暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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オルトガラクセンの邪神、ルルアの時代に出てきましたね。

しかも正体がここまで悪辣ではないとはいえ、ある程度要素が共通していたので、苦笑したものです。






地底の邪神
序、復帰までの障害


ステルクは、いつまでこうしていれば良いのだろうと、ベッドの上で思った。既に傷そのものは言えている。レオンハルトが剣に塗っていた毒も、既に体からは抜けている。それなのに、動く事は、まだ許可して貰えない。

 

魔術師達が、なにやらデータを取っているのだ。

 

その中には、ロロナの母である、ロアナも混じっていた。ベッドには魔法陣がひっきりなしに出現しており、ステルクには内容が解析できないほど難解なものも多かった。

 

アストリッドが来る。

 

ロロナも連れていた。

 

心配した。ロロナが取り乱すのでは無いかと思ったのだ。だが、思った以上に、ロロナは落ち着いていた。

 

「おや、まだベッドを妻にしているのか」

 

「ぬかせ。 それよりも、ロロナ君。 君も大変な目にあったようだな。 もう歩いて大丈夫なのか」

 

「へっちゃらです。 それより、お見舞いにも来られなくて、ごめんなさい」

 

ロロナは、この間強力なドラゴンを、オルトガラクセンで見事に葬って見せたという。アストリッドが自慢げに話しに来たので、それは知っていた。

 

勿論、その時にロロナが、腹に風穴が開くほどの手酷い負傷をしたことも、既に聞かされている。

 

ロロナがくれたお土産は、新しい剣用のベルトだ。これに限らず、武具は病人への見舞いとして、アーランドでは最も喜ばれる。早く治って戦場に出てくれ、という意味である。戦場に出ることは、アーランド人にとってもっとも名誉なことなので、病人も喜ぶのである。

 

他の国の人間はこの風習を聞くと真っ青になるとか聞くが。

 

ステルクは、アーランド人なのでむしろ嬉しい。それに、この間の戦いで、剣用のベルトは壊されてしまったから、丁度良かった。

 

一方で、食べ物や花は喜ばれない。

 

食べ物は、寝台で太れという意味につながるから。

 

花は、寝付くという意味につながるからだ。

 

少し話すが、アストリッドは必要なことだけを言うと、さっさと出て行った。ロロナと、二人きりになる。

 

「この間は、君を守りきれてよかった」

 

「わたし、もっと強くなります。 それで、ステルクさんが、怪我しなくても良いようになります」

 

意外に落ち着いた様子でロロナは言う。

 

最初はもう、本当に頼りなくて、ちょっと押すだけで折れそうな所があったのに。今では、これだけ立派になった。

 

心配はいらない。

 

むしろ、ステルクが心配されてしまうほどだ。

 

女の子はあっというまに大人になると言うけれど。この子の場合は、悲惨な事情を加味しても、もう子供では無い。

 

「いつ、治りそうですか」

 

「本当のところ、体自体はもう治っている。 だがな、なにやら調査することがたくさんあるとかで、ベッドから離れられないのだ」

 

「また、護衛を、お願いしても良いですか」

 

「もちろんだ」

 

一礼すると、ロロナは出て行く。

 

しばらくすると、代わりに魔術師達が入ってきた。また検査かとうんざりしてしまう。だが、意外なことを、彼らは告げてきた。

 

「次の検査が終わったら、退院とします」

 

「データは取れたのか」

 

「はい。 内容については、退院後に、会議で聞いてください。 最後の検査は念のために行うものですので、すぐに終わります」

 

一体、何を彼らは検査し続けていたのだろう。

 

検査は話通りすぐに終わった。普段着に替えると、外に出る。久方ぶりに、自由に出来る時間が嬉しい。体が鈍ったような気がするから、早速簡単なモンスターの駆除任務でもこなして、勘を取り戻していきたい。

 

自宅に帰った後、正装に着替える。一応銭湯にも寄って、入院の疲れを流してもおいた

 

王宮に出て、復帰申請を出す。

 

受付にはエスティが出ていたので、驚いた。彼女がいるということは、問題は現時点で、だいたい片付いているという事か。かなりの数の、強力なモンスターが暴れ回っているという事だったのだが。

 

「ステルクくん、復帰おめでとう」

 

「有り難うございます、先輩。 早速リハビリがてらに、仕事をしたいのですが」

 

「相変わらず仕事熱心ねえ」

 

「……お願いします」

 

とりあえず、今日の所は休みだと言われたので、帰宅する。

 

騎士団の寮だから、修練の相手はいくらでもいる。腑に落ちないところはあったが、復帰出来たことは嬉しい。しかも、予定より早いくらいだ。

 

しばらく、騎士団の経験が浅い戦士達を相手に、剣の勘を取り戻す。

 

夕刻にはほどよく疲れも溜まったので、そのまま眠ることにした。

 

 

 

翌朝。

 

王宮に正装して出ると、早速仕事を言い渡された。

 

ロロナへの課題の引き渡しかと思ったのだが、それはエスティによって既に行われているという。

 

内容は、錬金術の奥義、だそうだ。

 

確かに今のロロナなら、それも手が届くかも知れない。

 

渡された仕事に目を通す。

 

単独での討伐任務。しかも、内容は。

 

「いきなりハードルが高い仕事が来ましたね」

 

「君なら楽勝でしょう?」

 

「勝てないとは言いませんが」

 

渡された仕事は。

 

クアドラの討伐だ。

 

クアドラとは、通称、四双。最強と呼ばれるぷにぷに種で、たまにオルトガラクセンで目撃例がある。四体同時に姿を見せ、彼ら全員で一体の思考回路を持っているらしく、極めて巧みな連携を見せる、強力なモンスターだ。

 

アーランドの固有種らしく、他の国では目撃例がないという。たまに野外に出てきて、騎士団が討伐するのだが。毎回簡単にはいかず、死者を出すこともある。

 

しかも高い再生能力を持っているとかで、逃がしてしまうと、確実に別の場所で繁殖される。

 

現時点では、オルトガラクセンの中に生息しているらしい、という事しかわかっていない。

 

いずれにしても、此奴を単独で討伐できる人間は限られる。

 

「どうしたの、自信ない?」

 

「いえ、被害が出る前に片付けてきます」

 

「お願いね。 スピアに対する反撃をこれから行う予定だから、可能な限り不安要素は片付けておきたいのよ」

 

スピアに対する、反撃か。

 

もはや、全面戦争が始まっていると言って良い現在の状況。

 

如何に屈強なアーランド戦士達とは言え、このまま波状攻撃を続けられれば、いずれは疲弊していく。

 

ホムンクルス達を増やして対処することは出来ない。アストリッドに問題があるのは、誰もが知っている。ホムンクルスを増やしすぎたとき、この国が乗っ取られる可能性があるのは、言うまでも無い事なのだ。

 

スピアの錬金術師達を殺す事は、今の時点では難しい。

 

話には聞いているが、彼らのリーダーであるカトリアヌは、ジオ王と互角に渡り合って見せたという。それだけ無茶苦茶に身体能力を上げている、という事だ。他の錬金術師達も、似たような実力を持っていても不思議では無い。

 

絶望に囚われているのかも知れない。

 

装備を確認した後、街の東門を出る。

 

クアドラが確認されたのは、近くの森。その一番奥だ。

 

現在は、巡回班が見張っている。

 

ステルクが出向いたときも、巡回班はずっとクアドラから注意を外さず、見張りを続けていた。

 

巡回班の二人はホムンクルスだが。残りの二人は、引退前の戦士と、まだ若い騎士だ。

 

相手が相手だから、相応の戦力が必要だったという事である。

 

相手もステルクを当然知っている。敬礼を交わした後、軽く話す。

 

「これは騎士殿。 来ていただけましたか」

 

「うむ。 状況は」

 

「クアドラで間違いありませんな。 見ての通り、今は食事の最中です」

 

案内されたのは、森の奥にある、小さな丘。茂みが多くて、普段は平和なところなのだけれど。

 

わかる。

 

凄まじい、強さの気配がある。

 

茂みの中から、様子をうかがう。

 

大きな猪を、奴らが貪り喰っていた。触手を伸ばした銀色のぷにぷにが、四体揃って、猪の体を引きちぎり、体に運んでいる。触手にはのこぎり状のぎざぎざがあり、それを上手に使って肉を削いでいるようだ。

 

また、触手は液体を吸い上げることも出来るらしい。触手の中を、猪の血が通っていくのが見える。

 

前に見た個体より、かなり大きい。

 

高さだけでステルクの二倍半はある。

 

ステルク一人では、勝てないかも知れない。だが、此処で勝っておかないと、無駄な犠牲を、余計に出す事になる。

 

彼らは、あまりにも強すぎる存在。

 

地上に出られると困るのだ。

 

「後詰めを頼む。 君達を守る余裕は無い。 最悪の場合も、退却支援に徹してくれ」

 

「わかりました……」

 

向こうは既に、此方に気付いている。

 

四体いるうちの一体が、時々此方をうかがっているのがわかる。ステルクの気配もそうだが、巡回班に気付いていたのだろう。

 

猪の次に、襲うつもりだったのかも知れない。

 

どのみち、奇襲は無意味だ。

 

ステルクは、堂々と姿を見せると、彼らの前に出る。近づいていくと、面倒くさそうに、銀色のぷにぷに達が振り返った。

 

血に濡れた触手が、揺れている。

 

「恨みは無いが、死んでもらう。 許せよ」

 

既に抜いている剣が、稲妻を帯びていく。

 

多少のブランクはある。だが、それくらいをどうにか出来なければ、この後どのみち生き残ることは難しいだろう。

 

アーランドは、かってないほど厳しい時代に入る。

 

これは予測ではない。規定の未来だ。

 

ロロナやクーデリアのような、有望な若者達もいる。彼女たちは、アーランドのために、比類無い働きをしてくれるだろう。

 

だからこそ。

 

ステルクのような大人は、路を作らなければならない。

 

四体のぷにぷにが、残像を残しながら、綺麗に連携を取って周囲を回り始める。触手を使っての高速移動。更に、移動しながら、ステルクの隙をうかがっている。

 

目を閉じる。

 

仕掛けてきた、後ろのぷにぷに。

 

一刀両断。

 

巨体が、膨大な体液をまき散らしながら飛び散る。だが、二つに切られたくらいでは、此奴らは死なない。

 

一斉に襲いかかってくるクアドラ。

 

切られたクアドラも、瞬時に再生を開始している。

 

戦いは、出来るだけ早く終わらせる。ステルクは目を開けると、己の力を完全解放した。

 

 

 

二刻ほどで、戦いは終わった。

 

かなりの手傷を受けたが、クアドラは死んだ。完全に焼き切った。もはや、あの個体が再生する事は無いだろう。

 

ロロナのアトリエに出向く。

 

机に向かって本を読んでいたロロナは、ステルクを見ると、わずかにおくれて笑顔を作る。

 

以前は、ぱっと笑顔が咲いたのだが。

 

感情が、わずかに鈍くなっているような印象だ。

 

「ステルクさん、退院おめでとうございます。 さっそくお仕事ですか?」

 

「ああ。 土産だ」

 

渡すのは、クアドラの体内にあった球体。

 

以前見た事がある。ぷにぷにの体内から取れる球体が、錬金術では重要な素材になるのだと。

 

案の定、ロロナは喜んでくれた。

 

ただし、どうも引っかかる。喜んでいると言うよりも、わずかに遅れて、喜びの感情を出している、といった風情なのだ。

 

軽く茶を出してもらう。

 

最後の課題、大丈夫か聞いてみると、ロロナは苦笑いを浮かべた。

 

「今できる最高の錬金術と言われても、抽象的で。 凄く役に立つ道具、というのだったら、どうにでもなるんですけれど」

 

「そういえば、君はとても実用的なものをいつも課題で納入してくれたな」

 

「そう言ってくれると嬉しいです。 でも、錬金術の究極って何だろう。 やっぱり、金を作る事なのかな……」

 

確かに、錬金術の言葉通り。

 

もしも錬金術の究極を目指すのなら、金しか無いだろう。

 

金を作るには、どうすれば良いのか。

 

賢者の石という道具が必要になるとロロナは言うけれど。それが何かは、もう少し調べないと、分からないと言う。

 

研究をしたいと、ロロナは言う。

 

ステルクはそうかと応えて、アトリエを後にした。

 

アトリエの外では、アストリッドが待っていた。やはりとステルクは思ったが。何も言わず、その場を離れる。

 

アストリッドも、わかっているなら口出しするなと、顔に書いていた。

 

一度、愛した女だ。

 

ある程度、喋らずとも意思疎通は出来る。

 

そして、この女が、どうしようも無い闇に全身を浸してしまっていることも。もはやステルクでは、救う事が出来ないことも、わかる。

 

戦いに勝てても、無力感は消えない。

 

ステルクに出来る事は、あまりにも少なかった。

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