暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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スピア連邦での戦いから帰還したステルク。

すぐにロロナに次の課題を言い渡します。

既に課題は制御不能な戦況を収束するために必須になりつつあります。






1、帰還した騎士

ロロナの前にステルクが姿を見せたのは。

 

しばらくアーランドを後にすると告げてから、一週間と四日の後。つまり、予定よりも少し早かった。

 

しかし、騎士でありたいと願う男は、随分と憔悴しきっていた。

 

激しい戦いをしてきたのだろう。

 

それにこの表情。

 

勝ったとは、とても思えなかった。

 

「ステルクさん、ご無事で何よりです」

 

「うむ……」

 

「その、戦いは」

 

「勝ったには勝った。 スピア連邦の戦力を大きく削る事は出来た。 だが、首魁は取り逃がしてしまってな」

 

それは、悔しいだろう。

 

アトリエの中でくつろいで欲しかったので、パイを焼いたと告げてみる。しばらくぼんやりロロナを見ていたステルクだが。

 

促されるまま席に着いた。

 

ホムが茶を出す。

 

その間、ロロナは炉にパイを入れて温めた。時々ステルクの様子をうかがうのだけれども。元々無口で強面の騎士は、いつも以上に、貝のようになっていた。

 

正直、少し怖いけれど。

 

だが、そうも言ってはいられない。

 

「次の課題について、伝えておかなければならないな」

 

そう言ってステルクが出してきたのは、スクロールである。なるほど、王宮に一度寄って、持ってきたという訳か。

 

それでは、ひょっとして遠いスピアから弾丸コースで帰ってきて、しかもまだ休んでいないのかも知れない。

 

屈強なステルクでも、それでは疲れ切ってしまうだろう。

 

少し考えた後、ネクタルを少しパイに薄めて混ぜる。

 

これで少しは体も回復するはずだ。

 

ステルクは無言で茶とパイを口にして。そして、スクロールを広げて、見せてくれた。

 

「……これが、今回の課題だ」

 

「ええと、これは」

 

今までの提出課題の改良。

 

どれを改良するかは問わない。その代わり、全般的に性能を上げること。複数の課題の性能を上げるほど、評価をする。

 

そう書かれていた。

 

「ええと、今まで時々納品していた、改良型の発破や栄養剤みたいなものを、もっと納入しろ、ということですか?」

 

「そうなるな」

 

これは、思った以上に大変かも知れない。

 

ただし、ある意味好機でもある。

 

課題に取り組みはじめた頃と今では、ロロナの知識も技術も段違いに上がっている。最初の頃に納品した課題を改良すれば、大きな効果が見込める。

 

「わかりました。 すぐに課題に取りかかります。 でも、ステルクさんは、すぐに休んでください」

 

「そんなに疲れているように見えるか」

 

「はい。 今は、眠ってください」

 

「そうさせてもらおう」

 

覇気の無い様子で言うと、ステルクはアトリエを出て行った。

 

そして、ロロナにはわかっていた。

 

ホムは不思議そうに小首をかしげる。

 

「あの方は、それほど致命的に疲弊しているようには見えませんでしたが」

 

「ううん、体じゃ無くて、心の問題なんだよ」

 

「心、ですか」

 

「きっと、酷い仕事だったんだと思う。 ステルクさん、可哀想。 騎士の良い部分に誇りを持ってるから、きっと耐えられないんだね」

 

そもそもが、酷いダーティワークが確定の仕事だったのだ。それは、いろいろな情報からも明らかだった。

 

どれほど、ステルクは傷ついたのだろう。

 

ロロナは頭を振ると、作業に取りかかる。

 

今は、自分に出来る事をしなければならない。このまま、世界はどんどん悪くなっていくのかも知れないのだから、余計にだ。

 

まず、改良できそうなものをリストアップしていく。

 

作業を一通り終えた頃。クーデリアが来た。

 

この間の戦いで痛めた手は、もう完治しているようだ。彼女はロロナの様子を見ると、何かあったのと聞きながら、席に着く。

 

ロロナが出している資料にさっと目を通すと、聞いてくる。

 

「ひょっとして、課題の改良が課題?」

 

「うん、そうだよー」

 

「それならば、今までよりは楽そうね。 ノウハウがあるんだから」

 

そうクーデリアに言って貰えると嬉しい。

 

二人で手分けして、資料を整理していく。まず最初にロロナが目をつけたのは、鉱山用の発破。

 

それに、栄養剤。

 

更に耐久糧食だ。

 

これらは改良の余地がまだまだある。発破は以前とは爆薬の知識がまるで違っているし、栄養剤についても、時々悪魔とあった時に、色々話を聞かせて貰っている。

 

また耐久糧食も同じだ。

 

パイ作成の技術は、以前とは比べものにならない。ネクタルについても、更に純度が高いものを生成できる。

 

ただ、難しいものもある。

 

今でも定期的に納入している湧水の杯が典型だ。

 

これなどは、毎度頭を捻って改良を試みているのだけれど、どうしても上手く行かない。出てくる水は、どうしても美味しくないのだ。

 

水が出るだけありがたいという村々にとっては、贅沢は言えない。

 

だけれども。出来れば、美味しい水を出したいというのが人情だ。幸いにも、アーランド領内の小さな村々には、一応の必要数が出回ったという。これからは予備や不足の分、それに他の国々で困っている村に分ける量を作っていかなければならないだろう。

 

此方でやるとすれば、小型化。

 

それに軽量化か。

 

幻覚発生装置も作った。任意の幻覚を見られるようにする道具。作るのが、本当に大変だった。

 

アレに関しては、設計上の改良は必要ないだろう。

 

今でも時々言われて作っているけれど。

 

これ以上性能を上げなくても良い筈だ。そもそも来賓などを楽しませるつもりで作ったものなのである。あまりたくさん必要だとは思えない。もしやるとすれば、薬の量産化を簡単にするくらいだ。

 

順番に絞っていくと、幾つか改良できるものがリストアップできた。

 

全てを改良しきれれば、課題はクリアとみて良いだろう。クーデリアが一通りのものに目を通すと頷いた。

 

「これなら現実的に行けそうね」

 

「うん。 くーちゃんも手伝ってくれる?」

 

「任せておきなさい。 それより、も」

 

クーデリアが、咳払いする。

 

そして、周囲を見回した。ホムしかいない。だが、今のクーデリアなら、もっと広い範囲の気配を探れるはずだ。

 

しばしして、クーデリアは話し始める。

 

「一つ聞かせてくれる、ロロナ」

 

「うん。 なーに?」

 

「このばかげた三年間の課題をこなし終えて、あんたはどうするつもり?」

 

「王様がね、課題が終わったらポストを約束してくれるって言ったの。 それなら、今までより、状況を改善出来るかなって」

 

それに、ロロナは、人を救えるこの仕事が、好きになり始めている。

 

勿論錬金術は恐ろしい力をも生み出す。

 

かっての人類が、世界を滅ぼしたように。そして、スピア連邦の錬金術師達が、今同じように、世界に牙を剥いているように。

 

しかし、苦しんでいる人々を救える力を生み出せるのもまた、錬金術なのだ。

 

相応のポストにつけば、更に作業をやりやすくなる。

 

国政に対する発言権が加われば、もっともっと動きやすくなるだろう。

 

貧しい地域に植林して。悪魔達と協力して、緑化作業を進めていく。乾燥地域には優先して湧水の杯を配備していく。

 

各地の遺跡も、開発を進めていける。

 

かっての遺産を盗掘屋の好き勝手にさせず、しっかり管理して、世界のために役立てていく。

 

ポストを得れば、出来る事も増えるのだ。

 

勿論、煩わしいことも増えるだろう。しかし、クーデリアが側にいるのなら、きっとやり遂げることも出来る筈。

 

「なるほど、あんたも計算が出来るようになってきたのね」

 

「いつまでも子供じゃいられないよ」

 

「いずれにしても、しっかりしたビジョンがあるなら、あたしも協力しやすいわ。 ジオ王は恐ろしい所のある人だけれど、約束を破るような事はしない」

 

そう太鼓判を押してくれると、心強い。

 

後は、作業をしっかりこなしていくだけだった。

 

スピア連邦がとても怖いのは事実だ。きっと今後何十年も、いろいろな形で、戦いは続いていくのだろう。

 

しかし世界で何が起きたかわかった今。ロロナは引くわけにはいかないのだ。

 

スケジュールを立て直すと、順番に作業を始める。

 

まずは、必要な素材を補充するところからはじめるのが、一番良いだろう。ロロナはさっそく、素材採集のために、護衛をしてくれる人達に、声を掛けて廻ることにした。

 

 

 

ステルクが、素材採集に同行してくれたのは意外だった。

 

せっかく同行してくれたのだから、しっかり採集をしていきたい。そう思ったロロナは、まずネーベル湖畔から足を運ぶ。

 

悪魔達が作った湖底へのチューブは、今は封鎖されている。悪魔達ならまた封鎖を解けるのだけれど、今は行く必要も無い。

 

確かに珍しい素材も手に入れられるけれど。

 

彼処は、悪人達に触れるようにしていてはいけない場所なのだ。

 

昔は片端から採集していた素材も、今では善し悪しがかなりわかるようになってきている。

 

丁寧に見極めながら、素材を集めていき。夕刻には、充分な素材を集めきることが出来た。

 

戦闘は、発生しない。

 

いつもより更に険な雰囲気のステルクがしっかり周囲を見張っていたという事もあるけれど。

 

今はロロナもクーデリアも、以前とは比べものにならないほど力を付けている。モンスターの方が、此方を避けてくれていた。

 

そのまま東へ向かい、黒き大樹の森へ。

 

中に入ると、以前とは意味がわからないほどに地形が変わっていた。話には聞いていたけれど、本当に全くと言って良いほど地形が変わってしまうのだとわかって、驚かされる。

 

何しろ此処は、森が同じ木の中にあると言って良いほどの、不可思議な場所なのだ。無理もない事である。

 

珍しい素材が山ほど取れるけれど。

 

此処でも、敢えて良いものだけを選んで採る。今では、手当たり次第としなくても、充分に見極めがつくからだ。

 

散々調合した。

 

試行錯誤を繰り返してきた。

 

だから、ものを見る目もついてきた。

 

それだけのこと。

 

南下して、今度はカタコンベに向かう事を告げると、ステルクは咳払いした。

 

「随分彼方此方を廻るのだな」

 

「途中にある村で一泊します。 果樹園がある村ですから、幾つかの果実も購入していく予定です」

 

「うむ……以前とは比べものにならないほどしっかりしてきているようだな」

 

そう言ってくれると嬉しい。

 

ただ、ステルクの目には懸念があるのがわかった。ひょっとすると、スピアに関連する事かも知れない。

 

今の時点では、不自然な大規模戦力による襲撃は受けていない。

 

何度か、まだ若いモンスターによる襲撃はあった。小競り合い程度の規模で、いずれもそう撃退は難しくなかった。

 

ステルクもクーデリアも、それでも不自然すぎるくらいに、周囲を警戒している。何かあっても、おかしくないという事なのだろう。

 

予定通りに、南下を開始。

 

今の時点では、異変は起きていない。

 

だが。

 

泊まる予定の村が見え始めてきた頃に。ステルクとクーデリアの懸念は、現実のものとなった。

 

あまりにも自然にそれが姿を見せたので、ロロナも反応が一瞬遅れたほどである。

 

成体のベヒモス。

 

それも、かなり大柄だ。

 

この街道の近辺は森もまばらで、かといって大規模な荒野も無く、あまり多くのモンスターはいないはず。こんな大物が出てきたら、流石に周辺で騒ぎになる筈なのだけれど。

 

少なくとも、南にある村は、気付いていない様子だ。

 

姿を見せたのは、ベヒモスだけでは無い。

 

大柄なドナーンが、十頭以上いる。

 

しかもどれもが、ロロナ達に殺気を向けてきている。頭には、よく分からない機械が据え付けられているようだ。

 

「なりふりを構わなくなってきたな」

 

ステルクが、怒りを声に含めていた。

 

まず間違いなく、スピア連邦によるものだろう。

 

囲まれてしまうと、まずい。

 

南に見えている村に逃げ込んで、其処で防戦するしか無い。

 

荷車から取り出したのはメテオールである。これを閃光弾代わりに用いる。それで、村でも気付くだろう。

 

メテオールに点火して、放り投げる。

 

同時に、ベヒモスが凄まじい雄叫びを上げた。攻撃開始の合図であることは、間違いが無かった。

 

どっと、巨大なモンスターの群れが、躍りかかってくる。

 

先頭のドナーンの鼻面に、クーデリアが火焔弾を連射。炎に顔を包まれたドナーンが、悲鳴を上げながら態勢を崩す。

 

わずかに鈍る進撃速度の間を縫い。

 

一気に走る。

 

村の方でも、気付いたらしい。門を開いて、早く来るようにと戦士が叫んでいるのが見えた。

 

魔術師達が、連続して攻撃魔術を放っている。

 

ドナーンの群れが、連続して火球を放つ。火力の応酬が続く中、飛び出したのはベヒモスだ。

 

村から飛んでくる魔術をものともせず、豪腕をふるって、追いすがってきた。

 

ステルクが即応。

 

巨大な光の柱が、ベヒモスの身を包み込んだ。

 

それが雷だと気付くのと、轟音が爆裂するのは同時。思わず耳を塞いでしまう。今までそうだとは感じていたけれど。

 

やはりステルクは、相当に戦闘で手加減していたのだ。ロロナの成長を促すのが、目的だったのだろうか。

 

前のめりに倒れるベヒモス。

 

目もくれず、ひたすら走るようにステルクが叫ぶ。

 

村から飛来する魔術が、ドナーン達の足を鈍らせる。これなら、逃げ込めるか。

 

しかし、その考えが甘いことを、すぐに悟らされた。

 

真っ黒い雷が、至近に連続して着弾したのだ。

 

爆裂した地面が、石つぶてを飛ばしてくる。ロロナは必死に蛇行しながら逃げるけれど、それは当然、逃走速度を落とすことにつながる。

 

この雷は、何だろう。

 

勿論ステルクでは無い。見ると、上空に、何かいる。

 

悪魔、だろうか。

 

頭に何か機械を付けられている。

 

なんと言うことを。悪魔は、悲しい路を選んだ人々の事なのに。おそらくスピアの錬金術師は、それを知っているのに。

 

本当に、これが人間のすることなのか。

 

錬金術の闇。

 

間違った力の使い方。ロロナは、唇を噛む。こんな事は、絶対に許してはいけない。錬金術を扱う資格が無い人は、確かに存在する。それを、思い知らされる。どうしてこんな事をする人が、錬金術を扱ってしまっているのか。

 

力は、使い方によって救いの手にも破壊の魔にもなる。

 

そんな事は、ロロナにもわかっている位なのに。

 

ステルクが、悪魔に雷撃を叩き付けようとするけれど。

 

しかし、立ち上がったベヒモスが、うなりを上げて突進。豪腕の一撃を、ステルクが剣を振るって迎撃する。更に其処へ、ドナーンの群れが殺到。村からの援護射撃を受けながらも、ステルクは多対一で苦しい戦いを強いられている。

 

更に、だ。

 

上空から降りてきた悪魔だけでは無い。

 

いきなりその場に姿を現した悪魔が数体。いずれも、ロロナを狙っている。空間転移を利用して、遠くから飛んできたのだろう。

 

最初から、ステルクを引きはがすための駒として、ベヒモスとドナーン達を使ったのか。村からの援護射撃も、こうなると分散せざるを得ない。

 

「やるしかないわ」

 

クーデリアに、決断を促される。

 

わかっている。

 

もう、あの悪魔達は助からない。モンスター達も。

 

許せない。

 

完全に、スピアの錬金術師達は、越えてはいけない一線を踏み抜いた。神様がこの世にいなくて、罰を下さないのなら。

 

誰かが、対処しなければ、ならないだろう。

 

前の課題が終わってから、今回の課題が始まるまで、時間はあった。だから、今までにないほどに、準備はしている。

 

悪魔は四体。

 

クーデリアに二体任せるとして、瞬時に一体を葬れば、戦況は此方に傾く。

 

荷車から取り出したのは。大型のフラム。

 

怖れずに近寄ってくる、大柄な悪魔、

 

無造作に着火して、放り投げる。悪魔は爆発に巻き込まれても、平然としていた。

 

煙を斬り破って、悪魔が姿を見せる。

 

だが。

 

その時。

 

悪魔の首から上は、綺麗に消し飛んでいた。前のめりに倒れる悪魔。他の洗脳された悪魔達が、周囲を見回す。既にその場にロロナはいない。

 

ロロナが、実戦投入した、加速のための道具。神速自在帯。

 

幾つものアーランド石晶をちりばめ、膨大な魔力を蓄える事によって、加速の魔術を最大限にまで掛ける。

 

詠唱の加速。

 

移動の加速。

 

何度もは使えないが、今のように一瞬で詠唱を完了させて、大威力の砲撃を叩き込む事も可能なのだ。

 

ただし、負担も尋常では無い。

 

今の一瞬で、ロロナは全身の魔力を、吸い尽くされるような感覚を味わっていた。それだけではない。

 

加速を開始した瞬間、粘つくような空気の中、呼吸さえ困難になった。体中が重くて、相当に無理をしないと、動く事さえ出来なかった。

 

強烈な副次効果があることは、試験運用段階でわかっていたのだけれど。

 

実戦で試してみると、その負担が想像以上であることがわかって、ロロナは呼吸を整えながら、まだ改良しなければならないと思い知らされていた。

 

ともかく、加速した時間の中で高速詠唱して、術式発動。敵が煙幕で此方を見失っている内に、頭に叩き込んで。

 

なおかつ砲撃直後に移動開始。

 

敵の頭が消し飛ぶと同時に、後ろに回り込むことには成功していた。

 

敵は此方を見失っている。

 

そして、後ろに回り込んでいたロロナが、第二射を準備。神速自在帯を起動。

 

同じように時間加速を開始。

 

二回目の加速は、更に負担が大きかった。

 

一歩進むだけで、空気が鉛のように纏わり付いてくる。加速中の詠唱をしている際にも、口の中を切ったのか、鉄錆のような味がした。

 

これは時間の前借りだと、ロロナは思った。

 

本来動く時間を先取りしているから、摂理にも反している。だから、体への反発も、とんでもなく大きい。

 

それでも、今は。

 

勝たなくてはいけない。

 

この悪魔達は、もう助けられない。

 

一秒でも早く救ってあげなくては、可哀想だ。

 

こんな方法でしか救えないことが、非常に悔しい。

 

詠唱完了。

 

同時に、緩やかに動いていた時間が、一気に戻る。

 

砲撃が、悪魔を貫いていた。

 

胸に大穴を開けた悪魔が、血反吐を吐きながら倒れ込む。クーデリアも、この間見せた超加速連射を駆使して、一体を瞬時に屠り去っていた。

 

三体の悪魔が、戦闘不能になって転がっている。

 

ロロナの消耗も大きいが、敵の損失はそれ以上に大きい。

 

残るは、一体。

 

加速はもう出来ない。

 

試作品だから、二回の使用が限度か。煙を上げている神速自在帯を外すと、投げ捨てる。後で拾って、改良するのだけれど。今は、少しでも体を軽くしたい。

 

唸り声を上げながら、形勢逆転したロロナとクーデリアを、交互に見る悪魔。

 

ロロナは詠唱しながら、ゆっくり後ろに回り込む。

 

体の負担は大きいけれど。まだ一度や二度の砲撃なら可能だ。伊達に修羅場を何度も何度もくぐっていない。

 

クーデリアは、この間渡しておいた、回復を加速する魔術を込めた道具、ブレイブマスクを背中にくくりつけている。これならば、連続してあの超加速射撃を使えなくても、一撃で戦闘離脱という事態を避けられる。

 

これも、課題が終わってから、作り上げた道具の一つだ。

 

クーデリアの手を見る限り、既に射撃は可能な状態にまで回復していた。何度も瞬間回復は出来ないが、そんなものはここぞと言うときにだけ使えるだけでも、随分違うのである。

 

悪魔が雄叫びを上げる。

 

そして、飛び去った。

 

ベヒモス達も、それを合図にしてか、散り散りに逃げはじめる。ステルクが追撃の雷撃を浴びせたが、ドナーンが盾になって、ベヒモスを庇う。

 

結局、数体のドナーンは葬ったが。ベヒモスは取り逃がしたようだった。

 

どうにか、勝つことができたか。

 

魔力の消耗が激しい。

 

それに、あの襲撃、もしも此方をピンポイントで狙っているとすると。カタコンベに行くのは、諦めた方が良いかもしれない。

 

ステルクが来る。

 

少しだけ、彼は驚いていたようだった。

 

「三体の改造悪魔を、二人だけで屠ったのか」

 

「力も使い果たしましたけど」

 

苦笑いするロロナの肩を叩くと、ステルクはよくやったと褒めてくれた。

 

そのまま、村へ入る。

 

村では、厳重警戒を開始していた。まさかあのようなモンスターが多数周辺に現れるとは、驚きの事態と言う事なのだろう。すぐにアーランドに、伝令が出る。ステルクが状況を説明するべく、長老の所に向かう。

 

ロロナは拾ってきた神速自在帯を確認。

 

アーランド石晶はひび割れたりはしていないけれど。

 

蓄えていた魔力はすっからかん。

 

更に、エンチャントの呪文を書き込んでいるゼッテルは、焦げてしまっていた。

 

この辺りは、作り直さないと行けないだろう。

 

更に、体への負担も尋常では無い。

 

戦いが終わってから、一気にフィードバックが来た。

 

その場に倒れそうになるが、クーデリアが支えてくれた。

 

「もう少し、人数を誘った方が良かったわね」

 

「うん……」

 

宿へと移動。

 

小さな村だが、旅人用の寂れた宿はあった。中で休ませてもらう。足ががくがくだ。耐久糧食を食べて、横になる。

 

じっとしていると、痛みがじわじわと来た。

 

これは、安易に神速自在帯は使えない。改良と同時に、幾つかの点を見直さないといけないだろう。

 

破壊力はもの凄い。

 

ただし、使い所を間違えると、自爆しかねない、恐ろしい道具だと思った。

 

寝台に座ったクーデリアに聞いてみる。

 

「ブレイブマスクの調子はどう?」

 

「傷は一瞬で治るけれど、その分体力を前借りされる感じね。 一気に疲労が来たわ」

 

「大丈夫?」

 

「鍛え方が違うから平気よ。 ただ、改良はして欲しいわね」

 

クーデリアも、言い終えると、もぐもぐと耐久糧食を噛み始めた。

 

しばらく無言で、耐久糧食を口にする。部屋にステルクが入ってきたのは、クーデリアが疲労からか、うつらうつらとし始めた頃だった。

 

「大丈夫、ではなさそうだな」

 

「試作品を実戦投入したんですけれど、負担が大きくて」

 

「あの破壊力では無理もないだろうな。 あの改造悪魔は、さほどは強くない方ではあったが、それでも二体を瞬時に倒すとは」

 

「ステルクさんだって、あの数の敵を一人で相手にしていて、凄いですね」

 

もちろんこれはかまを掛けてみるための発言だが。

 

ステルクは、乗ってこなかった。

 

少し休んでいるようにと言い残すと、部屋を出て行く。クーデリアが限界らしく、横になると言った。

 

ロロナは、体中が痛くて、眠るどころでは無い。

 

クーデリアの隣で横になったまま、ぼんやりと天井を見つめた。

 

 

 

結局からだが動くようになってから、翌日はアトリエに直帰することとなった。カタコンベに寄る予定もあったのだけれど、切り上げである。ただ、それに関しては、ステルクに同意した。

 

まだ、体が痛い。

 

ステルクは殆ど戦いのダメージがないようだけれど。

 

あのように、分断する戦い方を、敵は平然と行ってくる。それだけ組織戦になれている、ということだ。

 

当然、ステルクはそれでも最善を尽くしてくれるだろうけれど。ロロナやクーデリアが、身を守れるかわからない。

 

である以上、可能な限り急いできりあげるのは、当然だ。

 

途中、此方に来るエスティとすれ違った。巡回の部隊を三つも引き連れている。戦いがあった辺りを調べて、敵の侵入経路を調査するのだろう。昨日、村から出て行った伝令が呼んできたのは間違いない。

 

通り過ぎる時に会釈。

 

相手も、にっこりほほえんで、歩いて行った。

 

エスティ自身がいる上に、三つも手練れの部隊がいるのだ。生半可な敵に遅れを取るはずも無い。何も心配はいらないだろう。

 

アトリエには、昼過ぎに到着。ステルクはちょっとだけ片付けを手伝ってくれたけれど、後はお茶も受けずに、すぐに帰って行った。疲れ切っているロロナを見て、むしろ気を遣ってくれたのかも知れない。

 

無言でコンテナへ素材を格納。その後はソファにクーデリアと一緒に並んで座って、ぼんやりとした。

 

疲れがそれだけ一気に出たのだ。

 

強力な道具だったけれど、副作用が凶悪すぎる。改良を進めながら、使い所を見極めるように、練習もしていかなければならない。

 

ただ、それだけ圧倒的に強力だったことも事実だ。

 

高名な魔術師達が使っていた道具も参考に、幾つかの試作品もまだ作っている。それらも実戦投入していきたいけれど、まだまだ改良が必須だ。

 

リオネラが来た。

 

二人ともぐったりしているので、驚いたようだった。

 

「ホムちゃん、二人はどうしたの?」

 

「試作品の道具を使ったところ、体力を使い果たしてしまったようです」

 

「それなら、甘いものを食べれば少しは良くなるかな。 ちょっと待っててね。 お茶を淹れるから」

 

エプロンを手慣れた動作で身につけると、リオネラが作業を始める。

 

初々しくて、何だか新妻のようだ。

 

あれだけ禍々しい過去と、それによって傷ついた心が痛々しかったのに。今のリオネラは、心の傷を克服しつつある。

 

お茶を淹れてくれたので、三人で少し談笑する事にする。

 

カタコンベには行けなかったけれど、素材そのものは相応に集まったのだ。ただ、改良作業を進めていくとなると、少し足りないかも知れない。

 

今度はステルクに加えてリオネラにも来てもらって、カタコンベと、出来ればシュテル高地に足を運んでおきたい。

 

改良計画については、その後だ。

 

幸い今回は、そこそこに時間が余りそうではある。

 

茶菓子に、甘いお菓子を、リオネラが出してくれる。

 

魔術の修行の傍らに、こういう「女の子らしいスキル」を磨いているのだという。師匠の一人が、魔術の修行だけでは駄目だと言って、教えてくれるのだとか。リオネラ自身も、覚えるのは吝かではないようで、スキルがぐんぐんあがっているのが、よく分かる。

 

「それで、どんな道具を使ったら、そんなに疲れたの?」

 

「うん、一つはこれ。 神速自在帯。 エンチャントで超加速するの。 これがしっかり使えるようになったら、わたしに対するガードが必要なくなるから、りおちゃんもアタッカーとして働けるかなって」

 

「なるほど……」

 

「それで此方がブレイブマスク。 ちょっとかっこわるいけど、体力を急激に回復するエンチャントが掛けてあるから、一度や二度負傷しても、すぐに立ち直れるの」

 

問題は、どちらも副作用が凄まじいことだが。

 

リオネラが、見せてと言ってきたので、渡す。

 

神速自在帯は、大仰な名前ではあるけれど、実質的にはただの帯と見かけが変わらない。ブレイブマスクは木製の仮面で、紅く塗ってある。これはかってアーランド人が蛮族と呼ばれるほど凶猛だった時代、一族の勇者が身につけていたという仮面を参考にした。見かけが微妙だけれど、調べて見ると、宝石を埋め込んで魔術の力を引き出すには、最適な形状だったのだ。

 

怪我が絶えないクーデリアには、丁度良い道具の筈である。

 

この強烈すぎる副作用を克服できれば。

 

他にも、幾つか作ってある。

 

いずれも、前回の課題終了後、余った時間を利用して、王宮の図書館で調べ上げて作ったものだ。

 

高位の魔術師や、国を代表する勇者達が身につけて使った国宝の数々。

 

宝石を量産できるようになった今、研究する事が出来るけれど。まだまだエンチャントについては、分からない事も多い。

 

実際問題、ロロナとクーデリアは、これほど消耗してしまっている。連戦になっていたら、どうなっていたことか。

 

「持っていって良い? お師匠様に、意見を聞いてみたいの」

 

「いいけれど、次の採取で出立するまでには返してね」

 

リオネラに、二つの道具と、後幾つかの試作品を渡しておく。

 

甘い物をおなかに入れたからか、少し気分が楽になった。

 

今なら、リオネラは信頼出来る。

 

かって不安定だった力は急激に安定してきているし、何より彼女はロロナの事を、本当に大事に思ってくれているのがわかる。ロロナにとっても、リオネラは大事な存在だ。

 

リオネラも交えて、これからどうするか、話す。

 

ざっとこれからのスケジュールを確認。三日後に、ステルクを誘って、シュテル高地に出る。

 

不安そうに、リオネラがそれを聞くと言う。

 

「大丈夫かな。 今、シュテル高地、危ないみたいなの」

 

「どういうこと?」

 

クーデリアも話を聞きたがる。

 

ロロナ達が、採取に出ている間に、何かあったのか。

 

リオネラは頷くと、教えてくれる。

 

どうやら、スニーシュツルムが、暴れているのだという。

 

それならば、騎士団の出番の筈なのだけれど。まだ騎士団は動いていない、という事か。

 

何かあるのかも知れない。

 

ひょっとしたら、ステルクが、ロロナ達を誘って、討伐の話を持ち込んでくるかも知れない。

 

今までも、手配されているモンスターの討伐に、ロロナは散々かり出されてきた。

 

今回はドラゴンという超大物だが、手配書モンスターである事に変わりは無い。或いは、あり得るかも知れない。

 

しかも、この間のステルクを見る限り、もう彼は本気で戦っている。

 

以前から気になっていたのだけれど。前はロロナの実力にあわせて、戦闘力にリミッターを掛けていた可能性が高い。

 

当然の話で、ステルクはこの国に何人もいない国家軍事力級の使い手だ。最初から本気で戦っていたら、多分ロロナが巻き込まれているよく分からないプロジェクトに支障をきたしていただろう。

 

逆に言うと、ステルクが本気で戦うほどに、状況が悪化しているとも言える。

 

今後は、本当に戦闘で気をつけないと、一瞬で首を持って行かれる可能性も高かった。

 

「りおちゃん、嫌な予感がするの。 お師匠様って人に、出来るだけ急いで、神速自在帯とブレイブマスク、見てもらってくれるかな」

 

「わかった。 すぐに行ってくる」

 

「あたしはあたしで、ちょっと調べ物をしておくわ」

 

クーデリアが席を立つ。

 

まだ疲れが溜まっているのでは無いかと心配したけれど。少なくとも、クーデリアはもう動くのに支障がないようだった。ただ倦怠感は抜けていないようだから、無理は禁物だろう。

 

二人とも行ってしまったので、ロロナはホムと二人きりになる。

 

まずは、コンテナに行って、発破や道具の在庫を確認。

 

ホムの作ってくれた中間素材を見て、調合できるものはしておく。

 

後は、ステルクがいつ来ても大丈夫なように、準備をしておいた方が良いだろう。もしもドラゴン狩りにかり出される場合は。

 

非常に厳しい戦いになる事が、容易に想像できる。

 

今後の事も考えて、準備はしすぎるということがなかった。








今度の課題は総合的な底上げです。

昔のロロナとでは地力が違っています。

故に、さらなる強化ができる、というわけですね。




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