暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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アトリエシリーズでも頻繁に登場する火竜フランプファイル。実はフラン=プファイルと区切るのが正しく、炎の矢という意味です。

さらには雌です。

特に新ロロナでは一日で狩りにいける(しかも毎日復活する)こともあって、エンドコンテンツの厳しさもあり空いた時間で徹底的に狩り倒した人も多いのではないでしょうか。





3、炎の矢

通路を抜けると、とても広い空間に出た。

 

空が、見える。

 

星空、だろうか。

 

いや、そうとも言い切れない。とにかく、天井は機械では無くて、星屑のような不思議な光を秘めた空間に変わっていた。

 

周囲には、多数の機械。

 

どれもこれもが、埃を被ることもなく。美しいまま、陳列されている。

 

空間は床が整備されていて、何処までも平坦。

 

その中央に、とても目を引く二つのものがあった。

 

一つは、巨大なポータル。

 

あれならば、此処にいる全員が、一度に使う事が出来そうだ。

 

そして、そのポータルを守るようにして。

 

巨大なドラゴンが、体を丸めていた。

 

以前戦った、スニーシュツルムと、よく似た姿をしている。違うのは、その全身が、血のような深紅だと言う事だろうか。

 

以前聞いたのだけれど、ドラゴンは個体がそれぞれ、別種の生物と言って良いほど、姿が違うという。

 

それならば、あの姿は。

 

きっとスニーシュツルムと、同じ悲劇にあった存在なのだろう。

 

或いは、あの二匹のスニーシュツルムのように。

 

「誰かいるな」

 

ジオが剣を抜く。

 

つまり、そのレベルの相手と言う事だ。

 

ドラゴンが鎌首をもたげ、ゆっくりと身を起こす。大きい。以前戦ったスニーシュツルムと比べても、三周りは大きい。

 

勿論、大きさがドラゴンの強さを表すわけでは無いだろうけど。ロロナには見えるのだ。あのドラゴンの身に纏っている、凄まじいまでの灼熱の魔力を。クーデリアもリオネラも、とっくに臨戦態勢に入っている。

 

イクセルも、何度か英雄のメダルを確認していた。

 

ドラゴンの影から、何者かが姿を見せる。まだ若い女性だ。せいぜい二十歳か、その少し上くらい。控えめの化粧と、あまり目立たない服装。顔立ちも、目を引くほど、美しいというわけでは無い。ごくごく平凡な、陰気な印象を受ける人。

 

いや、あの身に纏っている魔力。

 

本当は、若くなど無い。

 

そればかりか、あれは。

 

「レオンハルトの予想通りになったな。 この手の作業をさせて、あの男の右に出る者はおるまい」

 

「以前見かけたな。 貴様は」

 

「スピアの錬金術師、カトリアヌ」

 

「名は聞いているぞ。 スピアの、一なる五人の首領だな」

 

禍々しい笑みを、カトリアヌと呼ばれた女性が浮かべる。あの人は、おそらく。

 

ロロナと同じような存在だ。

 

もう加齢は関係無く、生物の摂理からも反してしまっている。

 

おかしな話だ。錬金術は、世界の摂理の中で、何かをする学問だと聞いているのに。或いは、摂理に反しないように、摂理に反しているのか。ちょっと混乱してきたけれど。あまりまともな存在とはいえないのは、明らかだ。

 

「あれは私が相手をする」

 

「……っ、わかりました」

 

「君達は、あのドラゴンを打ち倒してくれ。 わかってはいるだろうが、ポータルには傷を付けるなよ。 何が起きるかわからん」

 

カトリアヌが、指を鳴らす。

 

広い空間に、ざわりと、殺気が満ちた。

 

あちらからもこちらからも、モンスターが次々に入り込んでくる。どのモンスターも、頭に機械を付けている。スピアが得意な洗脳操作をしたモンスターと言う事か。

 

悪魔もかなりの数がいる。いずれもが、既に頭に機械を付けられてしまって、助かりようもないようだった。

 

ジオが相手をするほどの、超絶的な使い手に。これだけの数のモンスター、それに、強力な力を持っているドラゴン。

 

更に、だ。

 

ポータルが光ると、モンスターが更に現れる。

 

「さて、遊ぶとしましょうか」

 

カトリアヌの不遜な言葉が終わるか終わらないかの内に、ジオが、仕掛けた。

 

いきなり数十の分身と供に、カトリアヌに斬りかかる。だが、上空に、一瞬早くカトリアヌが逃れていた。

 

ジオの斬撃をかわすことが出来る存在なんて、はじめて見た。

 

何か鳥のようなモンスターに掴まると、カトリアヌが、余裕に満ちた笑みを浮かべる。

 

同時に、多数のモンスターが、凄まじい勢いで殺到してきた。

 

 

 

怒濤。迫り来るモンスターは、それ以外に言いようが無い。単体がそれぞれ強い上に、頭の中を殺気だけにしている。戦う他に、路は無い。

 

ホムンクルス達に任せるしか無いが、それにしても。

 

パラケルススが、剣を抜いて前に出る。

 

「路を作ります。 あのドラゴンを放置すると、ブレスが危険です。 可能な限り、短時間で仕留めてください」

 

数体のモンスターが、見る間に切り裂かれて、真っ二つになる。

 

ロロナは頷くと、荷車から取り出した発破を、ありったけ辺りに放り投げた。大爆発。連鎖する炎の花。クーデリアが、声を張り上げた。

 

「ファランクス! 突貫っ!」

 

ホムンクルス達が密集体型を造り、一斉に突撃を開始する。

 

全員で一丸となって敵をぶち破り、あのドラゴンが好き勝手に暴れる前に仕留める。

 

ふと気付くと、クーデリアがいない。

 

なるほど、そう言うことか。ならば、ロロナは、作戦通り動けば良い。

 

ドラゴンが翼を広げる。

 

その口の中に、殺戮の光が宿りはじめる。

 

ロロナが間髪入れず、砲撃。

 

ドラゴンがブレスを放つのと、同時。

 

中間地点で、二つの光がぶつかり合い、凄まじい熱と破壊音をまき散らしながら、収束していく。

 

力が、弾きあう。

 

爆発が、広場の色を、全てかき消した。

 

モンスターの群れを、無理矢理に突破しながら、ロロナは見る。

 

既に、ドラゴンの至近に、クーデリアが潜り込んでいた。尻尾が振るわれ、小さな戦士を叩き潰しに掛かる。だが、クーデリアの目的は、あくまでドラゴンの注意を引くこと。リオネラと、頷きあう。

 

左右のファランクスは、敵の突撃を確実に防いでくれている。しかし数が数だ。ロロナは何度も砲撃を加えながら、確実にドラゴンへの間合いを詰めていく。頭上では、ジオが訳が分からない次元の戦いを繰り広げていた。時々閃光が走るようにして、二人の超人がぶつかり合っている。

 

既に五十に達している筈のジオは、考えられないほどの戦闘経験を積み上げているはず。カトリアヌというあのスピアの錬金術師、互角に戦えると言う事は、余程能力を滅茶苦茶にあげている、という事なのだろう。どうやっているのだろうか。

 

クーデリアの放つ火焔弾が、ドラゴンの視界を塞ぐ。

 

面倒くさくなってきたらしく、ドラゴンが一気に息を吸い込んだ。

 

「りおちゃん!」

 

ロロナも、叫ぶと詠唱を開始。

 

あのドラゴン、やはり戦闘経験はあまり大きくない。連射しながら、クーデリアが下がる。そして、思い切り、モンスターの死体を踏んづけて転んだ。

 

其処へ、ドラゴンが。

 

己の防御力を誇るように、地面に全力でのブレスを叩き込んだ。

 

爆炎が、広間を蹂躙し尽くす。

 

膨大な火焔が、辺りを徹底的に破壊していった。

 

ロロナが顔を上げる。

 

リオネラが、冷や汗を掻いているのがわかった。

 

自動防御で、今の全力ブレスを耐え抜いた。

 

勿論、身につけているグナーデリングの身体強化があっての事だ。それに、今の一撃で。

 

広場に満ちていたモンスターの半数以上が、消し飛んでいた。

 

燃え上がった死体の山。

 

既に炭になっている死体も多い。炎に焦がされ、死にきれぬモンスターを見かねて、ロロナが火を付けたフラムを叩き込む。爆発の中、粉々に消し飛ぶ影を見て、ロロナは唇を噛んだ。

 

リオネラの消耗は大きい。

 

だが、これで一気に道は開けた。

 

クーデリアはと言うと、ドラゴンの頭上。わざと転んで、ブレスによる同士討ちを誘った彼女は、行きがけの駄賃にとドラゴンの頭を踏みつけ、至近距離から十発以上、スリープショットを叩き込む。

 

してやられた。

 

それにドラゴンが気付いたときには、もうロロナは至近。

 

そして、詠唱も終えていた。

 

真下から、顎を突き上げるようにして、大威力の砲撃。クーデリアが飛び退くのと、砲撃が直撃するのは、同時だった。

 

防御障壁を張る暇も無い。

 

ドラゴンの体が浮き上がる。

 

ロロナの体が、圧力に押されて沈み込む。モンスターの残党が殺到してくるが、ホムンクルス達がファランクスから防御円陣に切り替え、寄せ付けない。

 

爆発。

 

ドラゴンの絶叫が、とどろき渡った。

 

呼吸を整えながら、残心の構えをとろうとした瞬間。

 

ロロナを抱えて、クーデリアが飛び退く。ドラゴンの足が、今までロロナがいた場所を、踏みつぶしていた。

 

慌てて散開し、下がる。

 

無事、なのか。

 

今の直撃を受けて。煙を斬り破るようにして現れたドラゴンは、無傷とはいかないにしても、充分な継戦能力を残している。

 

更に、その目には怒りが宿り、ロロナをまっすぐ見つめていた。

 

「散開! 残敵を掃討!」

 

クーデリアが叫ぶ。

 

同時に、ドラゴンが吼え猛った。

 

 

 

予想以上のタフネスだ。唸り声を上げながら、突進してくる紅いドラゴンは、何度も弱威力のブレスを放ってくる。左右にステップして避けながら、クーデリアは相手に魔力を込めた弾丸を撃ち込みつつ、下がる。

 

先ほどの砲撃で無傷とはいかなかったとはいえ、決定打にもなっていない。

 

ロロナの魔力は、既にアーランド戦士の中でも最上位層に入るほどなのに。このドラゴンの戦闘力は、尋常では無い。

 

「手伝いましょうか?」

 

残存戦力の掃討をしていたパラケルススが、小耳にささやいてくる。

 

すぐにその場からかき消え、他のモンスターの相手をしている此奴の実力が凄まじいことは、クーデリアも聞いていたが。

 

これはもう何年かすると、エスティやステルクに並ぶのでは無いのか。

 

「ロロナの砲撃だけだと、埒があかないかも知れないわね」

 

ドラゴンが、ロロナにまた、ブレスを叩き付ける。

 

リオネラが自動防御を展開。淡い光の膜が、ブレスをはじき返す。

 

だが、ドラゴンが突貫し、その巨大な前足を降り下ろしていた。自動防御を強引に突破。ロロナがリオネラもろとも、もろに吹っ飛ばされる。

 

クーデリアが走りながら、ドラゴンの顔面に連射。しかし翼を広げて、射線を遮ってくる。

 

急激に学習している。

 

その時。

 

不意に、ドラゴンの頭が沈んだ。

 

死角から仕掛けたイクセルが、頭にフライパンで一撃を叩き込んだのだ。

 

更に、ロロナが幾つかの発破を投げつける。ドラゴンの顔面が凍り付く。頭をふるって氷をはじき飛ばすが、しかし。

 

その間に、ロロナは走って、ドラゴンとの距離を取り直す。

 

これで仕切り直し。

 

そう思った瞬間、事態が悪化。

 

ポータルが光る。

 

そして、また無数のモンスターが、場に姿を見せる。

 

考えて見れば、当然か。ジオ王が、頭上で戦っているあの化け物錬金術師は、本国からいくらでも兵を呼べるという事だ。

 

空に向けて、ドラゴンが叫ぶ。

 

彼奴をどうにかしないと、戦況を変えることは出来ない。そればかりか、じり貧になって行くばかりだろう。

 

背中にある、ブレイブマスクの感触を確認。

 

やるならば、勝負は一瞬。

 

ドラゴンに共通する弱点である、口の中を撃ち貫くしか無い。至近からのロロナの全力砲撃に耐え抜くほどのドラゴンであっても、口の中に致命打を叩き込まれれば、ひとたまりもない筈だ。

 

身を低くすると、加速。

 

一気にドラゴンとの間合いを詰める。

 

ドラゴンの冷たい目が、クーデリアを見た。

 

口に、光が集まっていくのがわかる。鎌首が振り回され。そして。

 

驚くべき事に。

 

ドラゴンは、頭上に向けて、そのブレスを撃ちはなったのだ。

 

そんな行動、見た事も聞いたことも無い。そして、直後。まるで流星雨のごとく、無数の灼熱の光線が、辺りを滅多打ちにし、更に爆裂していた。

 

もはや、増援など関係無いというのか。

 

クーデリアも、爆発に巻き込まれた。

 

凄まじい痛みに、全身が焼け付くようだ。ドラゴンはゆうゆうと、クーデリアに近づいてくる。モンスター共もあらかた巻き込まれたが。今の無茶なブレスで、ホムンクルス達の部隊も、壊滅同然の打撃を受けていた。皆身動きできないようで、地面に叩き付けられて、伸びている。

 

信じがたい戦闘力だ。

 

ドラゴンの横っ面が爆発する。

 

今のを辛くも逃れたイクセルだ。フライパンに魔力を込めて、打撃と同時に爆発させたのだろう。

 

だが、二撃目は無かった。

 

ドラゴンが前足を振るうと、小さな人形のように吹っ飛ばされたイクセルが、壁に叩き付けられたのだ。

 

そのまま動かなくなる。

 

ドラゴンが、ブレスを無造作に叩き込んだのは、ロロナ達へ。

 

リオネラが必死に自動防御を展開していたが、防げたとは思えない。呼吸を整えながら、立ち上がる。

 

やらせるものか。

 

もう一度、あの隕石ブレスを放たれたら終わりだ。

 

今動けるのは、クーデリアだけ。ドラゴンは、受けて立つと言わんばかりに、弱威力のブレスを、横薙ぎに放ってくる。跳躍。当然読んでいたようで、尻尾を振るってきた。

 

此処で、切り札を発動する。

 

尻尾が空を切る。

 

空中機動したクーデリアを見て、ドラゴンが目を細める。

 

雷鳴に言われて開発した技の一つだ。魔力を暴発させる事で、空砲を撃つ。それにより、空中機動を実現する。そう器用には動けないが、奇襲には充分。空中で弾丸を再装填し、ドラゴンの頭上へ。面倒くさそうに此方を見たドラゴンの口の中には、既に光が宿っていた。

 

目を閉じて、集中。

 

此処で、超加速射撃を。

 

ドラゴンが、不意に口を閉じる。

 

そして、にやりと笑ったように見えた。

 

まさか。

 

「そのまさかだ」

 

声が聞こえてきて。クーデリアは横殴りの一撃に、吹っ飛ばされていた。

 

 

 

「くーちゃん!」

 

壁に叩き付けられて、床に転がるクーデリア。ぴくりとも動かない。

 

リオネラは胸に手を当てて、必死に呼吸を整えているが、もういくらも自動防御を展開できないだろう。

 

あの声は、ドラゴンから聞こえてきていた。

 

まさか、あのドラゴンは。人間の言葉を理解するどころか、心まで読むのか。

 

それに、今のは。どうやった。

 

「尻尾を用いて、ソニックブームを起こした。 慣れれば簡単なことだ」

 

ドラゴンが、ゆうゆうと、ロロナの方に来る。

 

イクセルは動ける様子も無い。クーデリアも、倒れたままぴくりともしない。

 

ホムンクルス達も、壊滅状態。生きているかさえわからない。モンスターも全滅しているけれど。

 

増援がいつ来るかもわからないし、ジオだってあの錬金術師相手に、優勢だとは思えなかった。

 

もし、あのドラゴンを倒す方法が、あるとすれば。

 

全身を、床にたたきつけられた痛みが酷い。骨も、何本か折れているはずだ。

 

「ほう。 まだあらがうつもりか」

 

「貴方は何故戦うの? 意識があるのなら、何をされたかは、わかっているんでしょう?」

 

「勿論わかっている。 というよりも、あのような連中に従っているつもりなどない」

 

驚いた。

 

脳を改造されていないのか。

 

それとも、何か理由があるのか。

 

「だったら、戦う理由は」

 

「ある。 私は戦う事が好きだ。 少しは手応えがある相手が来ると聞いていたから、戯れに此処を守ってやっていた」

 

ぞくりと来た。

 

そんな考えは。余裕がある存在だから、抱けるものだ。

 

アーランド人は戦いを好むけれど、だからといって無意味な殺戮はしない。それは、戦士としての誇りを持っているからだ。

 

戦いそのものを楽しむためだけに。こんな事をするなんて。

 

怒りがわき上がってくる。

 

このドラゴンが、上にいる錬金術師に同意した理由が、よく分かった。同じくらい、性根が腐りきっている。

 

「上で戦っている奴は少しは手応えがありそうだが、お前はもういい。 消えろ。 そうすれば、見逃してやる」

 

「わたしは、貴方を見逃せない」

 

「ほう……?」

 

リオネラと頷きあう。

 

やるなら、連携で、一気に倒しきるしか無い。

 

それも、作戦を伝えている暇も、考えている余裕も無い。

 

戦士としての本能のまま、身を動かして、あのおごり高ぶった赤の暴君を仕留めきる。魔力はあまり残されていない。懐から、耐久糧食を取り出して、口に入れる。ほんのわずかな回復だけれど。

 

今は、それでも、心強かった。

 

「そうか、最後の火花を散らすか。 良いだろう、来てみよ! 受けて立ってやろう!」

 

「GO!」

 

それだけを叫ぶと、前に出た。

 

まず、リオネラが仕掛ける。

 

以前の戦いでも見せた、アラーニャとホロホロを融合させた、巨大なぬいぐるみを出現させ、真上からドラゴンへ落とした。立ち上がったドラゴンの背中に、アラーニャが組み付く。面倒くさそうに払いのけようとするドラゴンの顔面に、放ったのはレヘルン。爆発し、顔を凍り付かせた。

 

一瞬で氷が砕かれる。

 

だが、それでいい。

 

走る。前に出る。

 

ドラゴンが尻尾を振るい、アラーニャをはじき飛ばす。視線がそれたその瞬間、動くのはクーデリア。

 

ブレイブマスクの超回復を、ここぞと使ったのだ。

 

そして倒れたまま、超加速射撃。

 

ドラゴンの横っ面が、張り倒される。巨体が揺らぐ。

 

そして其処で、今まで姿を隠していたパラケルススが。ドラゴンの左足に、強烈な斬撃を叩き込んでいた。

 

更に、である。

 

飛来したフライパンが、傷口に突き刺さる。

 

投げたのは、血まみれのイクセルだ。英雄のメダルの蘇生効果で、どうにか息を吹き返したのか。

 

態勢を崩したドラゴン。

 

だが崩しながらも、ブレスを叩き込んでくる。

 

避ける手段など、ない。

 

ロロナが、ブレスに吹っ飛ばされる。

 

しかし、だ。

 

ドラゴンも、完全に横転し、腹を空に晒した。

 

横転したドラゴンは、気付いたはずだ。

 

そのおなかの上に、ロロナが降り立ったことに。

 

流石に驚愕したらしいドラゴンに、ロロナは杖を下に向けながら、言う。全力の魔力砲撃の準備は、既に整っていた。

 

神速自在帯を用いたのだ。

 

「どんなに硬くたって、内臓を押し潰されたら、終わりだよね!」

 

「……っ!」

 

みんな、動いてくれた。

 

考えなくても、ロロナが絶対の好機を作れるように、路を作ってくれた。

 

砲撃を、躊躇う理由など、一つも無い。

 

そのまま、全力で。

 

ロロナの魔力の全てを破壊力と圧力に変え。至近ではなく、零距離から、ドラゴンに叩き込んでいた。

 

空へと吹っ飛ばされるのがわかる。天井に激突。天井があったという事は、あの星空見たいのは何か別のだったのだろう。背中に鋭い痛み。何か、刺さったみたいだけれど。今は、気にしていられない。

 

叫びながら、砲撃の火力を、上げて行く。

 

ドラゴンが、悲鳴を上げながら、もがく。しかし、首筋を抜けざまにパラケルススが斬ったことで、悲鳴が断末魔に変わる。

 

倒れているホムンクルスを担いで、リオネラとパラケルススが退避するのが、見えた。

 

「いっけえええええええええええっ!」

 

ロロナの叫びと供に。

 

傲岸なる赤の暴君の腹と、内臓を押し潰す大爆発が、引き起こされていた。

 

意識を失う。

 

落ちていくのを感じる。

 

きっと、誰かが受け止めてくれる。

 

ロロナは、薄れる意識の中で、そう願っていた。

 

 

 

気がつくと、ジオがロロナを見下ろしていた。何度か咳き込む。凄く苦い。血の味と言うよりも、体液の味だろうか。

 

背中に刺さったとがった何かは、おなかにまで抜けていたそうだ。急所を貫いてはいなかったから、致命打にはならなかったけれど。

 

受け止めてくれたのは、クーデリアらしい。

 

手の傷は。思ったほど、酷くはないようだった。短時間で、雷鳴の所で、必死に改良した成果が出たのだろう。ただ。それでも、血だらけだったが。

 

青ざめた顔で、リオネラが回復術を掛けてくれている。

 

さっきまで、危ない状態だったのだと、リオネラは涙声で言う。しかし、どうしてだろう。

 

その割りには、何だか体の中が、それほど酷くはないような気がするのだ。

 

回復も、予想以上に早い。

 

「あの、人は……」

 

「形勢不利とみて逃亡した。 ポータルの中にな。 既にポータルは、アストリッドから提供された道具を使って封鎖。 転送の仕組みそのものを破壊した。 これで、スピアからモンスターが、アーランドに直接転送されることはない筈だ。 だが……」

 

ジオは、此処にいる邪神に、落とし前を付けなければならないと言う。

 

乾いた笑いが漏れた。

 

戦いは、後にして欲しい。

 

ドラゴンは。

 

見ると、腹を完全に押し潰され、舌を出して死んでいた。暴君の末路だ。あれだけ強かったのだから、誇りを持って、生き物の王らしく振る舞っていれば良かったのに。どうして、あのように性根が腐ってしまったのだろう。

 

ホムンクルスの部隊は、重傷者が多数は出たが、死者は出なかったらしい。ただ、手足を失った子が何名かいる。指を飛ばされた子達も。師匠がどうにか治癒させてくれると、信じたい。

 

とにかく、死者を出さずにこの困難な闘いを生き抜いた。それだけは、救いだった。

 

少し前にあるポータルを使って戻る。ポータルを出ると、其処はなんと、アーランドから一日以上南にある街道だった。近くの村へ、順番に負傷者を運んでいく。村の長は、いきなり多数の負傷者が現れて、驚いたようだった。

 

宿で、本格的に手当をしてもらう。

 

しかし、その時には、ロロナは歩けるところまで回復していた。眉をひそめたのはクーデリアである。彼女も、ブレイブマスクを使った割りには、疲弊が小さい。だがそれにしても、おなかに風穴が開いたロロナの回復速度は少しおかしい。何名か負傷が軽かったホムンクルス達が伝令となってアーランドに出向き、回復の専門部隊を連れてきた。荷車の物資を使い切るほどの苦戦だったけれど。どうにか生還できたのは、嬉しい限りだ。

 

そのまま、荷車に乗せられて、アーランドに搬送される。

 

奇しくも。

 

予定通りの七日で、ロロナは帰還することが出来た。

 

そして帰還したときには、立って歩くのは、何ら苦も無くなっていた。







最初の頃のひよっこはもういません。

ロロナもクーデリアも、既に魔境アーランドの上位層に食い込む実力者なのです。
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