暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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エピローグ、闇をさまよう者

ロロナは、夢を見た。

 

師匠が闇の中、一人でさまよっている夢。

 

ロロナが呼びかけるが。アストリッドは振り返らない。その手は血まみれ。そして気がつくと、辺りにはたくさんの死体が散らばっていた。

 

その中には、自分やクーデリアのものもあった。

 

ステルクや、ジオ王のものさえも。

 

息を呑もうとして、失敗する。師匠は殺戮の限りを尽くして、嬉しそうにしているか。否。その目には感情の一つも、宿ってはいない。ただ殺したいから殺した。そう顔には書かれていた。

 

死体の中にホムを見つけて、悲しくなった。

 

師匠のすぐ側に立つ。夢だとわかっている。だから、どんな矛盾があっても、不思議では無い。

 

師匠はロロナを見もしない。どうして、このような悲しい断絶が、師匠との間に出来てしまったのだろう。どうして、こんな悲惨な夢を、見てしまうのだろう。

 

そうだ。

 

この間、師匠にあった。たまたま、旅先で。そこに師匠がいるとは聞いていなかった。師匠も、ロロナが来るとは知らなかったらしい。

 

その時師匠は、ロロナを見て、こう言った。

 

まだ生きていたのかと。

 

おかげさまでと応えると、アストリッド師匠は薄く笑った。ホムは近いうちに帰す。このままでは、死なせるだろうからと。

 

修羅となって、自分を無にしたいと言っていたのは、本当であったらしい。

 

いつでも帰ってきてください。

 

そう言ったけれど。師匠は、ロロナの方を、見もしなかった。

 

ロロナが手を伸ばしても、届かない先へ、アストリッドは行こうとしている。血と屍で塗装された、闇の先へ。

 

誰もが、師匠に愛情を向けなかった。

 

唯一向けた人は、惨殺されてしまった。

 

だから、師匠は。今でも世界を憎んでいる。人間全てを、師匠は許す気が無い。そして何より、自分自身を一番嫌い抜いている。

 

わかっている。そんな事は。

 

だが、いつかは救いたいのだ。

 

この死体の山は、師匠の願望。だから、止めなければならない。だが、師匠を止めたとき。あの人は、救えるのだろうか。

 

 

 

目が覚める。

 

遠くで虫が鳴いている。知らないベッド。隣には、護衛として連れてきたホムンクルスのナナニが眠っていた。77番という名前を付けられていたのだけれど、それでは可哀想だと思って、ロロナが呼び始めたのだ。

 

師匠が送り返してきたホムは、この場にはいない。今は留守番を担当している。ホムンクルスなのに、既にロロナよりも背が高くなっていて、羨ましい。

 

そういえば此処は。

 

頭を振って、思い出す。

 

そうか、滞在するようになった、アーランドの南部最辺縁にあるアランヤ村だ。ある事情から、しばらく此処にいて欲しいと頼まれている。

 

そして、どうやら、ようやく弟子が出来そうなのだ。

 

コートを羽織って、寝間着のまま外に出る。慌ててナナニがついてきたので、好きなように護衛させる。

 

虫の鳴き声が近くなった。

 

潮風の臭いがする。

 

海がすぐ近くに見えて、思い出してしまう。

 

悪魔達は死ぬと、海に死体を流す。そうすることで、少しでもナノマシンを中和するのだとか。

 

幸い、ナノマシンを中和するカウンターナノマシンは、海の中では自動繁殖できる。だから、海の汚染に関しては、陸よりも遙かに早く回復が進んでいるという。お魚がたくさん住めているのも、そのおかげなのだとか。

 

夜の領域に少し前に足を運んだとき、聞かされた事だ。

 

夜の港は閑散としている。この時間だから、というのもあるのだけれど。海には強力なモンスターが、昔から多く出る。生息密度はあまり高くないのだけれど、何しろ漁師は行動範囲が広い。遭遇する可能性は、どうしても高くなるのだ。

 

アランヤ村には優秀な戦士が複数いて、その中の一人は、クーデリアが何度も文句を言っている札付きの問題児だった。ただ彼女は少し前に失踪しており、それ以降この村はどうにも振るわない状態が続いている。ギゼラという名前の彼女は、近隣を脅かしていた海棲のドラゴンと相打ちになって姿を消したらしく、村の者達は生存を絶望視しているようだった。

 

少し寒いけれど、平気だ。

 

歩いて、村を見回る。途中、巡回の戦士達とすれ違った。挨拶してくれたので、此方もぺこりと一礼。

 

異常は無し。

 

状況を確認すると、泊まっている家に戻る。

 

奇しくも、噂のギゼラの家だ。今は夫と、娘が二人、慎ましく暮らしている。一人分が丁度空いているので、使わせてもらっているのである。

 

アーランドでも端の端にあるこの村は、モンスターの脅威にもさらされ、土地も豊かではない。だから、ロロナが少しでも改善するために、直接足を運んだのだ。

 

既に戦士達と協力し数体の強力なモンスターは屠って、村の脅威は除いた。村の側にある平原や荒れ地に住んでいる脅威度が低いモンスターについては、戦士の質を維持するためにも、残しておく。それに、ロロナは、オルトガラクセンでこの世界にいるモンスターの真実を知っている。できる限り、無駄な殺生はしたくない。

 

村の中央には、持ち込んだ湧水の杯が四つ。

 

この村の近くには河口がない。

 

つまり、海の側だというのに、水が足りていないのだ。何故このように不便な場所に村を作ったかというと、近くにあった森には、泉があったから、らしい。残念ながら今では、それは枯れ果ててしまっているが。民は半日ほど歩いて側にある汚れた川に赴き、、樽に水を詰めて荷車で運び、生活に用いていた。勿論非常に汚い水なので、濾過しないととても飲めない。今の人間はその程度の汚れは平気だけれど、精神衛生上の問題だ。

 

流石に不便極まりないだろうと思って、ロロナが湧水の杯を持ち込んだのだ。今ではある程度の政治的権限も与えられているし、このくらいの判断であればしても良いことになっている。

 

事実、村の人達は。モンスターの駆除よりも、此方を喜んでいたほどだ。

 

港の方には、朽ちかけた船が幾つか泊まっている。

 

未だにモンスターが怖くて、海に出られないのだという。ロロナが代替生活手段を持ち込んではいるが、まだしばらくは、村の再建に時間が掛かるだろう。幸い、村の戦士達は、ロロナを尊敬してくれている。身の危険を考えなくても良いことだけが救いか。ただ、漁師をしていた者達は、近場で釣り糸を垂れたり網を投げたりして、申し訳程度の魚しか捕ることが出来ず、腐っているようだ。

 

彼らを何とかしてあげたい。

 

見回った後、家に戻る。

 

寝る少し前まで、娘二人の内姉の方。ツェツィーリアというしっかりものの娘は、てきぱきと働いていた。明日のための薪を作ったり、水を汲んでためておいたり。あれだけてきぱきと働ければ、嫁のもらい手には困らないだろう。

 

ただ、戦闘力はあまり高くないようだった。

 

これは妹も同じ。

 

アーランド人らしくもない。ひょっとすると、別の国の出身者かも知れない。

 

ベッドに入ろうとすると、目を擦りながら、この家の娘、妹の方が部屋に入ってきた。名前は、トトゥーリアという。トトリと呼ばれる事が多いようだ。アーランドでは珍しい名前だが、此処はこの国の最辺縁。不思議な文化が隣国から入ってきていても、おかしくはない。

 

トトリは事故にあう前のクーデリアを思わせる雰囲気がある。喋るのも何もかも、おっかなびっくりだ。

 

「先生? まだ、おきてるの?」

 

「ううん、もう寝るところだよ」

 

ドアの影から、じっと此方を見ている小さな娘。

 

恐がりで、臆病。

 

しかし、ロロナの言う事をきちんと理解できて、錬金術の基礎を身につけることが出来た、初めての人間。

 

要するに、元の知能が非常に高いのだろうとロロナは考えているけれど。本当のところは、よく分からない。

 

かといって変人というわけではなく、平均的な考え方も持っている。

 

或いは、天才と凡人の間を埋めうる、希有な存在かも知れない。

 

だがそんなトトリも、今はまだ、弱々しい小娘だ。

 

一緒に寝るかと聞くが、首を横に振る。

 

「起きたときいないと、お姉ちゃんが心配するから」

 

「そう。 お姉ちゃんが大好きなんだね」

 

「うん……」

 

寝室に戻っていく。

 

あれは、お姉さんよりも。お母さんが恋しい様子だ。部屋に気配を感じて、お母さんが戻ってきたのかも知れないと思って、見に来たのだろう。

 

それはそうだ。まだ九歳なのである。

 

失踪した母親も、まだ若かったと聞いている。無理もない事である。

 

やりきれない話だけれど。この世界には、この程度の悲劇なんて、いくらでも転がっている。

 

ベッドで寝返りを打つ。

 

人の数を増やしすぎれば、いにしえの時代の二の舞。

 

技術を上げすぎれば、きっとまた、スピアの錬金術師達のような人達が、世界にとんでもない事をしでかすだろう。世界がこのような状態になっても、未だに人間を万物の霊長とか考えてしまう人がいるのだ。人間の愚かさは、ロロナが想像する範囲を遙かに超えてしまっている。

 

ロロナに出来る事は限られている。

 

本当にこれで良いのか、悩むときも多い。

 

でも、今はこれしか無い。

 

そう信じて、ロロナは出来る事をやり続ける。

 

力は得た。

 

知恵も。

 

だから、得た物で、可能な限りの人は救う。そうでなければ、人間を止めてまで付加された力が無為になってしまう。

 

凶行を働く外道は、力の及ぶ限りで止める。そうしていくことで、自分が出来る範囲で、世界を変えていくのだ。

 

ロロナの弟子が出来て。そのまた弟子に、力と志を伝えて。その頃には、世界は少しはマシになっているだろうか。

 

ふと、血だらけで、此方を見ている師匠を見た気がした。

 

彼女は虚ろそのものの目で、ロロナを恨んでいるように思えた。

 

そんな師匠も、救ってあげたい。

 

傲慢かも知れないけれど。それが、今のロロナの。もっとも、果たしたい目標の一つ。身を縮めて、どうすればいいのだろうかと、ロロナはもう一度、考えはじめたのだった。

 

 

 

(ロロナのアトリエ二次創作 暗黒!ロロナのアトリエ 完)







魔界と化したアーランドで、必死に生きたロロナという娘の物語。

楽しんでいただけたでしょうか。

好評なようだったら続編以降もアップしようかと思います。

どうしても待てない人は、自分のHPに見に来ていただけると幸いです。シリーズは完結しております。




最後に。

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