暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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原作だとこいつ、クッソ弱いんですよねえ。

だけれども、本作ではせっかくなので、めっちゃくちゃ強くしてあります。

せっかくですしね!





2、白銀の邪竜

山道に転々と散らばっているのは、襲撃を受けたキャラバンの荷物だろう。

 

酷い。

 

元々スニーシュツルムは、弱い者を率先して狙う、狡猾なドラゴンだったと、行商の人達に聞いてはいた。

 

しかし、これは。文字通りの無差別殺戮だ。

 

死んでいる人も二人や三人では無い。幸い、獣たちが荒らす前に、到着することが出来た。

 

此処はシュテル高地。

 

ロロナは、案の定来たステルクに連れられて、クーデリアとリオネラと一緒に、もはや魔境と化したここを訪れたのだけれど。

 

ステルクが急いで声を掛けに来る筈である。

 

元々此処はスニーシュツルムの縄張りで、危険を承知で行商の人達は売り物を採取しに来る。

 

だが、それもしばらくは中止だろう。

 

今回ステルクと、四つの巡回チームが此処に急行している。ステルクが指揮官という形で、ロロナ達はサポート要員だ。

 

ただ、気になる事がある。

 

ドラゴンと戦う時は、何種類かの武器が必須だ。

 

これは子供でも知っている事だ。ドラゴンなどの桁外れなモンスターと戦う場合は、特殊な戦術を用いて、敵の強みを潰しながら戦うのである。長い間、多くの犠牲を出しながら得た教訓を元に、練られた戦術である。

 

しかし、今回の討伐チームは、それを持ち込んでいないのだ。

 

何かあると、ロロナは思っているけれど。クーデリアにそれを聞いてみる暇も無くて、今はただ、状況の検分をするしかなかった。

 

「一チームは遺骸をキャンプスペースに搬送。 検分後、埋葬」

 

「わかりました」

 

機械的に応えたのは、ロロナよりも背が低い女の子である。

 

間違いなくホムンクルスだ。今回は四チームが来ているが、その中に七人ホムンクルスが混じっている。しかも一チームは、ホムンクルスのみで構成されている。

 

ステルクがホムンクルスのみのチームに遺体の検分を任せたのは、下手な情が入り込まないから、だろう。

 

ホムンクルスのチームが、荷車へ無造作に死体を詰め込んでいく。

 

その中には、食いちぎられたものや、半ば炭化しているものもあって、ロロナは悲しくなった。

 

危険覚悟できているのだから、仕方が無い。

 

しかし、度が過ぎた殺戮はおかしい。

 

しかも、見ると半分程度しか喰らっていない死体も多いのだ。殺戮そのものを目的としているとしか思えない。

 

ドラゴンは、狡猾であっても誇り高い獣の筈なのに。

 

「生存者だ!」

 

叫び声が聞こえた。

 

すぐにそちらに急行。

 

荷車の影に隠れていて、助かったらしい。しかも、知り合いだ。

 

「コオルくん!」

 

思わず声を上げてしまう。

 

そう、生き残ったのは、ロロナのアトリエに時々ものを売りに来る、行商人のコオルだった。

 

荷物の影で、潰れるようにして。コオルは意識を失っていた。

 

逆にそれで助かったらしい。

 

安堵の声が漏れる。

 

悲劇の中、一人でも命が助かったのは、本当に良かった。

 

 

 

毛布を被ったコオルは、しばらく何も喋らなかった。

 

余程に怖かったのだろうか。

 

話が聞けないようなら、尋問はホムンクルス達に任せると、ステルクが決める。流石にドライすぎるのでは無いのかとロロナは思ったけれど。

 

しかし、周囲の有様を考える限り、ステルクの判断は正しい。

 

此処は既に戦場だ。

 

油断すれば、即座に命を奪われる場所だ。

 

他の巡回チームは、周囲の探索に向かう。元々シュテル高地は、ベテランの戦士以上の実力者しか、入る事が許されない場所だ。行商人達は、護衛を付けるか、彼ら独自の抜け道を利用して、危険をかいくぐって商売品を手に入れる。

 

あまり良くない噂によると、この路を通って密輸の類をする事もあるという。

 

だから、此処で死ぬ事は自己責任ではあるのだけれど。

 

其処まで、ロロナは割り切ることが出来なかった。

 

故に、クーデリアとリオネラに周囲の警戒は頼んで、何度もコオルに話しかける。商売相手とは言え、何度も話をした仲だ。

 

コオルはしっかりもので、どちらが年上か分からない事もよくあった。

 

商売のコツなんかを話し始めると、延々と喋るので、本当に困ってしまった時だってあった。

 

それでいて、年相応に幼い表情も見せることがあるので、面白いと思わされもした。

 

行商人という難しい立場でも、たくましく生きている。それが、ロロナの知るコオルだった。

 

だから、何度も話しかける。

 

しばらくして、反応があった。

 

やっと、ロロナだと認識できたらしい。ぼんやりしているコオルの目に、少しずつ光が戻ってくる。

 

泣き出すかも知れない。

 

そう思ったけれど。コオルは、泣かなかった。

 

商売柄、怖い目にもあいなれているし、仲間の死もよく見るから、だろうか。

 

コオルが、話し始める。

 

「少し前に、シュテル高地で、宝石の鉱脈が露出したんだ。 アーランドでは、滅多に無いほどの規模の鉱脈だった」

 

もはやここに入ることは出来ないから、だろう。コオルは、一度話し始めると、後はぺらぺらと喋る。

 

言うまでも無く、宝石は今でも貴重品だ。

 

ロロナがアーランド石晶の作成技術を作り上げたとは言え、まだまだ大量生産、民間への普及にまでは到っていない。

 

それに対して、宝石の原石が、掘り出せるとなったら。

 

多数の人間が、求めるのは当然のこと。

 

行商をしている一族にとっては、文字通りのかき入れ時、だったのだろう。

 

「だが、変な噂もあった。 鉱脈の辺りで、スニーシュツルムに襲われる奴が、絶えないって」

 

「えっ……。 まさかとは思うけど」

 

「そのまさかじゃねーのかな。 あのクソドラゴン、宝石の鉱脈に人間が寄って来るって知ってて、釣りをしてやがったんだ」

 

それは。

 

ドラゴンが、人間をたくさん殺すために罠を仕掛けるなんて話、聞いたことも無い。

 

しかもこれは、人間の特性を理解していないと、張ることが出来ない罠だ。一体どういうことなのだろう。

 

「気をつけろ、あのドラゴン、仲間をろくに喰いもしなかった。 ただ殺すためだけに、火を吐いて、爪をふるって。 俺は、じっちゃんに庇われて、荷車の下に押し込まれて、助かった……んだな。 ハハ、一人になっちまった」

 

ようやく、涙を一筋流すコオル。

 

抱きしめて、背中をさする。ロロナは、頑張ったねと、小さな行商人に声を掛ける。

 

しばらく無言。

 

やがて、落ち着いたコオルを、巡回チームの一つに任せる。

 

後は、ドラゴン退治だ。

 

敵討ちなどという事をいうつもりは無い。この有様、やり口は卑劣の極み。でも、ここに来ている行商人達は、命の危険を覚悟した上で、商売品を集めているからだ。

 

しかし、ドラゴン、スニーシュツルムは倒さなければならない。明らかに、獣の域を逸脱してしまっている。人に対して明確な害を為す存在と化しているからだ。

 

それに。

 

ステルクを一瞬だけ見る。

 

何を知っているのだろう。何か、スニーシュツルムに対して、情報を持っているとしか思えない。

 

そうでなければ、ドラゴンに対する戦術を駆使するのでは無く。戦力にものを言わせて、潰そうとはしないはずだ。

 

わからない。

 

だが、ステルクは、きっと教えてくれる。

 

信頼は、疑惑を越える。

 

ロロナは頷くと、戦いの場へ赴くべく、心身を整え直した。

 

 

 

巡回部隊の一つが、スニーシュツルムを見つけた。

 

宝石の鉱脈があると、コオルが証言していた場所の近くだ。巡回班と探索を続けていたロロナも、ステルクと一緒に、急行する。

 

既にクーデリアとリオネラは、その近くで待機していた。

 

幾つかのチームが、周囲に別れて点在している。スニーシュツルムは、翼を畳んで、山陰に隠れるようにして、休んでいるようだった。

 

噂に聞いてはいたけれど。

 

美しい白銀の鱗を持つ竜だ。

 

ついこの間、失われた民の都で交戦した機械の竜も白い体をしていた。しかしスニーシュツルムは、白と言うよりも銀の要素が強い。

 

どうして、あのように美しく高貴な竜が、殺戮の権化となってしまったのだろう。

 

何だか嫌な予感がする。

 

巡回班三つが、周囲に展開。

 

ステルクは剣を抜くと、ロロナに声を掛けてきた。

 

「私と君、クーデリア君とリオネラくん。 この4名だけで、仕掛ける」

 

「えっ!?」

 

「他の戦士は、逃走を防ぐための防壁として活動してもらう。 それに……」

 

ステルクが、クーデリアとリオネラを手招き。

 

そして、声を落とした。

 

「此処だけの話だ。 他言無用に願う」

 

「はい。 やはりあのドラゴンには、何かあるんですね」

 

「流石に気付いたか」

 

「そりゃあそうよ。 ドラゴン専用の装備も持ってきていないし、何よりこの大げさすぎる人数だもの。 あたしは当然、ロロナだって気付くわよ」

 

肩をすくめるクーデリア。

 

当然のことだが、彼女も気付いていたようだ。

 

咳払いすると、ステルクは言う。

 

「少し前に、スピア連邦で私は、あのドラゴンと交戦した。 あのドラゴン、スニーシュツルムは、スピアに巣くう邪悪な錬金術師達の走狗と化していた」

 

「……っ!」

 

「そうだ。 奴らはついに、ドラゴンさえ自由にする力を得てしまったのだ。 もはや奴らを掣肘するものは存在しない。 見つけ次第殺さなければ、何をしでかすかわからないほどの危険な相手になり果ててしまっている」

 

その時は殆ど戦わなかったが、訳が分からない特殊能力を、山のように追加されている可能性が高いと、ステルクは言う。

 

それだけではない。

 

辺りをもう一度見回してから、ステルクは更に付け加えた。

 

「何故このタイミングで、スニーシュツルムが、よりによってこの山に現れたかが気になるのだ」

 

「確かに、スピア連邦に拉致されていたのでしたら、おかしいですね」

 

「とにかく、この戦いでは何が起きるかわからない。 私が最悪の場合、体を張ってでも君達を守るが。 自分の身は自分で守る工夫はして欲しい」

 

ステルクの話によると、また多くの凶悪なモンスターが彼方此方に現れていて、他の国家軍事力級戦士は、手が足りないのだという。

 

なるほど、ロロナ達がかり出されるわけだ。

 

腰に付けている神速自在帯。

 

短時間での改良は、やはり出来なかった。

 

リオネラの師匠の話によると、これに掛かっているエンチャントは、強力すぎるのだという。

 

ロロナが掛けた魔術が、強力すぎる魔力に依存しているというのが、原因だそうだ。ロロナの魔力は、リオネラほどでは無いにしても、相当に強いのだとか。そういえば、以前母に言われた。

 

もう魔力だけなら、母より上かも知れないと。

 

ただ、元の才覚によるものではないだろう。アストリッドに聞いたとおり、ロロナはクーデリア共々体を色々いじくられて、人間でさえないような状態になっている。魔力が強いというのは、不思議でも無いのだろう。

 

いずれにしても、今の時点では、自分へのフィードバックダメージを緩和する手段が無い。今後は改善をして行くにしても、今はこの、副作用が強烈すぎる道具を、切り札として活用するしか無いのだ。

 

リオネラにも、同じように試作品を渡している。

 

危険だと言ったのだけど。彼女はどうしても使いたいと言うのだ。

 

渡した試作品は、全身の身体能力を上げる指輪。グナーデリングという。

 

これもロロナが、英雄達が使っていた魔術の道具を参考に、作り上げたものである。宝石を複数あしらった指輪で、強力な身体強化のエンチャントを仕込んである。

 

ただこの指輪は、いわゆるアクティブスペル。

 

通常時から、肉体能力が強化される魔術が掛かっている。

 

勿論これは補助なので、本人の魔力はあまり関係が無い。元々リオネラは身体能力があまり高くなかったので、これは相性が良い道具の筈だ。

 

問題は副作用。

 

これに関しては、もうフィードバックが少なくなるように、祈るしか無い。リオネラは何があっても恨まないと言ってくれたけれど。ロロナの作った道具のせいで半身不随にでもなられたら、立ち直れない。

 

作戦を、ざっと決める。

 

ステルクが総力での雷撃を、まず叩き込む。

 

ロロナは相手の動きを止めることに専念。

 

地上に降ろしてから、総攻撃。

 

以上が、大まかな作戦だ。

 

細かい戦術については、幾つか打ち合わせをしておく。問題は、ドラゴンが斜面にいることだ。

 

隠れるに丁度良い上、此方からの接近が丸見えになる。

 

錬金術師に改造されているという話だけれど。しかし、それでも知能は落ちていないと、判断するべきだろう。

 

ステルクに、聞いてみる。

 

「全力での雷撃の射程範囲は」

 

「奴の視界の外から行ける。 問題は、それがどれだけの有効打になるか、だが」

 

荷車の中を見る。

 

翼さえへし折れば、ドラゴンの戦闘力は半減させることが出来る。問題は、奴がこの間戦った湖底の機械竜ほどの戦闘力を有していた場合。

 

今回は、ドラゴン戦と言う事もあって、持てるだけの道具は持ってきている。

 

勝てるとは、信じたいけれど。

 

最悪の事態には、備えておきたい。

 

打ち合わせを幾つかした後、動く。

 

相手は今までで最大級の相手だ。どれほど備えても、良いはず。

 

ステルクが、死角を上手に突きながら、ドラゴンとの距離を詰めていく。

 

交戦可能距離まで、あと少し。他のチームも、遠距離攻撃を準備して、ドラゴンの逃走に備えていた。

 

息を呑む。

 

どうしても、こういうときは緊張する。

 

ステルクほどの使い手だ。ドラゴンに、逆に隙を突かれても、簡単には倒されないはず。

 

しかし、それでも相手は最大級のモンスターだ。どうしても、平常心を保つのが難しい。

 

ついに、所定位置に、ステルクが到着。

 

攻撃開始の準備を待つ。

 

荷車に手を入れて、メテオールを取り出した。さて、ステルクの雷撃が、どれだけ通用するか、だけれど。

 

今、ドラゴンは斜面にいて、丸まっている。

 

ステルクはその死角、斜め後ろの岩の影。

 

ロロナ達は、ドラゴンが落ちてきたら、丁度攻撃範囲に入る所で、伏せている。リオネラはロロナの側に。クーデリアは遊撃と言う事もあって、ロロナから少し離れた所に。

 

緊張の一瞬。

 

それが、崩壊する。

 

いきなり、あらぬ角度から、閃光が瞬いたのである。

 

ステルクが隠れていた辺りが、爆音とともに吹き飛ばされる。

 

陽光を遮り、姿を見せるあり得ない影。

 

天高く雄叫びを上げるそれは。

 

間違いなく、スニーシュツルムだった。そして、今まで眠っていたスニーシュツルムも。遊びはこれまでだとばかりに、鎌首をもたげる。

 

ドラゴンが、二匹。

 

全身を、戦慄と絶望が、駆け抜けていた。

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