暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
離別。
そして新しい生活が始まります。
既に国の重鎮となったロロナは、ダーティーワークにもこれからは関わっていかなければならないのです。
何人かいるホムンクルス達に雑作業を任せて、ロロナ自身は調合の最終段階に入る。戦闘向けに調整されているとは言え、ホムンクルス達は基本的に手先も器用で、失敗もあまり多くはない。
炉から引っ張り出したインゴットに、調合しておいた液体を掛ける。
一気に蒸気が噴き出した。
このインゴットは、今アーランドが進めている路の創造計画の要となるもの。風雨に強く、何より重くて安定している。敷き詰めることで、非常に安定した路を作り上げることが可能となるものだ。
現地で一度調合中の液体を掛けることで、柔らかくすることが出来る。
叩いて伸ばして、切り分けて。
セットすることで、非常に頑強な路の元になる。石材は現地で調達するとして。路の枠を作ったり、石材を固定するのに、非常に大きな効果を発揮するはずだ。
路があるとないとでは、まるで移動にかかる労力が違う。
これは荷車を引いて彼方此方に出かけた事で、ロロナも散々に思い知らされた事だった。
汗を拭った。
後は性能実験だ。ここからが大変だけれど、今はアトリエに複数のホムンクルスがいる。彼女らに任せておけば、作業時間はかなり短縮できる。
戸をノックする音。
気配からして、リオネラだろう。
「はーい!」
「おはよう、ロロナちゃん」
「おはよう!」
アトリエに入ってきたリオネラは、以前とは随分格好が違っている。
束ねていた髪は下ろしているし、随分伸びた。人形劇をしていた頃の薄い衣服はもう着ていない。今では袖が長い魔術師用のローブを着込んで、手にも専用の杖を持っていた。そして、アラーニャとホロホロは。
最近は、心の中で時々会話をするだけのようだ。
人格の統合は、もう完成しているのかも知れない。
長い長い地獄の中から、リオネラは這い上がることが出来たのだ。最近は笑顔も増えてきたし、以前とは違う方向で、彼女はおじさま達に人気が出ているようだった。元々顔の造作も整っていて綺麗な子だったので、なおさらなのだろう。
「今日も朝から精が出るね」
「後は実験をして終わりかな。 石材固定用の強化材、上手く行けば数日以内に納品できそうだよ」
「良かった。 はい、お土産」
手渡されたのは、バスケット。
中には焼き菓子がたくさん入っていた。リオネラが師匠にしている魔術師の一人が、焼いてくれたものらしい。
ホムンクルス達を呼んで、お茶の準備をさせた。
何人かいるホムンクルスは、いずれも戦闘向けではなかったり、手酷い怪我をしてPTSDを煩い、前線から戻されてきた子達だ。
リオネラがてきぱきとお茶を淹れてくれたので、そのままブレイクタイムにする。
どのみち、作業はもう一段落しているのだ。
本当のところは、もっと働いても大丈夫なのだけれど。リオネラもクーデリアも、ロロナが連続して働き続けていると、すごく怒る。
だから、今では。適当に休憩を入れることが、日課になっていた。
お菓子はとても美味しく焼けている。
どうやら何かの香辛料を入れているらしい。医療魔術師として既に働き始めているリオネラだが、技術を更に上げるために。まだまだ修行は続けている。この辺りの生真面目さが、師匠達にかわいがられる要員なのだろう。
クーデリアが、少し遅れてきた。
彼女は国から、正式にロロナの作業における進捗管理を任されている。だから一日一回は、絶対に様子を見に来る。
結局あの課題を終えた日からも、クーデリアの背は伸びていない。
ロロナもそれは同じだ。ただロロナは少しお胸が大きくなったり、体つきが大人っぽくなったのに。クーデリアは幼児体型のままで、それを気にはしているようだった。
アストリッドによる調整の悪影響は、体にこんな負担を掛けている。
いずれにしても、どうにかして改善することは、今なら本気になれば出来るだろう。あの課題が終わってから、三年。
ロロナの技術も知識も、昔とは比較にならないほどに増している。
まだまだアストリッド師匠には勝てる気がしないけれど。それでも、クーデリアやロロナの体に施された実験の結果は既に見つけているし、其処からさかのぼって改善策を見いだすことは可能だ。
だが、クーデリアは、無理はしなくて良いと、時々寂しく笑う。
この小さなまま成長しない体で、別に構わないと言うのだ。
ただ、調べて見て、わかっている。
クーデリアは子供が産めない体だ。調整の結果だろう。これはロロナも同じ。
いずれ、もし好きな人が出来て。子供を産みたいと思うようになったのなら。もう一度、真剣に話し合わなければならない時が、来るだろう。
その時のためにも、研究は進めておかなければならない。
クーデリアは、ロロナが造り出した道具類の、販売管理も請け負っている。それで出た利益の殆どは国が吸い上げるが、一部はクーデリアとロロナの所に降りてくる。
正直、それで充分な活動資金が造れるので、ロロナには不満はないのだけれど。
クーデリアは搾取しすぎだと言って、国側の責任者であるメリオダス大臣と、毎月激しくやりあっているらしかった。
最近はメリオダスの業務の一部をタントリスが引き継ぎはじめているとかも聞く。その過程で、タントリスとやり合うことも増えているそうだ。
タントリスも、時々アトリエに遊びに来る。
ただ、昔は毎回違った女性とつきあっていたようなのだけれど。今では、交際している女性は一人に絞っているそうだ。以前紹介されたのだが、清楚な雰囲気の優しい女性だった。
茶が終わったので、作業に戻ろうとする。
咳払いしたクーデリアが、目を光らせる。
「時にロロナ、また弟子に逃げられたんだって?」
「え? あ、うん。 はい」
「国からの依頼は的確にこなしているから、あたしが取りなしてはいるけれど。 そろそろ、まずいわよ」
「そっかあ。 また駄目だったの」
リオネラが、本当に残念そうに言う。
ロロナは苦笑いしてしまった。
去年くらいから、本格的に弟子の育成をはじめたのだ。
だが、ロロナはやはり、誰かにものを教えるには向いていないらしい。クーデリアに言われて色々と試してはいるのだけれど、それでも難しいのだ。
弟子候補の人は、たくさん来る。
ロロナが作った湧水の杯によって救われた村の人達。耐久糧食のおかげで、飢えを免れた戦闘専門の魔術師。ロロナの作った自走式大砲に興味を持った科学者なんて変わり種さえいた。
年齢も様々。子供から大人まで。中には、ロロナの親ほども年が離れた人さえいた。
みんな、熱心で、錬金術に興味を持っている人達ばかり。
だけれど、彼らはロロナに教わった後、揃って言うのだ。
「ロロナ先生の言う事は、あまりにも抽象的すぎて、理解しがたい。 錬金術は、貴方にしか使えない、一種の固有スキルだとしか思えない」
同じ事を、たくさんの人に言われた。
時々ステルクやエスティが来て、弟子はまだかとせっついてくる。この間などは、なんとジオ王が直接アトリエに来て、孫でも促すようにせっついてきたのだった。ロロナは恐縮するしかなかった。
今でもスピアとの戦いは続いている。
ロロナも時々かり出されて、強力なモンスターと一戦を交えることもある。その時は、だいたいクーデリアやリオネラも一緒だ。
悪魔達とも、共同戦線を張ることは多い。
それらの活躍は、プロジェクトの進捗を、大いに助けてはいるらしいのだけれど。
弟子が出来ない事だけは、大きな問題らしかった。
「もう一度言うけれど、あたしが庇うのも限界が近いのよ。 あんたは今じゃ相当な腕前の錬金術師なんだから、弟子さえとれば随分楽になるし、事業も拡大できる。 どうにか工夫しなさいよ」
「わかってるよ、でも難しくて」
「天才は、凡人の心を理解できないって奴だね」
リオネラが、笑顔のままさらりという。
この子は、以前は硝子のように脆かったけれど。最近は図太いところも出てきている。時々毒舌も振るうようになったので、そんなときは苦笑いだ。
「いっそのこと、ずっと小さな子供を弟子にしてみる?」
「そうだね。 まずは楽しく、歌って踊りながら、錬金術のイロハを、とか?」
「楽しそうだね、それ」
「やり方は好きにしなさい。 成果さえあがれば、誰も文句は言わないわ。 あんたの仕事と同じようにね」
実際、ロロナの納入した品に、クレームが来たことは一度もない。
やはりロロナは実用に長けた道具を作る事に、一日の長がある。しかし、どうしても弟子の育成だけは、四苦八苦ばかりだった。
リオネラが邪魔になってはいけないと、帰って行く。
クーデリアは残って、作業の進捗の確認と、手伝いをしてくれた。クーデリアが側にいると、やっぱり安心して作業が出来る。何より、あらゆる事を覚えてくれているのが、本当に有り難い。
ホムンクルス達に手伝ってもらって、実験を進める。
夕方に、もう一度休憩。
クーデリアと連れだって、サンライズ食堂に出向いた。
イクセルは少し前に彼女が出来て、それが原因か、随分とかっこよくなった。元々かっこよくなる下地はあったらしく、それが女が出来る事で伸びたのだろう。
料理を注文するが。
忙しそうにしているイクセルは、以前のように厨房からは出てこない。
代わりにウェイトレスさんが、料理を運んできた。彼女は以前、ロロナが作った薬で難病から命を取り留めたことがあり、その事もあって随分良くしてくれる。今日もおまけだと言って、少し大盛りに料理を持ってきてくれた。
成長期を過ぎた今でも、生体魔力が人並み外れて大きいせいか、食欲は結構ある。
クーデリアと一緒に、しばし黙々と料理に舌鼓を打った。
食べ終えた後は、くつろぎながら、軽く話す。
仕事の話が殆どだった。
「スピアはホランドを制圧した後、隣国に侵攻を開始したらしいわ。 海軍が全滅したって言うのに、旺盛な事よ」
「本当に、どうしてなんだろう」
スピアの話を聞くと、悲しくなるばかりだ。
ホランドが有していた強力な海軍は、スピアに接収された後、悪魔達が切り札として導入した強力なドラゴン「海王」によって、一夜にして滅びた。全ての軍船が潰され、海に沈んだのだ。元々嵐の日だったので、海兵達は船から上がっていて、あまり人的被害は出なかった。そうするように、ロロナが悪魔の長であるロードに頼んだのだ。
海兵だけいても、海軍は意味がない。
これで、海上でのスピアの行動は、著しく制限される。
その筈だったのに。
スピアの錬金術師達は相も変わらずで、活発にアーランドに攻撃を仕掛けてくる。北の街を守っている師匠の様子も心配だ。時々どころか、頻繁に大物モンスターによる襲撃があるようなのだから。
このままだと、手数で押し負けてしまう。
やはりみんなが言うように、弟子の育成は必須なのだと、ロロナもわかっている。
国が相手になってしまうと、どうしても一人では対処が難しい。ロロナの分身とまではいかないにしても。近い能力を持つ錬金術師がもう一人いれば、アーランドは随分と楽になるはずなのだ。
「この様子だと、予想通りスピアが大陸の北東部を10年以内に制圧するわね。 もしそうなると、アーランドにかかる負担は、今までの比では無くなるわ」
「どうにかしないと」
「わかってるなら、早く弟子を作りなさい。 多少出来が悪くても、あたしも一緒に鍛えてあげるから」
そう言われると、心強い。
銭湯に行って汗を流してから、アトリエに戻る。クーデリアは家に帰った。これから、色々と作業をまとめなければならないらしい。ひょっとすると、近いうちに遠征があるのかも知れない。
修羅場はもう慣れっこだ。
今更、モンスターと戦う事を、怖いとは思わない。
アトリエに戻ると、手紙が来ていた。食事に行っている間に、エスティが置いていったのだと、ホムンクルスが言う。
それは、南にある港町である、アランヤ村に出向けという内容であった。
仕事の内容は、さほど難しいものでもない。ただ、気分転換には丁度良いかも知れない。
遠征に備えて、今日は早めに休むことにする。
周りに支えられて、ロロナは今生きている。
だから、周りを無視するわけにはいかないのだ。