暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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テレポートを用いた奇襲戦。

もしもテレポートがある世界だったら、厄介極まりないですよね。

テレポートがどれくらい活用できるか、にもよりますが。





2、地獄の釜の底

緊急事態が発生した。

 

エスティが知ったときには、思わず息が止まるかと思った。

 

オルトガラクセンを経由して、スピアのモンスター兵団が、アーランドの彼方此方に転送されていると判明したのである。

 

魔術部隊による解析によると、、その規模は、想像を絶していた。

 

すぐにジオが会議を招集。

 

負傷中のステルクを除く、プロジェクトMの参加者全員が集められる。クーデリアとリオネラはロロナの調合を手伝っている最中に来たらしく、なにやら甘い香りを体に付けていた。これは、あの耐久糧食に用いるパイかも知れない。

 

「それで、オルトガラクセンを経由しているとは、いかなる事か」

 

「どうやらオルトガラクセンにある転送装置を、踏み台にしているようなのです。 元々は、スピアの拠点の一つから、オルトガラクセンに経路を繋ぎ。 更に其処から、アーランドの各地へ、兵を飛ばしているようでして」

 

「参ったな」

 

ぼやいたのは王だ。

 

ようやくオルトガラクセンの邪神と話を付けたと思ったらこれだ。

 

すぐにエスティに話が振られた。

 

「対策は」

 

「今すぐ、オルトガラクセンに行くほかないでしょう。 邪神が契約違反を犯したのは、明白だと考えます。 少し前にも、シュテル高地に改造されたとおもわしきスニーシュツルムが二体同時に出現していることからも、このまま好き勝手にさせていたら、スピアの兵がこのアーランドのあらゆる場所に、好きなときに出現できるという事態が来かねません」

 

エスティが、そう報告して。

 

アストリッドを見た。

 

アストリッドが、今開発中の何かを用いると、会議の前に言っていた。詳しい理屈はわからないが、どれほどの効果が見込めるのか。

 

アストリッドが、挙手。

 

発言を王が許可した。

 

「今回の件ですが、恒久的な対策を練らなければ、いたちごっこになるは明白」

 

「つまり、邪神を討伐せよというか」

 

「いえ、あのオルトガラクセンを完全に潰してしまうのは惜しい。 むしろ、スピア側が踏み台にしている転送装置に、これを用いようと思います」

 

アストリッドが示したのは、理屈はよく分からないが、機械を狂わせる液体、だという。事前勿論説明は聞いた。ただ、エスティには理解できなかった。

 

この液体を用いて、スピア側が踏み台にしている転送装置を狂わせるという。

 

問題は、その転送装置を、どうやって特定するか、だが。

 

今、手が足りない。

 

スピアは、数に勝るという利点を、最大限に生かして、攪乱戦を行ってきていた。

 

「現在も、アーランドの彼方此方に、ひっきりなしといってよい頻度で強力なモンスターが出現しています。 此処にいる主力部隊を全てオルトガラクセンに投入するのは、不可能でしょう」

 

「その上、良くない報告が」

 

挙手したタントリス。

 

彼によると、スピアが兵力を立て直し、ホランドへ攻撃を再開しているという。ホランドも必死の防戦を行っているが、劣勢は覆しがたいとか。

 

モンスターによる兵団は、この間の攻撃で壊滅させた。

 

しかし、元々スピアは通常兵力でもかなりの数を有している。優れた武器も、軍に支給されている。

 

各地の列強から援軍が出ているとは言え、ホランドが劣勢を覆すのは、このままではかなり難しいだろう。

 

文字通りの、八方ふさがりだ。

 

此処で会議をしているのも、惜しい位なのである。腕組みしているジオ王を、皆が見る。決断を、急いで欲しいというのだろう。

 

「よし、わかった。 少数精鋭で、オルトガラクセンに潜る。 人員は私と、それにクーデリア。 リオネラ」

 

名前を呼ばれたクーデリアが、驚いたように王を見る。それに、リオネラも。

 

そして、ロロナの名前が挙げられた。

 

後は、パラケルススを一とするホムンクルスを、何名か連れて行くようだ。純粋に支援要員という扱いだろう。

 

「薬剤の使い方を教えてもらおうか」

 

「わかりました。 しかし私が行かなくてもよろしいので?」

 

「お前はエスティと供に、動かせるホムンクルス部隊を総動員し、暴れているモンスターの全てを処理せよ」

 

ステルクが動かせないのが痛い。

 

だが、国家軍事力級の使い手が全員出れば、暴れているスピアのモンスター兵器ぐらい、対応は難しくない。

 

王が少し考え込んだ後に、言う。

 

「夜の領域の悪魔達はどうしている」

 

「あちらも、スピアのモンスター部隊による猛攻に晒されている模様です。 こちらに援軍を出す余裕は無いでしょう」

 

「好き勝手をしおって……!」

 

解散、と。鋭く王が告げ。席を立った。

 

王は本気で怒っているようだ。あの様子だと、オルトガラクセンでほぼ間違いなく待ち構えているだろうスピアの連中に、容赦もしなければ遠慮もしないことだろう。連中は不幸と言うほか無い。

 

今でも、ジオ王はこの国最強の戦士だ。

 

ステルクとエスティが同時に掛かっても勝てるかわからない。戦士の中の戦士。その怒りは、文字通り敵の破滅そのものである。

 

めいめいそれぞれ、会議室を出て行く。エスティは咳払いすると、クーデリアを呼び止めた。

 

「オルトガラクセンに潜るのは初めてだけれど、大丈夫?」

 

「平気よ。 ただ、判明している限りの地図は欲しいわ」

 

「それは勿論用意するけれど」

 

クーデリアは、今は相当に強くなっている。

 

この間の、スニーシュツルム討伐戦のレポートを見たが、現時点での実力はアーランドの一線級の戦士達に劣らない。ベテランから更に一歩ぬきんでた印象だ。

 

これで、ステルクが負傷していなければ。もう少し手数が増えるのに。

 

クーデリアとリオネラが行くのを確認してから、書類をまとめる。

 

多分これからしばらくは、寮に戻ることさえできなくなるだろう。完全に後手に回ってしまった。兵力が少ないアーランドが後手に回ると言う事は、破滅に直結する。如何に最強の戦士を抱えていても、その事実に変わりは無いのだ。

 

虫が好かない連中だが。

 

少なくとも、スピアの錬金術師どもは、無能ではない。兵力の使い方も、数の生かし方も、良く心得ている。

 

アストリッドはにやにやしていた。

 

何が面白いのか。

 

エスティはこれから憂鬱極まりない殺戮の限りを尽くす仕事をしなければならないというのに。

 

「あんたねえ、何がそんなに面白いのよ」

 

「決まっているだろう。 ついにロロナが、一線級の任務にかり出されるようになったということがだ」

 

「ドラゴンスレイヤーなんだから当然でしょう?」

 

「このプロジェクトが開始されてから、三年弱程度だぞ。 それではな垂れがドラゴンを倒せるようにまでなった。 私の調整が、如何に素晴らしかったという話だ」

 

ため息が漏れる。

 

此奴はこの調子で、弟子の人生を今後も私物化していくのではあるまいか。

 

ロロナは確かに、一度死んだ。

 

新しい生を得るために、大きな代償を払うことになった。

 

少し前に、詳細をエスティも見た。酷い話だと思った。

 

だが、だからといって。恩人に何もかもを捧げなくても良い筈だ。アストリッドはいつか、大きなしっぺ返しを受けるかも知れない。

 

「とにかく、少しはロロナちゃんに優しくしてあげなさい」

 

「いつも私は優しくしているとも」

 

「……」

 

手をヒラヒラとふると、エスティは会議室を出た。

 

ますます狂ってきているアストリッドには。正直ついていけない所がある。話していると、疲れるのだ。

 

もっとも、アーランド戦士の中でも、もっとも後ろ暗い仕事を続けているエスティだって、狂気とは無縁ではいられない。

 

いずれああなるのかも知れない。

 

そう思うと、ぞっとしなかった。

 

どのみち血塗られた世界にいることには変わらない。或いは、客観的に見れば自分もああなのかも知れない。それが、憂鬱極まりない、エスティの結論だった。

 

 

 

小型化して、水量は元のままを保つ。どうしても、それが出来ない。

 

大砲の改良を終えた後、ロロナはどうしても、湧水の杯を改良できず、苦労していた。様々に実験を繰り返してみたのだけれど。大きさを変えると、どうしても水量そのものも減ってしまうのだ。

 

改良は、難しいかも知れない。

 

しかし湧水の杯は、今後この世界を救いうる、貴重な道具になる。

 

どうにか、小型化は実現したい。

 

ただ、思うこともある。

 

あまりにもたくさん作りすぎたり、性能を上げすぎたりすると、世界そのものに悪影響を与える可能性もある。

 

研究メモに、書き記しておく。

 

後の時代の人が、警告として受け取ってくれるかも知れないからだ。

 

どちらにしても、改良は上手く行かない。

 

耐久糧食よりも、更に苦労しているかも知れない。腕組みして悩んでいるロロナは。強い気配が近づいてきたので、顔を上げた。以前は全くわからなかったけれど。最近は、気配も読めるようになってきていた。

 

ドアを開けて姿を見せたのは、ジオ王である。

 

「失礼する」

 

「あ、へいか。 お久しぶりです」

 

「うむ。 元気にやっているようで何よりだ」

 

早速、椅子を勧める。

 

丁度煮詰まっていたところだ。誰かと話せるというのは、良い気分転換になる。ただでさえ最近は、乗って来ても休憩を入れろとかで、リオネラに怒られるのだから。

 

お茶を淹れて、さっそく新しい耐久糧食を出す。

 

既にマニュアルと供に納品済みだけれど。王にも味わって欲しいと思ったからだ。

 

「ほう、これが新作の耐久糧食か」

 

「はい。 その場で食べるお菓子にはどうしても及ばないですけれど、持ち運びが出来て、ながもちするし、力もつきます。 味もずっと良くなりました」

 

「更に美味くなっているというのかね。 それは素晴らしい」

 

王は早速口に入れる。

 

この人は、最強の戦士であり、とても怖い王様でもあるけれど。

 

接していて、わかってきたことは。

 

案外好奇心が旺盛で、茶目っ気のある部分も大きい、という事だ。

 

一つ二つ口に入れて、ジオは嬉しそうに目を細めた。

 

「うむ、確かに。 外はさくさく、中はしっとり。 食感を楽しむことが出来る。 甘すぎず、口にも優しいし、喉も渇かない。 しかも食べると、力が湧いてくるのがよく分かるな。 味も本職のパティシエが作る最高級品ほどではないが、充分に美味い」

 

「包装用のゼッテルも、前よりずっと頑丈になっています。 ただちょっと作るのにコストが掛かるかも知れません。 だから、前のバージョンと、分けて作るのもいいかなって思います」

 

「検討しておこう。 で、だ」

 

早速来たか。

 

わざわざ王が来るくらいだ。

 

或いは、アストリッドが、血相を変えて出て行ったのと、同じ件かも知れない。

 

「すまぬが、出来るだけ急いで準備をしてくれ。 これからオルトガラクセンに潜る」

 

「オルトガラクセン……」

 

ロロナにとっては、ついに来るべき時が来たか。

 

行かなければならない場所ではあった。

 

研究が終わったら、事実向かうつもりでもあったのだ。

 

しかし、これほど早く、その時期が来るとは。

 

王は、クーデリアとリオネラも、今回の探索には同行してもらうと言う。出来れば、他にも何名かには来て欲しい。

 

イクセルは、どうだろう。

 

こられるのなら、手伝って欲しい所だけれど。

 

「ホムンクルスの三個部隊が同行する。 君の方でも、増援を手配するなら、早めにして貰えるか」

 

「わかりました。 すぐに」

 

どのみち、拒否権は無いのだ。

 

それに、義務もある。

 

ロロナは、あまり自覚は無いが。この間、スニーシュツルムの撃破に、大きな功績を残した。

 

この結果、ドラゴンスレイヤーとして認められたのだ。

 

ドラゴンスレイヤーとして認められると、戦士としての格が上がる。だが、これは必ずしも、良いことばかりでは無い。

 

メリットとしては、危険地帯に入ることが許されるようになるし、戦闘系の任務をこなすと、国から特別金が支給される。この特別金はかなりの高額で、危険任務をこなすことで、屋敷を建てることも夢では無い。ただし国から指定される危険任務は、相当な強力モンスターとの戦いを始め、ベテラン以上の実力を持つ戦士でも、命の危険にさらされるものばかりだ。

 

更には、配偶者を複数得る事も可能だ。現在、国の重鎮となっている戦士の中には、この制度を利用してたくさんの子供を設けている者もいる。クーデリアの父であるフォイエルバッハ公爵が、その代表例だろう。必ずしも優れた戦士の子供が優れた戦士になるわけではないのだけれど。やはり、優れた素質を持つ子供が出来る可能性は、それなりにあるようだった。

 

一方で、デメリットも大きい。

 

まずは、国から任務が来た場合、断れない。

 

国から重要戦力として認められたわけだから、当然である。ある意味、一種の公務員として、強制登録されるに等しい。

 

もっとも、ロロナの場合。

 

そうなるずっと前から、いろいろな意味で公務員も同然だったので、あまり関係は無い。

 

更に老後は、若い戦士達に、自分の技を全て教え込まなければならない。書物にして、戦歴や技術を残す義務もある。

 

こうすることでアーランドは、戦士の技と質を保ってきたのだから、当然だとは言えるけれど。

 

今後の手間を考えると、ロロナは喜んでばかりもいられなかった。

 

まず、イクセルを探しに行く。

 

サンライズ食堂の前で、イクセルは大きくため息をついていた。掃除を続けているのだが。

 

これは、吐瀉物をぶちまけられたらしい。

 

おがくずをまず撒いて、それから掃除する。後は、芳香剤などで臭いを消す。見かねて、ロロナも手伝う。丁度良い消臭剤があったので、持ってくる。

 

お酒をだす店であるから、どうしてもこういうトラブルは必ず起きる。それにこの疲弊した様子。

 

ひょっとして、ティファナが来たのか。

 

あの人は普段はとても上品な女性だが、酒が入ると人格が一変する。しかも悪いときには昼間から飲み始めるので、周囲の被害者は数知れない。

 

ロロナも何度か巻き込まれたことがある。しかもあの人は魔術師としてかなりの強者であり、戦闘経験も豊富で、下手に逆らえない。だから随分怖い思いもした。

 

「イクセくん、大変だね」

 

「ああ、まあ慣れっこだからな」

 

「今、忙しい?」

 

「採取か、いやその様子だと、戦闘主体か?」

 

頷く。

 

イクセルも自分で努力して技を磨いている。

 

スニーシュツルム戦の後、何度か採取地に同行してもらったのだけれど。技はかなり向上していて、充分に自分を守りきれる。

 

ただ、今回は手数がいくらでも必要な状態だ。

 

正直、来られる人はみんな来て欲しいというのが、素直なところである。出来ればタントリスにも来て欲しいのだけれど。大臣の仕事を覚えるのが忙しいと言っていたから、難しいか。

 

「良いぜ。 俺も煮詰まってた所だし」

 

「新作料理が出来ないの?」

 

「そんなところだ」

 

どんなに美味しい料理を出していても、一本じゃ飽きられる。そう、無念そうにイクセルは言うのだった。

 

確かに彼が言うように、料理は非常に厳しい世界なのかも知れない。

 

腕をどれだけ磨いても、お客様はいつも来てくれるとは限らないのだ。次々に新しい料理も求められる。どんなに苦労して新しい料理を造り出しても、相手の舌にあわなければそれまでだ。

 

「お前の錬金術は、娯楽とは違うからな。 いいものをつくれば、それがずっと金になるから、羨ましいよ。 俺ら料理人はどうしても娯楽産業だから、どうしてもお客の飽きが怖い。 何とか、誰も飽きない料理を作りたいぜ」

 

「でも、サンライズ食堂、儲かってるよ」

 

「そんなもうけなんて、客に飽きられたら一瞬で終わりだよ。 まあ、今は俺以外にも店員がいるし、しばらくはどうにかなりそうだけどな」

 

掃除を終えると、イクセルと待ち合わせについて決める。

 

その後、タントリスの様子を見に行ったが。彼は今回も忙しくて、出てこられないという事だった。

 

こればかりは、仕方ない。

 

タントリスは、父であるメリオダス大臣と、和解に成功したのだ。今でもメリオダスは口うるさくタントリスに文句を言うそうなのだけれど。タントリスは、その口うるささが、愛情から来ている事を知っている。

 

それならば、タントリスを邪魔してはいけない。

 

少し戦力が削られるけど、今回は我慢だ。あのジオ王が一緒に来てくれるのだし、余程の戦力がこなければ大丈夫な筈。

 

ただ、それでも、念には念だ。

 

アトリエに戻った後、荷車に物資を詰め込む。

 

新しい耐久糧食を一として、発破の類もできる限りたくさん。最悪、ドラゴンレベルの相手との交戦も予想しなければ危ない。

 

何しろこの間は、ドラゴンが二体も姿を見せたのだ。

 

少し悩んだ後、試作中の道具も荷車に積む。

 

神速自在帯は、研究の合間に調べて、何カ所か改良を加えた。しかしそれでも、使えば疲弊が酷い事には変わらない。

 

ブレイブマスクもそうだ。

 

今は若いからいいけれど。もう何年か経過してから同じように使ったら、一気に体を壊してしまう可能性もある。

 

前に比べると、フィードバックダメージは抑えられている。多分、一度の戦闘で、二回までは使えるようになった。

 

しかし、それでも危険なことに代わりは無い。

 

他にも、幾つか道具は持っていく。

 

イクセル用にと思って、一つ積み込んだ。前衛で戦ってもらうのなら、必要だと思ったのだ。

 

それは、鎖に吊された、金色のメダルである。首から掛けて使う。

 

英雄のメダルという。

 

何代か前の、不死と言われたほど頑強だったアーランド王が身につけていたものだ。ブレイブマスクに似ているが、これはオート発動する所が違っている。つまり、使い手が死にかけたとき、一気に蘇生させるのだ。

 

勿論、体を二つにされてしまうような事になったら、どうしようもない。

 

ただ、何かしらのダメージで心臓麻痺でも起こした場合には、取り返しがきく。元々頑強なアーランド人だ。すぐに蘇生すれば、ほぼ後遺症も残らない。イクセルも、相応に修練をつんだアーランド人だ。これを付けていれば、かなりの危険を防げるだろう。

 

しかも英雄のメダルには、薄いけれど魔術防御の膜が掛かるように、自動で設定もしてある。

 

自動蘇生と、魔術防御。

 

これに加えて、本人の頑強極まりない体。

 

これが、不死の秘密だ。

 

参考資料でそれを見つけて、作って見た。おそらく蘇生には相当な負担が掛かるだろう。心配だけれど。

 

使うのは、イクセルに任せることにする。

 

荷車の準備を終えた頃、クーデリアが来る。

 

リオネラも一緒だ。

 

「もう、出られるかしら」

 

「うん。 オルトガラクセンに入るのは、大丈夫、なんだね」

 

「平気よ……」

 

クーデリアの声は、歯切れが悪い。

 

先ほど王と話したけれど、今回の探索では、特定のポイントへの到達だけが目標になるという。

 

探索目標日数は、七日。

 

それならば、戻ってから、改良作業を進められる。

 

湧き水の杯の改良が完成できれば、ロロナとしては今回の課題を安心して終えられる。時間的には、間に合うはずだ。

 

リオネラは心配そうに、ロロナの腰にある神速自在帯を見ていた。

 

クーデリアも、ためらいなくブレイブマスクを背負う。ブレイブマスクは、魔術的な方法で、使用者の意思と直結している。使おう。そう思えば、超再生力が解放される仕組みである。

 

これはロロナの神速自在帯も同じ。

 

いずれ、フィードバックを抑えたバージョンを作れば。戦場の歴史が変わるはずだ。

 

三人で連れ立って、街の南へ。

 

此方の門から出るのは、久方ぶりだ。確かこの間、荒れ地の開発の締めが行われたとかで、後は栄養剤を投入しなくても大丈夫と言われた。それ以来、南には足を運んでいないのである。

 

城門で、イクセルと王が待っていた。

 

それに、ホムンクルスが十二名。いずれもが、ホムと同年代の女の子に見える。その中の一人は、何度か見た事がある。

 

挨拶をすると、向こうも流ちょうな言葉遣いで返してきた。

 

「貴方と任務を同じくするのは、これが初めてですね。 パラケルススと申します。 以降よろしく」

 

「うん。 よろしくね」

 

非常に聡明な目をしている子で、話していて不安感が無い。

 

ただ、他のホムンクルスの子達は、皆無表情だったり、感情が希薄だったりするようだ。みんなとても可愛いのに、服装も目立たない、アーランド人が標準的に来ている麻服ばかり。

 

流石に、戦場にスーツでは出かけないか。

 

彼らの中の二名が、荷駄を担当するらしい。更に二名が、護衛につくそうだ。つまり、一隊が完全に後方支援となる態勢である。

 

ロロナの荷車も任せる。

 

エンチャントで軽く扱いやすくしているけれど。それでも、専門の護衛がついてくれるのは嬉しい。

 

イクセルは、かなり頑丈そうなフライパンを持ってきた。

 

道すがら、英雄のメダルについて説明する。頷いて聞いていたイクセルだが。ためらいなく、身につけた。

 

「死にかけたら、自動で発動するんだな」

 

「うん。 でも反動も酷いと思うから、無理はしたら駄目だよ」

 

「わーってるって。 ……そうだな。 これくらいの道具が必要な場所だって事だよな」

 

以降、会話は無くなる。

 

クーデリアが、銃をチェックしている。新しい銃を、彼女は今回、二丁も持ってきていた。

 

雷鳴に言われて、銃器も変えたのだそうだ。

 

以前、武器屋の親父さんと話しているのをみたけれど。かなり大型の、強力な銃器を持っていているらしい。

 

弾速は、以前より遙かに上がっている。

 

この状態で、あの超加速射撃をぶっ放せば、殆どの相手はひとたまりも無いだろう。

 

それに、以前からクーデリアが愛用していた銃は痛みが酷かった。手だけではなく、銃にも負担が大きいのは目に見えていたし、仕方が無い。

 

オルトガ遺跡が、見えてくる。

 

巡回の戦士達が、時々王に敬礼をしていた。

 

彼方此方に、巡回班や、討伐隊が出かけているのともすれ違う。帰ってきている戦士達も、皆傷ついているようだった。

 

王様が、ロロナを誘いに来たのは。きっと手が足りないから。

 

それはわかっていたけれど。

 

状況は、予想していたより、遙かに悪かったかも知れない。

 

 

 

オルトガラクセン。オルトガ遺跡の内部に広がる、巨大な空間。いわゆるダンジョンである。

 

かって此処から、アーランドを発展させた錬金術師が、無数の文明を持ちだした。そして、その文明の力が、アーランドに工場を作り、民の生活を豊かにした。アーランド人は暴虐なる蛮族から脱皮して。今では、凶猛なる戦士の一族となっている。残虐なだけの一族が、誇り高い戦士へと変わるには。やはり、ある程度の豊かな生活が必要だったのだ。

 

それはアーランドの、誰もが知る歴史。

 

そのオルトガラクセンに入る方法は、幾つかある。その中で、ロロナが知っているのは二つ。

 

一つは、かってのロロナやクーデリアがそうしたように。オルトガ遺跡の上部にある割れ目や穴などから、落ちること。

 

この場合、まず助かることは無い。

 

もう一つは、国が管理している幾つかの入り口から、堂々と入る事だ。

 

ロロナは入るために必要な身分証を、以前受け取っている。

 

入り口で警備に当たっていたのは、ロロナの父だ。普段はいい加減に過ごしている事も多い父だが、戦士としては一流である事は、ロロナも知るところ。仕事場にいる今は、当然戦士の顔になっていた。

 

身分証を見せると、父はあまりいい顔をしなかった。

 

「ロロナ。 此処がどれだけ危ない場所かはわかっているな」

 

「うん。 わかってる」

 

「良いか、絶対に油断するな。 何があっても、必ず疑ってかかれ。 此処にいるモンスターは、アーランド人でさえ死を覚悟しなければならないほどの化け物揃いだ。 油断したら、俺でも危ない。 忘れるなよ」

 

父は、何度もロロナの肩を叩いて、そう言う。

 

わかっている。

 

父は、ロロナがここに入るのには、本当は反対なのだろう。ジオ王が咳払いすると、口惜しそうに、父は離れた。

 

そして、敬礼する。

 

ホムンクルスの部隊が、一斉に敬礼を返した。

 

入り口と言っても、オルトガ遺跡に開いている大きな穴だ。かって、錬金術師が開けたものとも、内部のモンスターがこじ開けたものだとも言われている。

 

ジオ王は慣れているらしく、平然と足を踏み入れる。

 

ロロナも、それに続いた。

 

まるで獣の口のような入り口を抜けると、内部は薄暗いながらも光がある。ずっと下に向けて、通路のような、スロープのようなものが伸びていた。

 

壁が、発光している。

 

二部隊のホムンクルス達は、綺麗な魚鱗陣を作って、王の周囲を固めていた。王のすぐ脇に、パラケルススという指揮官らしい子が。その後ろに、ロロナ達が固まって、少しずつスロープを降りていく。

 

彼方此方に、案内板のようなものがある。

 

アーランドの言葉で書かれている所から見て、後から入った調査部隊によるものだろう。地図が書かれていたり、何処に罠があると記されていたり。

 

「この辺りには、モンスターはいないんですか?」

 

「いる」

 

王は即答。

 

話によると、この辺りの階層も、あらかた調べられているとは言え。脇道にそれたり、細い通路に入ると、まだまだ未踏破の部分があると言う。

 

そういう所には、モンスターが住み着いているとか。

 

しかも、その面子が尋常では無い。

 

「グリフォンの上位種に、精神を病んだ悪魔、それに兎」

 

「!」

 

当然のことだが。

 

最強とも言われる凶暴なぷにぷにの仲間、うさぷにもいると言うことだろう。あれはベテランのアーランド戦士に匹敵するとさえ言われる凶猛なモンスター。出来れば、遭遇はしたくない。

 

「とにかく、はぐれるなよ。 はぐれた場合、助けることはまず無理だ」

 

王の言葉は、脅しでは無い。

 

事実、壁や床には、血痕がある。

 

人間のものだったり、そうではないものだったり。つまり、それだけ激しく、日常的に戦いが行われている、という事だ。

 

しばらく、無言でひたすらに地下へ地下へと降りていく。

 

途中、光る柱みたいなものがあった。

 

「これはポータルと言ってな。 テレポートを機械的に行う装置だ」

 

王に言われるまま、柱に入る。全員が入るのに、充分な大きさがある光の柱。

 

気がつくと、別の場所にいた。

 

周囲の様子も一変している。

 

遠くで、モンスターの咆哮が上がっている。この辺りもまだ制圧下にあると王は言うけれど。

 

それでも、はぐれたら、ひとたまりも無さそうだ。

 

また、黙々と通路を下りはじめる。

 

巡回班が前から来た。

 

八人一組の編成で、みな見た事がある有名な戦士ばかりである。これくらいの戦力で無いと、危なくてここには来られない、という事だ。王が軽く話してから、すぐに状況を説明してくれた。

 

「あまり状況は良くないな。 巡回班が、戦闘を何度もしている。 普段ならば、人間の制圧地域に、モンスターが出る事はほぼ無いのだが。 しかもこの浅い階層で、だ」

 

「此処は、そんなに浅いんですか?」

 

「まだ第4層だ。 これから向かうのは、第16層。 相当にモンスターが活性化していると見て良いだろう」

 

これは、一週間では、戻れないかも知れない。

 

だが、念のためにも、食糧は大量に持ち込んでいる。飢えることだけはないのが救いだろうか。

 

 

 

第8層に到着。

 

周囲の血の臭いが、露骨に濃くなりはじめていた。

 

クーデリアは既に臨戦態勢に入っている。辺りには、此方をうかがう気配の数々。王が、呻くように言った。

 

「これはまた、掃除をし直さなければならんな。 しばらく巡回だけで大丈夫だったのだが」

 

通路は広い。

 

それこそ、アーランドの大通りが、まるまる入ってしまうほどに。

 

だからこそ、巨大なモンスターも、悠然と歩いて来る。

 

真正面から来たのは、数体のベヒモス。いずれもが成体で、皆殺意に目を煮えたぎらせていた。

 

更にその足下には、随伴するかのように、小型のモンスター達。

 

小型と言っても、いずれもが凶暴なモンスターばかりだ。ウォルフがいるが、外にいる者の数倍の体躯を持ち、全身が真っ黒である。以前交戦したファングよりは小さいが、かなり威圧感が大きい。

 

他にも、様々なモンスターが、ひしめくように迫ってきていた。

 

ホムンクルス達が、ポータルを背後に、綺麗な陣形を組む。

 

剣を抜いたパラケルススが前に出た。ジオ王と並んで、陣の外に出る。

 

見ると、パラケルススは、魔術が掛かった道具を幾つも身につけている。あれはどれも国宝級の道具の筈。

 

つまり、何度かの戦いで。重鎮並の実力を持っていると判断されて、装備を渡されているという事だ。

 

「私とパラケルススで、可能な限り敵の数を削る。 君達は陣形の維持に務めてくれるかな」

 

「わかりましたっ!」

 

なるほど、此方に来ている敵戦力を削りきってから、進む訳か。

 

ロロナが頷くと、残像を残し、二人が消える。

 

そして、殺戮の宴が始まった。

 

ジオ王の無数の残像が出現し、それが消える度にモンスターの体が斬り伏せられ、消し飛ぶ。

 

パラケルススは直線的に敵の中に飛び込むと、当たるを幸いに斬り伏せはじめた。

 

陣形を組んだままのホムンクルス達は、人形のように微動だにしない。

 

右往左往するベヒモスの足が輪切りにされ、巨体が横転して壁に激突。血をまき散らしながら倒れる。しかも、倒れたときには、首が胴と離れていた。

 

強い。

 

いや、強いなんて次元じゃ無い。滅茶苦茶だ。

 

だが、それでも多勢に無勢。

 

甲高い声を上げて、アードラの変種が、殺戮の嵐を抜けた。そのまま、此方に飛んでくる。

 

それを皮切りに、ぽつぽつと、小物のモンスターが、血と斬撃の嵐を縫って、此方に迫り来る。

 

無言で動いたクーデリアが、先頭の鳥を撃ちおとす。顔面に、神がかった技で、数発のスリープショットを浴びせたのだ。

 

地面に激突した鳥を踏みしだいて、迫ってきた複数のウォルフ。怒濤のごとく迫ってくる。クーデリアが水平射撃を浴びせるが、徐々に前線との距離が迫ってくる。

 

「第一波、来るわ」

 

弾丸の再装填をしながら、クーデリアが淡々と言う。

 

どっと、押し寄せてくるモンスター達。

 

炸裂。

 

爆炎が、彼らの肉体を引きちぎり、焼き払った。

 

ロロナが、タイミングを合わせて、発破を放ったのだ。以前のフラムとは、火力も破壊力も段違いになっている。

 

だが、爆炎を蹴散らすようにして、すぐに次のモンスターが姿を見せる。

 

槍を揃えて、ホムンクルス達が迎撃。

 

クーデリアも弾丸を再装填すると、次々と敵を打ち抜く。当たって、効くかはどうでもいい。一瞬でも動きが止まれば、それで良い。

 

ロロナが腰だめして、砲撃を連続して敵に叩き込む。吹っ飛んだモンスターだが、仲間の苦境など気にもせず、次々に新手が来る。

 

ホムンクルス達のフェンスは崩れず、迫る敵を確実に処理していくが。

 

敵の数が徐々に増えているので、ひやりとさせられる。

 

また発破を投げる。爆裂。

 

通路に、血と肉がぶちまけられる。イクセルが、時々、ロロナを見てくる。

 

「大丈夫なのか。 俺も前線に」

 

「もう少し、待って」

 

不意に、敵陣から虹色の光が飛来。

 

だが、既にこの時に備えて、リオネラが自動防御を展開済み。虹色の光がはじき返される。魔術を使うのもいるか。

 

ひっきりなしに押し寄せてくるモンスターの群れ。

 

ロロナも既に十回以上弱威力の砲撃を浴びせてきているが、モンスター単体の能力がそれぞれ高いので、あまり手加減もしていられない。場合によっては撤退も考えなければならない。

 

雑魚を蹴散らすようにして、大きいのが来た。

 

四つん這いで、雄叫びを上げながら、此方に突進してくる。熊に似ているモンスターだ。あれは、真正面から受けると、危ないかも知れない。形は熊に似ているけれど、足は横から出ている。本当は、違う生き物なのだろう。

 

クーデリアが、ホムンクルス達のフェンスを抜ける。

 

そして、熊の顔面に、蹴りを叩き込んでいた。更に頭を踏みつけながら上空に飛び、火焔弾を十数発叩き込む。

 

火だるまになった熊が竿立ちになり、滅茶苦茶に腕を振り回す。着地したクーデリアを見つけ、雄叫びを上げる。

 

だが、その横っ腹に。

 

詠唱を終えたロロナが、大威力の砲撃を叩き込んでいた。

 

子供がオモチャを投げるように吹っ飛んだ熊が、遙か向こうの壁にぶつかり、紅い染みになる。

 

汗を拭う。

 

モンスターが、不意に途切れた。

 

此方に、ジオとパラケルススが戻ってくる。

 

パラケルススは少し返り血を浴びていたが。ジオ王は、まるで疲れている様子が無く、返り血も一切浴びていなかった。

 

「損害は」

 

「ありません。 武器などの損傷も軽微です」

 

「一旦休憩。 回復後、探索に戻ります」

 

パラケルススが言うと、ホムンクルス達はその場に座って、休みはじめた。休むときまで、一矢も乱れない。

 

凄まじい血の臭いが辺りには充満していたけれど。これくらいで音を上げるものは、此処にはいない。すぐに荷車から耐久糧食を出して、皆に配る。クーデリアは黙々と食べ始めた。手の様子は、見た感じ大丈夫か。

 

皆の状態を確認し終えると、やっとロロナは一息つくことが出来た。

 

というよりも、一息つかされる。

 

リオネラが、じっと厳しい目で見ていたからだ。休まなければ、怒られてしまう。ジオが隣に座った。黙々と、耐久糧食を口にしている。

 

「この先は、更に厳しくなるとみて良いだろう」

 

「前から、こんなに恐ろしい場所だったんですか?」

 

「いや、これは異常だ。 恐らくは、モンスター共が活性化しているのだろう。 援軍を呼んだ方が良いかも知れん」

 

勿論援軍を呼ぶと言っても、この有様では一度戻るしか無いだろう。

 

そう思ったのだが。

 

ジオ王は、ホムンクルスを二体呼ぶと、壁際にある小さなポータルを指さした。

 

「封印解除を許可する。 それを用いて、地上に援軍を呼びに行け。 ホムンクルスを最低でも二隊だ。 出来れば四隊。 急げ」

 

無言で頷くと、ホムンクルス達はポータルに入り、なにやら操作しはじめた。

 

その姿が、消える。

 

ジオ王が説明してくれる。あれは、地上への一方通行の通路として、利用できるのだと。ならば、任せてしまうのが一番だろう。

 

しばらく、そのまま休む。

 

こういった空間でも、虫の類はいるらしい。死んだモンスターに、死肉を漁る虫たちが群がりはじめる。

 

ひんやりした空気でも、肉は腐り始める。

 

そうすると、腐った肉を食べる虫たちには、ごちそうになるのだ。

 

こういった光景は、決しておぞましいものではない。ロロナ達には、見慣れたものだ。腐った肉を分解する虫たちがいて、やがては肥料になって行く。自然の摂理であり、目を背けるべきものではない。

 

「地図がはっきり分かっている事だけが、救いだな」

 

王が指示すると、パラケルススが荷駄から地図を出してくる。

 

パラケルススが、綺麗な。そう、鈴が鳴るようなとでも表現するべき声で、説明をはじめた。

 

見ると、このオルトガラクセンは、必ずしも物理的につながっている空間ではないのだという。

 

階層ごとはポータルでつながっていて、その気になれば一気に16層まで行けるそうなのだけれど。

 

それをしないのは、状況確認のためだ。

 

最悪、16層まで行かなくても良い可能性があるという事だけれど。最悪の事態に備えておいた方が良いだろうなと、ロロナは思った。

 

新手のモンスターは現れない。時々鼠が肉片をくわえて走り去ったり、小さな鳥が来て死肉をついばんでいたけれど、それくらいだ。

 

ひょっとして此処は。

 

地下では無いのだろうか。

 

いや、それは流石に無いだろう。

 

ポータルが光り、先ほどの二人に加えて、八名のホムンクルスが現れた。一人は書状をもっていて、ジオ王がそれを読んで舌打ちした。多分、増援を二隊しか送れない理由が記されているのだろう。

 

普段は毅然とした行動を取る王が、舌打ちする位なのだ。余程のことがあったのだとみて良い。それくらいは、ロロナにだって判断がつく。

 

「そろそろ良いだろう。 先へ進むぞ」

 

機嫌が悪そうな王に、周りがびくびくしている。クーデリアは平然としていたが、彼女は元から怖い物知らずだ。

 

ロロナも埃を払うと立ち上がる。

 

このまま、まずは9層を目指すという。

 

この様子では、激しい戦闘が今後も続くことは、間違いない。

 

だが、不思議と怖くないのは、何故だろう。

 

 

 

11層に入った頃には、辺りは闇そのものという有様になっていた。相変わらず機械で作られた壁と床。それに天井。それなのに、此処が人間の場所ではないと、五感の全てが告げてくるのである。

 

機械は、かっての文明の名残だというのに。

 

今では、威圧感と恐怖しか造り出さない。そんな馬鹿な事があるかと、昔の人は一笑に付すかも知れないけれど。

 

事実、過去の地獄をくぐり抜けたアーランド人であるロロナでさえ、そう感じるほどだ。パメラから聞いた、悲惨極まりない過去の物語を越えて。人類が立ち上がったとき。文明は、何か致命的な変質をきたしたのだろうか。

 

わからない。

 

調べてみないと、何とも言えない。

 

襲撃は、ひっきりなしにある。

 

八層ほど大規模な攻撃は今の時点ではないけれど。しかし、ずっとリオネラは気を張っていた。既に負傷者も出始めている。ホムンクルスの何名かは怪我をしていて、時々休憩時にリオネラが回復術を掛けてあげていた。

 

ジオやパラケルススでさえ気配を察しえないほど、巧みに近づいてくるモンスターも、零では無いのだ。

 

今も、リオネラが自動防御を展開していなければ、ホムンクルスが一人さらわれるところだった。

 

天井から無造作に伸びてきた触手の仕業だ。

 

ロロナが天井に砲撃して、叩き落としてみれば。

 

落ちてきたのは、世にもおぞましい、もはや形容しようが無い存在だった。芋虫のようでそうでなく、イソギンチャクのようでありながら違う。四肢があり、目がたくさん体についていて、砲撃を浴びせて焼き払ったにもかかわらず蠢いていた。こんなものの触手に捕らえられたら、どのような目に遭うのか。正直、考えたくも無い。

 

ジオ王が、罠がある場所などを、歩きながら指示してくれる。

 

これらは、事前に調査したときに、見つけたものなのだろう。

 

「この辺りから、あれが見られるな」

 

ぼそりと、王が呟く。

 

あれとは、何だろう。疑問を感じたが、すぐに氷解した。

 

広めの通路に出る。

 

其処には、モンスターはいたが、敵意を此方に向けてこない。むしろ、周囲にある「それ」に触るなよと、警告しているようだった。

 

ベヒモスや、巨大な蛇のモンスターもいる。

 

それなのに、皆同じ反応を見せているのである。

 

しかも、それをとても大事に守っている様子がうかがえる。中には、それをメンテナンスして廻っているモンスターまでいるようだった。蛇のモンスターに到っては、カプセルを己の体で此方から守ろうというそぶりさえ見せている。

 

カプセル状の容器に入った、人間。

 

どの人間も、意識があるようには思えない。

 

死んでいるのか。

 

いや、そうではない。生体魔力が、極めて微弱ながら、感じ取れるのだ。生きた人間が、カプセルに入れられている。

 

これは、一体何なのだろう。

 

息を呑むロロナに、王が声を掛けてくる。

 

「カプセルには触ってはいかんぞ。 一斉に攻撃してくる」

 

「こ、これは……!」

 

「良くは分からんが、アストリッドの話によると、破滅の時代を生き延びるために、眠ることを選んだ古い時代の人間だそうだ。 選択肢としては、ありなのだろう。 今更どうこうしてやろうとも思わないがな」

 

林立するカプセルは、どう見ても数十はある。

 

しかも、この広間を抜けてから、また別の広間で同じ光景を見かけた。

 

息を呑む。

 

一体此処は、何だ。

 

生きている過去の人間がいるなら、一体どういう時代だったのか、話を聞いてみたいというのはある。

 

だが。パメラの話によると、おそらく今の世界には、彼らには猛毒となるなんとかナノマシンが充満している。カプセルから出せば、すぐに死んでしまう事になるだろう。悲しい話だ。

 

モンスター達は、どうしてカプセルの人間を襲わない。

 

ひやりとしたのは。ある仮説が、浮かび上がってきたからだ。背筋に冷や汗が流れるのを、止められない。

 

もしそうだとすれば。

 

不意に、ジオが顔を上げた。

 

「反応が近いな。 皆、備えろ。 おそらく、目的のものはここ11層にある」

 

「防御円陣!」

 

パラケルススが不意に声を張り上げ、ホムンクルス達が一矢も乱れぬ円陣を組む。

 

今まで、迷いなくまっすぐ歩いていたジオが、不意に方向を変える。

 

目的のものとは、何だろう。

 

また、このように、不可解で。見るだけで、過去の事を想起させられて。困らされるものなのだろうか。

 

地図に無い通路に入り込む。

 

ジオが見ているのは何かはわからない。ただ、この先に、何かとんでも無いものがあるのは、確実だ。

 

不意にクーデリアが飛び出して、何か壁から出てきたものを蹴り挙げる。

 

それが光を発して、天井が赤熱するのが見えた。あんなものが直撃したら。そのままクーデリアが、ホムンクルス達に、その何か棒状のものをへし折らせる。

 

スパークを発しながら、へし折れたそれは、動かなくなった。

 

辺りは罠だらけだ。

 

ホムンクルスばかり連れてきた理由がわかった。

 

彼女らは露払い。

 

死んでも代わりが効く人材。

 

ジオ王は冷酷な一面もあるとはわかっていたけれど。

 

唇を噛む。

 

だったら絶対に、ロロナが一人も死なせない。クーデリアをみて、頷く。彼女も、恐らくは、ロロナと意思を同じくしてくれるはずだ。

 

「あぶねえっ!」

 

飛び出したイクセルが、ホムンクルスの一人を抱えて飛び退く。

 

地面から突きだした槍が。一瞬前まで、ホムンクルスがいた地点を貫いていた。勿論、刺されていたら即死だ。

 

リオネラが真っ青になっている。

 

これは、魔術か何かでトラップを掛けられている場所を、絨毯爆撃的に潰して行くに等しい作業だ。

 

イクセルも、今ので脇腹を抉られていた。すぐに傷薬を出して、治癒をはじめる。安全範囲を、少しずつでも拡大していくしか無い。

 

「いってえ。 やられちまったな」

 

「大丈夫。 円陣の内側に入って」

 

「ああ。 すまねえ」

 

諸肌を脱いで座ったイクセルに包帯を巻いて、手当終了。

 

後は回復を待つ。イクセルもアーランド人だし、数刻も休めば戦えるようになるだろう。今、イクセルに救われたホムンクルスが、ぺこりと一礼。

 

「有り難うございます」

 

「良いって事よ。 だが、もっと命は大事にしろよな」

 

それは、ホムンクルスには、残酷な言葉かも知れない。ロロナはうつむいたまま、その言葉を聞いていた。

 

ロロナだって、同類なのだ。

 

だから、無駄に命が散っていくのは、見過ごせない。

 

「イクセくん、ありがと。 これ、食べておいて」

 

「ああ。 何だかこんな風にしか役に立てなくて、すまねえな」

 

「ううん、うれしいよ」

 

イクセルが、耐久糧食を口に放り込むと、そうかと言って視線をそらした。

 

休憩は、そう多くも取っていられない。彼方此方にある罠を、片端から潰しながら進んでいく。

 

大がかりな罠もある。

 

中には変なガスを噴き出すようなものもあったけれど。ロロナ達には、何でも無かった。多分毒ガスで、過去の時代に生きていた人間には、致命的な代物だったのだろう。

 

壁に、妙な印がある。

 

「待って」

 

クーデリアが、全員を制止。

 

床の材質が変わっている。ひょっとして、これは。

 

パラケルススが前に出た。ジオは動かず、そのまま様子を見ている。

 

不意に、床がせり上がってくる。更に、天井が落ちてくる。パラケルススが、さっと走り出して、押し潰されるのを避けた。

 

ぐしゃりと、凄まじい音が響き渡る。

 

危なかった。そのまま進み出ていたら、何人かはぺしゃんこだっただろう。

 

床の何カ所かが、踏むとトラップを起動させるようだ。何度かパラケルススが実験して確認。

 

さっさと、全員で危険地域を乗り越える。

 

ジオが言うには、もう少しで、到達できるという。しかし、この階層になると、地図が出来ていない場所も多いのだとか。

 

それに、奥から、強い気配がある。

 

多分、何かもの凄いのがいる。

 

通路が複雑に分岐していても、ジオ王は躊躇わずに、行く方向を指示。少し気になったので、聞いてみる。

 

「あの、そろそろ、今回の目的について、教えて貰えませんか?」

 

「ふむ。 そうだな」

 

パラケルススが先に出て、地面の様子を確認。

 

案の定、踏むと爆発する罠がたくさん仕掛けられていた。残像を残して飛び回りながら、爆発物を片付けていくパラケルスス。

 

更に、先ほど光線を放った棒状の罠がたくさん出てくる。

 

クーデリアが即応して、片端から撃ち壊す。更にリオネラが自動防御を展開。無数の紅い光が突き刺さってくるが、充分に余裕をもって防ぎきっていた。

 

間もなく、罠の全てが沈黙。

 

パラケルススは、負傷を少ししているようだった。すぐに手当をする。

 

通路に満ちていた粉塵が収まってきたが。

 

その向こうには、まだ何も見えない。

 

「この先に、スピア連邦が、余計な事をしたポータルがある。 それをこれより、封鎖しに行く」

 

「余計な事、ですか」

 

何となく、わかってきた。

 

最近、非常に強力なモンスターが、彼方此方で暴れているという話がある。恐らくは、それのことだろう。

 

誰も救援に来ないはずだ。

 

多分、一線級の戦士は、殆どがオルトガラクセンから出払ってしまっているのだろう。普段だったら、モンスターが増えても、彼らが対処するはず。此処までモンスターに好き勝手させているのは、単純に手数が足りないという事だ。

 

「既に場所を特定するための道具と、封鎖の手段はアストリッドに作らせてある。 だから、問題のポータルを見つければ、即座に帰還が可能だ。 後はこの事態を、此処の主が把握しているかどうか、だな」

 

噂には聞いている。

 

オルトガラクセンには、邪神と呼ばれる正体不明の主がいると。

 

ひょっとして、ロロナとクーデリアを殺した彼奴だろうか。それはわからないけれど、いずれ対決しなければならない時が来るかも知れない。

 

オルトガラクセンの調査をしろ。

 

そう言われている以上、可能性は零では無いのだ。

 

煙が晴れてきた。

 

念入りに罠が残っていない事を確認してから、先へ。気配は、強くなる一方だ。この先に、何かとんでも無いものがいる。






ルルアのアトリエでオルトガラクセン他の遺跡の正体は判明しましたが、これはあれが判明する前に書いた作品です。

とはいっても、修正が必要になるほど予想と外れてはいませんでしたが。

あちらは優しい世界の出来事。

こちらはそうではない。それだけです。



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