暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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襲い来るスニーシュツルム、同時二体!

ただでさえ凶悪なドラゴンが二体同時に迫る危機を、どう乗り越えるか……!





3、双竜の暴虐

凄まじい雄叫びが、山を蹂躙する。

 

ステルクが無事かどうか、全く見当がつかない。だが、クーデリアが声を張り上げたことで、ロロナは心を立て直す。

 

「一匹はあたし達で引き受けるわよ! 後詰めに信号弾! 手練れの巡回チームが三つあれば、ドラゴンくらいどうにかなるわ!」

 

「うん、わかった!」

 

こうなったら、総力戦だ。

 

取り出し掛けていたメテオールを、投げつける。翼を広げて飛び立とうとしていた、スニーシュツルムAが、機先を制した爆撃に叩き付けられて、怒りの雄叫びを上げる。空にいる方が、此方を見る。

 

しかし、今の信号弾で攻撃開始を知った後続部隊が、連続して長距離魔術を叩き付ける。空にいたBが、鬱陶しそうに、其方へと向き直った。

 

ドラゴンは縄張り意識が強い生き物で、幼体のときでも無ければ、同箇所に二匹もいるなんて事はまずあり得ない。

 

子供でも知っている事だから、成体のドラゴンが二匹もいて、しかも連携して動いているという異常事態に、頭がくらくらする。

 

ある筈も無い光景。だが、現実。受け入れなければ、まず戦う事さえ出来ない。

 

クーデリアが、仕掛けた。

 

火焔弾を乱射しながら、斜面を駆け上がり、スニーシュツルムに牽制。ロロナも詠唱。まだ神速自在帯を使うのは、早い。クーデリアの火焔弾が、ドラゴンの鱗に弾かれているのが見えるが、焦らない。クーデリアはまだまだ本気ではないし、ドラゴンが強い抗魔力を持っているのは承知の上。

 

既にもう一体とは、後続の部隊が交戦を開始している。とにかくロロナがするべきは、この一体を可能な限り早く仕留める事。だが、焦って神速自在帯を使ってしまったら、残っているもう一匹にずたずたにされてしまう。

 

また発破を投げる。

 

首を回して、クーデリアにブレスを叩き付けようとしていたドラゴンが。面倒くさそうに翼をふるって、発破の爆撃を受け止める。

 

リオネラが、後ろに回った。

 

巨大化したアラーニャが、ドラゴンに飛びつく。

 

唸り声を上げて、面倒くさそうに体を揺するドラゴン。白銀の体は、斜面にもかかわらず、しっかりその場に支え付けられていた。余程足の力が強いのだろう。岩しかない地面に体を縫い付けるようだ。

 

ドラゴンが、反撃を開始する。

 

いきなりブレスを吐く。走りながら射撃を続けていたクーデリアに向けて。あまりにもノーモーションだったので、対応しようが無かった。

 

しかもそのブレスは拡散型で、複数の光弾が、クーデリアのいた辺りを爆撃。煙が濛々とわき上がり、此方からはクーデリアの無事は確認できない。

 

あんな速度で、ブレスを展開できるのか。

 

押さえ込んできているアラーニャを、軽々と振り払う白銀竜。

 

吹っ飛ばされたアラーニャに、ブレスを更に叩き付けようとする。しかし今度は、リオネラの対応が早い。一瞬早くアラーニャが実体を失い、ブレスは虚空を抉るに留まる。ロロナが詠唱を完了。

 

足場が悪いけれど、やるしか無い。

 

踏ん張ると、その場で全力の砲撃をぶっ放す。

 

ドラゴンが、ロロナを見る。

 

その鼻面の先に。

 

虹色の防壁が、出現していた。

 

防壁と、砲撃が、真正面からぶつかり合う。

 

ロロナの態勢が崩れる。じわじわと押される。砲撃の反動で、体が宙に浮かされそうだ。それなのにドラゴンは、詠唱さえしないで造り出した防壁だけで、軽々とロロナの大威力術式を、防いで見せている。

 

力が、根本的に違う。

 

ついに、砲撃が弾かれる。

 

だが、煙を斬り破るようにして、クーデリアが戦闘の場に躍り出た。

 

同時に、今度はホロホロが具現化。真上から、ドラゴンに飛びついた。体重を掛けて押し潰しに掛かるホロホロに、流石に面倒くさそうにドラゴンが雄叫びを上げる。この雄叫びだけで、山崩れが起きそうだ。

 

ロロナは冷や汗を流しながら、次の詠唱に掛かる。

 

あのブレスの展開の速さ、危険だ。最悪の場合、神速自在帯を、いつでも使えるように準備しなければ。

 

クーデリアが、火焔弾をドラゴンの目に直撃させる。

 

はじめて白銀竜が、苦痛の声を上げた。

 

即座に反撃。

 

足を降り下ろす白銀竜。無造作な一撃だけれど、あまりにも正確。クーデリアの姿が、消える。

 

今は、クーデリアを信頼するしか無い。

 

走りながら、詠唱を続ける。ドラゴンから見て、上の位置を採る。

 

さっきの様子からして、砲撃を防いだという事は、当てさえすれば効く。そうでなければ、そもそも防壁を張らないはずだ。

 

この位置なら、もう一体のドラゴンを警戒しつつ、相手がブレスを吐こうとすれば、即応できる。

 

何度か体を揺すって、ホロホロを叩き落とそうとするドラゴン。だが、ホロホロは翼を主に押さえ込んで、必死にドラゴンが飛ぶのを防いでいる。後一手、何かあれば。時々発破を投げつけるロロナだけれど。ドラゴンは、そんなものは効かないと言わんばかりに、尻尾を振るったり、翼を振るったりして、中途で叩き落としてしまう。

 

湖底で戦った機械の竜に、勝るとも劣らない圧倒的な攻防の性能。

 

これが、生物界の頂点に立つ存在か。

 

いい加減面倒になってきたのか。

 

ドラゴンが、ホロホロに噛みつく。そのまま、体を食いちぎりに掛かる。

 

だが、これこそ、勝機だった。

 

アラーニャが出現して、ドラゴンの頭を押さえ込みに掛かったのだ。

 

更にクーデリアが姿を見せる。

 

ホロホロの影に隠れていた彼女が、ドラゴンの鼻面に、火焔弾を連射。

 

完全に無防備になるドラゴンの横っ腹。

 

其処へ、横殴りに叩き付けられた極太の雷撃。

 

悲鳴を上げた白銀竜が、態勢を崩す。

 

そして、斜面から、転げ落ちていった。

 

今だ。

 

ロロナは、先に仕掛けておいた、大威力の発破に向けて、フラムを投げる。普通に投げたのでは届かないから、紐を付けておいたのだ。これを振り回して、タイミングを合わせて放す。そうすることで、普通に投げるより、遙かに遠くまで飛ばすことが出来る。

 

ドラゴンが、斜面を転げ落ち、地面に体を直撃させる。

 

其処に、ロロナが埋めておいた、今回の切り札。テラフラムとでも呼ぶべき特大の発破に、フラムが着火。

 

耳を塞いで。

 

ロロナは叫びつつも、自分も耳を塞いでいた。

 

ドラゴンを中心に。

 

炎のドームが出来たのは、その次の瞬間だった。

 

ドームは空気を蹂躙しながらふくれあがり、更に瞬きの先に。空気に押し返されて、茸のような形を作った。

 

上空へ、巨大な茸の雲がわき上がる。

 

膨大な土砂が崩れ落ちていく。ロロナは、必死に体を支えるので精一杯だった。崩れ落ちる土砂に巻き込まれないようにするだけで、全力を使うほどだ。

 

クーデリアは。

 

リオネラは。

 

無事だ。ドラゴンがいた辺りの斜面に張り付いている。ただ、クーデリアはドラゴンを相手に、ずっと至近で渡り合っていたこともあり、少なからず傷ついているようだ。

 

そして、雷撃を放ったステルクも。

 

ステルクは、爆発に巻き込まれたのだろう。全身が酷く傷ついているようだった。だが、大岩の上に立っている彼は、飛びながら後方の部隊と戦っている方のドラゴンにも睨みを利かせている。不動の武神のようだ。

 

キノコ雲が、収まりはじめる。

 

巨大な円形状に、地面が抉り取られていた。その中心には、体の彼方此方の鱗を剥げさせながらも、まだ健在のドラゴンが。

 

しかしその翼は大きく傷ついていて、既に飛ぶにはあたわず。

 

戦力の半分を削り取るのに、成功したのだ。

 

目を真っ赤に充血させたドラゴンが、怒りの雄叫びを上げる。

 

ここからが、本番だ。

 

 

 

跳躍したステルクが。ドラゴンの近くに降り立つ。

 

クーデリアが、その横に並んだとき。心なしか、不敵に騎士は微笑んでいるように見えた。

 

なるほど、騎士らしい戦いが出来て、内心は嬉しくて仕方が無い訳か。

 

ステルクは、とても戦士の鏡とは言えない父親に育てられたと、クーデリアは聞いている。幼い頃は、孤児院にいたとも。

 

尊敬できない父。幼い頃の、誰にも認められない苦悩。

 

それが、騎士らしい騎士への強いあこがれを、この男の中で育てていったのだろう。

 

そして大人になってからは、実際の騎士がしなければならないダーティワークと。物語の中で輝かしい戦いを繰り広げる騎士のギャップに、苦しんできた。

 

だからこそ、今は嬉しくて仕方が無い、と言うわけだ。

 

「私が、奴の注意を引く。 君は全力での支援をしてくれ」

 

「了解、と」

 

あの禿げた鱗の部分になら、クーデリアの火焔弾も通るはずだ。

 

ドラゴンは、あのキノコ雲が出来るような爆発にも耐え抜いた。だから、火焔弾が多少通ったくらいで、どうにか出来るとは、クーデリアも思っていない。しかし、不思議と負ける気はしない。

 

隣にいるステルクが、傷だらけになっていても健在で。

 

国家軍事力級の名に恥じない使い手であることが、確認できたから、かも知れない。

 

ステルクが、残像を残して跳躍。

 

真上から、ドラゴンに斬りかかる。

 

中距離を保ったままのリオネラが、何か詠唱しているのが、此処からも見えた。遠距離にいるロロナは、おそらく特大威力の砲撃を準備中だ。あれを叩き込めば、おそらく勝てる。

 

ドラゴンが、下がりながら、ステルクの一撃を光のシールドで受け止めた。

 

どうしたのだろう。

 

先ほどまで、あれほど強気に足を止めての殴り合いに終始していたのに。ドラゴンはむしろ、一転して下がることを選びはじめている。

 

此処はシュテル高地。

 

ベテラン戦士でも入る事を躊躇する危険地帯だ。傷ついたドラゴンを逃がしてしまうと、追い切れないかも知れない。

 

走りながら、退路に回り込む。その過程で火焔弾を連射して、鱗が禿げた皮膚を狙っていく。ドラゴンは此方にも注意を怠っていない。わずかに体をずらすことで、傷口への直撃を、確実に避けてくる。

 

それでいながら、光の壁を上手に使い、ステルクの攻撃をしっかり捌いているのだから、凄まじい。

 

一体どれだけの戦闘経験値を積み上げているのか。

 

巨体が浮き上がる。

 

いや、違う。

 

上空から降り注いできたそれを避けるために、跳んだのだ。

 

地響き立てて着陸したのは、先ほどまでより二回りは大きくなったアラーニャ。殆ど反射的にドラゴンがブレスを叩き込むが、それを完全に防ぎきってみせる。見ると、アラーニャと、ホロホロの模様が混じり合っている。

 

自分の人格を混ぜ合わせて、強力なアバターを作った訳か。

 

着地したドラゴン。

 

ステルクが、真横から斬りかかる。

 

どうも妙だ。ステルクと、アラーニャを同時に相手にしながら、ドラゴンは何かを狙っているように見える。

 

もう一体は。

 

三隊の巡回班と激しい交戦の最中だ。此方に介入する余裕は無い。

 

まさか、とは思うが。

 

ぞくりと、背筋に悪寒が走る。今、このドラゴンとの交戦に、全員が夢中になっている。特にロロナは、長距離を保って、砲撃の準備を行っている最中だ。

 

この間、改造悪魔の群れに襲われたとき。

 

奴らは明らかに、ロロナとステルクを引き離す動きをしていた。

 

スピア連邦は、ひょっとして。

 

ロロナを狙いに掛かっているのではないのか。アーランドにとって、ロロナが重要なプロジェクトの中核で、育ちきっていない今こそ殺す好機だと、判断しているのではないのか。

 

冗談では無い。

 

そのために、ドラゴンを二体も繰り出してきているのなら。

 

「此処は任せるわ!」

 

「どうした、今は手が足りないのだが!」

 

「お願い!」

 

ステルクに言い捨てると、身を低くして、全力疾走の態勢に入る。ここぞとばかりに、ドラゴンが尻尾をふるって叩き付けてくるが、間一髪、避けることに成功。ステルクに近接戦を任せ、走る。

 

ロロナが、怪訝そうに、明後日の方向に走り出したクーデリアを見る。

 

気付いて欲しい。この状況の異常さを。しかし、あまり露骨な驚きを見せられても困る。おそらく、クーデリアの動きに気付いたら、その瞬間に敵は仕掛けてくると見て良い。

 

何処だ。

 

何処に伏せている。

 

必死に、周囲を探る。

 

或いは、伏せていないのか。そうなると、空間転移を用いて、遠くから一気にロロナを襲撃するつもりか。

 

それならば。

 

瞬間転移には距離の限界があると聞いている。この間ロロナが持ち帰った死者の書にも、そう書かれていたようだ。

 

もしも同じ技術を用いているとしたら。

 

雪山の中、必死に走る。今ロロナがいる位置を、ぎりぎり襲撃できる場所は。

 

見つけた。

 

山裾に、一つ洞窟がある。クーデリアが飛び込むと、其処には、とんでも無い存在がいた。

 

護衛らしい悪魔を連れた、紳士然とした、初老の男。

 

おそらくアーランド人では無いが。その体から感じる威圧感、並の使い手では無い。アーランド人のベテラン戦士以上の使い手だろう。

 

「ほう? どうやら頭が回る者がいたようですね」

 

「あんたは……っ!」

 

言葉に微妙ななまりがある。

 

間違いなく、アーランド人では無いとみて良いだろう。しかもこの実力。恐らくは、スピアのスパイの元締めか、それに近い存在とみた。相当な使い手だ。

 

もしもあのままドラゴンとの戦いに夢中になっていたら。遠距離からの砲撃に徹していたロロナは、ドラゴンを倒した瞬間、後ろから刺されていただろう。

 

「お初にお目に掛かる。 私の名はレオンハルト。 スピア連邦の主席諜報官をしております」

 

「聞いたことがあるわ。 スピアの闇を一手に引き受けている存在よね」

 

「貴方のような若き戦士にも名を知られているのは光栄です」

 

「嘘仰い」

 

唾棄しそうになった。

 

レオンハルトと言えば、クーデリアのようなはな垂れなんて、歯牙にも掛けない有名人だ。

 

此奴が潰した国は幾つか知れない。文字通り、スピアの伸張を支えてきた怪物。多分この大陸随一の諜報員だろう。

 

だが、気になる。

 

確かこの間のスピア首都襲撃の歳、ステルクらは見たという。

 

スピアの首脳陣が、根こそぎ錬金術師達の陰謀で消されているという、おぞましい光景を。まさか此奴、錬金術師達と結託して、クーデターに荷担したのか。

 

そうと考えるべきなのだろう。

 

でなければ、此処にいる意味が考えられない。

 

改造悪魔が、前に出ようとする。人間の倍ほどある、中型の悪魔だ。

 

だが、此奴自体は、大した相手では無い。いきなり機先を制して顔面に膝蹴りを叩き込んでやる。残像を残して動きながら、クーデリアはスリープショットを背中から連続して打ち込み、壁に叩き付ける。

 

改造悪魔が、無様に血を壁に塗りたくりながらずり落ちる。

 

弾丸をリボルバーに再装填しながら、クーデリアはレオンハルトから視線を外さない。

 

此奴はおそらく、空間転移の技を身につけている。ロロナを襲撃は、させない。

 

「ほう。 なかなかの腕前だ。 その若さで、良くも其処まで速さと技を磨き抜きましたね」

 

「お褒めにあずかり光栄よ」

 

「特に才覚は感じ取れない様子からして、余程良い師に恵まれ、壮絶な戦闘経験を積み重ねてきたのでしょう。 殺すのは、惜しいですが」

 

クーデリアは相手の狙いを見抜く。だから、それをひょいと避ける。

 

足下から、無数の触手が伸び、クーデリアの残像を抉っていた。

 

この分かり易い雑魚護衛からして、本命が潜んでいるのはわかっていた。からからと、レオンハルトが笑う。

 

此奴自身には、まだ仕掛けない。

 

どれほどの実力を秘めているかわからないし、何よりハイリスク過ぎる。

 

狙うは、空間転移の瞬間。

 

ロロナは、クーデリアの動きを見て、異変に気付いている筈。保険は掛けた。後は、レオンハルトが、どう動くか。

 

地面を割り砕いて姿を見せたのは、背中に触手を大量に生やした改造悪魔。これは、悪魔に他のモンスターを移植したのか。しかも大きさは、先に沈めた悪魔の倍はある。とてもではないが、油断できる相手では無い。

 

触手が広がって、レオンハルトとクーデリアの間を遮る。

 

まずい。

 

此奴は、片手間にどうにかできる存在では無い。洞窟を逃れて、ロロナの直衛に入るか。しかし、それも読まれていた。

 

洞窟の入り口からも、悪魔の気配。

 

この触手悪魔と、ほぼ同等の実力のようだ。

 

レオンハルトは、触手の向こう。

 

二体の強力な悪魔に挟まれて、クーデリアが動くタイミングを計っているのを、余裕綽々で見ていた。

 

此奴にしてみれば、クーデリアの実力など、手のひらの上、という事か。

 

腹立たしいが、経験の蓄積が違うのだろう。クーデリアも、格上のモンスターと死闘を繰り広げてきたし、戦士としては大ベテランの雷鳴やアルフレッドから指導を受けてきているが。それでも、数十年を戦いに費やした相手をどうこうできると思うほど、頭は温くない。

 

レオンハルトが見せているのは油断では無い。

 

余裕だ。

 

悪魔も、前後を挟んだまま動かない。

 

突破するなら、手はある。しかし、安易に使えば、おそらく詰む。今以上に、状況が悪化すると見て良い。レオンハルトは、詰みを維持したまま、動くつもりが無いようだ。恐らくは、戦況を何かしらの手段で、遠隔把握している。

 

「ねえ、疑問があるんだけど」

 

「何でしょう、若き戦士よ」

 

「あんた、スピア連邦に忠誠心とかないわけ?」

 

何を馬鹿なと、鼻で笑うレオンハルト。

 

会話を維持しているのは、レオンハルトが戦況を遠隔把握する兆しを掴むためだ。此奴の事情など、知ったことでは無い。

 

勿論、レオンハルトも、そのくらいのことは読んだ上で、話に乗って来ている。

 

「私は五十二年間スピア連邦……いや、その前身となった国家の時代から仕えてきましたが。 それに対して、国が何を報いたと思います?」

 

「影働き主体では、大した報酬は無かったでしょうね」

 

「良くわかっているではないですか。 だから、私は報酬が優れている方についただけのことですよ」

 

なるほど、分かり易い。

 

しかもこの男、身体能力から見て、改造を受けているとみて良いだろう。ホムンクルスか何かの技術を使っているとみた。

 

つまり、ロロナやクーデリアと同じだ。

 

人間を半ば止めている、という事である。

 

外で轟音。

 

今の音からして、おそらくステルクだ。大威力の雷撃を、あの忌々しいドラゴンに叩き込んだのだろう。

 

至近で戦っていたクーデリアは、ブレスにも巻き込まれ掛けたし、踏みつぶされそうにもなった。

 

どちらも間一髪で避けたが、余波で打撃も受けている。

 

ブレイブマスクの力は、使えて一回。

 

もう一つの切り札も、同じく一回。ブレイブマスク使用後にもう一回使えば、もう身動きは出来なくなる。

 

勿論、相手に切り札がある事も、考慮しなければならない。

 

全く動いていないのに。

 

駆け引きは、今もめまぐるしく動き続けていた。

 

「ふむ、お嬢さんと話すのは楽しいが、そろそろ時間のようですね」

 

鼻で笑い合う。

 

嘘が見え見えだ。もしもそうだったら、この男はとっくに空間転移していることだろう。クーデリアの心理を揺さぶるための嘘。クーデリアも、それを嘘だと見抜いて、平然としている。

 

微弱な可能性についても、気にしていない。

 

傷ついたあのドラゴンなら、ロロナ達が負ける可能性はない。

 

此奴を此処に固定しているだけでも、意味がある。

 

「ロロナを殺させはしないわよ。 あたしがいる限りね」

 

「覚えておき……」

 

クーデリアが動いたのは、レオンハルトが異変を見せたからだ。

 

その身に纏う魔力が、明らかに揺らいだのだ。死者の書をロロナと解析している時に、見た揺らぎと同質のものだった。

 

会話をするフリをしていたのも、心理的な油断を誘うため。

 

見抜いたクーデリアは、まず手前の悪魔に、数発のスリープショットを叩き込む。いきなり動いたクーデリアに、改造悪魔は触手を壁にして対応。しかし、それは予想済みだ。

 

まっすぐ、真正面に突っ込む。

 

悪魔が、腕を振り下ろしてくる。

 

紙一重の間を抜けて、前に。

 

無理矢理の突破。擦った拳が、肩の辺りを切り裂く。

 

だが、悪魔を抜ける。

 

触手によって掴まれることは意図しない。今は、レオンハルトを打ち抜くことだけを、考える。

 

レオンハルトが、転移の術式の光に、半ば包まれている。

 

其処へ、クーデリアは、全力でタックルを浴びせた。

 

空間転移の術式が、触ったものを丸ごと転送するのは実証済みだ。

 

世界が、暗転する。

 

そして、光が満ちた。

 

叩き付けられたのは、地面にだ。

 

すぐ側に、ロロナ。詠唱を終えて、今まさに、大威力術式を、ドラゴンに向け放とうとしている所のようだ。

 

更に、レオンハルト。

 

無言のままナイフを引き抜いている。仕込み杖の一種か。

 

間に割って入る。

 

そして、躊躇無く、切り札を発動した。

 

数十発の弾丸を、瞬時に叩き込む。前回よりも、更に苛烈。このレオンハルトという男が、それだけの相手だとわかっているからだ。

 

驚くべき事に。

 

レオンハルトは、その嵐が如き連撃を、一瞬にして全て切り返してみせる。

 

にやりと、初老の男が笑うのがわかった。

 

ロロナが、気にせず、全力での砲撃を撃ち込む。クーデリアを、全面的に信頼してくれたのだ。

 

絶対に裏切れない信頼だ。

 

ステルクが足止めし、更にシールドを自分に向けて展開もさせていた。完璧なタイミング。更に、此方を見ようとしたドラゴンを、アラーニャが押さえ込む。

 

ドラゴンの、傷だらけの脇腹に、ロロナの砲撃が直撃。

 

閃光が、此方に届く。

 

クーデリアの手から、血がしぶく。やはり、負担が大きすぎる技だ。クロスノヴァとでも名付けようと思っているけれど。早くこのフィードバックダメージを解決しないと、使い物にならない。

 

手が酷く痛む。感覚が、一瞬で消し飛ぶ。だが、痛みなどどうでもいい。ロロナを守る事が、クーデリアの全てだ。

 

第二の切り札を用いる。

 

ブレイブマスクの、超回復力を発動。

 

体力を犠牲にしながら、一気に手を治す。

 

今の連撃をことごとくはじき返したレオンハルトが、流石に目を見張る。

 

まず、一発。

 

スリープショットを込めた弾丸を、放つ。

 

はじき返すレオンハルト。

 

だが、その時動いたクーデリアが、レオンハルトの顔面に蹴りを叩き込む事に、成功していた。

 

鼻が折れる感触。吹っ飛ぶ暗殺者。

 

やはりこれほどの連撃、至近から切り返して、無事で済む筈も無かったか。

 

上に躍り出たクーデリアは、容赦なく倒れ込んだレオンハルトに、連射連射連射。跳ね起きようとするレオンハルトの機先を制して、更に弾丸を叩き込み続ける。クロスノヴァは、まだだ。

 

此奴は何か、まだ切り札を隠している可能性が高い。それよりも、押し切れるなら、此処で。

 

弾丸が尽きる。

 

瞬時に空中で、次を装填。

 

切り札ともなりうる、シルヴァタイトの弾丸。跳び離れようとするレオンハルトに、容赦なくぶち込む。

 

剣で斬り弾こうとして、レオンハルトが失敗。

 

弾丸の破片が、首筋をかすめた。血が噴き出す。

 

勝機。

 

そのまま、全体重を掛けて、腹にストンピングを浴びせる。

 

「ぐあっ!」

 

悲鳴を上げたレオンハルトの顔面に、銃弾を乱射。右手を挙げて、弾丸を肉で無理矢理防ぎながら、体を捻ってクーデリアをはじき飛ばすレオンハルト。着地。爆発音。ロロナが放った砲撃が、ついに白銀竜を撃滅したのだ。

 

気配が消えていく。

 

白銀竜を打ち倒したことを悟る。だから、そちらはみない。

 

立ち上がったレオンハルトは、左手で剣を構える。息を整えながら、クーデリアは、弾を再装填。

 

一瞬も、どちらも止まらない。粘つくように流れる時間の中、駆け引きは過酷に繰り返される。

 

だが、クーデリアにはわかっていた。

 

次が、勝敗を分ける。

 

跳躍。

 

互いに加速して、間合いを詰める。弾丸を乱射。切り返してくるレオンハルト。

 

衝撃波が跳んできて、クーデリアの体を切り裂く。

 

この辺りの技は、此奴の方が遙かに上だ。だが、今は問答無用の肉弾戦。このまま、押し切る。

 

間合いをゼロにしたクーデリアが、低い態勢から蹴りを叩き込む。避けながら、剣を振り上げてくるレオンハルト。

 

ふくらはぎから入った剣が、膝の下で抜ける。骨に擦って、肉をかなり切られた。

 

だが、剣が上がった。

 

その隙に、数発の弾丸を撃ち込む。

 

レオンハルトの腹に一発が潜り込む。わずかに鈍る動き。

 

血が、忘れていたように、しぶく。

 

離れようとするレオンハルトを追う。一瞬でも休ませたら、ロロナに対して何か致命的な攻撃を浴びせて来かねない。絶対にやらせない。

 

斬られた足で踏み込む。痛いが、どうでもいい。

 

そのまま前に躍り出ると、降り下ろされたレオンハルトの剣を銃で止めながら、砲弾のような頭突きを叩き込んでいた。

 

肋骨を数本、へし折った。

 

もつれ合うようにして、斜面に飛び込む。

 

ロロナから、かなり距離を取ることに成功。そのまま、マウントをとると、レオンハルトの体に銃口を押しつけて、何度も引き金を引く。

 

ずぶりと、嫌な音。

 

脇腹に、剣を刺されていた。

 

にやりと、レオンハルトが笑うのがわかった。クーデリアは表情を変えない。そのまま、何度も何度も何度も、弾丸を至近から叩き込み続けた。

 

刃が食い込んでくる。

 

弾丸を再装填。更に発射。密着状態で、防げる筈も無い。容赦なく至近距離から食い込んだ弾丸が、レオンハルトの体を内側から破壊していく。互いをつぶし合うチキンレース。だが、実力に劣るクーデリアからすれば、望む状況。格上を相手にしているのだ。これくらいでないと、勝ち目なんて無い。

 

「くーちゃん!」

 

泣き顔のロロナが、腕を止める。

 

気付くと、レオンハルトは死んでいた。

 

脇腹に刺さった剣を、無理矢理引き抜く。かなり深く刺さっていた。筋肉で止めていたけれど、下手をすれば真っ二つにされていたかも知れない。

 

若さが、勝ちを拾ったのか。

 

いや。何か、違和感が、頭の中を巡っている。

 

「おかしい……」

 

「今、手当てするから!」

 

ロロナが、そう言って、横になるように言う。

 

彼方此方切り裂かれて、血だらけになっていた。剣には毒を塗られていたようだけれど、すぐにロロナが毒消しを口に含ませてくる。

 

耐久糧食を無理矢理口に突っ込まれたので、閉口したけれど。

 

今更になって気付く。

 

全身が、ズタズタになっていた。

 

ブレイブマスクのフィードバックも来る。一気に疲弊が全身を駆け巡り、呼吸が困難になるほどだ。

 

血を吐いたので、ロロナが小さな悲鳴を上げた。

 

「もう、わたしが神速自在帯使えば、どうにでもなったのに!」

 

「……ごめん、そうだった、わね」

 

「りおちゃんがすぐ来るからね! 頑張って!」

 

だが、やはりおかしい。

 

レオンハルトは、闇に生きているとは言え、歴戦の勇者の筈。この程度の。クーデリア如きが決死の戦いを挑んで、切り札を総動員したくらいで、倒せる相手だったのか。

 

ちらりと、崖の下を見る。

 

腹に大穴を開けたドラゴンが死んでいた。

 

三つの巡回チームも、ついにドラゴンを空から叩き落として、肉弾戦を始めている。ステルクもそれに加わっている。あちらも、間もなく決着がつくだろう。ベテラン戦士とホムンクルスで構成された巡回班の戦闘力は、それだけ高いという事だ。

 

リオネラが来た。

 

クーデリアを見ると口を押さえて、すぐに回復術を使い始める。リオネラ自身も酷く傷ついていたが、これはドラゴンを押さえ込むため、無理をしたからだろう。

 

「命に、別状は、ないわ。 だから泣かないで」

 

「……っ! 馬鹿っ! くーちゃんがまたどうにかなったら、わたし生きていけないよっ!」

 

ロロナがわんわん泣くので、流石にクーデリアも軽口を叩けなかった。

 

仕方が無い。

 

ステルクが来たら、頼むしか無い。

 

好きでは無い相手だけれど、今は手段を選んでいられない。やはりおかしいのだ。あの程度で、アーランドの諜報部隊と渡り合い続けたレオンハルトが、どうにかなるとはとても思えない。

 

彼奴は、ひょっとして。

 

影武者か、或いはホムンクルスか何かだったのではあるまいか。

 

 

 

結果として、クーデリアの懸念は当たった。

 

しかも、最悪の形で。

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