければならないだろう。

 

「私はこれから、しばらく外出する。 戻るのは二週間ほど後になるだろう。 それまでに、体を治しておくように」

 

何となく、それでわかった。

 

これから、いよいよスピアに対しての戦いを挑むのだろう。

 

次の課題がどうなるのかは、まだわからない。

 

ただロロナは、これから多くの人が死ぬだろうのだと思うと。憂鬱でならなかった。

 

アストリッドが、旅支度で部屋から出てくる。

 

「うん? お前達、随分酷い目にあったようだな。 何と戦った」

 

「湖の底で、機械のドラゴンと戦って来ました」

 

「ああ、ガーディアンか。 古代兵器の中では弱い方だが、勝てるまで成長したというのは立派だ。 後で褒めてやろう」

 

「余計なお世話よ」

 

嫌そうにいうクーデリアの声にも、力がこもっていない。

 

けらけらと笑うと、アストリッドはアトリエを出て行った。

 

旅支度という事は。

 

師匠も、参戦するのだろう。

 

アトリエの外には、ホムンクルスの一部隊がいた。何処かで見たような顔立ちの、指揮官らしいホムンクルスが、アストリッドを待っている。

 

手をヒラヒラとふると、アストリッドは、そのホムンクルスと一緒に、城門の方へ歩いて行く。

 

あの様子では、帰りはステルクと同じか。

 

勝てるのだろうか。

 

わからない。ただ今できることは。

 

残りの時間を使って、体を癒やすこと。それに、出来る事を、全てやっておくことだ。

 

まずは眠ろう。

 

家に着いたからか、急激に疲れが襲ってくる。

 

お風呂に入るより、まず眠りたい。クーデリアもリオネラも、それは同じようだった。

 

寝室に、三人一緒に倒れ込む。

 

ホムが見えたので、荷物をコンテナに移しておくように頼むと。

 

もう次の瞬間には、ロロナの意識は、夢の世界へ旅立っていた。

 

色々やりたいことはある。

 

だが、今は、休憩が先だと、ロロナは思った。

 

 

 

(続)







苛烈な水中突破の課題、クリア……!

ロロナの力は確実に増していて、既に歴戦のアーランド戦士に引けをとりません。

悪魔族との強力なパイプも武器です。

既にロロナは、換えが効かない存在になりつつあるのです。





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