暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、負傷者二人

二体のドラゴンを辛くも仕留める事に成功したのは、ロロナの位置からも見えた。二体目の白銀竜は地面に引きずり下ろされたところを、ステルクを一とする猛者達に集中攻撃され、程なく倒れた。

 

だが、予断は許さない。

 

クーデリアはまだ時々血を吐く状態で、リオネラの回復術を、ずっとかけ続けていないと、危なかった。

 

本人は命の別状が無いと言っているけれど。

 

自分のせいかもしれない。

 

ロロナは、悔しくて涙が止まらない。もっと改良を施せておけば、フィードバックダメージを緩和できたかも知れないのに。凄まじい高速で展開されていた戦闘だったけれど、ロロナも状況は把握していたのだ。

 

もう一発クーデリアがあの超高速連続射撃を決めていたらその時点で勝負はついていた。クーデリアは敵の切り札を警戒して切り札を抑えざるを得なかったのだ。

 

ステルクが来た。

 

クーデリアの様子を見て、すぐに担架を手配する。クーデリアが、淡い回復魔術の光に包まれたまま、ステルクを呼ぶ。珍しい。

 

何か、耳打ちしているようだ。

 

ステルクが、頷いて。立ち上がりかけた、その時だった。

 

まるで。

 

闇からしみ出すような殺気が。ロロナの背後に生じる。

 

誰もの注意が、ロロナから外れたその一瞬を。それは狙っていたに間違いなかった。

 

「危ないっ!」

 

突き飛ばされる。

 

飛び出してきたのは、ステルク。

 

そして、ロロナは見る。

 

ステルクが、自分の代わりに。闇からしみ出すようにして姿を見せた、初老の紳士が繰り出した剣によって、貫かれている有様を。

 

「ふむ、さすがは国家軍事力級の使い手。 今の攻撃を、身を挺したとは言え庇いきるとは」

 

「貴様が、レオンハルト、か」

 

「いかにも。 先ほど倒されたのは、私の経験の一部を移植したホムンクルスに過ぎません。 まあ、本当はあれで充分だと思っていたのですが、其処の若き戦士に撃退されてしまいましたからね。 私が出ざるを得なくなった訳です」

 

慇懃な老人は、剣を引き抜く。

 

レオンハルトという老人は、周囲を歴戦の猛者達に囲まれても慌てない。ステルクが、地面に膝を突く。完全に、急所である肝臓を貫かれていた。

 

どんな攻撃を浴びても、不死身のように戦っていた騎士が。

 

今、脂汗を掻いて、片膝を突いているのを、ロロナは見てしまった。

 

声も出ない。

 

レオンハルトの声は冷たい。感情など、一切存在しないかのような声。

 

人生を暗殺と諜報に捧げた、最強の怪物は。蕩々と喋る。

 

「其処の錬金術師を殺せなかったのは残念ですが、国家軍事力級の使い手を一人行動不能にし、未来のアーランドの柱石の技を見ることも出来たのだからよしとしましょう。 それでは、これにて」

 

誰も、何も出来なかった。

 

老人は闇に溶けるようにして、消えたからだ。

 

これは、空間転移の術式。それも、ロロナが最近見た、死者の書に記されていたのとは違う。

 

きっと個人が練り上げた、固有技術としてのそれだ。

 

「すぐに担架を! 回復術!」

 

巡回班のリーダーの一人が、声を張り上げる。

 

呆然としているロロナは。思考が完全に麻痺して、何もすることが出来なかった。

 

 

 

気がつくと、シュテル高地から下山していた。

 

キャンプスペースの一角で、ロロナは膝を抱えていた。リオネラが、隣で横になっている。額には、濡れた布がかぶせられていた。

 

わかっている。

 

おそらく、倒れるまで回復術を使ったのだ。

 

アーランド人の頑強さから言っても、ステルクは多分死なない。肝臓を抜かれたようだったけれど、処置も早かったはずだ。歴戦の使い手達が側にいたし、その中には回復術を得意とする魔術師もいた。

 

何より、ロロナが持ち込んだ耐久糧食もあった。

 

最悪の事態に備えて、かなり濃いネクタルも持ち込んでいたのだ。

 

だが、ロロナを守るために。

 

クーデリアは瀕死にまで身を追い込み。ステルクもまた、身を挺して刺されてしまった。

 

ショックから、頭が立ち直ってくれない。

 

強くなったと思っていたのに。

 

現実に立ち向かおうと思っていたのに。

 

こんな事で、本当に今後やっていけるのか。

 

不意に、頭に何かの感触。

 

顔を上げると。アストリッドが、そこにいた。水の入ったカップを、ロロナの頭に乗せていたのだ。

 

「飲め。 まずはそれからだ」

 

無言のまま、渡された水を飲み干す。異常に冷たかった。何か、錬金術を用いたのかも知れない。

 

冷たい水だから、一気に頭が冷えてきた。

 

そのまま、手を引っ張られて、立ち上がる。クーデリアとステルクは、どうなっているのだろう。

 

今更ながらに、恐怖が足下からせり上がってくる。

 

「随分強くなったと思ったのに。 まだまだ、こんな程度でがたつくのか。 また、調整するべきかな」

 

「いや……」

 

「ほう。 まあいい。 二人は、此処だ」

 

見ると、天幕が作られている。

 

そして、ロロナのよく知っている人が、そこにいた。

 

母である。

 

以前少しだけ顔を合わせた、母の部下もいた。確か名前はアンダルシアか。催眠を得意としている魔術師だ。確か前線戦闘の心得もあるとかで、生傷も絶えなかったはずだ。

 

天幕の中に、案内される。

 

ステルクは眠ったようだった。良かった。生きている。腹の傷はかなり酷かったようで、強力な回復魔術が、今も展開されている。

 

「彼は、一月は動けないでしょうね」

 

母が非情な宣告をする。

 

そして、ロロナに向き直った。

 

「貴方のせいじゃないと、しっかり認識しておきなさい。 むしろ彼は、貴方を守れて嬉しかったと言っていたわ」

 

そんな事をいわれても。

 

ロロナが、もっと強かったら。あんな剣の一撃、避けることは簡単だったのに。

 

クーデリアは。

 

隣に寝かされていた。此方は意識もあるようだけれど。ただ、顔色は良くなかった。全身に手酷く傷を受けているので、ステルクより重傷にさえ見える。

 

ロロナを見ると、クーデリアは不器用に言う。

 

「何て顔してるの、よ」

 

「だって、くーちゃんが」

 

「褒めてよ。 あたし、劣化コピーとはいえ、あのレオンハルトを撃破したのよ。 しかも彼奴の戦い方はわかった。 次に来た時は、本体を確実にブッ殺してやるわ」

 

隣に座ると、手を伸ばしてくる。

 

やっぱり、力が無い。

 

ブレイブマスクで無理に体を治した反動で、回復力が落ちているのだ。彼女も、一週間は絶対安静だと、母は言うのだった。

 

天幕から出る。

 

母は、厳しい表情を崩さなかった。

 

「今回、貴方の作った道具が、多くの命を救ったわ。 耐久糧食もネクタルも、それに発破の類も。 それなのに、どうしてそんなに憔悴しているの?」

 

「だって、二人が」

 

「しっかりなさい。 貴方は自分の役割をしっかり果たした。 それで充分よ」

 

何でも出来る存在など、この世にはいない。

 

アーランド最強を誇る王でさえ、何でもかんでもできるわけではない。

 

いつの間にか、師匠はいなくなっていた。

 

面倒くさくなって、席を外したのだろうと思った。

 

心の整理がつかない。

 

母が言うことは正しいのだと、わかる。だけれども。

 

戦士としての生き方をしてきたアーランド人だ。誰かが傷つくのは、散々見てきた。戦いの際に、酷い傷を負う皆も、見てきた。

 

それなのに、どうして今回は、こんなにショックを受けているのだろう。

 

ロロナの人間としての要素が、少しずつ出始めているからでは無いのか。

 

記憶が戻って、頭が冴える反面。

 

何処か、脆い部分が出始めているのでは無いのか。クーデリアをどうやって一度死なせてしまったかわかっているから、かも知れない。

 

頬を叩く。

 

二人は、こんなロロナを望んではいないはずだ。

 

命を賭けて二人が守ってくれた自分にならなければ。

 

そう言い聞かせる。

 

水をもらって、何度も飲んだ。

 

顔も洗った。

 

リオネラが、心配そうにロロナを見ていた。彼女に、無言で荷車から取り出した耐久糧食を渡す。

 

「ごめん、りおちゃん。 回復術、がんばれる?」

 

「うん。 ロロナちゃんは平気?」

 

「平気。 平気に、ならないと」

 

唇を噛みしめる。

 

話が大きい事はわかっていたのだ。いずれ、スピア連邦の刺客が来るかも知れないことも、である。

 

それなのに、覚悟を決めていないで、どうするというのか。

 

アーランド人は修羅の世界の存在。

 

ロロナもその一人なのだ。

 

この程度でへばっていて、今後はやっていけるというのか。それに、スピア連邦の錬金術師達の残忍さは、まだまだこんなものでは無いはずだ、勝つためには、もっと心を強くしていかなければならない。

 

母が見ている横で、ロロナは頷く。

 

とにかく、これで材料はあらかた揃った。ドラゴンは二匹倒したのだし、素材もたくさんたくさん手に入れた。しかも、高品質なものばかり、だ。

 

戻ったら、一気に課題を仕上げる。

 

そして、オルトガラクセンに挑む準備をする。

 

これからの採取地では、あんな危険が、今までに無い比である可能性が高い。それなら、ロロナがもっと頑張って、色々作っていけばよい。

 

神速自在帯も、ブレイブマスクも、もっと他の道具も、いろいろだ。

 

頭が、ようやく働き始めた。

 

もう一度、頬を叩く。

 

泣かない。

 

二度と、泣くものか。

 

今度はロロナが、クーデリアを守る番だ。ステルクが命を賭けて守ってくれたことに、相応しい存在になるべきだ。

 

母は、もう何も言わなかった。

 

決意を新たにすると、ロロナは天幕に。クーデリアに、悲しんでいる顔を見せてばかりでは駄目だと思ったからだ。

 

戦う。

 

もう負けない。

 

ロロナの決意は、一歩一歩踏みしめるごとに、強くなって行った。

 

 

 

(続)








既にスピア連邦……正確には一なる五人に目をつけられているロロナ。

身が置かれている過酷な状況は、更に加速するばかりです。





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