暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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それはずっと昔から仕込まれていたこと。

決して幸せにならない覚醒。





瞬きの覚醒
序、作業開始


素材は腐るほどある。だから止まる必要は無い。

 

ロロナはアトリエに戻ると、全速力での作業を開始した。クーデリアはいずれ手伝いに来てくれる。だが、来てくれたときには、作業をスムーズに出来るようにしておきたい。工程表を再確認した後、順番に全てを見て行く。

 

一つ目は、鉱山用に開発した発破。

 

これについては、今まで散々フラムなどを実戦用に改良してきたから、ノウハウが違う。設計図を見た後、元の設計戦略を生かしたまま、改良を行っていく。火薬自体も、火力を増大。

 

更に耐久性能を上げて、作り直した。

 

調合は一発で成功。

 

火薬は散々調合してきた。仕掛けの類も、散々作ってきた。

 

ホムとリオネラに声を掛けて、近くの森に出かける。爆破の実験のためだ。以前納入していた発破を何度か見ていたのか、リオネラは驚きの声を上げた。

 

「随分小さくなったね」

 

「うん。 その方が、持ち運びにも便利だから」

 

それに、導火線も使わない。

 

エンチャント技術を用いたので、遠隔爆破が可能となったのだ。

 

やり方は、まず本体に書いてある魔法陣に触れて、爆とひとことだけ呟く。

 

その後、もう一つ用意してある起爆用の魔法陣に触れて、起と呟く。

 

これだけで、爆破を実施できる。

 

言うまでも無く、起爆用の魔法陣を安全なところに最初に保管すること。爆破の際には、爆弾から充分に離れる事が重要だ。

 

更に、人間が近くにいると、起爆しない安全装置も盛り込んだ。

 

これはリオネラにこの間聞いた、エンチャントの技術を利用したものだ。これらの技術は、手順を踏んで魔法陣を書けば良いという事を考えれば、誰にでも出来る。更に言えば、魔法陣さえ準備しておけば、組み立ても量産も出来る。

 

多少手間暇は掛かるかも知れないが。

 

安全性と、利便性はぐっと増したのだ。

 

魔術実験用の広場に、大きめの岩を見つける。あれでいい。

 

岩の下に穴を掘って、発破を埋めると。手順に沿って、起爆。

 

大きさは以前の半分以下なのに。

 

爆発力は、以前と同等、いや二割増し。耳を塞いでいたロロナは、起爆の範囲を、冷静に見切っていた。

 

メモを取るロロナに、リオネラは不安そうに言う。

 

「ロロナちゃん、大丈夫? 休んで無くていい?」

 

「うん。 頭が動いて動いて、仕方が無いの。 働かせて」

 

発破については、これで問題なし。アトリエに戻ったら量産して、納品してくることにする。

 

まずは最初の関門をクリア。

 

受付には、エスティがいた。

 

ロロナが発破を持ってきたのを見て、何か言いたそうにしたけれど。ステルクの状態を聞くと、ため息をついた。

 

「その様子だと、もう気に病んではいないようね」

 

「ステルクさんは、わたしを守ってくれました。 今度は、わたしがステルクさんに、守ってくれた分の活躍を見せる番です」

 

エスティとリオネラが視線を交わす。

 

何だろう。

 

ひょっとして、ロロナがおかしくなっているとでもいうのだろうか。そんな事は無い。吹っ切れたのだし、今はむしろ体が軽いほどだ。

 

次の作業に取りかかる。

 

作業工程をチェック。片手間に食事にする。

 

ホムが茶を持ってきてくれた。茶菓子もある。リオネラが茶菓子を作ってくれたと、ホムが言う。

 

何だろう。

 

心が、動かない。

 

いや、おかしい。少し遅れてから、感動が来た。

 

「りおちゃん、ありがとう! 助かるよ」

 

「ロロナちゃん、あの。 聞きたいことがあるの」

 

「どうしたの?」

 

「あの後、アトリエに戻ってから、休んだ?」

 

小首をかしげる。

 

何故、休む必要があるのか。それに、リオネラは、どうしてなにか可哀想なものを見るような目で、ロロナを見ているのか。

 

わからない。

 

とにかく、作業に戻る。

 

出来そうなものから、順番にやっていく。錬金術で、世界の人々を、できる限り救うのだ。

 

スピアの錬金術師のようにならないためにも。

 

今は、休んでいる暇など、無かった。

 

 

 

その日のうちに、栄養剤の圧縮実験を終えた。

 

これも最初作る時は、随分苦労したけれど。その後散々納品をしている内に、色々とノウハウも掴めてきたし、今では問題なく作る事が出来る。何種類かの栄養剤を準備して、それらの改良もすませた。

 

散々、調合してきたから出来る事。

 

今回の課題は、楽に終わるかも知れない。

 

調合に取りかかる。

 

ホムに中間薬剤を、半分作るように指示。残りは自分でやる。いつの間にか夜中になってたけれど。

 

どうしたのだろう。

 

不思議と、まるで疲れを感じない。

 

作業を徹底的に進めていく。できる限りの行程を、埋めていく。

 

気がつくと、朝になっていた。調合作業を一通り終えたので、ホムの様子を見ると。眠そうに、うつらうつらとしているでは無いか。

 

「どうしたの、ホムちゃん」

 

「マスター。 四日連続の作業は、流石に厳しいです。 こなーの世話もしたいです」

 

「そう、先に休んでも良いよ」

 

「まだ働くつもりですか」

 

ホムが、無表情な顔のまま、驚愕を喉から絞り出した。

 

そう言われても、時々休憩自体は採っている。銭湯にも二回行ったし、食事もしている。睡眠は少なめだけれど、あまり疲れていないから、大丈夫だ。

 

リオネラが来た。

 

ロロナが作業をしているのを見ると、顔を強ばらせる。

 

「ロロナちゃん、ひょっとして私が帰ってから、ずっと働いてた?」

 

「うん。 大丈夫、まだまだ平気……」

 

「駄目っ! すぐ寝て!」

 

いきなり血相を変えたリオネラに、寝室に押し込まれる。リオネラがどうしてそんなに心配しているのか、よく分からない。

 

リオネラに寝るようにもう一度言われた。

 

非常に険しい顔で。

 

困り果ててしまう。そんな事をいわれても、睡眠なんて必要なときに採れば良いと思うのだけれど。

 

ベッドの側に、アラーニャが具現化する。ホロホロも。

 

「二人とも、ロロナちゃんを見張って。 絶対、ベッドから出したら駄目よ!」

 

「え、そんな。 どうしたの、りおちゃん」

 

「良いから、横になって!」

 

リオネラが本気で言っているのは分かったから、渋々ながら横になる。

 

ただ、眠ろうとしても、眠れない。

 

今から作業を進めれば、更に前倒しで仕事が出来るのに。どうして邪魔するのだろう。

 

睡眠薬を、リオネラが持ってきた。ホットミルクを温めて、それと一緒に出される。リオネラは厳しい表情で、ロロナの体を診察していた。その手が震えているのがわかる。回復術を習うと同時に、医術もある程度教わっていると聞いていたけれど。

 

今、体は絶好調の筈だ。

 

「ロロナちゃん。 何も考えないで、眠って」

 

「どうして? わたし元気だよ」

 

「それが問題なの。 本来ロロナちゃんは、もう眠らないとどうにもならないくらい、頭が疲れ切ってしまっているの。 あまり長時間眠らずにいると、人間の頭って、壊れてしまうの」

 

それは、恐ろしい話だけれど。

 

無理矢理、睡眠薬を飲まされた。ホットミルクが温かくて、おなかにたまる。

 

しばらくリオネラは険しい表情で唇を噛んでいたけれど。

 

やがて、彼女はぽつりぽつりと話し始める。

 

「クーデリアちゃんは、もうすぐ退院してくるって話よ。 彼女からも、ちょっと言って貰わないと」

 

「どうしたの、りおちゃん。 大げさだなあ」

 

「……」

 

不意に、魔術を掛けられる。

 

それが無理矢理に睡眠を誘発するものだと気付いた。だが、中々術が効かないようで、リオネラは青ざめる。

 

とにかく、横になっていると、睡眠薬が効き始めた。

 

リオネラが何度も回復の術式を掛けたからだろう。眠くもなってくる。

 

ロロナのためにしてくれているとわかっているから、抵抗はしない。ただリオネラは、どうしてそんなに必死なのか、よく分からなかった。

 

ロロナなんて。

 

どうなったって、良いはずなのに。

 

 

 

ロロナが眠った。

 

リオネラは、動悸を抑えるのが、やっとだった。

 

気付いていないのは本人だけ、だったのだろう。

 

ロロナの体からは、凄まじいまでに禍々しい魔力が立ち上り続けていた。あれはおそらく、リオネラが精神不安定で、力を制御できなかったときと同じか、それ以上。魔力だけならリオネラが上だけれど。あのまがまがしさは、獲物を求める巨大なモンスターよりも恐ろしかった。

 

何となく、わかる。

 

ロロナの心に、狂気が宿りはじめているのだ。

 

魔力は精神に強く影響を受ける。ロロナは元々魔力が非常に強かったけれど。狂気という器を得て、今爆発的に力が強くなっている。だから体をどれだけ動かしても平気だったし、眠くもならなかったのだろう。だが、それは無理矢理体を動かしているのと同じ。眠らせなければ、死んでしまう可能性さえあった。

 

理由はきっと、クーデリアとステルクが、ロロナを庇って大きく傷ついたからだ。クーデリアとロロナの過去は、リオネラも聞いている。

 

トラウマのフラッシュバックに、近い現象だ。

 

アラーニャとホロホロに見張ってもらって、リオネラは部屋を出る。眠そうなアストリッドが、其処に待ち構えていた。

 

「どうした、険しい表情をして」

 

「ロロナちゃんが」

 

「ふむ……」

 

少し症状を説明するだけで、アストリッドは心底嬉しそうに表情を歪めた。口が三日月の形に歪んでいる。

 

この人は、とても顔の造作が綺麗だ。

 

だからこそに、狂気が表情に表れると、背筋が凍り付く。

 

「覚醒したな」

 

「ロロナちゃんに、何をしたんですか」

 

「何も。 というか、話は聞いているのだろう? お前も参加しているプロジェクトのため、ロロナは八年の時を掛けて調整したのだ。 調整の内容には、才能の追加だけでは無い。 錬金術の究極へ到るための、人工的な措置も含まれる」

 

わからない。

 

ただ、はっきり一つだけはわかった。

 

この人は、ロロナを。

 

実験動物としか、考えていない。

 

「いや、そうでもないぞ。 事実ロロナは私にとって可愛い娘も同じだ」

 

リオネラの考えを読んだように、アストリッドは言う。

 

そして、ついてくるようにと、促された。

 

恐怖がせり上がってくる。一体、何を見せられるのか。リオネラは、それでも、いかなければならない。

 

ロロナは、リオネラを救ってくれた。

 

この世界に生きる場所が無いと、内心でずっと諦めていたリオネラに。生きて良いと示してくれたのだ。

 

だから、その悲しみは、知らなければならない。

 

いざというときは。クーデリアやステルクのように、命を賭けてでも、ロロナを守らなければならない。

 

アストリッドの部屋に入る。

 

むっと異臭が漂っていた。無数の硝子容器に浮かんでいる、裸の女の子達。あれは、量産中のホムンクルスだろう。しかも、部屋の一角には、地下への階段もあった。此方に来るようにと、アストリッドが視線で促してくる。

 

「錬金術はな。 そもそも、金を作るための学問だった。 卑金属を貴金属へ変えるための研究が、錬金術を産み出した」

 

階段を下りながら、アストリッドが言う。

 

その程度の基礎知識は、リオネラにもある。ロロナが調合しているのを見ていたし、手伝いもした。

 

アトリエの地下は、かなり深くまで伸びているようで、階段は長い。

 

ひたすらに、階段は、地下へ地下へ進む。

 

「やがて錬金術は、魔術と混ざり合っていった。 違うのは、魔術が素質に依存する学問であるのに対し、錬金術はやり方さえ間違わなければ、誰にも出来る、という事だ。 その誰にも出来る理由は何か。 それは、世界のルールに従った作業だからだ」

 

それは、リオネラにも何となくわかる。

 

魔術は摂理を曲げる力だと、師匠に何度も言われた。

 

錬金術師の中には、魔術師も多い。他ならぬロロナもそうだ。というよりも、ロロナは魔術師一本に絞れば、下手をすれば錬金術師を兼任している今よりも、ビッグになっていたかも知れない。

 

それに、魔術の中には、固有スキルも多い。

 

リオネラが使っている、アラーニャとホロホロの具現化はその見本だ。クーデリアが弾丸に魔力を乗せたり、射撃を加速したりしているのも、その一種だろう。ステルクの雷撃も、特に適正が強いから、使えている可能性が高い。

 

「逆に言えば、だ。 錬金術を極めていけば、この世の摂理の究極。 すなわち、神の領域に到達できると、君は思わないかね」

 

アストリッドが、階段を下りきる。

 

其処には。

 

淡く輝く、何か筒のようなものがあった。

 

側には、パメラがいる。

 

つまり、パメラの店と、アトリエは、地下でつながっていた、という事だ。

 

「神の、領域」

 

「その成功例の一つは、この国に大きくかかわっている。 この大陸に、多くの利潤をもたらした、伝説の錬金術師。 つまり、旅の人」

 

その名前は。

 

リオネラさえ知っている、大陸随一の偉人。

 

「旅の人は、世界を救った後、姿を隠した。 否、己の力を悪用されることを怖れ、この世界を去ったのだ。 それは具体的にどういう意味かというと」

 

アストリッドが指を鳴らす。

 

淡く輝いていた筒状の装置が、膨大な魔力を、周囲に漏らしはじめた。パメラは目を細めると、幾つかの装置を操作しはじめる。

 

何を、しているのか。

 

「肉体を捨て、高次の存在に生まれ変わったのさ」

 

震えが来た。

 

この人は、ひょっとして。

 

ロロナを、人工の神にするつもりなのか。

 

足が恐怖で凍り付いて、動かない。

 

この機械は、ロロナの状態を計測するためのものか。だとしても、この人がやっていることは。

 

文字通り、神をも怖れぬ事だ。

 

「ふむ、覚醒はしたが、まだこれでは不足だな。 最悪、一度肉体を幼児退行させる必要があるかも知れん」

 

「ロロナちゃんの、人生を、何だと思っているの……!」

 

「……この計画を主体で推進したがっているのは、何も私だけでは無いのだがな」

 

肩を叩かれる。

 

後ろに立っていたのは。

 

ジオ王だった。

 

「順調かね、アストリッド」

 

「まあ、そこそこに。 予想通り、順調に伸びていた力が、大きなショックによって覚醒に結びついたようです」

 

「素晴らしい。 これでスピアの錬金術師どもも、一網打尽に出来る可能性が高いな」

 

「はい。 ただし、まだまだ覚醒したとは言え、その力は未熟。 周囲の者達も、力を貸さないと難しいでしょう」

 

鼻を鳴らすと、王は前に出る。

 

リオネラは、恐怖のまま、立ち尽くすことしか出来なかった。

 

ロロナは、今眠っている。

 

彼女を連れて、逃げるべきなのだろうか。だが、ロロナはもう逃げようとはしないはず。もはや、万策は尽きたのかも知れない。

 

淡く輝く機械を見たと言うことは。

 

余計な事をいえば、消すという意思表示に他ならない。

 

リオネラは、もはや逃れる場所など無い事を、悟らざるを得なかった。







国家規模のプロジェクトに巻き込まれるというのはこういうことです。

既に関わったものが簡単に逃れることはできないのです。

ましてや相手は化け物揃いのアーランド人だと言うことを考えればなおさらなのです。


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