暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
※アーランド王国の貴族制について
これは原作でも触れられているのですが、アーランドはどうも君主制から立憲君主制へ移行する中途の段階にあるらしく、貴族はどんどん力を失っています。歴代アトリエシリーズでも、鉄道が実用化されつつあるなど相当に技術が進んでいるので、まあ妥当な話であろうかなと。
既にジオ王の治世では貴族は完全に名誉職となり果てていて、金で爵位は売り買いされています。くーちゃんの父上は公爵ですが、別に血縁がどうこうとかそういうことはないのです。
まあその時代の狭間にいて、苦労しているミミさんみたいな人も後々出てくる訳ですが。トトリのアトリエでくーちゃんとミミさんの口論のシーンが分かりやすく、爵位なんて金で買える程度のものと公爵令嬢のくーちゃんが斬って捨てていますからね。
ルルアのアトリエで名家云々のゴタゴタ話が少しありましたが、あれはアーランドに取り込まれた国の話だったのだろうと解釈しています。
エスティ=エアハルトは、筋金入りのアーランド戦士である。そしてそれ以上に、王の命令を忠実に実行する最強の駒でもあった。
国家軍事力級と呼ばれる技量を持つ戦士である事と、影の働きをする間諜である事は、同居するのだ。
もっとも、エスティは器用な情報収集ではなくて、収集された情報を元に、ターゲットを消す事を得意としていたが。
つまりは、暗殺者である。
騎士として宮仕えを始めてから十二年になるが、最初の二年で適性を見いだされた後は、ずっと汚れ仕事を担当している。勿論それ以外の仕事もしているのだが、アーランドの近辺、特に辺境を狙う大国が増えつつある現状、エスティの仕事は忙しくなる一方だった。
不満そうなステルクと、何名かの騎士と一緒に、ある村を見下ろす。
アーランドではない別の国。
その一角だ。
この村では、いわゆる多幸効果と中毒性の強い薬物を、国の指示で生産している。勿論医療用としても用いる事が出来るものだが、此処で栽培しているものは、純粋に国の利益として作られている。
つまりは、違法薬物として、各地に裏のルートから売りさばかれているのだ。
しかも村の連中は、こっそり必要以上の量をつくって、自分たちでも闇商人に売っている。
その一部が、アーランドにまで入り込んできているのだ。
都度商人は消しているし、ルートを構築し使用している連中は殺したが。それが何度か続いた結果、ついに王による抹殺命令が出た。
護衛の兵士が、巡回している。
だが、何だあの腕前は。
暗殺では、派手な技など必要ない。
エスティが手を出す必要さえなかった。
闇の中を駆けた数名の戦士達が、無言で巡回の兵士達を屠っていく。まるで案山子を斬り倒すかのような容易さだ。兵舎の位置も、事前に調べがついている。
そっちはエスティが担当だ。
中に二十人ほどいるが。たったのそれだけ。
この国は、周辺国全てを敵に回して荒稼ぎしているという自覚があるのだろうか。王族に対するジェノサイド指令が出るのも、そう遠くはないかも知れない。どのみち、この国は長くないなと、エスティは思った。
無言のまま、エスティは兵舎に入り込むと。
すぐに仕事を済ませた。
返り血も浴びない。
声さえ、立てさせない。
戦場では、実力が全て。
殆どの兵士は、寝たまま、何が起きているかさえも理解できずに命を落とした。
剣を兵士達の寝具で拭って、血を落とす。
辺境で生きている人間と、この辺りにいる者達は、根本的に能力が違う。アーランド戦士は、中央にいる軟弱な連中の百倍は強いという噂があるが。それは、噂ではなくて、半ば事実だ。
友人でありライバルでもあるアストリッドの話によると、非常に激しい淘汰が行われた辺境に比べ、この辺りでは環境の激変も緩く、生き延びた人間もさほどの苦労はしていないのだという。
それならライフル程度を装備して油断するのもよく分かる。
辺境では、ライフルなんぞ役には立たない。
というよりも。それならばそれで、対応策はある。アーランド戦士が来ることを想定して、強力なモンスターを番犬代わりにしても良いし、別の辺境国から戦士を連れてきても良いだろう。
アーランドほどではないが、辺境国の戦士は強者揃い。
そういった連中が、監視に付いていれば、こうも易々と突破されることはなかっただろうに。
大国だから。
その庇護を受けている村だから。
油断は、そんな事から来ているのだとすれば、お笑いぐさだ。
既に村は包囲している。
このままジェノサイドしてしまっても良いのだが、村の者達には聞くことがある。全員を、すぐに捕らえさせる。
番犬が少し鳴いていたが、すぐに静かになった。
畑にある薬物の原料植物は、即座に焼き払わせる。家に押し入っては、寝入っていた村人共を、即座に捕らえていく。
荒事には慣れているのだろうけれども。悪いが、今回は相手が悪い。
炎を見て、軍が駆けつけてくるまで二刻と推察されている。
その前に聞き出さなければならないが。まあ、可能だろう。
村長をはじめ、全ての村人を捕縛。
昨日のうちに、村の偵察は済ませて、何処に誰が何人住んでいるかは把握済み。だからこそ、これだけスムーズに作業をこなせた。
縛り上げ、転がされた村人達は。青ざめた表情で、剣を振るってわざとらしく今更血を落としてみせるエスティを見上げていた。
村の中で、誰が顔役かも調べてある。
まず、一番顔役でも影響力がない男を、部下に引っ張り出させる。エスティは笑顔のまま、尋問に掛かる。
「まず、何処の誰に、どれだけの量を売っていたか、話してもらいましょうか」
「てめえ、何をしているか、分かってるんだろうな! 俺たちは南オトランド公……」
男がそれ以上言う事はなかった。
エスティが、首を刎ね飛ばしたからだ。
「はーい、余計な事を言うと、こうなりますよ。 私の質問にだけ答えるように」
次。
エスティが呼びかけると、震え上がった強面の男が前に出てきた。同じ質問をすると、最初は渋ったが。
エスティが剣を軽く動かして、男の前に見せる。
男の耳が、剣先にぶら下がっていた。
忘れていたかのように、男の右耳から、鮮血が噴き出した。
「はい、質問に答えなさい。 沈黙は死を呼びますよー」
数字を、カウントしていく。七秒目で、男は喋りはじめた。
だが、喋り終えたところで、エスティは首を刎ね飛ばす。これでも本職の間諜だ。相手が嘘をついているか、本当のことを言っているかくらいは、判断がつく。
次。
言うと、また顔役が引き出されてきた。
恐怖で顔がくしゃくしゃだ。エスティが質問をする前に、べらべらと取引先について喋りはじめた。
その中には、ここに来る前に処分した、薬物を取り扱っている行商の名もあった。これは、本当と判断して良いだろう。
部下にメモを取らせる。
「それで、この国そのものが命令して、薬物の栽培をしている事は間違いないと」
「そ、そうだ! 悪いのは国王だ! だからゆるし……」
首を刎ね飛ばす。
転がっていった首が、ぱくぱくと口を開閉していたが。それもやがて動かなくなった。くだらない口だ。
「貴方たちが、命令以上の薬物を作成して、売りさばいていたことは調べがついているのよー? 最後の質問。 村長」
「ひっ……!」
引っ張り出されたのは、でっぷり太った村長だ。
この国の村に限らないのだが。やはり過去に起きたらしいカタストロフの影響で、痩せた土地は多い。
各地にいる錬金術師をはじめとして、土地の回復を図っている者は少なくは無いのだが。それでも、まだまだ世界はやせ衰えている、というのが現状だ。
この村は、国から優先的に緑化政策を受け、そこそこに豊かな土地を得ている。
それなのに、作物を作らず、他国に害を為す薬物を作って換金するという行為に、エスティはどうしても理解が及ばなかった。今の時代、人間同士で足を引っ張り合っている場合ではない。
そもそも、エスティのような仕事をする人間は、いてはいけないのだ。
それが必要となるこの世界の現状。
やはり、人間はかっての世界でも、こうだったのだろうか。それならば、なすべくして一度壊滅したのかも知れない。
「どうして、命令以上の薬物を売りさばいていたのかしら? 今の時代、緑がどれだけ貴重かは理解しているわよねえ。 作物を育てるなり、森を増やして自然の回復を図るなり、するべき事はいくらでもあるでしょう?」
「そ、それは」
「それはー?」
「ゆ、豊かな生活が、したいからだ! そうに決まってるだろう!」
燃えさかる村。
倉庫から、生成済みの薬物を、部下達が運び出してくる。
風上にいるから平気だが。
「人間としては、当然の欲求よね。 これだけ豊かな土地を錬金術師か学者が作り上げたか知らないけれど、それを使って豊かな生活をしたいと。 他の人間はどうなろうと、知ったことではないと。 はい、よくできました。 大変人間らしい考え方ですねー」
ぱちぱちと、手を叩いてみせる。
エスティは、笑顔を作っていたが。
この先、どうするかは。今の瞬間に決めた。
「押収した薬物を、この者達に強制投与しなさい。 致死量を超えないギリギリの量までね」
「はあ、よろしいのですか?」
「構わないわよー。 どうせあまりは焼き捨てるんだから」
南オトランドを敵に回すつもりか。
村長が喚くが。
部下達が手際よく、薬物を投与するためのポンプを取り出した。これを口に突っ込み、胃に無理矢理薬物を流し込むのである。
口を塞ぐ者もいるが、そう言う奴は鼻をつまんでやれば、すぐに口を開ける。
阿鼻叫喚の中、エスティは告げる。
「貴方たちが、自分のエゴで他人を薬物塗れにするのに、人間だからと言う理由でそれを正当化するのなら。 私達も、自分の身を守るために、諸悪の根源を除くだけの事。 まあ、貴方たちは自分の正義と一緒に心中しなさい。 それだけの量を投与された場合、確実に重度の中毒になる。 その後どうなるかは、貴方たちが一番よく分かっているでしょう」
村の全員に投与が終わると、余剰分を焼き捨てさせる。
そして、エスティは撤退を命じた。
軍が押し寄せてくる。すぐに消火活動をはじめるが、間に合うはずもない。安全な場所にまで避難した後、燃えさかる村を見下ろして、エスティは隣にいたステルクに聞く。
「何か意見があるのかしら、ステルク君」
「あるに決まっているでしょう。 確かに先輩の言葉は正論ですし、国としての禍を除く必要はありますが」
「村一つを潰す理由にはならないと?」
「彼らの行為は確かに悪です。 しかしこれはやり過ぎに思えます。 あの者達はもはや正気を取り戻すこともなければ、人間として生きることさえ出来ないでしょう」
昔から此奴はこうだ。
戦士として高潔すぎるのである。ただし、国に対して、真正面から反旗を翻すような真似もしない。
実力を兼ね備えた、子供。
それが、エスティの評価だ。
ステルクの実力を疑う者はどこにもいない。王でさえ、アーランドの柱石として認めているほどの使い手だ。
だが、この男は、この後も、ますます顔を険しくしていくのだろう。
ステルクは今回、守備兵を数名斬った。
初めての殺しではない。
確か戦士としての初陣では、傭兵として他国で働いたはずだ。その時に莫大な戦果を上げている。子供の時から、人を殺すことには慣れている。
それでいて、この思想を持てるのは。エスティとしては、驚異的だと感じる。
「とりあえず、代案は?」
「ありません」
「もしもこの国が同じ事を続けるようなら、次は王族を全部処分する」
ステルクは、何も言わなかった。
その後は、軍に補足されることもなく、さっさと撤退する。
勿論、痕跡などは残さなかった。
アーランドに帰還したのは、四日後。
流石に強行軍で、屈強な戦士達も疲れた様子だった。王宮で報告書を上げてから、解散とする。
戦士達も、めいめい散っていく。
今回作戦に参加したのは、いずれも歴戦の勇者達だ。こういった汚れ仕事に参加した経験も、いずれも持ち合わせている。
だから、ステルク以外は、不満を口にすることもなかった。
これがアーランドのため。
いや、今だ壊滅的な打撃から立ち直れていない人類全体のための、病巣の駆除だと、皆理解できている。
勿論、多くの人間を殺した事。何より、アーランド人として戦場の禁忌としている、民間人の殺戮を行った事は、誰もが良く想っていないだろう。
しかし、こういった処置を執らなければ、助けられない人間もいるのだ。
今回焼き払った薬物が、どれだけの国で、中毒者を産み出していたか。アーランドだけの話ではない。
他国の力を弱め、自分の力を強くする。そんな事のために、やって良い事ではない。王はそう判断したし、エスティもそれに賛同した。
エスティ自身は、近くにあるサンライズ食堂に出向くと、ビールを注文した。
ステルクはと言うと、帰り道ずっと無言だった。あの様子だと、家に戻ってさっさと寝るのだろう。
潤いのない生活だが、それはエスティも同じ事。
アーランド人の戦士は、腕が良いほど婚期が遅れる傾向にある。エスティはその典型例で、未だに浮いた話の一つも無い。
同僚達よりエスティはめざましい戦果を上げ続けた。
他の騎士達よりも明らかに、頭二つ秀でた活躍を続けてきた。
その結果、国家軍事力級という評価をもらうようにもなったし、先日のように、国の最暗部に関わる仕事も任されるようになった。
給金も相当にもらっている。並の騎士十人分には軽く匹敵する。辺境随一とは言え、この小さな国の騎士としては破格の待遇。評価に関しては、エスティは一切不満を持っていない。
だが、エスティの中には、不思議と婚姻に関する強い願望もある。
あれだけ闇に走り、血をまき散らして生きてきたのに。不思議な話である。
しばらく無心にビールを飲んでいると、隣にロロナが座ってきた。席が埋まっているので、相席だと言うことだ。
「すみません、隣、失礼します」
「んー」
「エスティさんを、外ではじめて見ました。 お仕事、終わったんですか?」
「そーよー」
ロロナはまだ酒を飲める年ではない。
アーランドでは、酒を飲んで良いのは一六からと決まっている。これは、戦士階級も、非戦士階級も、同じように一六なら大人として認められるからである。なおかつ、この年からは税にしても扱いにしても、手心は加えられない。
一方で、十六以下の人間は、戦士階級でも酒を勧めるのは御法度とされている。
何故かというと、成長に阻害が出る事が分かっているからだ。
これは最悪のタブーである。
修羅の国である頃から、アーランドでも、子供は宝とされていた。大きく成長して、将来を担うからだ。
成長の芽を潰すことは、どんな戦士でも許されない悪逆とされた。
幼いうちに嗜好品の類を覚えさせるのも、その一つ。
ロロナはベリーを加工したジュースと、野菜料理を食べ始める。手に包帯を巻いているのは、実験を失敗したからか。
「あれー? 課題は合格って聞いたけれど?」
「友達を助けたくて、実験していました。 傷薬なんですけど、自分の体で試すのが一番だって思って」
「思い切ったことするわねえ」
臆病な子だが、ある一線を越えると不意に大胆になる。
それは聞いていたのだが、実例を目にすると、少し驚かされる。
酒が入ってきているとは言え、周囲の警戒は怠っていない。ロロナは半分も年下だが、上手く育てばこの国の柱石となりうる存在だ。
今後のためにも、コネを作っておいて損は無い。
「何か、困ったことはない?」
「今のところは大丈夫です。 あ、護衛についてくれる人が、少し足りないかも。 くーちゃんと私だけだと、手が足りない事が多くって。 かといって、ステルクさんもイクセ君も、忙しい事が多いみたいだし。 あ、くーちゃんもイクセくんも、友達です」
「ふーん」
実のところ、エスティは知っている。
もうじきだが、追加の人員が来る。最初に一人、少し遅れてもう一人。
先に来る人員は、よそで確保した人間だ。保護が遅れていたら、恐らくは悲惨な死を迎えていただろう。
幸いなことに、ロロナとは年も近い。
交友関係が広いとは言え、親友と呼べる人間が少ないロロナにとっては、良い相手になるはずだ。
もう一人は、国の息が掛かった人間。
面白い事に、先の一人とは因縁も深い。こっちはエスティとどちらかと言えば近い存在である。
プロの裏家業の人間なのだ。
もっとも、まだ若いし、ロロナに対して無茶をするような事もないだろう。
実のところ、エスティも監視を兼ねてロロナの側につく事が今の時点で、案として浮上している。
ステルクは生真面目に報告してきているので、エスティは違う面からの観察をした方が良いかも知れなかった。
肉料理を注文する。
すぐに、狼肉を炒めたものが出てきた。
基本肉食の動物は肉に臭みがあるのだが、アーランドではその取り方に独特の工夫をしている。
腐敗寸前まで放置した後、あく抜きをするのだ。
もっとも、外ですぐに捌いて食べる場合は、熊でも狼でも、美味しく食べられるものなのだが。
「ロロナちゃんも食べる?」
「ちょっとだけ、いただきます」
「遠慮しないでいいのよー」
子供にたくさん食べさせることも、大人の義務として定着している。よその国では、特に辺境以外の国ではこれが無いと知ったときには、エスティも驚いた。
辺境以外でも、錬金術師はいる。
彼らが学者となって、必死に世界の再生をしていることも。錬金術というと爆発物の事がまず最初に思い浮かぶが。歴代の錬金術師達が、土地の緑化政策に地道に取り組んでくれたからこそ、アーランド周辺は豊かな緑が取り戻されているのだ。
大国でも、それは同じだが。
やはり、緑があれば、それだけ耕地にしてしまう国は珍しくない。土地自体が貧しくて、多くの人間が密集しているから、貧富の格差も大きい。それならば、決死の覚悟で辺境に来れば良いと想うのだが。貧富の格差はあっても、生活そのものは便利な事も多いので、中々決心は出来ないのだろう。此処まで来るための金も、確保できないのが実情だという話も聞いたことがある。更に、大陸中央部でぬくぬくとしていた人間達にとって、辺境はあまりにも過酷という事もあるだろう。モンスターを見たこと無く育つ者までいると聞いているから、無理もない。
いずれにしても、簡単に解決できる問題ではない。
そのためにも、ロロナには頑張ってもらわなければならない。大きな戦争は、できるだけ起こしてはならない。
人間同士で争っている場合ではないのだ。
もしももう一度致命的な破滅に陥った場合。人間が、立ち直れる可能性は極めて低いだろうと、試算も出ていた。
「此処の料理、少しずつ美味しくなってるわねー」
「はい。 イクセ君が、どんどん上手になってるので」
「ああ、あの子か」
コック見習いという名目であるが、事実上この店を切り盛りしている名物少年が、カウンターの向こうであくせくと働いている。
エスティは立派に働く人間は好きだ。
自分のようになって欲しくもないと思う。
料金を払うと、店を出る。ロロナとは、其処で分かれた。次の課題の通告まで、まだ少し時間がある。
アストリッドが言うには、次は少し課題の難度を落として、より実用的な作業をさせるという。
今回の発破の開発に関しても、ロロナは大きな実力を示した。
才覚があるのは、ほぼ確実と見て良いだろう。
酔い覚ましに、城壁の上に出た。
風が気持ちいい。
巡回の戦士に挨拶しながら、降るような星空の下を歩く。こんな所を恋人と一緒に歩けたら、良いだろうに。
だが、武勲を少しばかり稼ぎすぎた。
釣り合いの取れる男は、中々いない。ステルクは実のところ釣り合いが取れる相手ではあるのだが、あちらが昔アストリッドとエスティを巻き込んで色々こじれた事もあって、エスティの事を女とは認識していないらしい。
他に優秀な騎士もいるのだが。
いずれも、帯に短したすきに長し。
実のところ、縁談も何度か来た。しかし、どれも上手く行かなかった。恋人が出来た事もある。
誰とも、長続きしなかった。
いつのまにか、三十は目前。
エスティは城壁に腰掛けると、二度嘆息した。自分も年を取ったものだ。
酒が抜けてきた。
かといって、飲み直す気分ではない。
いずれ、自分のような仕事をしなければならない人間が、いなくなれば良いのだけれど。そう、エスティは思ったが。
きっと人間がいるかぎり、その願いは叶うことがないだろう。
ふと気付くと、後ろにアストリッドが立っていた。
流石だ。
「どうしたのー?」
「少しばかり、面白い情報を持ってきた」
「何、オルトガラクセンで、何か見つけた?」
「それもあるが、ひょっとすると、人間を自作できるようになるかも知れん」
けらけら笑おうとして、失敗。
此奴ならやりかねない。
歴代錬金術師の中でも、最大級の天才。この大陸でも、確実にトップを争うと言われているほどの女だ。
「今の時代、人間が足りないのが、最大の問題だが。 これを使えば、部分的に補うことが、出来る可能性がある」
「へえ、面白いじゃない」
「問題は試験運用が必要なことだが。 それは、ロロナにやらせるか」
「いいのー? それ、プロジェクトにないでしょ。 あの子にはこれから死ぬほど大きな負担かけるのに」
だからこそ、面白いとアストリッドは言い切る。
相変わらずだ。
天然のサディストなだけはある。ロロナが苦しんだり悩んだりしているのを見ると、本気で喜ぶのだ。
今回のプロジェクトでも、半ば確信犯的に弟子の足を引っ張っているのを見る限り。此奴は明らかに楽しんでいる。
正直良い趣味とは言えない。
「上手く行ったら、お前にも恋人を作ってやろうか? 戦闘力もお前と同程度で、頭も良い奴」
「それ良いわねえ。 勿論美形にしてよ-? で、優しくて紳士なの」
「不自然なくらい美形にしてやるさ」
からからと笑いながら、アストリッドは城壁からひょいと飛び降りた。
勿論死ぬつもりなどでは無い。飛び降りても屁でもないほどに、彼奴は実力があるのだ。ドラゴンと肉弾戦をするほどである。城壁から飛び降りたくらい、文字通り何でもない。同じようなことは、エスティにも出来る。
しばらく夜風に当たった後、自宅に戻る。
早速と言うべきか。
次の仕事の話が来ていた。
今度は暗殺の依頼である。比較的近くの国の将軍だ。
ため息をつくと、あくびをしながら、エスティはふらりと家を出た。城門を出ると、走りながら眠るのと、起きるのを繰り返す。今回は簡単な任務と言う事もあり、部下は使わない。
移動しながら寝るのは、この仕事をしながら覚えた技だ。
この仕事が終わったら、少しはゆっくりしよう。
ロロナの次の課題が始まるまでは、多少の余裕もある。
夜明けを迎える頃には、問題の国の境を超えていた。
後は、殺すだけだ。
色々と問題も多い周辺国との関係。
エスティさんはダーティワーカーとして、手を血に染めて回っています。
国家軍事力級とまで言われる最上級戦力でも。
そういった汚れ仕事をしなければならないほど、状況はよろしくないのです。
更に此処に裏から関わっている厄介な勢力もいます。それが後々、この世界を滅ぼしかけるのです。