暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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オルトガラクセン攻略戦です。

原作ではロロナ時代に邪神は出てきませんでしたが、本作では普通に勝負することになります。

あらゆる意味での因縁に、決着がつくときが来ました。





3、魔境への再侵入

クーデリアがアトリエに来てくれたのは、あの決闘から一週間も過ぎた、肌寒い日だった。

 

心の整理がついたかは、わからない。

 

いずれにしても、普段と変わらないようには見えた。

 

エージェントが二人ついているのは、彼女が、フォイエルバッハの当主になったからだ。事実、エージェント達からは、お館様と呼ばれている。

 

ただ、エージェント達は、アトリエにまで入ってこようとしたので。クーデリアは、呆れたように言う。

 

「此処でなら、護衛は必要ないわ。 近くで時間を潰していなさい」

 

「わかりました。 待機しています」

 

「……よろしく」

 

ため息をつくクーデリア。

 

エージェント達が行くのを見送ると、ロロナも苦笑いした。

 

「息苦しそうだねえ」

 

「権力ってのは手に入れてみると、案外面白くないものね。 まああたしとしては、あんたを全力でサポートできるから、それだけでも充分だけど」

 

「うん、ありがと」

 

「それより、話は一応聞いているけれど。 賢者の石を作るんですって?」

 

多分リオネラから、話を聞いたのだろう。

 

頷くと、ざっと概要について説明する。

 

クーデリアは、錬金術の究極と聞いて、少しだけ眉を動かしたけれど。それ以降は、特に何も言わなかった。

 

ただ、改良型のブレイブマスクを見ると、心が動くのが見えた。

 

「背負いやすくなっているわね。 副作用も、無くなったの?」

 

「零じゃないけど、かなり緩和できたよ。 ただし、一回の戦闘で、二回使うのが限界で、使った後は一日以上休ませないといけないけれど」

 

「上出来よ」

 

神速自在帯も、ほぼ同じ性能だ。

 

これならば、あの紅い暴君や、それと同等以上の相手でも、勝てる。

 

ただ、オルトガラクセンの主は邪神とまで呼ばれるほどの相手だ。どれだけ準備していても、しすぎと言うことは無い。

 

改良した発破もたくさん詰め込んでいる。

 

以前、スニーシュツルム戦で切り札になったテラフラムも、一セット入れて行くことにした。

 

後は、どれだけの人員を動員できるか、だ。

 

「うちのエージェントは、十人くらいは連れて行けそうよ」

 

「後はホムンクルス達の部隊だけれど……」

 

あれは一応軍の部隊になる。

 

ジオ王をどうにか説得できれば、連れて行けるかも知れないけれど。そういえば、王は邪神と話を付けなければならないと言っていた。それならば或いは、交渉の余地があるかも知れない。

 

問題は、どう王と接触するか、だ。

 

クーデリアが、咳払いした。

 

「それはあたしが何とかする」

 

「大丈夫、なの?」

 

「あんたも気付いているでしょう? これ以上は言わせないで」

 

クーデリアは。このロロナを取り巻く異常な状況の、一端を担っていた。その頂点が王である以上、何かしらのコネはあると言うことか。

 

銃を武器屋の親父さんに渡して、オーバーホールを頼んだ後、二人で王宮に出かける。

 

ロロナはステルクに、クーデリアは王に、それぞれ声を掛ける予定だ。後、来てくれそうなのは。

 

イクセルとタントリスか。

 

リオネラは多分、必ず来てくれる。

 

今回は総力戦になる。

 

戦力は出来るだけ多い方が良い。戦士としては限界を感じている様子のイクセルや、文官としての路を選びたいタントリスを巻き込むのは心苦しいのだけれど。こればかりは、仕方が無いだろう。

 

ステルクは、仕事をしていた。

 

どうやら、書類仕事のようだ。片付けたモンスターについて、記載しているようである。

 

見ると、なんとクアドラだ。

 

あの強豪を、単独で仕留めたらしい。やはりこの人は強い。ロロナに気付くと、ステルクは顔を上げて、わずかに顔をほころばせた。

 

「護衛かな」

 

「はい。 オルトガラクセンに、邪神と接触しに」

 

「それはまた、随分と大胆だな」

 

「色々と、知りたいことがあるんです」

 

場合によっては戦闘になる可能性も高い。そう告げると、ステルクは嘆息した。

 

いずれ、邪神とは決着を付けなければ行けなかったのだ。そうステルクは言うと、同行してくれると言った。

 

クーデリアと合流しようと、王宮の内部を歩く。納品のために何度も来ているから、今更迷うこともない。入っては行けない場所も、しっかり熟知している。

 

ふとすれ違ったのは、パラケルススだ。

 

彼女はホムンクルスにもかかわらず表情豊かで、反応も茶目っ気がある。今も、王宮の堅物らしい戦士となにやら話していたけれど。その際に、表情をめまぐるしく動かしていた。

 

彼女も、来てくれるだろうか。

 

王が来るなら、その直衛戦力として、ついてくる可能性はある。いずれにしても、来てくれれば、戦力として心強い。

 

クーデリアが来た。

 

王は、来てくれると言うことだった。

 

クーデリアには何も聞かない。具体的にどう王と話したか聞いても、仕方が無い事だからだ。此処は敢えて聞かない方がマナーだろうと、ロロナは思ってさえいる。

 

そのまま一緒に、王宮を出る。

 

サンライズ食堂によると、イクセルが迎えてくれた。サービスして、ちょっと多めに料理を出してくれる。

 

二人で向かい合って座り、料理を早速味わうことにする。

 

美食は快楽だとか、この間タントリスに聞いた。

 

しかし、どうもぴんと来ない。

 

最近は特に、栄養価や、どれだけ短時間で食べられるかを、主体に置いてしまっている。これは、或いは寂しいことなのかも知れない。

 

今日の料理は、ロロナが此処の名物でもあるホーホ。一方、クーデリアは紅い果実まみれのシューレという食べ物を口にしている。紅いけれど辛いわけでは無い。甘辛いソースのしたには、穀物の粉を練ってゆでることで作り出した、ラスタと呼ばれる生地がたくさん入っている。

 

このラスタが、歯ごたえがあってとても美味しいのだ。

 

ただロロナとしては、ホーホに比べると少し量が少ないので、今日は選ばなかった。昔だったら、クーデリアと一緒に、シューレにしていたかも知れない。

 

食べ終えたのは、クーデリアが先。

 

「出発は三日後になりそうね」

 

「うん。 此方でも、それで調整中。 タントリスさんがちょっと厳しいかもって言っていたけれど、きっと何とかなるよね」

 

「そこの料理小僧は」

 

「もう、くーちゃんてば」

 

ロロナとクーデリアとイクセルは、昔からつるんでいた幼なじみ三人組だ。

 

この中の誰かとイクセルがくっつくでもなく、兄妹のように仲良くしてきた、不思議な関係。

 

最近は鋭くなってきたから、何となくわかる。

 

イクセルはひょっとすると、ロロナの事が好きだったのかも知れない。だからそれを敏感に察して、クーデリアはイクセルに冷たかったのかも知れないと。

 

だが、今はもう、どうでもいい。

 

というよりも、恋愛そのものに、ロロナは殆ど興味を持てなくなってきていた。ここ数ヶ月の傾向だ。今までも、恋愛にあまり熱心なタイプではなかったけれど。ここ最近は、それが特に顕著だ。

 

この現象は、多分ロロナだけではない。

 

クーデリアも横で見ていてわかるのだけれど、多分性欲がほぼ無くなってしまっているようなのだ。一番多感な時期に性欲がほぼ無いと言うのは、いろいろな意味で精神に悪影響を与える。

 

間違いなく、あの時の。死んだときと、その後で。体に施された様々な事が、生物的な機能を、奪っていったのだ。

 

「イクセくんだったら、来てくれるって話だよ。 ただし後方支援を中心にするんだって」

 

「それは残念ね。 そこそこ戦える奴だと思っていたのに」

 

「うーん、イクセくん、戦士よりも料理人として生きていきたいんだって。 だから手は大事にしたいんだって言っていたよ」

 

「そう。 それじゃあ仕方が無いわ」

 

イクセルはなんだかんだ言っても、そこそこ戦える。

 

後方支援できてくれれば、それで充分。

 

食事を終えると、店を出る。後は三日後に備えて、それなりの準備をしておけば問題はないだろう。

 

耐久糧食も、かなり多めに作っておく。

 

何が中であるか、わからないのだ。特に食糧は、どれだけあっても足りないだろう。いざというとき、生命線になるのは、食糧だ。

 

他にも、ロープや、エンチャントを施したゼッテルも重要だ。

 

様々な道具が、まんべんなくいる。

 

クーデリアがリストを作ってくれたので、一通り揃えていく。準備は滞りなく、済ませることが出来そうだった。

 

 

 

予定通りの日付。

 

朝一番にアトリエを出たロロナは。アトリエの前で、クーデリアとリオネラと合流。歩きながら、南門へ向かった。

 

アトリエにはホムだけが残る。

 

師匠は昨日から出かけていて、いない。何でもまた何か問題が発生しているらしく、エスティと一緒に対処するのだそうだ。厄介な話だけれど、師匠が直接出るのなら、解決は難しくないだろうとも思う。

 

これから、オルトガラクセンの深部に潜る。

 

そう思うと、前ほどではないにしても、やはり緊張はした。ただ、眠ること自体は出来た。しかし、あまり意味があるようには思えない。眠らなくても大丈夫になってきているから、だろうか。

 

荷車を引いて、南門に。

 

ジオとステルクが、先に来ていた。イクセルとタントリスはまだだ。

 

幸いなことにと言うべきだろうか。

 

ホムンクルス達の部隊が、四つ来ている。荷車はその内の一つに任せてしまって大丈夫だろう。

 

これにクーデリアのエージェント達十名が加わる。

 

随伴戦力としては、相当な規模だ。

 

エージェント達を率いるのはアルフレッドだ。既に老齢だが、戦闘力ではなんら問題が無い。

 

王が軽く話をして、兵力配分を決める。

 

パラケルススはいない。

 

ジオは、彼女は今回、エスティと一緒に、国境の北に出向いていると教えてくれた。なるほど、そうなると、かなり危険な任務なのかも知れない。

 

此方の探索も、さっさと終わらせてしまいたい所だ。

 

少し待つが、タントリスは遅れるという。イクセルは来た。かなり、荷物が多い。オルトガラクセンで何かあった時のために、料理セットを一式持ってきているという。英雄のメダルを渡すと、イクセルは喜んで受け取ってくれた。

 

「サンキュな」

 

「前のより副作用は抑えてあるけど、過信したら駄目だよ」

 

「わかってる。 無理はしねーよ」

 

軽口を叩くイクセルだけれど。

 

確かに、少し落ち着いた感がある。この間の一見で、余程思うところがあったのだろう。ふと気付いたのだが、ホムンクルスの一人を見ている。そういえば彼女は、前の探索で、紅い暴君の隕石ブレスを受けたときに、右腕の肘から先を吹き飛ばされてしまった子だった。

 

良かった。腕は再生している。

 

アストリッド師匠がやってくれたのだ。

 

「準備は、オルトガラクセンの手前で行う。 其処で十一層以下の階層に挑む際の、レクチャーも行っておいた方が良いだろう」

 

「はい、お願いします」

 

「良い返事だ。 それでは、一旦出立するぞ。 タントリスは、後から追いついてくるように、手配しておこう」

 

ホムンクルスを一名、伝達役に残して、オルトガラクセンに向かう。

 

道中で軽く、ステルクと話す。

 

「そういえばこの間ちらっと書類を見たんですけど。 一人であのクアドラを倒したんですか?」

 

「かなりの持久戦になったがな」

 

「凄いですね」

 

「そうでもないさ」

 

ステルクが言うには、クーデリアもいずれ、このくらいの強さにはなれるという。

 

確かにクーデリアは、才能のなさを努力と鍛錬でカバーして、この場に立っている。彼女なら、いずれ。

 

アーランドを背負って立つ、国家軍事力級の使い手の一人となる事ができるだろう。

 

勿論、クーデリアには聞こえないように言っているのだけれど。

 

親友として、鼻が高かった。

 

ステルクは、クーデリアを高く評価しているという。

 

この間の件で意気消沈している彼女に、聞かせてあげたい話だった。だが、クーデリアは面と向かってそんな事をいっても、きっと喜ばない。

 

これから実績を上げて、それを元に評価されれば、喜ぶかも知れない。

 

普段はあんな感じでも。本当は、それだけ生真面目な子なのである。

 

そう説明すると、ステルクは無言で頷く。

 

きっと真面目な者同士、意気感じるものがあるのだろう。

 

話している間に、オルトガラクセンの入り口に到着。内部を巡回しているチームと、ステルクが話す。戻ってきたときには、かなり厳しい顔になっていた。内部のモンスターは、この間の探索ほどでは無いにしても、やはりかなり活性化しているという。

 

事実、巡回班の戦士が、豪快に笑っているが。

 

彼は鮮血を大量に浴びていた。モンスターの返り血だろう。

 

「今回は調査任務を含まない。 だから、いっきに十層まで潜り、其処からは慎重に行く」

 

ステルクが、探索計画について説明してくれる。

 

ジオ王は何も言わない。

 

おそらく探索班の長をステルクに任せて、自分は戦う事に専念するつもりなのだろう。この王様らしい話だ。

 

「十一層以降は、君達も知っての通り、地図も出来ていない部分が多い。 相当にモンスターの襲撃も激しくなるはずだ。 心してもらいたい」

 

そう、ステルクは締めくくった。

 

オルトガラクセンが如何に危ない場所かは、前回の探索で嫌と言うほど思い知らされた。だから、そういう風にステルクが言っても、大げさだとは全く思わない。

 

今日は、オルトガラクセンの入り口を守っていたのは。父でも母でもない。知らない戦士達だった。

 

二人とも忙しいとは言え。

 

入る前に、最後に一度くらいは、顔を見たかったなと、ロロナは思った。

 

結局タントリスは、オルトガラクセンに入るまで、追いついてこなかった。

 

 

 

相変わらず、血の臭いが濃い。

 

一気に地下十層まで潜ったから、だろうか。濃密な血の臭いにいきなり放り込まれたようで、クーデリアは眉をひそめていた。

 

ロロナは平然としている。

 

というよりも、リオネラが心配しているように、平然としすぎている。

 

精神的な平衡を崩していた最近数日のクーデリアのように、ロロナも彼方此方がどんどんおかしくなってきているのだ。

 

強くなってきたから。

 

戦士としての能力が上がってきているから。

 

そうだとしか、言いようが無い。

 

体を好き勝手に弄られて、訳が分からない存在にされたのは、クーデリアも同じ。ロロナは何かしらの精神的な切っ掛けもあっただろうが、今では一流の戦士になり、そのために抑えていた闇が噴出している感がある。

 

綺麗な鱗形陣を組むホムンクルス達。クーデリアが連れてきたフォイエルバッハ家のエージェント達も、二チームに分かれ、フォーマンセルを組む。二人は、ホムンクルスの予備隊と一緒に、荷駄の直衛だ。ホムンクルス達と、ロロナが持ち込んだ荷駄は相応に多いので、直接の護衛戦力が必要になる。

 

ホムンクルス達と、五角形の陣を組むことで、隙無く周囲を守る事が可能である。

 

勿論、大規模な罠を踏むと、全員が一網打尽にされてしまう可能性もある。クーデリアも、油断はしていられない。

 

何時でも何が起きても対処できるように、此処からは気を張り続けないと危ない。

 

遠くで悲鳴。

 

モンスター同士で、食い合っているのだろう。恐ろしい悲鳴は、すぐに聞こえなくなった。

 

身を縮めるリオネラ。

 

力量は上がっていても、まだ怖いと感じる辺り。生粋のアーランド人では無い。その辺りは、仕方がないかも知れないが。

 

ステルクに事前に聞いているが、今回はまず十六層まで、まっすぐ降りる。

 

以前其処で、邪神と遭遇したことがあるからだそうだ。此処までの地図ならば、寄り道しないのであれば出来ている。

 

辺りには、よく分からない光源がたくさんある。

 

仕組みもわからない。

 

ただ、その明かりは、太陽よりは弱く、星よりは強いようだった。

 

坂のように降っている路を、黙々と降り続ける。

 

最初に戦闘が発生したのは、十一層の事。十層はどうにか戦闘が起きずに突破できたのだけれど。

 

十一層にはいると、いきなり多数のモンスターが、何かの死肉を漁っている光景に出くわしたのだ。

 

彼らは、一斉に此方を見た。

 

死体は、大型のモンスターのようだった。恐らくは、老衰やら戦闘による負傷やらで、息絶えてしまったのだろう。

 

うなりを上げるスカベンジャー達。

 

ステルクが剣を抜き、ジオがその隣に並び立つ。だが、彼らは怯むことが無かった。

 

しかも悪いことに、ポータルから出た直後の其処は、広い通路だ。前回と進入路が違ったからか、辺りは非常に広い空間で、包囲される危険がある。

 

さっと、ホムンクルスとエージェント達が、防御陣を組む。

 

モンスターの数は、数十を超えていた。

 

血の臭いに引き寄せられて、集まってきていたのだろう。

 

何が切っ掛けかはわからない。

 

とにかく、どっとモンスター達が、押し寄せてきた。

 

ロロナが発破を放り投げる。

 

押し寄せてくるモンスター達の鼻面で爆発。吹っ飛んだモンスターの一体は、引きちぎれながら、天井近くまで上がっていた。

 

ステルクが剣を一振りすると、青白い雷撃が、横殴りにモンスターの群れを襲う。しかし、それを耐え抜いたモンスターはかなり多く、吼えながら突撃してくる。

 

そればかりか、騒ぎを聞きつけたからか。

 

他の場所からも、モンスターが大挙して押し寄せてきた。

 

凄まじい足音。

 

濃厚な殺気。

 

すぐに、新手も姿を見せる。クーデリアは無言のまま、水平射撃を浴びせる。突入してくる敵の足を止めるためだ。

 

後ろからも横からも前からも、ひっきりなしに突入してくるモンスターの群れ。

 

以前のように、狭い通路の戦いではない。すぐに前線は接触して、原始的な肉弾戦が開始された。

 

前線のフェンスに接触した相手を、片端から弾く作業を始める。

 

フェンスの外では、ステルクとジオ王が、相変わらず桁外れの武勇を発揮して暴れ回っている。

 

連中が数を減らしてくれるので、多少はましになっているとは言え。

 

ホムンクルスの一人に、大きな狼のようなモンスターが食らいつく。鮮血が渋き、更に振り回して地面に叩き付ける。

 

クーデリアは無言でその狼の顔面に蹴りを叩き込むと、脳天に数発、零距離からの射撃を浴びせた。勿論スリープショットだ。零距離から脳天に直撃を叩き込まれた大狼は、白目を剥いて倒れる。

 

血だらけのホムンクルスが倒れているところに、モンスターが殺到しようとするけれど。

 

クーデリアがさせない。走り周りながら、モンスターの頭や腹に、至近から火焔弾やスリープショットを叩き込んでいく。

 

相手の数が多いが、この程度の力量の相手なら。周囲の全てを把握しながら、立ち回ることが可能だ。

 

伊達に戦闘経験を積み上げてきていない。

 

更に、殺到してきたモンスターどもを、リオネラが自動防御を展開して、はじき飛ばす。

 

イクセルが慌てて防御陣の内側に負傷者を引っ張り込み、内側に控えていた代わりが前に出る。

 

フェンスのホムンクルス達は頑張っている。槍を振るい剣を振るい、次々に躍りかかってくるモンスター達を、必死に撃退してくれている。

 

クーデリアの部下達も。

 

同じように戦ってくれているが、しかし敵の数が多すぎる。しかも全方位から来るものだから、ロロナの大火力もあまり意味を成さない。ロロナ自身はさっきから連続して周囲に砲撃を叩き込んでいるけれど。目に見えた効果は無い。

 

不意にポータルが光る。

 

ホムンクルスの一部隊を連れたタントリスが姿を見せた。

 

激しい戦いの中に踊り込むと、暴れはじめる。敵の注意が逸れた瞬間、ロロナは手にしていた発破を、辺りに滅茶苦茶に放った。爆発が広間の中で連鎖し、敵が次々吹っ飛ぶ。体勢を立て直したホムンクルス達が、手近なモンスターの掃討を開始。

 

クーデリアも銃を乱射しながら、敵を撃退していった。

 

戦いが、間もなく終了。

 

広間には、うずたかくモンスターの死骸が積み上げられた。呼吸を整えているクーデリアに、ロロナが手伝ってと言ってくる。

 

何人か、重傷者が出ている。

 

ホムンクルスの一人は、殆ど体の左半分を食いちぎられていた。回復術を掛けて、応急処置を済ませると、ポータルを用いてすぐに外に。あの傷では、助かるかどうかは、五分五分だろう。

 

他にも出ている負傷者の内、何名かは此処で戻す。

 

いきなりこれだ。

 

先がどれだけ過酷なのか、見当もつかない。タントリスは遅れたことをわびるが、彼が連れてきたホムンクルスの部隊は、負傷者の数を埋めるには充分だった。である以上、文句も言えない。

 

手当が終わると、すぐに広場を後にする。

 

十二層に向かう通路は、露天状になっていて、まるで橋のようだ。いや、事実橋なのかも知れない。

 

下の方には、きらきらと瞬く、箱のようなものがたくさん見える。

 

薄暗いけれど、そういった瞬きの中には。

 

明らかに大型のモンスターが、蠢いてもいた。

 

ぞっとしないが。あれがこれから潜る先だ。エージェント達も、あまり良い気分はしないようである。

 

「すげえ数だな……」

 

「ベヒモスがいる。 本気であれと戦いながら進むのかよ……」

 

まだ若いエージェント達の中には、青ざめている者もいるようだ。

 

ロロナが、歩きながら、発破の在庫を確認している。今回は充分すぎるほどの量を持ってきているから、大丈夫だという。

 

いきなり、橋に飛びついてきたモンスターがいる。

 

脚力を駆使して、下から飛んできたのだろう。

 

ステルクが、顔面に雷撃を叩き込むと、悲鳴を上げながら落ちていった。もの凄い地面との激突音。

 

つまり、此処では。

 

一瞬でも油断は出来ないという事だ。

 

 

 

十二層に侵入。

 

此処からは、以前はロロナが来る事が無かった、未知の場所だ。

 

先ほどの激しい戦いの後、ステルクに聞いたのだけれど。此処は便宜上十二層と呼んでいるだけで、実際には十一層と継続しているそうだ。ただ、確かに長い橋状の通路で、つながっているだけで。二つの階層は、隔てられているとも言える。

 

長い橋を降りて辿り着いた先は。

 

文明の残骸。

 

巨大な箱状のものは、いずれもが建物のようだった。中に明かりがついているものも、珍しくない。

 

モンスターはたくさんいる。

 

ただ、その全てが仕掛けてくるわけでは無い。箱状の建物や、路にある何かの施設らしきもの。地面から突き出ている鉄の棒や、何に使うかもよく分からない機械の類を、守っているようだった。

 

巨大なベヒモスが、地響きを立てながら歩いている。

 

どうやらさっき、橋から落ちて死んだモンスターを食べに行くつもりらしい。此方を一瞥はしたが、食欲が勝っているようで、通り過ぎていった。

 

「この辺りは、巡回班も来られないほどの危険地帯だ。 丁度良い好機だから、一気に通り抜けるぞ」

 

ステルクが、皆を叱咤する。

 

遅れかけているホムンクルスが一人いたが、イクセルが励まして、一緒に歩いていた。さっき軽度の負傷をしたのだが、痛みが予想以上に酷いらしい。ポータルの近くに、洞窟状の構造があるらしく、其処で休憩を取れるそうだ。

 

確かに、洞窟状の構造があった。

 

半円形をしていて、完全に人工物だ。

 

此処は一体、何なのだろう。

 

中に入ると、ステルクが無言で、住み着いていたらしい蜘蛛のモンスターを切り捨てた。獲物の死骸が、糸でぐるぐる巻きにされて、辺りに放置されている。酷い臭いがするが、他に休む場所も無い。

 

ホムンクルス達が、辺りを整備する中、ようやく本腰を入れて治療をはじめられる。リオネラは額の汗を拭いながら、負傷者の怪我を治していた。

 

クーデリアも、軽い怪我をしていた。

 

乱戦の中で大暴れしていたのだ。多少の手傷くらいは、受けていて当然。耐久糧食を、皆に配る。

 

エージェントは、皆喜んでくれた。これが楽しみなのだと、言ってくれる戦士もいた。怪我に薬を塗り、リオネラが回復術を掛ける。誰か、回復が使える戦士が一人でもいれば、もっと楽なのだけれど。

 

一通り手当が終わった所で、二交代で休憩する。

 

モンスター達は、時々此方を気にはしているようだけれど。仕掛けてくる頻度は、あまり多くなかった。

 

休憩を入れた後、第十三層へ。

 

同じような都市が、ずっと続いている。

 

今は、人が住んでいないようだけれど。ひょっとすると、昔は数え切れないほどの人で、賑わったのかも知れない。

 

驚いたのは、空が見える事だ。

 

だがよく見ると、雲は動いていないし、所々に切れ目のようなものがある。

 

まがい物の空なのだと、見ていてなんと為しに理解できた。

 

ステルクは来慣れているのか、黙々と歩いている。時々地図を確認しているけれど。この様子では、地図は多くの戦士達の犠牲の末に、出来たものなのだろう。ホムンクルスの部隊を投入しても、簡単に行くとは思えない。

 

いきなり、斜め後ろから触手が伸びてきた。

 

リオネラが反応して、自動防御を展開。はじき返す。

 

ロロナが即応して、砲撃を叩き込むと、静かになった。何だったかはわからないが、害がある存在だったのは間違いない。

 

巨大な建物の前で、ステルクが足を止める。

 

この中に、ポータルがあると言う。

 

なんとドアは、近づくだけで勝手に開いた。

 

「昔の人間が作った仕組みだ。 まだ生きている」

 

ステルクが、入るように促す。

 

建物の中には、全員が充分に入れるほど、大きな空間がある。中には噴水まであって、誰かが喋っていた。気配は無い。人が喋っているのではない。

 

ただし、言葉が違うらしく、聞き取れない。

 

機械が喋っているのだとはわかるけれど。昔の人達は、どうして機械に喋らせていたのだろう。

 

わからない。

 

昔の人に、直接聞いてみるしかない。だけれど、もはやその手段が、殆ど無いのが悲しかった。

 

パメラを連れてくれば、わかるのだろうか。

 

しかし、わかったところで意味がない。

 

ステルクが言うまま、地下に降りていく。荷車は担いで持っていかなければならなかった。

 

地下にあるポータルから、十四層へ。

 

周囲のモンスターの気配は、濃くなる一方だ。

 

休憩できる場所も、減りつつある。この様子では、邪神と遭遇する前に、力尽きるのではないか。

 

そんな不安も、せり上がってくる。

 

だが、側にはずっとクールなままのクーデリアがいる。彼女がいる限り、ロロナは大丈夫だ。

 

十四層は、巨大な橋の上に作られているようだった。

 

周囲には、海らしきものがみえるけれど。

 

中に何がいるか、わかったものではない。入る事は危険すぎるだろう。それに本当に、水なのかもわからなかった。

 

ステルクが、地図を開く。

 

この辺りからは、彼もあまり慣れていないらしい。ジオが促して、歩き始める。この先に休憩できるところがあると言う。

 

まるで綱渡りだ。

 

そう、ロロナは思った。

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