暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
暗黒!アトリエシリーズでは必ずしも魔族は魔界の住人ではありませんが(というか本作ではむしろアーランド人などの大陸南部の民が他の人間から見て魔族みたいなもん)、本作でもそれは同じです。
過去に色々あった結果、人間の亜種がたくさんいます。
魔族もその一種です。
そして国有鉱山などの闇には、そういった魔族がたくさんいるのです。
序、国有鉱山の闇
アーランドの生活を支えるのは、森林資源だけではない。幾つかの鉱山も、その力の根源となっている。
現在では、鉱山での作業は、鉱石の掘り出しだけとなっていて、加工そのものは工場でオートメーション化されているのが実情だ。働いている労働者達は、基本的には戦士達の監督下で、防塵マスクを付けて、適切な作業の労働をしている。
もっとも、それは現状、だが。
かって鉱山での労働は過酷極まりなく、その致死率は目を覆うばかりの有様だった。鉱石も工場での加工が出来るようになるまえは、鉱山で処置していたのだが。それらは、有毒ガスを大量に発生させた。
当然、どれだけ頑強なアーランド人でも耐えられるものではなく。
多くの奴隷と、アーランド人が、此処で死んでいった。
現在は、改善が重ねられて、以前ほど酷い職場ではなくなっているが。それでも、過酷な事に変わりはない。
圧倒的な実力を持つアーランド人の戦士達が見張ってはいるが、今でも時々暴動が起きる。
食事がまずい。
労働が厳しすぎる。
そう、労働している者達は声を上げる。
とはいっても、今では鉱山での労働では、相応の対価が払われるようになった。アーランドが豊かになった証拠である。
労働者達は、過酷な仕事でストレスをためている。だから吼える。
戦士達も、過酷な鉱山の環境で、鬱憤を蓄積させている。だから時に、暴動の発生を喜びさえする。
それらの話を、歩きながら、ロロナはステルクから聞いていた。
隣を歩いている騎士はステルケンブルク。ステルクと呼んで欲しいと言われた。
あの、とても顔が怖い騎士である。
課題を納入しに行って、その後。アトリエに、次の課題について、連絡しに来てくれた彼は、こう言ったのだ。
護衛をしても良いと。
どういう風の吹き回しか分からない。彼は確かアーランド王国の現役騎士で、戦闘力は指折りだと聞いている。
事実、ロロナを挟んで向こう側を歩いているクーデリアは、目も合わせようとはしない。それだけ危険な使い手、という事なのだろう。
監視役なのか。
ロロナが逃げないように、見張っているのだろうか。
そんなはずはない。
だって、ロロナが逃げたところで、国には痛くもかゆくもないはず。アトリエを潰して、それだけだ。
それなら、善意なのだろうか。
それも考えにくい。確かに時々優しい言葉もかけてはくれるけれど。それなら、どうしていつも怖い顔をしているのだろう。
笑顔の一つも、これまで見ていない。
今でも、怖い顔には、足がすくみそうになる。最初のように、腰が本当に抜けてしまうことは、もうなくなったけれど。
「あ、あの、ステルク、さん」
「何かな」
「ステルクさんは、鉱山で働いたことは、あるんですか」
「ある。 戦士階級から選抜された私は、騎士として最初に此処に赴任した」
街道を歩いて行くと、見えてくる。
蟻の巣のように、穴だらけになっている大きな山が。
あれが、アーランド国有鉱山。
鉱山の周囲には、街の名残が見える。今では、宿泊施設だけが残っているが。昔は、アーランドの一部が越してきたほどの規模だったとか。
今では、労働者達が寝泊まりする施設と、医療施設。それに食事を提供する小さな生産工場だけが稼働している。
鉱山の一部で、何かが爆発する音がした。
今でも活発に、鉱山では発破を使って掘り進めているのだ。手をかざして見ているが、流石に山から煙が上がるようなことはない。
ただ、爆発の時に、地響きはあった。
勿論、今は既に収まっている。
街に入る。かっては、アーランドの闇を凝縮したような場所であったらしいのだけれども。
今では、少し寂れた、普通の街だ。
違っているのは、アーランドに比べると、やはりすすけた感じがすることか。戦士が見回りをしているが、あまり嬉しそうでは無い。職務に誇りを持っている戦士は、皆生き生きとしているものだ。
騎士もいる。
ステルクが一礼すると、挨拶を返してくる。
少し話をするという事だったので、距離を取った。こういうとき、話を聞かないようにすることは、マナーの一つだ。
「くーちゃん、何だかステルクさん、怒ってるみたいだね」
「そうは見えないわよ。 あれはきっと、ああいう顔なの」
「そうなのかな。 何だかわたし、失敗したんじゃないかと思って、気が気じゃないよ……。 怒られないかな。 怖いよ」
ロロナの不安を感じ取ったのか、クーデリアが荷物から乾燥パンを取り出してくる。
食べて落ち着けというのだ。
確かに食べていると、少しは気分も晴れる。もくもくとパンを噛んでいると、ステルクが戻ってきた。
「すまないな。 待たせてしまった」
「いいえ。 それで、これからどうするんですか?」
「まず宿を確保した後、あちらの坑道へ向かう」
労働者が働いている坑道がある中、明らかにがらんとして無人な穴がある。
そして、禍々しい気配もあった。
来る前に、話は聞いている。
既に鉱石が掘り尽くされてしまって、閉鎖された坑道。今回は、其処へ潜ることになる。掘り尽くされたとはいっても、まだロロナが錬金術で使う程度のものは残っているはずだ。今回はわざわざ危険を冒してここまで来たのだ。必ず、最低限のものだけは、揃えておきたい。
なお、稼働中の坑道は、立ち入り禁止だ。
発破を使っていることもあって、危ない。何より、労働者達は気が立っている。最大の問題は、国が管理しながら採掘作業を行っていることで、そんなところに入っていったら、邪魔になる。
閉鎖中の坑道は、今いろいろなモンスターが住み着いているという。
これは人間がいなくなったからだ。
人間がいない坑道であっても、モンスターにはむしろ住みやすいし、独自の生態系も確保できるのだろう。
宿はてきぱきとクーデリアが確保してくれた。
前回の課題で、国から報奨金が出た。課題を評価して、相応の資金を出してくれたのである。
だから奮発しても良かったのだけれど。
とりあえず、最低限の宿にした。宿と言っても、戦士用の宿だが。
アーランドでは主に色宿と戦士用の宿がある。色宿は娼館も兼ねている事が多くて、ロロナは中を見たことが無い。
戦士が使う宿は、三回ほど利用したことがあるが、どれも雰囲気が似ている。静かで、何より重苦しい。二部屋だけ取って、ロロナはクーデリアと一緒の部屋にした。まあ、当然の話で、ステルクも文句は言わなかった。
宿で荷物を整理すると、すぐに鉱山に出向く。
見張りの戦士が見えてきた。
かなり殺気立っている。少し前にも暴動があったとかで、彼らは鬼のような形相で、往来をにらんでいた。
暴動があった後は、こういう無人の廃坑道に逃げ込もうとする者がいるらしい。そういう者達を通さないようにするためにも、見張りが必要なのだとか。
ステルクに促されて、一歩を踏み出す。
入り口を見張っていた戦士に、ステルクが何か話すと、通してくれた。さすがは元関係者だ。
トロッコを通していただけあって、中は通路があって、通りやすい。荷車を引いていくことも難しくない。
ただ、空気が、異様にひんやりしていた。
小さな鉱石が、辺りにはたくさん転がっている。割られたり砕かれたり。坑道の地図は、ステルクに言われて、途中で購入した。現在稼働中の坑道の地図は勿論国家機密だが、廃棄坑道なら大丈夫だ。
蝙蝠が飛び交っている。
大きな足跡があった。見た感じ、ドナーンのものだろう。
ドナーンは狼と並んで、この辺りにはたくさん生息しているモンスターだ。二本足で立って歩く肉食性の蜥蜴で、動き自体は早くないが、とにかくタフ。子供の戦士の訓練相手として、この辺りでは放し飼いにされている場所も多い。背丈はかなり高く、大柄なステルクよりも更に大きい。
ドナーンも住み着いているのか。
それだけじゃない。
この坑道には、近頃悪魔と呼ばれる生物も出現すると聞いている。ステルクが来てくれて、実のところほっとしている。クーデリアとイクセルだけでは、或いは力不足だったかも知れない。
クーデリアは、自分の力が足りないと悩んでいるようで、それがロロナには痛々しい。事実上前衛を彼女一人でやっていたのだから、苦労は当然なのに。一緒に、強くなって行きたいのに。
路が枝分かれする。
「右手は行き止まりだが、かっての採掘空間がある。 まだ鉱石が残っているかも知れないな」
「じゃあ、そっちから行ってみましょう」
「ピッケルが必要よ。 準備はしてきた?」
青ざめるロロナに、クーデリアが呆れながら、荷物からピッケルを取り出してみせる。
手際が良くて助かる。
本当に、ロロナがどういう失敗をするか、クーデリアは分かってくれている。
坑道が、上り坂になる。
路の左右は木板で補強されていて、トロッコの線路が床には通されている。丁度線路と荷車の車輪がちょっと大きさが違うので、線路の間を通すと、スムーズに行ける。ちょっと傾斜がきつくなってきた。これは行きよりも、帰りが大変かも知れない。
黙々と荷車を押す。
ステルクが、剣に手を掛けた。
どうやら、何かがいるようだった。戦闘があるのは、当然最初から想定していたから、今更驚かない。
奥には、ドナーン数体が、固まって此方を見ていた。
巣があって、卵を抱いているドナーンがいるようだ。もしも巣に近づけば、一斉に襲いかかってくるだろう。
ドナーンは小型のドラゴンのように勇ましくて格好良い姿をしているけれど。
それが故に、人間を一番恐れてもいるのだ。
人間こそが、ドナーンにとって最大の天敵だ。確かサンライズ食堂でも、ドナーン肉の定食がある筈。
戦士の卵達の練習相手と言うこともあって。増えればそれだけ狩られてしまうのだから、当然だろうか。
「刺激しないようにな」
剣に手を掛けたまま、ステルクが言う。
油断していないどころか、まるで隙が無い。この人が本当に強いのだと、居住まいを見るだけで分かる。
流石に鉱山だけあって、遺跡の側とは、比較にならないほど良い素材が散らばっている。ざっと拾って廻っただけでも、充分だ。
火薬の材料には、何種類かを用いるが。この鉱山で、その全ての素材をまかなえる。ただし一番重要なフロジストンと呼ばれる物質だけは、あまりいい鉱石がない。
此処は、廃坑道なのだ。
あるのは、使い古しの道具類と、住み着いたモンスター達と。食べ残しのような、鉱石の残骸ばかり。
それでも、近場では、一番ましな場所だ。
フロジストンを見つけた。
フロジストンは赤黒い鉱石で、熱を持っている。火薬のもっとも重要な材料の一つ。ただし、これだけでは、火薬は作れない。
これにサルファーと呼ばれる、異臭を放つ物を加える必要があるのだけれど。
最近は錬金術での研究が進んだ結果、ある程度の行程を、身近な道具類でカバーできるようになってきたと、来る前に読んだ本には書かれていたし。実際、隣のお店で売られている粗悪なフロジストンを使った実験では、確かに発破を作る事が出来た。
ただし、とても実用には適さない程度の火力でしかなかったけれど。
「もっと奥に行きたいです」
「分かった。 クーデリア君も、周囲を警戒してくれるかな」
「言われなくても、そうするわ」
クーデリアが吐き捨てた。
ずっと警戒してくれているクーデリアの事だ。もっと気合いを入れろと言われたように思って、気分が悪いのだろう。
カンテラで奥を照らしながら、進む。
時々、坑道に水が溜まっていた。虹色に輝く鉱石が、結晶になっている場所もある。
お金にならないのだろうか。
ロロナの知識では、とてもではないが、判別できない。それが少しだけ、悔しかった。
今日はここまでで引き上げる。
今回は必要納入量があまり多くない。実験の目的もあって、鉱物類をたくさん仕入れようと思って、鉱山に来たのだ。
坑道を出る。
ステルクがいるので、安心かと思ったけれど。クーデリアの様子を見る限り、そうでもないらしい。
大きくクーデリアがため息をつく。
「気付いてた?」
「え? 何が?」
「ずっとあんた、狙われてたのよ。 姿は見えなかったけれど、かなり強い奴だったわ」
「え……」
ステルクが、本当だと付け加えてくれた。
一気に背筋に、寒気が走り上がった。
ロロナには、気付くことさえ出来なかった。
「おそらくは噂の悪魔だろう。 この坑道にはアポステルと呼ばれる、下等なものばかりでるらしいが。 だが、気になる話がある。 全身が紅い、グレーターと呼ばれる階級の悪魔がいるそうだ」
悪魔については、ロロナはあまり知らない。
両親に仕込まれたのは、実際に出会う可能性が高いモンスターに対する知識や、対処法なのだから。
最近、姿を見せるようになった種族、悪魔。
その正体はよく分からない。異世界の住人とか言う噂もあるらしいけれど。実際に見ない限り、何とも言えなかった。
「戦って、勝てたかしら、騎士様」
「造作もない。 此方をさっき狙っていた相手であったら、な」
「ふん……自信家ですこと」
クーデリアがわざとお嬢様っぽい言葉遣いで毒づいたけれど。ロロナは、苦笑いで精一杯だった。
帰り道、市場による。
鉱山街だけあって、鉱石を格安で売っているのだ。ざっと見るけれど、中々に良い品質のものが揃えられていた。
ただし、格安でも、なお高い。
御座を引いて、その上で鉱石を売っている店を幾つか廻ったのだけれど。確かに隣の親父さんの扱っている粗悪品のフロジストンよりだいぶ品質がマシなものが多い。その代わり、値は何倍もする。
日も暮れた。
一度、宿に引き上げる。こういった宿ではお風呂はないし、何より治安が心配だ。だから熱したぬれタオルで、体を拭くことで綺麗にする。
体を綺麗にした後は、すぐに寝る。
お風呂に入りたいけれど、そうも言ってはいられない。ベットに虱が結構いる。安い宿なのだし、仕方が無い。
クーデリアは案外平気な様子で、虱のいるベットで寝ていた。
ロロナもこれくらいは平気だ。
寝ているとき、生体魔力を高めて、微振動させる。お母さんに教わったちょっとしたテクニックである。
こうすると、虱がこっちを避けていく。
小さな虫たちも、お口やお鼻には入ってこない。
どうも体の周囲が、虫たちには耐えがたい熱さになるから、らしい。起きてからしばらくは体温がかなり高くなるようで、トップギアに持って行きやすいと、お母さんは言っていた。
ロロナはまだ其処まで出来ない。
「くーちゃん、もう寝た?」
返事はない。
ロロナも、目を閉じることにする。
隣のベットで寝ているクーデリアの息づかいが、規則的に聞こえてくる。それだけで、ロロナは随分安心することが出来た。
目を閉じて、静かにしていると、すぐに眠気が来る。
早めに引き上げて、調合に掛かろう。今回は必要量が少ない分、入念な調整が必要なのだから。
まだまだロロナさんはへっぽこもへっぽこ。
今回かなり本格的な護衛がついてきているのも、流石に此処はくーちゃんでは荷が重いからなのです。