暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
科学的に正しい賢者の石、登場です。
なお、実際にこの方式でやる場合、現代の現実の人間だったら確定で死にますので、それはご注意ください。
やれませんけれど。
実験の場として、王宮の中庭が選ばれた。
ホムンクルス達に手伝ってもらって、以前行ったのと全く同じ準備をしていく。実験の立ち会いとして、エスティとステルク。
それに今回は、正装したジオ王も来ていた。
激高した王に、殺されるかも知れない。
それはわかっていた。
だがロロナは、もしそうなったとしても、恨まないと決めていた。自分で決めたことなのだから。
賢者の石に、水銀を注ぐ。
そして、説明を、クーデリアにしてもらった。
水銀は本来、非常に危険であること。毒性も強く、これだけの量が空気中に拡散したら、体に良くない影響が出るかも知れないこと。だから水銀は魔術でこのガワに封じ込めて、絶対に出さないようにしてあること。
水銀から金を作り出す事は、本来驚天の奇跡である事。
クーデリアの説明はとても分かり易い。
見物人が増える。
タントリスに伴われて、メリオダス大臣も来る。
流石に頑丈なフォイエルバッハ元公爵も、アルフレッドと一緒に来た。難しい顔をしていて、クーデリアとは視線も合わせない。ただ、もう怪我の影響は無い様子だ。
リオネラやイクセルも、来てくれた。
驚いたのは、騎士団長や有名な戦士だけではない。武器屋の親父さんやティファナ、それにパメラもいることか。
みんな、このプロジェクトに噛んでいたのだと思うと、納得も出来る。妙に連携が取れていると思ったのだ。
アストリッド師匠だけは、いない。
パラケルススをはじめとするホムンクルス達は非常に動きが正確で、設計図通りにほぼ完璧な組み立てをしてくれた。水平計を使って傾きを調べて、更に熱線が放出される方向を計測。問題が無いことを確認しきった後、念のためクーデリアにもチェックしてもらう。彼女は前回の実験に立ち会っているから、何ら問題ない。ただでさえ記憶力が良いクーデリアなので、見逃しはしないだろう。
組み立てが終了。
皆が注目している中、動力源であるドンケルハイト結晶を、火ばさみで掴んで、乗せる。
反応が始まった。
前回より若干近くで見ているが、反応中は賢者の石のガワの内部が、凄まじい光を放っている。
水銀は最初の一瞬で全部蒸発して、魔法陣によって賢者の石のガワに閉じ込められて、ぐるぐると超高速での回転をしている。その過程で、膨大な光を放っているのだ。
これは、柔い素材でガワを作っていたら、一瞬で破裂してしまっていただろう。ハルモリウムがそれだけ桁外れに頑丈で熱にも強いという事だ。ただそれにも限界がある。欲を掻いて水銀の量を増やしたりしたら、どかんと行く可能性が高い。
上空の雲が、前回と同じように消し飛んだ。
周囲から、どよめきが上がる。
大丈夫なのかと、メリオダス大臣が不安そうに言う。
ロロナが見たところ、状態は安定している。前回から、更に幾つかの点で改良を加えているのだから、当然だ。もう少ししたら、火ばさみでドンケルハイト結晶を取り外すのが良いだろう。
「そろそろよ」
「うん」
クーデリアに言われて、時間を確認。
火ばさみを使って、ドンケルハイト結晶を取り外す。
ちなみに落としてしまった場合も、弾かれて外に落ちるように、魔法陣で斥力を調整してある。ロロナがドジなことを見越して、クーデリアがそう言う機能を付けるべきだと言ったのである。
確かにそれは理にかなうと思ったから、機能は盛り込み済みである。
「後は、冷やしてしばらく待ちます」
ロロナが説明している間に、リオネラが動く。冷却の魔法陣に、魔力を注ぎはじめる。ロロナも、すぐにそれを手伝う。冷やすのは、出来るだけ早い方が良いからだ。
徐々に、上空に放出されている熱線が収まりはじめる。
考えて見れば、あの熱線を兵器利用する事が、可能かも知れないけれど。ロロナはそんなことには荷担できない。
そもそも、この実験の趣旨が。
頭を振る。
今は、実験の正否を確認することが先だ。
水銀が、液体状に戻るまで、少し時間が掛かる。
周囲ではざわめきが絶えない。
金を作り出す事なんて、本当に出来るのか。あの実験は理解できなかったが、何が起きていたのか。
そんな声が、聞こえ来る。
魔術師達も、理論について理解できている者は、殆どいないようだった。
水銀が液体に戻るまで、ずいぶんとやきもきさせられた。リオネラが耳元に、そろそろだとささやいて、我に返る。
水銀は、液体に戻っていた。
確認してから、専用のはさみを使って、取り出したのは。さほど大きくも無い、金の塊である。
すぐにホムンクルス達が動く。
まず水にこの塊を沈めて、体積を計測。
その後、天秤を使って主さを量る。
こうすることで、純金の単位体積辺りの重さと比較できるからだ。
しばらく計算をした後、ホムンクルスが顔を上げた。
「間違いありません。 純金です」
「ふむ……」
やはり、王は難しい顔をしていた。
これだけ大がかりな実験をして。しかも、膨大な力をつぎ込んで。なおかつ。危険さえある。
それで、出来たのがこれっぽっちの金。
割に合わないというのは、目に見えている。
「確かに、水銀から金を生成することに成功したようだな。 だが同時に、今回の道具では、金を大量生産することは不可能のように思えるが」
「はい。 でも、これが錬金術の究極だと、私は考えています」
「聞かせてもらおうか。 どういう意味か」
「オルトガラクセンに潜って、いろいろな情報を集めて、この賢者の石を作り上げることが出来ました。 でも、それでわかったんです。 過剰すぎる技術をつぎ込んで、無理矢理に摂理の中で摂理を曲げて、金を造り出しても。 その結果は、これだって」
あまりにも人の身を外れすぎた技術は。
むなしい結果しか生まない。それは、あのオルトガラクセンにいた邪神死の王を見ても、明らかだ。
「人々を救うためには、こんな技術は必要ないと思います。 むしろ、こんな技術を振り回して遊んでいたから、いにしえの時代の人々は、滅んでしまったのではないかと、私は思うんです」
「究極を不要とは、はっきりとものを言ってくれるものだ。 それにこれを課題として納品してしまって、大丈夫だと君は思っているのかね」
「覚悟は出来ています。 私にとって、究極とはこういうものです。 これ以外に、究極は、私の中では少なくともありません」
「そうか」
拘束されるかと思ったが、王は立ち上がると、その場を離れた。
不安そうにしている周囲の人達。
ステルクが呼ばれて、その場を離れる。
クーデリアが、小さく嘆息した。
「最悪の場合は、あたしが囮になるわ。 何があってもあんたを此処から逃がしてみせるから」
「大丈夫、無理はしないで、くーちゃん。 それにへいか、そんなに怒っているようには見えなかったから」
「どうかしらね……」
ステルクは、すぐに戻ってきた。厳しい表情のクーデリアを一瞥だけする。
スクロールを手にしている。どうやら、この場で結果を発表するらしい。
流石に皆が見ているから、緊張する。
「それでは、今期の課題の結果を発表する」
「は、はい」
「今期の課題は、錬金術の究極を納品するというものだった。 君はそれに答えて、見事に金を生成して見せた。 実用性が無い事は確かだが、課題の達成という点では、問題ないと判断した」
合格だ。
ステルクがそう言うと、周囲がわっと湧いた。
おめでとう。
そんな言葉が、たくさん飛んでくる。
ロロナは驚いて、思わず顔を上げてしまった。
みんなが、拍手してくれる。満面の笑顔で。実際に、皆が見ている前で、金を作ったとは言え、こんな実用性の欠片も無い道具を、貴重な材料を山ほど用いて作ったのだ。アトリエを取りつぶされて、旅に出ることになる事くらいは覚悟を決めていた。下手をすると、殺される事も可能性としてはあった。
それなのに、どうしてだろう。
イクセルやタントリスといった、一緒に戦い続けた人だけではない。
武器屋の親父さんもティファナも、パメラも。他にも世話になった人皆が、拍手をしていた。
メリオダス大臣やフォイエルバッハ卿までもが、である。
「アトリエの存続は、正式に決定。 君をアーランド付きの国家所属錬金術師に、正式に任命する。 これからは任務として、多くの人々を救う錬金術の道具を作っていく事になる。 それに、ある程度の政治的発言権も、今後は与えられる。 国家の重要な戦略会議にも、出席してもらう事になるだろう」
幾つかのスクロールを手渡される。
課題を突破した証明。
国家錬金術師の証書。
アトリエの所有権を認める書。
もう一度、周囲から拍手が起きる。どうしてだろう。
いつの間にか、ロロナには。それが、何故か、全くわからなくなっていた。
玉座で頬杖をついている王の元へ、ステルクは戻る。
あまり良い気分では無かった。
王の予想通りになったからだ。
この実験が始まる前に、王は言っていた。おそらくロロナは、実用性がない品を提出するだろうと。アストリッドの予想と反した結果になるだろうとも。
むっつりと黙り込んでいる王に、状況を報告。書類を手渡した後、ロロナはアトリエに帰らせた。
これからお祝いをするのだという。
ロロナを支えていた者達は、皆が嬉しそうだった。
いや、違う。
彼らは皆、この件の裏にある、本当の事情を知らない。
事情を知っているのは、ステルクとエスティだけ。
ロロナがあのような、「本物の賢者の石」を持ち込んでくるだろう事は、王は既に予見していた。
そしてステルクとエスティだけは、聞かされていた。
他の幹部。フォイエルバッハ卿やメリオダス大臣でさえ、それは知らされていなかった。
「全て、予定通りに進みました」
「そうか、それでよし」
「どうして、このような展開になることを、読めたのですか」
「決まっている。 あの娘は。 ロロナは、既に厭世観に囚われていた。 おそらく、何もかも投げ出して、死にたいと心の奥底で願うようになっていたのだ。 だがな、あのように有為な人材を放り捨てるわけにはいかんでな」
死にたいと言うから、死なせてやるほど、余は優しくない。
ジオ王は、そう言う。
ステルクは眉を跳ね上げる。だが、この王は。時々、こういったとても冷酷なところは見せるけれど。
しかし約束はきちんと守る人物である。嘘もつかない。
事実ロロナには、最初の約束通り、きちんとしたポストを与えていた。今後は、ロロナは政治的な発言権も得るし、潤沢な予算から錬金術をぐっとやりやすくもなる。
ステルクは知っている。
今のロロナは、人を救うことを生き甲斐にしている。それは、死さえ願っている今も同じ事だ。二つの事は矛盾なく、ロロナの中で共存している。
世界の闇を見て心が疲弊しきってはいるけれど。それでも、毎度毎度課題で実用的な品を納品してきたのは、それが理由だろう。
「そなたはこの国を愛しているか?」
「国そのものよりも、民を愛しています」
「それでよい。 余も同じだ。 だからこそに、今のスピアのやり方は看過できん。 アーランドの、自然と生きるやり方こそが、疲弊しきった世界を元に戻すために、必要なことだと信じている。 それには、アストリッドよりも、ロロナのような人材の方が必要なのだ」
それはわかっている。
だが、どうもやりきれないと、ステルクは思うのだった。
プロジェクトMの第一段階は成功だと、王は言う。
アーランドの国力は、ロロナが造り出した幾つもの発明品で、一気に成長する。
既に前線に配備されはじめたロロナ式自走大砲は、辺境の技術力を侮っていた列強に大きな衝撃を与えている。
ロロナ式耐久糧食も既に前線では一般的なものとなり、戦士達からは非常によい評判をもって迎えられていた。
貧しく水が足りない村々では、湧水の杯が救いの存在となっていた。既に幾つかの国から、湧水の杯提供を求める声が上がってきている。当然、今後の外交で、大きな武器になる事は間違いない。
更に、ロロナが量産化に成功したアーランド石晶は、宝石の不足に困っていた戦士達に、大きな戦力を与えている。今後、あのアーランド石晶を加工した魔術の道具によって、アーランド戦士の戦闘力は、大きく底上げされるだろう。
土壌を回復させる栄養剤の改良も、著しく進んだ。今まで使用されていた栄養剤とは質が違うと、現場で働いている緑化チームは声を揃えている。
荒れ地の緑化は、今後速度がかなり上がるだろう。今まで放置されていた荒れ地の幾つかは、これから一気に緑化できる。そうなれば、村そのものを増やすことが可能だ。これに、アストリッドが完成させたホムンクルスの量産技術を加えれば。人口そのものを、増やすことも出来る。自然に無理なく、だ。
これは出来レースだったが。
それでも、ロロナが果たした役割は非常に大きい。
「これより、プロジェクトMは、第二段階に入る」
「各国の連携を高めるための、路の創設、ですか」
「そうだ。 此方は10年計画で実施する。 そうそうに人材を見つけ出す必要がある」
それに、ロロナには弟子も取らせなければならない。
ただ、ロロナ自身が教育をするのは難しいだろう。あの娘は作られたとはいえ天才だ。天才が、凡人にものを教えるのは難しい。何か壁にぶつかったとき、何故そんな簡単な事がわからないのか、理解できないからだ。
王はプロジェクトM第二段階について、蕩々という。
わかっている。
それらは、既にステルクも、以前から会議で聞かされていたからだ。
「ロロナは。 いつ、自由になれるのでしょうか」
「そのような事をいわせるか? 余に」
「是非、お願いいたします」
「一生無理だな。 だが、それは仕方が無い事だ。 それにあの娘は、アストリッドが言う摂理の究極である神に到る道にいる。 賢者の石がどのようなものであろうと関係はない。 いずれ、神になるのは確定事項だ。 それが今すぐか、後になるか、それだけの違いでしかない」
無言で頭を下げるステルク。
強い反発の心が、胸の内に燃えさかりはじめている。ロロナとは、ずっと一緒に戦い続けてきた。
だからこそ、かも知れない。
いずれ、絶対にロロナを自由にしてやりたい。
そう、ステルクは思い始めていたのだ。
玉座の間を後にする。
この戦いは、始まったばかり。スピアとの戦争はこれから過酷さを増していく事がわかりきっている。
いずれ、王のもくろみ通りに行けば。
辺境諸国が、アーランドを中心に、連邦国家としてまとまり上がる。
そうすることで、中央の列強と互角以上に渡り合えるようになる。列強を統合したスピアとも、全面戦争が行える体力がつくだろう。そうなった後は、スピアの中枢にいる怪物共をどうにかすれば。安定の時代が来る。
国力を高めたアーランドの生活水準は飛躍的に向上し、むしろ列強の方が前時代的な富国強兵策に足下を掬われた形になる。やがて、力の差は逆転していく。
ここまで上手く行くとは、ステルクには思えない。
スピアの錬金術師達が、何をしでかすか、わかったものではないからだ。
王宮を出て、サンライズ食堂に向かう。
ロロナがお祝いパーティをしている頃だ。
今日は、せめてロロナを祝ってやりたい。
心が病み掛けているロロナには。せめて今だけでも。
三年にわたる地獄の課題を達成して。周りの皆からも愛されているという事を、伝えてやりたかった。