暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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原作での課題、それほど難しく無いので、余程さぼっていない限りは大丈夫なんですが。

本作では状況が原作とは色々違うため、ロロナさんのおかれている環境は極めて過酷です。

そして第三課題開始。

課題もどれもこれもが後のために役立てられていくものです。

今回もまた……






旋回演舞
序、第三の課題


突然に絶望の淵に叩き落とされてから、半年が過ぎた。ロロナはまだ怖くて足が震えるときもあるけれど。

 

少なくとも、王宮には素直に足を運べるようになっていた。

 

目的も出来た。

 

錬金術師として、名を上げれば。友人の社会的地位を、少しでも改善出来るかも知れない。

 

そう思うと、勇気も出る。

 

前回の課題が合格だという話は聞いていたから、もう怖さは半減している。後は、次の課題について、聞くだけだ。

 

待ってくれていたステルクに、課題が書かれた紙を見せられる。

 

それと同時に、本も渡された。

 

内容は。この本に記されている、魔術の道具を復元すること。

 

「錬金術ではなくて、魔術ですか?」

 

「そうだ。 元々これは、百年ほど前の王宮つきの魔術師が書いた本で、幾つかの遺品も残っていたのだが」

 

それらの全てを、もう使い果たしてしまったのだそうだ。

 

しかも、それらがいずれも、便利な品なのだという。

 

「今まで何名かの魔術師に研究させたのだが、どうも再現が上手く行かなくてな。 錬金術ならどうだろうと、今回の課題に採用された」

 

「分かりました、やってみます」

 

「頼むぞ」

 

一礼すると、すぐにアトリエに戻る。

 

さっそく本を開いてみると、強烈な紙魚と古紙の臭いがした。本当に、骨董品と言って良いレベルの品なのだ。

 

埃ももの凄い。手垢がそのまま染みになって残ってしまっているほどだ。

 

まず、全部のページを開けて、羽ペンを使って埃を払うところからはじめた。窓を開けて、埃を外に出す。

 

何度か咳き込んでいるうちに、少しはましになった。

 

呼吸を整えると、改めて本の内容を確認する。

 

本はさほど分厚くはなく、すぐに中身を確認することが出来た。半生をかけて造り出した、魔術の道具。

 

しかも、本人の固有能力に近いものを、これに込めたらしい。

 

ざっと見て行くと、三つの道具が、この書物には収められている。

 

一つは猛毒。

 

即効性があり、相手に浴びせるだけで効果をもたらす、非常に強力なものだ。材料を、造った人の固有能力で組み合わせて、毒として安定させたというものらしい。どうやら作り手は女性だったらしく、非常に陰湿な描写があって、ロロナは時々真っ青になってしまった。

 

怖い。ロロナも女だから、情念というものの怖さは分かっているつもりだったのだけれど。

 

この書物を書いた人は、かなりのオールドミスだったらしく、その鬱屈は尋常では無かった。優秀すぎてばりばり働いているうちに、老婆になってしまったというパターンらしい。

 

いつまでも若々しいアーランド人でも、限界はある。彼女は気付いたときには、その限界を踏み抜いてしまっていたらしかった。アーランド人はその戦闘力を保つためか、かなり若々しい時期が続くが、流石に五十を超えると老いが目立ちはじめ、七十を過ぎると子を産むのは不可能になる。

 

魔術師として優秀だったからこそ。

 

相手がおらず、結婚も出来なかったのだ。

 

全身が総毛立つのを感じるような文字で、おぞましいまでの情念に満ちた内容が、彼方此方に書き込まれている。正気をごりごりと削り取られていくようだ。解説に関係する文章の途中に、若くて美しい彼奴が憎いとか、若い頃どんなパーでも良いから引っかけて結婚しておけば良かったとか、身をよじるような文章が踊っていた。

 

まるで本に情念が乗り移ったかのよう。そういえば、この本自体に、強い魔力が宿っている。多分これ、本人の魔力だろう。

 

ロロナが、どうしても苦手なものが、一つある。

 

幽霊だ。

 

これだけの強烈な魔力が宿るほどの本だ。この本に、恐ろしい魔術師の幽霊が宿っていても、何ら不思議では無い。

 

そう、ロロナの首筋に、しわだらけの手が、後ろから音もなく伸びてくる。そして、ぎゅっと首を掴み、締め上げながら、ささやくのだ。

 

若い。にくい。その若さ、吸い取ってやる。

 

呼吸が乱れてくるのが分かった。妄想に過ぎないと、分かっている筈なのに、怖くて体が動かない。

 

物音がしたので、悲鳴を上げて跳び上がった。

 

振り返ると、師匠が満面の笑みで立っていた。

 

「どうしたロロナ。 そんなに楽しい本か?」

 

「あ、あう……! 酷いです、酷すぎますししょー!」

 

「その泣き顔、素晴らしい。 何かで残しておかないとな!」

 

そういうと、アストリッドは恐ろしい早さでスケッチを行い、こっちに見せてくれる。ぐうの音もないほど上手い。鏡でも見ているのでは無いかと思った。

 

これでご飯を三杯は行けるといいながら、アストリッドが自室に引っ込む。もはや突っ込む気力もない。

 

夜、トイレに行けなくなりそうだ。

 

嫌だけど、仕方が無い。涙目になりながら、本を読み進める。

 

不意に、おぞましい情念に満ちた文字が消えた。

 

どうも、臭いを出すためのろうそくに関する記述がある。此方は、どうやらこの魔術師の女性が、自身の気晴らしに作り上げたものらしい。

 

リラクゼーションが目的だからかは分からないが、此処からは多少狂気じみた描写も減ってくる。

 

本当はこの本を読んでいるだけでも怖いのだけれど、少しだけ気分が落ち着いてきた。

 

どうも単純なろうそく作りではなくて、色々と魔術的な工夫が凝らされている様子だ。幾つかの材料は、既に手元にある。

 

これだったら、中和剤を用いて、再現できるかも知れない。

 

時々注釈があるが、さっきまでの怨念が満ちた文章ではない。比較的気分が落ち着いている状態で書いているからか、文字までもが優しげな丸みを帯びていた。

 

この人は、本来狂気にむしばまれる前は。

 

自分に厳しい、誠実な人だったのかも知れない。

 

著書を見ていくと、人となりがある程度分かってくるものなのだろうか。少なくともこの本は、狂気に侵された魔術師の、いろいろな顔を見せてくれているように思える。

 

だが、平和は長続きしなかった。

 

最後の方に入ると、再び不穏な文字や文章が、書き殴られはじめる。

 

見ると、幻覚作用のある道具類について、記しているらしかった。

 

この魔術師は、夢を幻覚という形で、実現したかったのだろうか。文章を追っていくと、その研究過程が見えてくる。

 

老いさらばえた私を、美しいと言ってくれる人間はいない。それなら、言葉を喋らず、私にただひたすら尽くしてくれるしもべが欲しい。

 

分かる、気がする。

 

孤独なおばさまやお爺さま達は、動物をペットとして、間近に置くことが多い。ロロナも、それはよく見る。

 

言葉を喋る人間よりも、感じるストレスが小さいからだ。

 

特に犬は、その効果が大きい。忠実で心優しい犬種は、アーランドでも人気がある。屈強で強面の老紳士が、犬を連れて散歩をしている所は、時々ロロナも見かける。そんなとき、巌のような顔が、時々優しく揺れているのも。

 

魔術師は、最初は犬を。

 

次に鳥を。

 

最後にドラゴンを、自分に忠実なしもべとして、作り上げたかったようだった。

 

現実の犬では、駄目だったのだろうか。

 

それについては、記述があった。

 

犬や猫を側に置いていると、原因不明の体調不良に襲われる人がいる。どうやらこの魔術師も、その類であったらしい。

 

実際、犬も猫も好きだったようなので、それはつらかっただろう。せめて幻覚の犬で、自分を慰めたかったのだとしたら。

 

悲しいなと、ロロナは思ったけれど。

 

時々、凄まじい狂気が文脈に混じってくるので、同情する前に、背筋が凍り付いてしまう。

 

最後のページをめくる。

 

悲鳴を上げて、閉じてしまった。

 

巨大な目が真ん中に書かれていて、びっしり恨み言がその周りを覆っていたのだ。殺すとか恨むとか、若い事が許せないとか、読んでいるお前も死ねだとか。その情念の凄まじさは、魔術的な呪いにさえなりそうなほどだった。

 

涙目になりながら、ロロナはメモを取り始める。

 

再現が要求されている道具は、この中のものだとすれば、三つだ。

 

一つは、強烈な毒薬。もう一つは、癒やしの効果があるろうそく。アロマとでもいうべきだろうか。

 

そして最後は、幻覚作用を造り出す彫像。

 

この三つは、いずれも魔術師の固有能力で、本来は混ざらないものを混ぜ合わせることで完成している。

 

これらを、錬金術で、部分的にしろ完全にしろ、再現すると言うことか。

 

出来るだろうか。

 

とにかく、レシピを起こさなければならない。

 

この間まで、必死に予習して、参考書にも付箋を貼って整理した。少しは、調べるための作業については、進展が早いはずだ。

 

一つずつ、やっていくのが良いだろう。

 

そのためには、あの恐ろしい魔術書を読み返さなければならないのだけれど。妖気さえ漂うあの本を、何度も読み返さなければならないかと思うと、それだけで胃に穴が開きそうだった。

 

今でも後ろから見られているようで、怖くて仕方が無いのだ。

 

まだ昼だというのに、こんなに怖い思いをしたのは初めてだ。だけれど、ぶるぶるしていれば、それだけ師匠が喜んで、色々嫌なことをされるのは目に見えている。誰か、後ろに立っているような気がしたが、気にしない。

 

レシピを起こすべく、参考書を手に取る。

 

幾つかを見繕って、順番に、何が必要か、どうすれば良いのか、整理していった。だが、それは、楽な作業ではなかった。

 

何しろ、単純に道具のことだけを、考えられないのだ。

 

どうしてもあの狂気じみた文章が、頭に浮かんでしまう。自分の呼吸が荒くなっていくのが分かった。

 

ドアをノックする音を聞くだけで、縮み上がった。

 

おそるおそる振り返ると、クーデリアだった。クーデリアはアトリエの中に入ってくると、ロロナの顔を見て、眉をひそめた。

 

「何、どうしたの。 顔が真っ青よ」

 

「う、うあああああああん! くーちゃん!」

 

「あー」

 

むぎゅうと抱きつくと、とうとう我慢できなくなって、ロロナは泣き出した。クーデリアは呆れたか、しばらく落ち着くまで、そのままでいてくれた。

 

順番に、如何に恐ろしい本を読むことになったか、話していく。クーデリアは魔術書を一瞥すると、ため息をついた。

 

「なんでそんなものを作らされるのよ。 嫌がらせとしか思えないわ」

 

「どうすれば良いんだろう! レシピ、作れるかな!」

 

「何とかしなさい。 今でも、少しずつやってるんでしょ?」

 

怖いからいて欲しいと言うと、呆れながらもクーデリアはソファに座る。魔術書を貸せと言われたので、渡した。

 

昔は、ロロナの方が肝が据わっていた気がするのだけれど。

 

今は、クーデリアの方が、怖い話は平気な様子だ。しばらく目を通していたクーデリアだが、平然としていた。

 

「悪趣味ね。 これ、ある意味日記帳だったみたいじゃない。 日記に、愚痴や他人に見せられない内容が入るのは、当たり前よ。 これだけ鬱屈が溜まっていた人なら、それは狂気じみても来るわよ」

 

「怖くないの?」

 

「本当に呪いや何かが籠もっているのなら、流石に渡しては来ないでしょ。 それに……」

 

クーデリアが言うには、生きている人間の方が、余程怖いと。

 

なるほど、それは確かにそうだ。

 

クーデリアの家は、今時珍しい貴族の称号を保つ。それはお金持ちであるから、家名に箔を付けるためという意味もある。

 

逆に言えば。

 

それだけお金が集まるのだ。内部には、聞くもおぞましい汚泥が流れている、という事も意味している。

 

クーデリアの説明を受けて、なるほどと思った。

 

少しずつ、レシピを書き進めていく。クーデリアは嘆息すると、何日くらいかかりそうだと、聞いて来た。

 

多分一週間ほどだろうと応えると。

 

気晴らしが必要だと言って、一度アトリエを出て行った。

 

クーデリアと話しただけで、随分気が楽になる。まだ怖いけれど、少しずつ、筆は進む速度が上がり始めた。

 

どれも錬金術による基礎的な理論を応用すれば、出来ない事もない。

 

ただし、今までに手がけたどの錬金術よりも、難易度は高い。一週間でレシピを作ったとして、実際に作って納品すると、かなり時間ぎりぎりになるだろう。

 

それに加えて、ステルクから予備注文書を今回受け取っている。

 

ステルクによると、商品化をしたいものについて、ロロナに注文してくる形式を、今後は取ると言う。

 

たとえば、前回の課題で作った仕掛け発破だが、あれは納品すればするほど換金してくれるのだとか。

 

錬金術の素材を集めるには、お金がいる。

 

ロロナとしても願ってもない提案だけれども。課題に全力投球だけしてはいられなくなることも、意味していた。

 

時間は、あまりかけられない。

 

怖がってばかりでは、何も出来ない。

 

決めたのだ。錬金術師として、少しはいっぱしになるのだと。そうすれば、クーデリアは、ロロナの前以外でも、きっと笑えるようになる。

 

いつまでも、もたついてはいられない。








この頃のロロナさんはまだまだ恐がりで、完成も普通の人間に近いです。

後にとんでもない事件が連続するのですが。

それはまだまだ先の話です。



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