暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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本作でも対大型戦は当然あります。

まだ未熟なロロナさんですが、いつかはやらなければならないことです。

それに誰かがやらなければ。

誰かが殺されるのです。







3、巨獣

ステルクが、無言のまま手招きした。

 

大人数で追うと、奥へ奥へと逃げてしまう。勝てそうに見える少人数でおびき出して、狩る。

 

大きめの包囲網を敷いて、他の横やりは防ぐ。

 

その中で、引き寄せて叩くのだ。

 

確かこのやり方は、アーランド人が凶猛な修羅の世界に生きていた頃、狩りの戦術の一つだったはず。

 

荷車は、既に隠してある。

 

クーデリアの隣に隠れていたロロナは、周囲をうかがいながら、通路に出る。そして、頭を出来るだけ低くして、ステルクの隣に移動。

 

殿軍のクーデリアは、さっきから一言も喋らない。

 

通路の奥。

 

見えた。

 

倒したらしい、草食の獣を、がつがつと食べている姿。尾が揺れている。あの尾が叩き付けられたら、ロロナなんて即死してしまう。

 

大きい。

 

人間大程度の普通のドナーンよりも、三倍半はある。

 

大型のドナーンは、火を吐いたり魔術を使う事もあると聞いているけれど。出来ても不思議では無いはずだ。

 

「怖いのであれば、此処に隠れていても構わないが」

 

「いえ、戦います」

 

「そうか。 ならば作戦を立てよう。 君は大威力の術式で、動きが止まったところを狙い撃ちして欲しい」

 

「今、撃つのは駄目ですか?」

 

とっくに気付かれていると、クーデリアが言う。

 

それはそうか。

 

獣はそれくらいの駆け引きは、当然する。こっちにも警戒しているはずで、攻撃を仕掛ければ即座に反撃してくるはずだ。

 

ドナーンが食べているのは、爬虫類のようだけれど、鹿のような顔をしている巨獣だった。かなり大きい。

 

おとなしい動物なのだろうけれど。

 

あれだけの体格になると、パワーだけでかなりのもののはず。迂闊に手は出せないはずで、あのドナーンの実力がよく分かる。

 

巨大ドナーンのたくましい足には鋭い爪があって、それは血濡れていた。あの爪での一撃が、致命打になったのか。

 

「私が攻撃を仕掛ける。 クーデリア君は、其処でロロナ君の支援防御」

 

「分かったわ」

 

「柔軟に動いて欲しい。 私に何かあった場合は、迷わず逃げろ。 この程度の獣を相手に、不覚を取るほど弱くはないから、逃げてしまって構わない」

 

頷く。

 

ステルクは、影から出ると、剣を抜いた。

 

ドナーンはステルクに気付いているのに、平然と肉をがつがつとやり続けている。自信が余程あるのか、或いは。

 

そういえば。

 

ドナーンの頭に、不自然な傷がある。あれは何だろう。

 

巨獣を仕留める際についたとしても、位置が変だ。詠唱を進めながら、ロロナは疑念を感じたけれど。

 

堂々と、ステルクが歩いて行く。

 

気を引くためもあるのだろう。ドナーンは、相変わらず獲物をがっついていた。ステルクとの距離が、縮まっていく。

 

不意に、静から動へ、事態が進む。

 

ある一線を越えた瞬間、巨大な尻尾を振り回し、ドナーンがステルクに襲いかかったのだ。口は血だらけで、凄まじい迫力だ。

 

ステルクは軽々と剣を振り回し、尻尾をはじき返すようにして、切り上げる。もの凄い金属音。

 

鱗と剣がぶつかり合って、火花が散った。

 

ステルクが上を見上げる。

 

既に、そちらにドナーンが。跳躍したのか。

 

踏みつぶしに掛かる巨大ドナーン。ロロナはクーデリアと一緒に場所を移しながら、詠唱を続ける。

 

もう少し。

 

後ろに、殺気。

 

クーデリアが即応して、噛みついてきた顎を蹴り挙げた。まだ幼体のドナーンだ。数体が、此方を半包囲している。幼体とは言っても、ロロナやクーデリアより、ずっと大きい。血走った目をしているのは、餌が欲しいからだろう。

 

ロロナは飛び退く。

 

そして躊躇なく、フラムを懐から取り出していた。クーデリアが連続して発砲し、幼体ドナーンの鱗に火花が散る。

 

だが、ドナーンは関係無しに突っ込んでくる。

 

至近距離まで引きつけておいて、クーデリアが不意に跳躍し、頭の上から蹴りつける。地面に叩き付けられる一匹。

 

だがそれを踏みつけるようにして、もう一匹が跳躍。

 

クーデリアが連射する弾丸をものともせず、体当たりを叩き込んだ。

 

吹っ飛ばされるクーデリア。

 

だが、ロロナは見ていた。

 

クーデリアは、吹っ飛ばされる瞬間、ちゃんと受け身をとっていた。地面に叩き付けられ、転がりながらも。ロロナに向かってくる数匹に、牽制の射撃をしてくれる。一発が目に当たり、ドナーンが怒りの咆哮を上げた。

 

クーデリアに、二匹が飛びつく。

 

地面を転がり、飛び起きたクーデリアが、閉じられる顎を寸前で避けた。もう一匹が、組み付くようにして飛びかかるが。それも、腕の中からするりと抜けてみせる。

 

ずっと体術が向上している。

 

それに、前よりも、更に冷静になっている様子だ。

 

ドナーンは、半人前の戦士達の練習相手として有名だけれど。数体を同時に引き受けながら、なおかつロロナに迫る奴を牽制しているクーデリアは、確実に腕が上がってきている。

 

きっと、半人前脱出は、もうすぐだ。

 

もう一匹、ロロナに向かっていた奴が、口の中に正確な射撃を入れられて、跳び上がる。既に三匹がクーデリアに躍りかかっていたけれど。これでもう一匹が、頭に血を上らせて、クーデリアへの攻撃に加わる。

 

ロロナに迫っているのは一匹。

 

地形を利用しながら、走って逃げ回る。クーデリアはまだ能力のリミッターを外せないだろう。もう少し、時間がいる。

 

ロロナは立ち位置を調整しつつ、フラムに火を付ける。

 

成形した火薬という極めてシンプルな兵器。

 

ロロナに追いついてきた一匹が、口を開けた瞬間。

 

フラムを投擲。

 

何か投げつけられたものを、考え無しに、ドナーンがくわえ込んだ。

 

次の瞬間。

 

爆裂したフラムが、ドナーンの首から上を、綺麗に消し飛ばしていた。

 

肉塊が辺りに降り注ぎ、血が飛び散る。

 

ロロナはすぐに次のフラムを準備。その時、クーデリアが射撃。飛び退いたのは、幼い頃に、両親に鍛えられていたから。

 

それでも、尻尾の一撃を、避けきれなかった。

 

いつの間にか、後ろに一匹回り込んでいたのだ。

 

杖を使って防御したけれど。

 

吹っ飛ばされて、壁に叩き付けられる。

 

息が一瞬、出来なくなった。

 

杖を必死に上げて、噛みついてきたドナーンの顎を、至近で食い止めた。乱ぐい歯と、荒い息づかいが、すぐ側。がつんがつんと、ドナーンは何度も顎を閉じた。ぐいぐいと、押し込んでくる。

 

ドナーンが、足を振り上げる。

 

かぎ爪が、わずかに身をそらしたロロナの首筋が、今まであったところを抉った。ドナーンのかぎ爪は、ナイフより遙かに分厚く、威力も大きい。心臓にでも刺されたら即死だ。また、蹴り込んでくる。

 

必死に横に体をずらして逃れるが、そうすると今度は、噛みつこうと力を入れてくる。必死の駆け引きで、冷や汗が出た。

 

爆発音。

 

火だるまになったドナーンが、吹っ飛んだのが見えた。

 

クーデリアが、リミッターを外したのだ。

 

その全身から、もの凄い灼熱の魔力が吹き上がっているのが見える。ロロナを襲っている一体も、一瞬だけそれを見て、気をそらす。

 

するりと、ドナーンの足の下を抜けた。

 

ただ、杖は持って行かれてしまった。

 

フラムに火を付けて、振り返ったドナーンが、杖を吐き捨てるのを見た。ドナーンの眼前に、ロロナが投げたフラムが飛ぶ。

 

轟音と共に、ドナーンの首がへし折れて、壁に叩き付けられた。

 

呼吸を整えながら、クーデリアの戦況を見る。

 

既に一体を片付けたクーデリアが、詠唱しながら、三体の猛攻を捌いている。あれだけの大火力だ。

 

リミッターを外して、すぐに一発は撃てるが。もう一発撃つには、また詠唱がいる、という事なのだろう。

 

ステルクは。

 

巨大ドナーンと、死闘の真っ最中だ。

 

豪快に尻尾を振り回し、噛みつきに掛かる巨大ドナーンの怒濤の猛攻を、冷静かつ確実に捌いている。

 

剣そのもので受け止めるのではなくて、振るう事によって弾いている感触だ。

 

凄い。

 

確かに、強い。

 

だけど妙だ。騎士の中でも強い人の筈なのに、妙にパワーが足りないような気がする。ただ、今それを詮索している暇は無い。

 

詠唱完了。杖を拾い上げると、最後の呪文の一節を完成させる。

 

「くーちゃん!」

 

言わずとも、通じる。

 

飛び退いたクーデリア。

 

ドナーン達の頭上から、ロロナの発動した光の矢が、無数に躍りかかった。或いは体を貫き、爆発し、見る間に肉片に変えていく。

 

力は無慈悲だ。

 

圧倒的な光が、全てを殲滅していく。

 

殺す。

 

焼き尽くす。

 

破壊し尽くす。

 

そして、其処に命は残らない。

 

光が収まり、連鎖していた爆発が、収まると。其処には、大量の死骸が、散らばっていた。

 

ロロナもアーランド人だ。

 

大威力の術式が、何を引き起こすかくらいは知っているし、使うときに覚悟だってしている。

 

血錆の臭いがもの凄い。

 

咳き込んだのは、魔力の消耗が激しかったからだ。魔力を使いすぎると、体に悪影響が色々出る。目が見えにくくなったり、風邪を引きやすくなったり。ロロナの場合は、体調が悪くなる事が多い。

 

ロロナは呼吸を整えながら、残心と呼ばれる構えを採る。出来れば、大威力の魔術を唱え終えた後にはするようにと、お母さんに教わった。意味はよく分からないけれど。ただ、これを行うと、少し楽になる。

 

今の一撃で、クーデリアに集っていたドナーンは全滅。

 

まだ生きて痙攣している者もいるけれど、動いて襲ってくるほどではない。だけれど、クーデリアは容赦なく、地面に倒れているドナーンに向けて引き金を引いた。炎の弾丸が、瀕死のドナーンの頭を吹き飛ばしていた。

 

竹馬の友の行動に、ロロナは眉をひそめたけれど。

 

戦士としては、クーデリアの行動の方が正しいこともまた、分かっていた。

 

「また威力上がった?」

 

「そうかな。 でも、わたしも毎日、修行してるんだよ」

 

「そう……」

 

クーデリアは服の埃を払いながら、此方に歩いて来る。

 

怪我はそれほど無い様子だ。ロロナも思いっきり背中から壁に叩き付けられたけれど、戦闘は続行可能。

 

後は、あの大きなドナーンだけ。

 

頷き会うと、ロロナは詠唱を開始。

 

クーデリアも詠唱しながら、ゆっくり歩み寄る。ドナーンが、天に向けていきなり咆哮したのは、その時だった。

 

びりびりと、空間が揺れるほどの威圧感。

 

その全身から、強烈な魔力が吹き上がりはじめる。体色が、赤色へと、変わっていく。本気になったのだ。

 

体が二回りはふくれあがったようにさえ見えた。

 

ステルクが飛び退く。

 

一瞬前までステルクがいた場所を、巨大ドナーンが踏みつぶしていた。ステルクは特殊な歩法を使ってかわしているようだが、その残像を、次々ドナーンが踏みつぶしている。これは、長くは保たない。

 

フラムを投げつける。

 

至近で爆発。

 

一瞬だけ、巨大ドナーンの注意が逸れた。

 

その隙に、クーデリアが、死角に回り込む。先ほどから詠唱していた、大火力の弾を叩き込むクーデリア。

 

巨大ドナーンの半身を舐め尽くすほどの炎が、空間に踊る。

 

しかし。

 

炎が収まると、巨大ドナーンは平然と、口を開けて咆哮した。

 

フラムも効果無しと見て良い。

 

ロロナは既に詠唱をはじめているが、大暴れするドナーンは、どんどんステルクを追い詰めて行っている。

 

ステルクは余裕を見せているが、それもいつまで保つか。

 

クーデリアが、踏みつぶされそうになる。

 

だが、足に向けて大火力の焔弾を叩き込んで、その隙に逃れる。ひやひやものだ。あの巨大ドナーンを倒すには、もはや方法は殆ど無い。

 

うなりを上げて振るわれた巨大ドナーンの尻尾が、回避が間に合わなかったクーデリアを吹っ飛ばした。

 

壁に叩き付けられるクーデリア。壁にはクレーター状のへこみが出来、ずり下がった跡には血がついていた。

 

「う、くっ……!」

 

クーデリアが、くぐもった悲鳴を上げた。ロロナは吊られて声を上げそうになったが、こらえる。

 

此処は戦場だ。

 

必死に敵の注意を引きつけてくれているクーデリアの努力を、無には出来ない。

 

無言でステルクが、巨大ドナーンの足を斬る。

 

今まで無敵に思えた巨大ドナーンの鱗が、数枚消し飛び、鮮血が噴き出した。剣に稲妻が纏わり付いている。

 

或いは、ステルクの特殊能力か。

 

クーデリアを食べようと大口を開けていたドナーンが、悲鳴を上げて横転。すぐに立ち上がるが、怒りの目でステルクを見ていた。

 

「ステルクさん!」

 

「策を思いついたか!」

 

「さ、三十秒後に、私にドナーンが襲いかかるようにしてください! それか、口を開けるようにさせてください!」

 

「心得た!」

 

今なら、或いは。

 

行けるかも知れない。

 

ロロナが新しい術を使えるようになったわけではない。しかし、手札は揃っている。

 

激高したドナーンが足を踏みならす度に、坑道が激しく揺れる。突進したドナーンが頭をぶつけて、落盤が起きるかと冷や冷やさせられる。

 

ロロナは、目を閉じた。

 

一か八か。

 

使うのは、以前黒ぷにを打ち抜いた、光の槍の術式。

 

ロロナが持っている術の中では、もっとも殺傷威力が大きいものだ。

 

ただし、あの巨体。装甲。普通に撃ち込んだのでは、駄目だ。

 

目を開ける。

 

坑道に、閃光が走る。

 

ステルクが、また剣に稲妻を纏わせて、振るっているのだ。やはり固有の特殊能力と見て良い。

 

ステルクは、雷を自由にする戦士なのだろう。

 

詠唱が、続く。

 

不意に、大きな石が飛んできて、おなかを直撃した。息が止まる。地面に叩き付けられたロロナは、目の前が真っ白になるのを感じた。

 

戦いの余波によるものだ。

 

呼吸を整えながら、立ち上がる。詠唱は、まだ続けられる。口の中に血の味がするけれど、大丈夫だ。

 

真っ赤になっているドナーンが、ついに口の中に炎を宿す。

 

ブレスか。

 

あれを、この密閉空間で撃たれたら終わりだ。例え熱に耐えられても、窒息死してしまう。

 

大丈夫、間に合う。

 

自分に言い聞かせながら、ロロナは印を切る。

 

そして、その視界の隅に。

 

勝利の方程式の、最後の一ピースが入った。

 

「おおおっ!」

 

雷を纏った剣を弧に振るったステルクが、躍りかかってきたドナーンを、剣圧だけで、力尽くで押し返す。

 

すごい。さすがは騎士。

 

押し返されたドナーンは、辺りの床や壁を砕きながらずり下がり、身を震わせて吼える。そして、一気に息を吸い込む。やはり、ブレスだ。余程に強く育ったドナーンという事なのだろう。

 

ブレスを吐こうと、口を開けるドナーン。

 

だが、その時。

 

跳躍したのは、クーデリアだった。

 

二つ目のリミッターを外した彼女は、ドナーンの体を蹴って天井近くまで跳び上がり、敵を見下ろしながら引き金を引く。

 

ドナーンも反応する。無理に体を捻り、鋭角にとがった翼で、クーデリアを切り裂こうとした。

 

だが、わずかに脇腹を割かれながらも、クーデリアは天井近くで、必殺の弾丸を撃ちはなっていた。

 

巨体が押し潰されるような圧力が、真下に向けて撃ち出される。

 

ロロナの所まで、空間そのものが、悲鳴を上げるような音が届いた。音の殺意が、周囲を蹂躙していく。

 

地面が、ドナーンを中心に、円形にへこむ。

 

ドナーンが、軋んだ声を上げた。

 

その体が、明らかに不自然に歪んでいるのが分かった。

 

ブレスどころでは無い。

 

ロロナもはじめて見せてもらった。きっと、クーデリアも実戦使用は初めての筈だ。恐らくは、範囲に発生させる圧力で敵を叩き潰すタイプの技。

 

更に、ステルクが、前に出る。

 

押し潰されようとしつつも、一気にステルクを真上から喰い破ろうとするドナーン。口の中には血と炎が、真っ赤な地獄を造り出している。牙は鋭くて、一本ずつが人の腕ほどもありそうだ。その巨大な顎が、ステルクを捕らえるかと見えた寸前。

 

走り込んでいたロロナが、杖を、ドナーンの口の中に向ける。

 

既に、詠唱は完了していた。

 

「ふっとべーっ!」

 

汗を飛ばしながら、ロロナは己に出来る最大の術式を、ぶっ放す。

 

視界の全てが、光に覆われたかと思った。

 

無防備な口の奥は、ドラゴンの急所と、いにしえから言い伝えられている。ドナーンも同様。

 

途切れる意識の中で、ロロナは、敵手の頭が消し飛ぶのを、見た気がした。

 

 

 

気がつくと、ロロナは寝かされていた。

 

吐きそうなくらいにだるい。

 

隣には、クーデリアが座っていた。白い背中が見える。半裸なのは、怪我の手当をしているからだろう。ドナーンの群れに集られているときにだって傷を受けていたし、何より。あの巨大ドナーンの一撃を、まともに受けたのだ。

 

早く、傷薬の類を作れるようになりたい。

 

クーデリアの小さな背中には、また傷が増えている。彼女は戦士として、戦闘で果たすべき役割をこなしているだけだけど。

 

やっぱりロロナは、親友が傷つくと、悲しいと思ってしまう。

 

そんなことを言ったら、両親には説教されるだろうし、師匠にも笑われるだろう。アーランド人らしくもない、甘っちょろい考えだと。戦場ではどこまでも非情になり、自分も含め全てを勝つための方程式にせよ。友人でも家族でも、例外ではない。基礎の基礎の教えだからだ。

 

それでも、ロロナは割り切れない。

 

根本的に、戦士には向いていないのだろう。

 

徐々に、意識がはっきりしてくる。

 

巨大ドナーンの死骸は、分解されて、運び出され始めていた。肉はそのまま食べる事が出来るし、あれだけのサイズだと、鱗も加工すれば盾や鎧になる。

 

クーデリアが、服を着直すと、ロロナを見た。

 

「起きたのなら、声くらい掛けなさいよね」

 

「ごめんね。 くーちゃん、痛かったでしょ? わたしがもっと早く、詠唱を出来るようになっていれば。 ううん、あのドナーンの鱗を抜けるくらい、強い術が使えれば良かったのに」

 

「何言ってるの。 平気よ、このくらい、何でもないんだから」

 

あれだけ血が出ていたのに、何でもないはずがない。

 

見ると、魔術師もいるようだ。或いは、回復術を掛けてもらったのかも知れない。

 

ドナーンの死骸が見えた。

 

頭から上が、綺麗に消し飛んでいる。それだけではない。体の彼方此方が、不自然に拉げていた。

 

とどめを刺したのはロロナの術式だけれど。クーデリアの技も、最大級の打撃を与えていたのだ。

 

「凄い技だったね」

 

「スリープショットよ。 相手を無理矢理地面に這わせるから、そう名づけたの。 実戦で使うのは初めてだったけれど、上手く行って良かったわ」

 

ちょっと自慢げだったので、ロロナは思わず噴き出してしまった。クーデリアはロロナの前では、子供っぽい所も見せてくれる。

 

何となく、それは知っていた。

 

ステルクが来た。クーデリアが手当をしているから、席を外してくれていたのだろう。顔は怖いけれど、紳士なのかも知れない。

 

「だいぶ回復してきたようだな」

 

「ステルクさんは、怪我をしていませんか?」

 

「問題ない。 あの程度の相手に、手傷を負わされるほど老いぼれてはいないさ」

 

まだ若々しいが、アーランド人は年老いるのが遅い。

 

二十代かと思っていたのだけれど。ひょっとすると、もっと年が行っているのだろうか。だが、ステルクが先手を打ってくる。

 

考えている事が、顔に出ているのだろう。

 

「生憎、まだ私は二十代だが?」

 

「す、すみません!」

 

「別に謝らなくて良い。 それよりも、動けるか? ドナーンにとどめを刺したのは君だから、貴重な素材は幾らか分けておきたい」

 

言われて、積まれているものを見た。

 

火焔袋と言われる、ブレスを吐くために必要な器官が、喉の奥から取り出されていた。これは普通のドナーンにもあるらしいのだけれど、此処まで肥大しているのは滅多にない。学者達が、ドナーンはドラゴンの下位種だと説を唱えているらしいのだけれど、その根拠の一つである。

 

これは凄い。

 

研究すれば、いろいろな事が分かるはずだ。

 

これに加えて、状態が良い鱗が幾つか。

 

言うまでも無く、この鱗はとても重要だ。小さな本ほどもある大きさで、要所に用いれば、服などを飛躍的に強化出来る。アーランド戦士の一撃は防げないかもしれないけれど、モンスターの爪や牙くらいなら、はじき返せるはずだ。

 

骨と、更に残っていた角。

 

ドナーンの頭には、二本の角がある。後ろに伸びている角は、それなりに強い魔力を帯びていて、錬金術の素材としては有用なはずだ。骨も同様。此処まで育ったドナーンであれば、かなり貴重である。

 

どれもかなり高い筈だ。捨て値で捌いても、相当なお値段がつくだろう。

 

「こ、こんなに! 本当に良いんですか?」

 

「君の戦果を考えれば当然のことだ。 お前達も異存はないか」

 

「もちろんでさ」

 

何人かいた戦士達も、不満は無い様子だ。

 

確かにそういう風習はあるけれど。ロロナがやったのは、ただとどめを刺しただけ。ずっとこの巨大なドナーンと戦っていたのはステルクだし、決定打になる一撃を撃ち込んだのはクーデリアだ。

 

申し訳ない気がしたが。

 

クーデリアが、肩を叩いてくれた。

 

「あたしも異存ないわよ。 あんたが戦闘で、切り札を使うところまで、冷静に動いていたの、知ってるんだから」

 

「普段は臆病なのに、いざというときは勇気が出せるのは立派だ。 遠慮無く受け取るといい」

 

ステルクも言ってくれたので、涙が出そうになった。

 

こんな風に、人に褒めてもらったのは、初めてだった。そして、ステルクの怖い顔が、はじめて嫌ではなくなっていた。

 

少し休んでから、坑道を出る。

 

必要な素材は揃った。貴重な情報も、予想外の収穫もあった。

 

酷い目にあったし、死にそうにもなったけれど。

 

ここに来て良かったと、ロロナは思った。








かなり早い段階から、厳しい戦闘に望むロロナさん。

まあおかれている境遇を考えると当然です。今後の魔郷を考えると、この程度では足りないくらいなのです……





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