暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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原作の図鑑だと犯罪者の一種みたいに書かれている悪魔。本作では普通に人間の亜種なので、会話も普通に出来ます。

今までは利害などの一致も上手く行かず、人間とは距離を取っていた悪魔族ですが。

本作ではロロナさん達の行動などもあり、徐々に人間と距離を詰めていく事になります。まあ、それ以外にも超ヤバイ危機が到来しつつあると言うも原因になっていくのですが。






2、坑道の悪魔

ステルクは、夕方近くにアトリエに来た。

 

いつも以上にやはり怖い顔をしていたのは、気のせいではないだろう。

 

「私の調査に同行したいと言うことだが」

 

「お、お願いします」

 

この人は、獣なんかとは比較にならない戦闘力の持ち主だ。だからというわけではないのだけれど。

 

多分、ロロナの恐怖のツボを刺激するのだろう。

 

ただ、この間同行して、分かってきたこともある。やはりこの人は、クーデリアがいうように、元からこういう顔なのだろう。

 

笑顔を作るのが苦手なのだ。

 

だけれど、分かっていても、やっぱりまだ怖い。

 

「私の今回の調査対象では、戦闘も想定される。 場合によっては、君を守る余裕は無いかもしれないが、かまわないな」

 

「大丈夫です」

 

「ならばいい」

 

一応、護身用に、幾つか道具類も持っていく。

 

試験用に作って見た発破もその一つだ。まだ三つの要件は満たせていないから、護身用としてしか使えないのだ。

 

出立は翌日に決まった。すぐにクーデリアの家にも行って、同行を頼む。

 

夕方だから迷惑がられるかと思ったが。

 

どうやらクーデリアは訓練中だったらしく、訓練着のまま出てきた。額にも首筋にも汗が見える。

 

相当熱心に、体を鍛えていたようだ。

 

「分かったわ。 こっちには異存ないわよ」

 

「ごめんね、危ないところにつきあってもらって」

 

「あんたとあたしの仲でしょ」

 

言い残すと、クーデリアはまた訓練に戻っていった。

 

確かに、クーデリアがいると、とても安心できる。

 

アトリエに戻ると、早めに寝た。明日は早朝の出発だ。昼前には鉱山街について、即座に調査を始めるという事だから、当然だろう。

 

夕食も早めに済ませると、ロロナは荷台の状態をチェック。

 

ゼッテルは固定してあるから、剥がれることは心配しなくても良い。樹氷石に貼るゼッテルについても、今の時点では量が充分に確保できていた。

 

ただ、どれも不格好。

 

更に言うと、ロロナは魔法陣を書くのがあまり上手ではない。機能するように書けるのだけれども。

 

どうしてか、直線を引くのは苦手なのだ。

 

特徴を捉えて絵を描くのは得意なのに。どうしてなのかは、ロロナには分からない。

 

準備を確認した後、ベットに潜り込む。

 

明日は、激戦になる可能性が高い。そう思うと、分かってはいるし、そこそこ経験はあるのに。

 

緊張した。

 

朝、早くに目を覚ます。師匠は出かけているようだったので、自分だけで朝食を採った。日が出る前に、城門に。

 

まだ辺りは暗くて、鶏も鳴かない。

 

ステルクは、城門に背中を預けて待っていた。クーデリアも、既に準備万端の様子である。

 

予定通りの時間だから、怒られなかったけれど。

 

二人とも、早くから待っていたのだろうか。

 

クーデリアはリボルバーを開けて、弾丸の様子を確認している。ステルクは、それにアドバイスをしているようだ。

 

指の使い方をもう少し工夫すると、もう少し早くなると言われて。クーデリアは無言で言われたとおりにやって、確かに少し早くなっていた。

 

歩きながら、二人の会話を聞く。

 

「銃はあくまで牽制用で、本命はクーデリア君の能力そのものか」

 

「そうよ。 こんな豆鉄砲じゃあ、どうせモンスターには通用しないもの」

 

「しかしそうなると、最初から全力で敵と戦えないな。 君自身の身体能力を向上させることと、緻密な戦術の構成が必要になる」

 

「その通りよ。 だから、少しでも実戦を経験したいのだけど」

 

クーデリアは、最近暇を見ては、近くの森の奥地まで出かけていって、そちらで実戦を積んでいるらしい。

 

確かにロロナが見ても、動きがぐっと良くなってきているのは、努力の成果だろう。

 

元々力は強いのだ。

 

経験さえ積めば、もっとずっと強くなるはず。

 

ただ、近くの森に出かける度に傷だらけになっている様子は、ロロナとしては心配だった。

 

何かに焦っているように見えるのだ。

 

クーデリアが命を落としたりしたら、ロロナは悲しくて、魂が抜けたかのようになってしまうだろう。

 

そんなのは、絶対に嫌だ。

 

戦いは、死を伴うものだ。

 

殺し、殺されるのが戦いなのだから。敵を追い払う事で済ませられれば、それはむしろ御の字。

 

いつかクーデリアが、取り返しのつかない結果にならないか。

 

ロロナは不安で、今も会話を聞きながら、はらはらしていた。

 

それにしてもステルクは、銃にも詳しいのか。

 

騎士団は名誉的な集団だと聞いたこともあったのだけれど。何回か見かけた限りでは、充分な戦闘力を有しているように思える。考えて見れば、戦士の中から抜擢されるのだし、当然なのではあるまいか。

 

もし、意図的に弱いという噂を流したのだとすれば。

 

一体誰が、どんな目的で、そんな事をしたのだろう。

 

荷車を引きながら、歩く。

 

クーデリアはステルクとの会話を切り上げて、警戒に移った。既に街道に入っている。この辺りは、油断するとモンスターが出る事もある。

 

滅多にあることではないが。

 

だが、少なくとも、狼やアードラは、この辺りを徘徊していることが珍しくもないので、気だけは抜けない。

 

ちょっと気になったので、先にステルクに聞いておく。

 

「ステルクさんは、悪魔という存在に、あった事があるんですか?」

 

「ある。 あまり上級の存在とは、滅多に会わないが」

 

「どんな感じですか? 会話が通じるかとか、やっぱり強いのか、とか」

 

「そうだな。 たとえば、今鉱山で増えているアポステルのような下級は、人間の子供程度の大きさで、背中に翼が生えている。 物理的な戦闘力はたいした事がないのだが、魔術を使いこなすな」

 

ドラゴンなどになると、魔術を使う者がいるということは、ロロナも聞いたことがあった。知能が高いモンスターも、同様だと。

 

つまり、魔術を使えるくらい、頭が良い事になる。

 

勿論、動物などでも、無意識的に魔術の一種を使っているものはいる。ステルクが言った使いこなすという言葉から、知能は高いという判断はしたけれど。

 

実際は、見たことが無いのだから、何とも言えないか。

 

まだ日も出る前だから、街道で人とすれ違うことは、殆ど無い。

 

早足に急ぐ。

 

予定通りに、鉱山に到着しておきたい。

 

 

 

鉱山に到着し、宿を取ると。

 

間を置かず、すぐに廃坑道に向かった。荷車に積んであるゼッテルは確認したが、いずれも問題は無い。

 

ステルクは、先に来た騎士団と話をしていた。

 

そして、戻ってきたときには、地図を持っていた。

 

「現時点で、稼働中の坑道は厳重に封鎖されていて、廃坑道も何カ所か調査されているのだが。 その過程では、まだ廃坑道側から、坑道へ悪魔が侵入した経路を発見できていない」

 

「それを調べるんですね?」

 

「そうなるな。 今、候補として上がっている地点がこれだ」

 

この間侵入した地点から、かなり奥に潜ることになる。

 

正直怖いけれど。

 

戦闘のプロフェッショナルが一緒にいるのだし、どうにかなるだろう。だが、備えはしておきたい。

 

「発破を幾つか持ってきました」

 

「納品用ではないのか」

 

「ええと、納品用には要件が足りていなくて」

 

「そうか。 試作品という事だな」

 

フラムは筒状に成形した発破で、錬金術師が用いるこの手の道具としては、最初歩のものだ。

 

このフラムをベースにして、いろいろな爆弾を作る事が出来る。

 

中には、山をまとめて吹き飛ばせるほどのものもあるということだけれど。

 

ロロナには、まだ手が届かない。

 

現在、ツーマンセルやフォーマンセルに分かれて、騎士団や戦士達が、坑道の調査に入っているらしい。

 

労働者達は、坑道の外で固まって、酒にしている様子だ。

 

確かにこの状況では、危なくて仕事など出来ないだろう。現場を監督している戦士達も、働けとは口にしていない。

 

誰もが、不幸な事故だったと、納得しているという事だ。

 

ランタンに火を付けると、坑道に入る。

 

空気がひんやりしていた。

 

だが、モンスターの気配はない。騎士達が掃討していったのだろう。あのドナーンの巣は無事かと心配してしまったけれど。どうやら、無意味な殺生をしている暇はないらしく、放置されていた。

 

ただ、ドナーンが前よりかなり増えている。

 

怯えきって縮こまっている様子が、痛々しい。騎士達に、相当こづき回されたという事なのだろうか。

 

「ロロナ、急ぐわよ」

 

「うん」

 

クーデリアに促されて、その場を離れる。

 

時々、落ちている鉱石を拾う。珍しいものもたまにあったので、こういうときにはめざとく拾っていった方が良い。

 

警戒は、ステルクとクーデリアに任せる。

 

ステルクが、足を止めた。

 

地面に落ちている亡骸。一撃で斬り倒されている。

 

見た目は人間に近い。大きさは幼児ほど。ただ口の中にはびっしり牙が並んでいて、耳もとがっている。

 

頭には短いが角が二本。

 

全裸で、体色は青黒い。

 

「これがアポステルだ」

 

「先に来た騎士の人に、斬られたんでしょうか」

 

「いや、これはおそらく、戦士によって倒されたな」

 

ステルクは、騎士団全員の剣筋を把握しているという。それを聞いて、ロロナはちょっと吃驚した。

 

このアポステルの切り口から言って、騎士団以外の人間にやられたことは確実なのだとか。

 

この先には、悪魔が出る。

 

生唾を飲み込んだロロナは、クーデリアに聞いてみた。

 

「今は、狙われてる?」

 

「狙われてないわよ。 少なくともあたしには分からないわ」

 

ステルクは何も言わない。

 

という事は、クーデリアが言うとおり、まだ敵はいないと言うことだろうか。

 

カンテラで奥を照らす。

 

現在、幾つかの戦士や騎士のチームが、坑道の掃討作業をしているはずだ。そういった人達と鉢合わせするかと思ったのだが。

 

嫌なほどに静かだ。

 

坑道は蟻の巣のように分岐している。無計画に掘ったのではなくて、鉱脈に沿って動いた結果なのだと、ステルクは言う。

 

流石に此処で仕事をしていただけあって、詳しい。

 

「現場監督の仕事もしたんですか?」

 

「いや、私はあくまで護衛だった。 当時は廃坑道も少なく、住み着いているモンスターもあまりいなかった。 悪魔などが出るようになってしまっている今は、対策を進める必要があるだろうな」

 

たまに会話はするが。

 

それ以外は、基本的に黙々と歩いた。

 

ステルクの顔も、怖いままだ。当たり前と言えば当たり前か。このような場所で、のんきに談笑するようでは、アーランド人ではない。

 

何故会話を求めるのか。

 

怖いからだろう。

 

まだまだ自分は弱い。それを、ロロナは思い知らされる。こういう場所で、未熟さを感じる時には、いつも。

 

また、戦闘の痕があった。

 

壁に大きな傷跡が出来ている。魔術によるものだろう。

 

死体が幾つか散らばっていた。幸い、人のものはない。いずれもが、先ほどステルクが、アポステルと呼んでいたモンスターのものだ。

 

奥の方で、むしゃむしゃと音。

 

ドナーンが、アポステルの死体を、群れになって食べている。

 

もし戦士達が負けていたら。

 

ああなったのは、人の方だ。

 

少し奥に行くと。

 

十名ほどの戦士達が、集結していた。ステルクが彼らを見回して、咳払いする。

 

「状況報告」

 

「一班から三班、全員生存! 手傷小!」

 

「悪魔の数は」

 

それぞれが、十以上の数を上げた。

 

手際が良くて、ロロナは感心してしまう。さすがは、こういった荒くれの巣窟で、仕事をしていただけの事はある。

 

ステルクはてきぱきと指示を出して、戦士達もそれに従って動いた。

 

この先をもう少し調べて、厄介な悪魔がいるようならば、総掛かりで倒すという事になるのだろう。

 

グレーター級と言われる悪魔もいるらしいけれど。

 

それがどれほどの実力なのか分からない以上、ロロナには口出しも出来なかった。何より、この場の全員が、ロロナとクーデリアより強い。余計な口を挟む余地など、ないと言える。

 

「こういう場所では、大人数だと動きにくい。 少人数の組を編成して、動く事が必要になる」

 

「はい。 勉強になります」

 

「うむ……」

 

素直に応えたロロナだが。

 

やっぱり、ステルクは機嫌が悪そうだった。

 

 

 

ひんやりとした空間に出た。

 

目的の場所に到着したらしいと、ロロナは悟る。

 

広いホール状の場所なのだが、床にも壁にも霜が降りている。樹氷石が、山と積み上がっている。

 

こればかりは、持ち出す手段がないのだから、未だに残っているという事にも頷ける。

 

樹氷石は白い石で、まるまるとしている事が多い。

 

触るとひんやりして、どんどん溶けて行ってしまう。ただ、氷ではないらしく、とけると水ではなくて、砂利の塊になっていく。

 

参考書で読んだ知識だ。

 

荷車に、ゼッテルで包んだ樹氷石を積み込んでいく。他の鉱石も、さっきから隙を見て積み込んできてはいるが、此処が好機だ。

 

「急げ」

 

ステルクが言う。

 

クーデリアが拳銃を出した所からして、恐らくは客。かなり深くまで潜ってきているし、敵と遭遇する事は、おかしくもないだろう。

 

手近にあった、とても冷たそうな樹氷石を、急いでゼッテルで包んで、積み込む。そして、荷車そのものを、ゼッテルの封印で包み込んだ。

 

ゼッテルの内側には、油紙を敷いてあるし、その内側には毛皮も。少しくらい濡れても、荷車やゼッテルの封印が駄目になる事はない。

 

ただ、何かしらの攻撃術が直撃してしまったら、どうなるか保証は出来なかった。

 

「やれやれ、騒がしい事じゃなあ」

 

しわがれた声が、ロロナが来た方。

 

つまり、この袋小路の空間の、入り口の方からした。

 

姿を見せたのは、老人のように背中が曲がったアポステル。さっきまで、死体でしか見ていなかった悪魔。

 

ただしよれよれとしていて、とても弱々しかった。

 

姿は子供のようであるのに。

 

顔立ちや体の筋肉などを見る限り、一目で年老いていると分かるのだった。羽は生えているが、浮いている事さえなく、地面で杖をついている。

 

「会話が出来るのか」

 

「そりゃあそうじゃよ。 まあ、理由は御前さん達には分からんだろうがなあ」

 

「え……?」

 

「いずれにしても、人に害なす悪を、許すわけにはいかぬ」

 

ステルクが、剣を抜いた。

 

悪魔は、動じている様子が無い。

 

「血の気が多い若い者達が、御前さん達のワーカーを襲ったと聞いている。 だから、こんなに大規模な作戦にでたのかね」

 

「ああ、そうだが」

 

「それなら済まぬことをした。 我らはお前さん達が悪魔と呼ぶ種族の中では、もっとも非力でなあ。 こういった穴の中で、陽から隠れなければ生きては行けぬのだ」

 

聞いては駄目だと、クーデリアに横から釘を刺される。

 

確かに、会話が出来る以上、此方を騙していないとは言い切れない。

 

同情をさそって不意を突くのは、戦術の常套手段だと、聞かされたこともある。

 

「グレーター級の悪魔がいるらしいが、それもお前達の差し金か」

 

「グレーター級? スカーレッドの忌み子のことか?」

 

「スカーレッドというのか」

 

「あれは力ばかりが肥大した、哀れな子じゃ。 我々でも、もう制御できる存在ではないのだ」

 

ステルクが剣を構えるが、老悪魔は動じない。

 

むしろ、自分の運命を受け入れているように見えた。

 

「わしの首で事が済むのなら、それで許して欲しい。 若い者達の過激派は、皆お前さん達に殺されてしまったし、奥にいるのは足弱の老人や子供ばかりなのでな」

 

「にわかには信じられん」

 

「ならば、来て欲しい。 実情を見てくれれば、よく分かるだろう」

 

罠の可能性が高いのではないかと、ロロナは思った。

 

だが、ステルクはついていく。

 

クーデリアが、横で、小声で言った。

 

「罠があったばあい、噛み破るつもりよ」

 

「えっ……」

 

「戦闘発生の可能性が高いわ。 準備して」

 

ロロナは、あのおじいさんの悪魔が可哀想だとは思うけれど。しかし、アーランド人として、戦いについて両親に教えられて育ってもいるから、すぐに信じる事も出来ない。確かにクーデリアが言うとおりだとも思う。

 

フラムの準備をしておく。

 

退路を塞がれた場合、突破するのに必要だ。

 

更に、大威力魔術の準備をしようと思ったけれど。それはやめておく。こんな狭い所で放ったら、敵も味方も木っ端みじんだ。

 

それならば、小規模の威力を持った牽制用の術式の方が良いだろう。

 

実は、それが一番苦手だ。

 

ロロナは魔力の制御をしないほうが、むしろ戦闘では大きな活躍が出来ると母に言われていたこともある。何より、生来制御そのものの方が、苦手なのだ。

 

ただ、苦手とは言え、出来る。

 

詠唱をして、術を組んでいく。最悪の場合に備えておくのは、当然なのだから。

 

ステルクが足を止めた。

 

ゆっくり周囲を見回している。

 

不思議な空間についた。

 

曲がりくねった通路を抜けた先に、少し広いホール状の空間があった。其処には、不可思議な光景が広がっていた。

 

カンテラで照らして、ロロナは驚く。

 

小さな石が、たくさん中空に浮いている。これは、ロロナも図鑑で見た事がある。

 

「グラビ石!」

 

「この鉱山では、昔大きな塊もとる事が出来たそうだ。 ただし、鉱山から持ち出すと、あまり長い間浮力を維持できなかったそうだが」

 

ステルクが説明してくれた。

 

これはとても貴重なものだ。だが、持ち出すと駄目になってしまうというのでは、あまり多くは持って行けないだろう。

 

悪魔のおじいさんが振り返る。

 

「この石が珍しいか」

 

「少なくとも、我々には貴重だ」

 

「そうかそうか。 我らは幼い頃から、この石を食べる事によって、浮遊する力を得るのだが。 毒性が強くてのう。 大きく育つことは出来ないのだ」

 

更に言うと、スカーレッドのような忌み子もそれで生まれるという。

 

他の悪魔が来た。

 

よれよれのおじいさんだ。

 

「長老、スカーレッドは閉じ込めたぞ」

 

「そうか、上手く行ったか」

 

「死んだかは分からんが、当分は出てこられんだろう」

 

悪魔が、手招きする。

 

通路が一つ、落盤で潰されていた。

 

通路の向こうでは、うめき声がする。確かに、とてつもなく強烈な、禍々しい魔力を感じた。

 

ステルクが剣に手を掛ける。

 

ただ、落盤はかなり規模が酷く、簡単に岩をどかすことはできないだろう。

 

ステルクが、剣から手を離した。

 

少なくとも、この落盤の向こうに閉じ込められている者を、奇襲に活用する事は出来ないはずだ。

 

「此方じゃ」

 

落盤の向こうに閉じ込められたものは、怒りでドンドンと壁を叩いているようだった。

 

これでは、餓死してしまうだろう。

 

それを分かった上で、悪魔達は忌み子を閉じ込めた、という事なのだろう。

 

途中、ドナーンの死体を何体か見つけた。

 

不意に、カンテラの明かり。

 

先行していた戦士達の一チームだ。全員無事で、周囲を警戒しているのが分かった。ステルクを見ると、アーランド式の敬礼をする。

 

ステルクも、それに応えていた。

 

「状況は」

 

「騎士どのも、悪魔に連れられてきましたか。 連中がいうように、既に戦闘力のある個体は存在しないようです」

 

「確認する。 君達は、此処で待っていてくれ」

 

そっと影から、ロロナも奥を覗いてみる。

 

蟻の巣のような、鉱山の最奥。

 

小さな悪魔達が、固まって震えている。この鉱山では、悪魔が群れのようなものを作っていたとして、既に老幼しか生き残っていないのか。

 

周りにいる数名のアーランド戦士達は、誰も油断せず、周囲を警戒している。

 

例え奇襲を受けても、対応できるように備えている、という状況だ。クーデリアも、同じように警戒している。

 

ロロナは念のために、防爆用の術式を展開した。

 

悪魔のおじいさんが、感心したように言う。

 

「この国の人間は流石だのう。 その若さで、それだけの術式が使いこなせるのか」

 

「え、ええと……はい。 お母さんに教わりました。 後は、独学で」

 

「そうか。 我々の先祖も、それだけの向上心があれば、このような事にはならなかっただろうに」

 

先祖。

 

何のことだろう。

 

クーデリアはまだ警戒しているけれど。ロロナはこのお爺さんが、人間とは違う種族だとしても、憎めなくなりつつあった。

 

このお爺さんは、先ほどから殺される事を怖れずに、腹中を明かして、一族を救うことを優先している。

 

ステルクの気が短かったら、とっくに殺されてしまっているだろうに。それでも、立ち位置を変えていない。

 

老いて、先が短いから、という理由だけだろうか。

 

まだステルクが、周囲を警戒してくれている。

 

戦士達も、天井などに術式を展開して、何か仕掛けが無いか、念入りに調べている様子だ。

 

魔術が使える戦士は多い。

 

攻撃用だけではなく、補助用の魔術でも、日常では大いに役立つからだ。ロロナのお父さんも、魔術はそこそこに使いこなすことが出来る。

 

「かって我々の先祖は、一部の特権階級しか魔術を使えなかったものだが。 厳しい自然淘汰に生き延びただけのことはあるのう」

 

「お爺さん?」

 

「何でもない。 何か、聞きたいことはあるかの」

 

それは、幾つもある。まずは技術的な話が知りたい。

 

お爺さんは、グラビ石の保存法を知らないかと聞くと、教えてくれる。

 

「簡単に説明すると、グラビ石とお前さん達が呼ぶ石は、周囲の環境が変わると、力を失っていくのじゃ」

 

「空気や何かに触れさせると駄目、という事ですか?」

 

「そうじゃ。 だから保存したいのなら、周囲の空気ごと、というところかな」

 

それでか。何となく納得がいった。

 

この石を食べる事で浮遊能力を得るということだけれども。

 

体内の環境で安定させて、石の力を保っている、という事もあったのか。

 

ただ、納得がいったのと、出来るのとでは、また話が別だ。今はグラビ石を持ち帰る手段がない。

 

必要になったときは、準備をしてこなければならないだろう。

 

他にも、幾つか話を聞く。

 

時々話をはぐらかされたりもしたけれど。技術的な話に関しては、参考になる事が、幾つもあった。

 

分かっている。

 

お爺さんは、生き残るために、ロロナにできる限り協力しているのだ。分かってはいるけれど、その行動の根源が理解できるから、憎めない。

 

ステルクが戻ってくる。

 

「どうやら、罠はないとみて良いようだ」

 

「もう、そのような力はないよ、強そうな方」

 

「騎士どの、この者達はどうします。 確かにこの者達の案内で、廃棄坑道から坑道へつながる路は見つかりましたが……」

 

「ふむ、それにしても放置は出来ぬが」

 

悪魔のおじいさんが、挙手した。

 

ならば、この鉱山を、夜に紛れて離れたいと。ステルクはしばらくおじいさんを見つめていた。

 

「今回の件が、何故起きたか、此方からは分からない。 その説明次第だ」

 

「それは古い話が起因していてなあ。 まあ有り体に言うと、日の下に出て生きられるお前さん達の事を、わしらの若い者はうらやんでいるのじゃよ。 それがこじれると、憎しみにも、殺意にもなる」

 

「今回逃がしたことを、逆恨みする可能性もあるのか」

 

「わしらは、出来るだけ遠くの山奥を探すとするよ。 或いは、お前さん達がわしらをモンスター扱いしてくれれば、むしろ楽なくらいでなあ」

 

ステルクはしばらく考えていたが、やがて嘆息した。

 

すぐには決定できないという。

 

当然のことだろう。ロロナが此処の責任者だったとしても、同じように応えるはずだ。王様の判断が必要なのか、或いは大臣かは分からないけれど。

 

安易に許すとは言えない。

 

悪魔達は、人間を襲ったのだ。

 

労働者が何人か、それで命を落とした。

 

ロロナは現場を直接見てはいないけれど、その光景は容易に想像できる。此処にいる弱々しい老幼の悪魔達は、アーランド戦士にはとても叶わないだろうけれど。若くて魔術も使いこなす悪魔達は、話が別の筈。

 

戦士達に、廃坑道の何カ所かを封鎖するように、ステルクは指示。

 

ロロナも此処を出るように言われた。

 

歩きながら、ステルクが話してくれる。

 

「悪魔という種族は、今までは山奥や自然の法則が著しく乱れているような地域で、目撃例や遭遇例があった。 このアーランド近辺では、長らく姿が見られなかったのだがな」

 

「やはり、危険なんですか?」

 

「上級の物になると、相応に強いと聞いている。 君の両親も、確か戦ったことがあるはずだ。 報告書を読んだことがある」

 

ロロナの両親は、かなりの腕利きで、よく分からない国からの仕事も時々受けているはず。

 

あの危険なオルトガ遺跡の見張りにもついていることから分かるように、遺跡から出てくるモンスターくらいはどうにでもなるということなのだ。

 

帰ったら、両親に話を聞いてみたいけれど。

 

二人は忙しくて、滅多にアトリエに来てくれない。

 

いつの間にか、三人だけになっていた。

 

何処を歩いているのか、よく分からない。ステルクは分かっているようなのだけれど。足が震えてくるのが分かった。

 

悪魔はどうにかなるとしても。

 

此処はドナーンがたくさん住み着いている。中には、かなり巨大なものもいると言う話なのだ。

 

前に明かり。

 

戦士達の一団だ。

 

ほっとしたのもつかの間、ステルクと彼らの話が、とんでも無い方向に動き始める。

 

「大型のドナーン?」

 

「はい。 我々を見て逃げましたが。 あのサイズだと、未熟な戦士だと、勝てないかも知れません。 もしも労働者が襲われると、今回以上に被害が大きくなるでしょうね」

 

「そうか。 放置は出来ないな」

 

ロロナも知っている事だが、ドナーンは寿命がない。

 

生きている限り大きくなっていく生物なのだ。

 

大きくなると狙われやすくなるし、病気にもなる。それで死んでいくのだけれど。たまに、とんでも無く大きくなる者がいる。

 

母から聞かされた話によると、変種のドナーンの中には、ドラゴンに匹敵する戦闘力を持つ者までいるとか。

 

「放置は出来ないな。 私が処理していく」

 

「その二人を連れたままですか?」

 

「彼女らもアーランド人だ。 どうにかなるだろう」

 

「当然よ」

 

クーデリアは、すでに戦うつもりだ。

 

ロロナは冷や汗が流れるのを感じたけれど。しかし、ステルクについてきたのだ。此処で嫌だとは言えない。

 

危険があることも承知の上でついてきたのだ。

 

此処は戦場。

 

荷車を握る手に、心なしか力がこもった。







戦士の文化圏にいるので、ロロナも当然戦う時は覚悟を決める事ができます。

まあ、そもそも魔術普通に使えるので(周囲に比べて弱いとは言え)、戦わない選択肢はないですね。




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