暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
成果物は即座に実験!
それだけ色々と早急な結果と成長が求められています。
普通だったらこういうのやりすぎると潰れてしまうんですが、ロロナさんの場合はちょっと色々と状況が特殊なのです。
本人の事情的にも、プロジェクトの観点でも。
ステルクが立ち会いの元、鉱山で早速実験が行われた。
ロロナが納入した発破を、頑固で苦労していた岩盤に使用したのだ。工場で作った量産品では、何度やっても砕けなかった。
かといって、歴代の錬金術師がいざというときにと残した強力な爆弾を用いるのも、気が咎める話だった。
上級の魔術師による攻撃術や、騎士による技を叩き込んで破壊することも出来るが、その場合は生き埋めの危険が伴う。
だから、敢えてロロナの才覚を試す必要もあって、発破の納入などを要求したのである。そして、ステルクが見るところ、ロロナはその要求に、見事に応えた。
王も現場に来ている。
護衛の騎士達が見守る中、導火線に着火。
魔術師達が防爆の術式を展開している内側に引っ込む。無言で身を岩に隠すよう、皆にハンドサイン。出すまでも無く、皆従っているが。
あの時見た火力が再現できていれば、岩盤は木っ端みじんだ。
さて、どうなるか。
導火線を、火花が伝っていく。説明書通りに仕掛けた発破が、乾いた音と共に、外装をパージする。
次の瞬間。
坑道に、殺戮と破壊の炎が荒れ狂った。
強烈な地響きが来る。
防爆用の術式の内側でも、凄まじい閃光に、思わず顔を庇ったほどだ。王は平然としていて、流石としか言いようが無い。実際に、たとえ防爆用のシールドを突破されても、何でもないのだから当然だろう。
凄まじい衝撃波が坑道の内部を激しく痛めつけて。
閃光と熱が収まるのを確認してから、ステルクは調査のための人員を奥に入れた。岩盤は、見事に砕けているのが、此処からも分かった。
それだけではない。
岩盤は砕かれるどころか、大穴が開いていて、一部は溶岩化さえしていた。
凄まじい。
これが、本職の錬金術師が作る発破か。
咳払いした王が言う。
「ステルク、どう見る」
「要件を完全に満たしていると、判断します。 持ち運びは危険も少なく、必要に応じて着火でき、なおかつ威力はこの通り。 今回の課題は、突破というのが妥当でしょう」
「それはいい。 量産が可能か」
「現在の工場の能力では不可能でしょう。 ロロナに任せるのであれば、或いは相当数を生産するのも可能かと」
王が頷く。
そして、坑道を一緒に出た。
労働者達が、何事かと騒いでいる。耳ざといものは、新型の発破の実験が行われたらしいと、呟いていた。
ステルクは耳が良い。稲妻を操る能力を持って生まれてきたことと関係しているのかも知れない。
「すぐに作業に戻れ。 諸君らの労働が、この国の基幹になっていることを、私は誇りに感じているぞ」
王が労働者達に言うと、すぐに敬礼して皆仕事に戻った。
馬車に、王と一緒に乗り込む。周囲は騎士達が魔術師達と一緒に固めている。万が一にも、危険はない。
「ステルクよ、貴様はあのロロライナという娘をどう見る」
「アストリッドにも、同じ事を聞かれました。 同じように応えますが、構いませんか」
「うむ」
少し前に、アストリッドに応えたのと、同じ内容を王にも話す。
しばらく王は考えていたが。
だが、アストリッドとは反応が違った。
「恐らくは、その性質は後天的なものであろうな」
「例の事故の影響であろうと仰せでありますか」
「うむ。 クーデリアにはその影響が強く出ている。 ロロライナにも、同じ影響が出ないとは言い切れまい。 フリクセルの夫婦に聞いたのだが、幼い頃は、ロロライナとクーデリアは、性格が逆であったということでな」
それは初耳だ。
フリクセル夫妻とは、何度も戦場を供にしている。ロロナの自慢話をされた事は何度もあるのだが。
やはり、相当な機密と言うことなのだろう。
ステルクだって、あの日のことは覚えている。気丈なフリクセル夫妻が、あれほど取り乱している様子ははじめて見た。
それに対して、クーデリアの父であるフォイエルバッハ卿は、冷静極まりなかった。というよりも、娘が死のうとどうでも良かったのだろう。
あの時の事を考えると、確かに後天的に性格が変わったことは、大いにあり得る。
何しろ、あの時に。
二人は。
馬車が止まった。王が不愉快そうに鼻を鳴らす。何かしらの気配を感じ取ったのかも知れない。
少し遅れて、ステルクもそれを感じた。
馬車を出ると、騎士達がそれぞれの武具を抜いて、警戒態勢に入っていた。
「どうした、何があった」
「ヴァルチャーの大群です。 大物のモンスターが死んだらしく、それに集っているのでしょう」
道を変えますか。騎士が王に聞く。
王は面倒くさげに、好きなようにするようにと言った。別に蹴散らして通っても良いのだが、不測の事故は避けたいのだろう。
ヴァルチャーはアードラの上位種で、より強靱な肉体を持ち、簡単な風の術を使いこなす。
勿論此処にいる護衛の騎士達の敵ではないし、王なら一人で殲滅可能な相手だ。
だが、それでも此処で戦う意味はない。
馬車から見えた。
遠くで死んでいるのは、どうやらベヒモスの一種らしい。近くの村の人間にたたきのめされて、よってたかって追いかけ回され、瀕死になって逃げてきたところで、力尽きたのだろう。ベヒモスは牛が直立したような姿をした大型のモンスターだが、この辺りの民は、その戦闘力を上回る。それだけのことだ。
そして死んでしまえば、スカベンジャーであるヴァルチャーのただの餌。生前がどれだけ強力なモンスターであろうと、関係無い。
「少し数が多いな」
「もしも増えすぎるようなら駆除します」
「うむ……」
王が行くようにと指示。
程なく、馬車はアーランドに到着した。
アーランドの中では、線路が引かれ、蒸気を用いて動く列車が稼働している。主に工場間で荷物を運ぶために用いているのだが、パワーもスピードもなかなかのもので、いずれこれが交通の主要手段になるのではないかと、ステルクは予想していた。
次の課題が出るまで、少し時間がある。
王宮にまで到着すると、護衛の任務は終了だ。王の直衛は、いつも疲れる。気さくなのは有り難いのだが。王は気まぐれで、戦士としてもこの国最強。しかも肝心なときに怠け癖を発揮したりする。いざというとき、逃げるのを止めるのは一苦労なのだ。
少し休憩を取ってから、ロロナのアトリエを見に行く。
王の言葉が少し気になったが。
それ以上に、ロロナ自身の頑張りを、褒めてやりたかった。正式な通知はまだだが、合格は確定だ。
アトリエに出向く途中、良い匂いがした。
サンライズ食堂で、持ち帰る事が可能なパンを焼いていたのだ。羚羊の肉を挟んでいる、上品な味付けのパンだ。
少し買っていく。これくらいの差し入れは、しても良いだろう。
アトリエにつく。
ドアをノックすると、ロロナが出てきた。驚いたのは、その右手が、血まみれになっているからである。
「あ、ステルクさん」
「どうしたのだ、その手は。 何か失敗したのか」
「ええと、実験の途中です。 即効性の傷薬が出来たので、これから試してみようと思って」
見ると右腕の傷は、手首の辺りから肘の辺りまで及んでいる。
刃物を使って、一気に斬ったらしい。
この程度の傷でどうにかなるほどアーランド人は柔では無いとは言え、思い切ったことをするものだ。
取り出した軟膏状の傷薬を、塗り込みはじめるロロナ。
ステルクは少し驚いたとは言え、実戦を経た騎士だ。すぐに平静を取り戻し、土産を置いた。
ロロナは、全く、自分の状態を怖がってもいないし、不安にも思っていないようだ。
この娘は、ある一線を越えるまではむしろ臆病だと思っていたのだが。
「思い切ったことをしたな」
「いつもくーちゃんが、わたしのために大けがばかりしてますから。 それをどうにかしたいと思って。 これくらいの傷がすぐ治るようなじゃないと、傷薬も意味がないと思って、すぱってやっちゃいました」
「そ、そうか」
なるほど、そう言うことか。
ロロナの事になると、クーデリアは相当に人が変わる。それは知っていたのだが。実は、クーデリアのことになると、ロロナも無茶を平気でするらしい。つまり、勇気を出す後押しに、クーデリアの存在がなった、ということか。
この二人は。過去に大きな事件があったとは言え。多分、人としては理想的な関係にあるのだろう。いや、むしろ少し過剰なほど、なのかも知れない。
クーデリアは、本気でロロナのためなら、命も惜しくないと思っているに違いない。この光景を見るまでは、そうは思ってはいなかったが。今後は、考えを改める必要がありそうだった。
血が止まる。
包帯を巻はじめるロロナ。案外手際が良くて、驚いた。不器用だと思っていたのだが、或いは回数を重ねているからか。
「痛みは殆どありません。 これ、とても良く出来ました」
「傷が残ると思わなかったのか?」
「へ? 多分大丈夫ですよ。 わたしだって、アーランド人ですから」
ロロナはへらへらと笑っている。少しは自分に対する警戒を解いてくれたのだと思うと嬉しいが。
しかし、この娘を知ると、危なっかしさを感じてしまうのはどうしてだろう。
とりあえず、今回の課題は合格でほぼ確定である事を伝えると、ロロナは喜んでくれたようだった。
用事は済んだので、アトリエを後にする。
ロロナはすぐに、包帯を巻いた手のまま、調合釜に向かっている。あの様子だと、効果ありとみて、薬の量産に掛かるのだろう。
錬金術師としての自覚は芽生えはじめていると見て良い。
最初はかなり後ろ向きな理由だったはずだが。
たった半年で、随分と変わる。若いというのは、良いことだ。もうあまり変わる事が出来なくなってきた事が自覚できるステルクは、羨望も感じる。
もう一度サンライズ食堂に出向くと、酒にすることとした。
今日の仕事はもう全て終了だ。
たまには酒を飲みたい。
近年は、一緒に酒を飲む同僚が、著しく減ってきたのが残念だが。
いずれ、課題を突破できたロロナやクーデリアと一緒に飲みたいものだ。
例え世界が如何に過酷でも。
あの子達なら、課題を突破できるのではないのか。そう、ステルクには、思えはじめていた。
食堂に入って、酒を注文して、一人手酌で飲み始めると。
不意に、そばで咳払い。
エスティだ。
満面の笑顔を浮かべていることから言って、仕事だろう。
しかも、ステルクが露骨に嫌がるような、である。
「お邪魔だったかしらー?」
「いえ、先輩。 何事ですか」
「浄化任務」
さっと顔色が変わることが分かった。
騎士としての、理想と現実。若い頃から、騎士とはこの国最大の戦力であり、仕事の中には汚れも含まれることも知っていたが。
その中でも、浄化任務と呼ばれるものは、最悪の範疇に入る。
「明日の早朝、北門に集合」
「分かりました」
エスティは、仕事に入ると、一切無駄口を叩かなくなる。彼女は本物の掃除屋であり、仕事で人を殺すことを厭わない。
特にアーランドに害を及ぼす相手であれば、なおさらだ。
噂であるが、ある大国の宮殿に夜中の内に忍び込み、王族を根こそぎ一夜で消してきた事もあるという。
ステルクも、エスティの仕事の全てを把握している訳では無いのだが。
しかし、この国最強のハイド能力と、暗殺に最も適しているその性質から考えて、あながち嘘でも無いだろう。
酒を手早く呷る。
物語の中の騎士達は幸せだ。
モンスターからか弱い臣民を守り、忠義を尽くしていればいい。
子供の頃は、純心にそんな物語を喜んでいた。お姫様をドラゴンから助けたり、悪党をやっつけて国を平和にしたり。
その一部は、騎士となった今、実施している。
だが。
首を振ると、迷いを追い払う。
ステルクは騎士だ。そしてその仕事は、確実にアーランドのためになっている。これは事実だ。
この国の権力階級は幸いなことに腐敗していない。
王の下で強力な態勢が敷かれていて、汚職も怠惰も入る余地がない。戦士としてのアーランド人のプライドは高く、それが汚辱に満ちた権力闘争を許さない、という側面もある。そう言う意味で、王は幸せであるのかも知れない。
早めに出された料理を平らげると、帰路につく。
明日は強行軍だ。
宿舎に戻ると、顔だけ洗って、さっさと寝た。
もしも、ロロナが実績を積んでいった場合。彼女の作る道具が、汚れ仕事に用いられるのだろうか。
考えたくない未来だった。
明るい未来を夢想したのに。それが一瞬で闇に叩き落とされたのを、ステルクは悟ったのだった。
原作だと強い一方スチャラカだったジオ王ですが、本作ではそれは表向きの顔。
裏はもの凄く怖い冷徹な君主です。
単純な武力でもアーランド一ではあるのですが、それだけではやっていけません。
それくらい、今のアーランドはよろしくない状況なのです。