暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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リオネラさんとロロナさん接触。

当然ながらプロジェクト関係者としてです。

非常に厳しい状況ですが、ロロナさんにしてみれば年が近い友達が増える事になります。






1、旅芸人リオネラ

クーデリアにアトリエを連れ出されたのは、レシピを書き始めてから一週間後。丁度基礎的な部分が出来て、後は実証しながら固めていくという段階になってからの事だった。何でも、珍しい芸をする女の子がいるのだという。

 

「何かの固有能力か分からないのだけれど、紐もないのに人形を操ってるのよ。 結構な見物よ」

 

「へえ、すごいね」

 

丁度、疲れも溜まっていたところだ。

 

ロロナとしても、連れ出してもらったのは、有り難かった。

 

街の広場で、その芸人は、一日に何度か劇を披露しているという。アーランドは辺境という事もあって、あまり多くの旅芸人は来ない。幼い頃は、紙芝居のおじさんが来るのを、随分楽しみにしたものだった。

 

かなり人だかりが出来ている。

 

子供もいるようだが、大人もかなりいた。屈強なおじさんが、子供を肩に乗せている。アーランド戦士は、子供を慈しむという風習がある。クーデリアの親のような人もいるけれど、それはあくまで例外の筈だ。あのおじさんと子供は、血縁が無いかも知れない。

 

前の方にはいけない。

 

近くの噴水に上がって、其処から様子を見た。

 

かなりきわどい服装の女の子と、ぬいぐるみ。猫のぬいぐるみだろうか。二体がくるくると舞いながら動いている。女の子の動きも扇情的で、ロロナは目のやりどころに困ってしまった。

 

ただし、ぬいぐるみは目が大きい、小さな子供が喜びそうなデザインだ。

 

「ふうん、どうやってるのかしら。 ロロナ、魔力見える?」

 

「うん、もの凄いよ」

 

遠目にも、旅芸人の女の子が纏っている魔力が見える。淡い青と、赤。二種類の魔力が混じり合って、ぬいぐるみと女の子を包んでいた。

 

それにしても、大きなお胸だ。

 

芸が終わったらしく、女の子が礼をすると、拍手があがった。おひねりを投げる観衆。だけれども、女の子はどうしてかお礼の言葉も言わず、そそくさとその場を離れていった。あの様子では、おひねりも殆ど回収できていないのではないか。もったいない。旅芸人は、見に来てくれた人達に愛想をまいたりして、おひねりをもらって、生計を立てるのが普通だ。

 

見ている人達もそれを知っているから、よい芸を見せてくれた相手には、惜しまずおひねりを入れる。

 

ロロナもそうしようと思って、小銭を用意していたのに。

 

めいめい、観衆が散っていく。

 

前の方に、ハゲルのおじさまがいた。腕組みして見ていた彼は、ロロナとクーデリアに気付くと、おうと野太い声で挨拶してきた。

 

「なんだ嬢ちゃん達」

 

「凄い人気ですね、あの子」

 

「娯楽に飢えてるだけだよ。 ただ、見世物としては面白いな」

 

「次は前の方でみたいなあ」

 

純粋に興味がわく演目だった。あの女の子に、どんな旅をしているのか、聞いてもみたい。

 

ハゲルのおじさまは、フンと鼻を鳴らす。

 

「ありゃあ、旅慣れしてないな。 というか、本職の芸人とはおもえん」

 

「え?」

 

「確かに演目は面白かったんだが、ずっと張り付いたような笑顔でな。 愛想を巻くどころか、真っ青だったよ。 人に慣れてない奴が、無理矢理かり出されたみたいにな」

 

「……」

 

何だか、嫌な予感がする。

 

たとえば、財産を失ってしまった人とかが、旅芸人などに身をやつすことは、よくあるのだという。

 

扇情的な格好と言い、慣れていないという事実といい。

 

あの子、実はとんでも無い不幸な存在なのではあるまいか。ロロナは見る間に不安になって行くけれど。クーデリアが咳払いしたので、我に返る。

 

「帰るわよ。 もう芸は見たんだから」

 

「うん。 あの子、どこにいるんだろ」

 

「旅芸人だったら、今頃宿にでも戻ってるんじゃない? 場合によっては、色宿かもね」

 

クーデリアの推察は容赦がない。

 

確か、色を売るお姉さん達は、場所ごとに縄張りを持っている筈。よそ者がそういうお仕事をする場合は、確か宿を取って、格安で商売するのだとか。格安で行きずりという条件の良さもあって、性病になるリスクを無視して、そんな娼婦を買う男もいる。

 

以前、師匠が、真っ赤になるロロナに、面白おかしく話してくれたことだ。

 

クーデリアもロロナも、既に十四。

 

性教育くらいは受けているから、その手の話は知っているけれど。やはり、ロロナは何だか気恥ずかしかった。

 

一度アトリエに引き上げてから、夕方また広場に来る。

 

どうもあの女の子が気になるからだ。

 

今回も人だかりが出来ていたけれど、昼ほど多くはない。人形達と踊っている女の子は、昼より更にきわどい格好になっていた。特に胸を覆っている布は、確実に昼の時より小さくなっている。

 

酒を飲んで、やんややんやと囃しているおじさま達もいて、ロロナはちょっとげんなりした。

 

踊りが終わると、そそくさと、逃げるように女の子はその場を離れようとする。

 

おじさんたちが、げらげらと笑った。

 

「姉ちゃん、おひねりぐらい持って行けよ!」

 

よっぱらったおじさまの一人が、コインを放り投げる。女の子はそわそわしていたけれど、慌ててお金を拾い始める。

 

何だか可哀想なくらい、場慣れしていない。

 

咳払いの音。

 

いつの間にか、ロロナの隣に、隣に住んでいる雑貨屋のティファナがいた。笑顔を保っているが、彼女は何とも言えない威圧感を放っている。

 

未亡人でもあるティファナは、確かかって魔術師としても名が知られていたと聞いている。

 

それに、男達のアイドルでもある。

 

赤ら顔の男達は、しばらく黙り込んでいたが。ティファナの機嫌を損ねたくなかったのだろう。

 

コインだけ投げると、めいめい引き上げていった。

 

ロロナも、お金を拾うのを手伝う。

 

それで、ようやく気付いた。

 

女の子の胸を覆う布が小さいから、かがむと目のやり場に困ってしまう光景が現出するのだ。

 

おじさま達は、それを狙ってコインを投げたのか。

 

もう。ひどい。ロロナはそう頬を膨らませたけれど。考えて見れば、この女の子も、薄い服を着ることで、そういうお客様も集める戦略をとっているのか。ならば、こんなに恥ずかしがっている方が、プロとしては駄目、と言うことになるのだろうか。

 

お金を拾い集め終えると、女の子に渡す。

 

ロロナより少し年上に見える子だ。背もかなり高い。何より、発育がとても良い体は、羨ましい事この上ない。

 

「あ、ありが、と、う」

 

「うん。 早くなれるといいね。 わたしも、錬金術師としては、駆け出しなの」

 

女の子はぶきっちょに、お財布にお金を流し込んでいた。

 

そして、ロロナとは、一度も目を合わせなかった。声が震えていたのが、ロロナには分かった。本当に、人と接するのが苦手なのだろう。

 

女の子が、危なっかしい足取りで、帰って行く。

 

ぬいぐるみは空中に浮いたまま、その後を追っていった。やっぱり、強い魔力が、女の子とぬいぐるみ達を包んでいる。固有の能力なのか、或いは。ただ、とてもぬいぐるみを大事にしているのは、見ていて伝わった。

 

ティファナは、ずっとにこにこしていた。買い物の帰りに、偶然此処を通りかかったのだという。

 

一緒に歩いて帰る。

 

「ロロナちゃん、どうしてこんな所に?」

 

「はい、あの子が何だか気になって」

 

「そう。 私も、あの子の不慣れな様子を見て、不安になっていたの。 調べて見たけれど、体を売っている様子は無いし、それにしてはちぐはぐな格好ね。 本当に、旅芸人としては日が浅いのかも知れないわ」

 

やはり、ティファナもそう見たのか。

 

何だか、気晴らしのつもりで出てきたのに、却って不安なことが増えてしまった。見えている困った人なら、助けたい。それがロロナの本音だ。

 

ただ、気分はこれで変わった。

 

アトリエに戻ってから、レシピを整理する。だいたい必要な素材については、目処が立った。

 

後は実験を繰り返して、三つあるマジックアイテムを再現していく。

 

上手く行けば、少し日にちが余るかも知れない。

 

 

 

翌日からは、素材の収集を早速始める。

 

近場で買えるものもあるから、それらは買って済ませてしまう。わざわざ外にまで採集に行くと、それだけ時間をロスするからだ。

 

荷車を引いて、街を廻る。

 

あまり時間はないので、幾つかの店を重点的に見て、最後に工場へ向かった。

 

アーランドを支えている工場の幾らかは、自動化されている。中で働いている人達は、主に管理が仕事だ。

 

ロロナが出向くと、受付で待たされる。整理券を配られて、しばらく待っていると、程なく窓口に呼ばれ、強面のおじさんが出てきた。

 

こういったおじさんの幾らかは、盗賊としてアーランドに侵入して、捕まって働かされていると、何処かで聞いたことがある。

 

何となく、ロロナも分かるのだ。

 

この強面のおじさんは、あんまり怖くない。同じ強面でもステルクとは、随分初見の印象が違う。

 

単純な戦闘力の問題だろう。

 

「すみません、素材を買いに来ました」

 

「待ってろ」

 

不機嫌そうにおじさんが引っ込んで、しばらくしてから、籠に素材をたくさん入れて戻ってきた。

 

中身を確認。

 

品質はかなり落ちるようだけれど、特に問題は無い。数を確認して、終わった所で、お金を払う。

 

荷車に詰め込むと、素材の調達は終わった。

 

後は、町中では買えないものだ。たまにアトリエに来る行商の人が持ってくる素材もあるけれど、やはり素材を直接取りに行くのが望ましい。近くの森で採集できる素材も、少しいる。

 

それは今日中に済ませておきたかった。

 

気合いを入れて実験を行う態勢を作るには、失敗する分も想定して、素材を集めておかなければならない。

 

二回の課題を超えて、ロロナはそれを思い知らされていた。

 

今後は更に課題が難しくなることは確実だろうし、余計に慎重に動かなければならないだろう。

 

帰り道。

 

ふと、聞き覚えのある声がした。

 

工場の通りは、少し貧しい人達が暮らしている。スラム化している地区もあるけれど、基本アーランド戦士の巡回もあるので、危険は少ない。荷車を引いたまま通りかかると、案の定だった。

 

リオネラが膝を抱えて、物陰にいる。

 

二匹のぬいぐるみは、ふわふわとその周りを浮かびながら。驚くべき事に、話しかけていた。

 

「まーたおひねりをもらい損ねやがって」

 

「このままじゃあ、その内宿を追い出されちゃうわよ。 しっかりして、リオネラ」

 

「分かってるよ。 でも、怖くて……」

 

ぬいぐるみ達は、リオネラを口々に諫めているようだ。

 

ロロナはのぞき見する気も無かったので、呼びかける。手を振って笑顔で近づくと、見る間に真っ青になったリオネラは逃げ腰になった。

 

「ひっ! あ、あの、な……」

 

「この間の旅芸人さんでしょ? 良かった、また会いたいって思ってたんだよ」

 

「……っ」

 

自分よりだいぶ背も低いロロナを、露骨に怖れている様子が見て取れる。ロロナの何処が怖いのだろうか。

 

ちょっとショックかも知れない。

 

「リオネラ、この子は貴方を傷つけたりしないわよ」

 

「爪とか牙とかもとがってないだろ。 噛みつかないし、ひっかかないから、平気だって」

 

「で、でも……」

 

真っ青になって震え上がっているリオネラ。ちょっと困った。それより、噛みつくとかひっかくとか、どういうことだろう。

 

ロロナは猫か何かかとして、認識されているのか。意味が分からなくて、笑顔が引きつるのを、ロロナは感じた。クーデリアがいたら、どんな反応をするのだろう。師匠がいたら、すごく嬉しそうに笑みを浮かべて、固まっているロロナをスケッチするのは間違いない。

 

思考をとりあえず、戻す。

 

たとえば子供の場合は、腰を落として、視線を同じ高さにするという手があるのだけれど。リオネラは、ロロナよりだいぶ背が高いのに怖がっている。

 

ぬいぐるみは、雄猫と雌猫。かなりぶっきらぼうな口調の雄猫と、しとやかなしゃべり方をする雌猫だ。

 

ロロナが挨拶をすると、ぬいぐるみ達は応えてくれる。

 

「あ、あの、いいかな。 わたしはロロライナ=フリクセル。 ロロナって呼んでください」

 

「オレはホロホロ。 こっちはアラーニャだ。 で、この小動物がリオネラな」

 

「よろしくね、ロロナさん」

 

「こちらこそよろしくね。 リオネラ、さんは、彼方此方の街を廻りながら、旅をしているの?」

 

しばらく視線を泳がせていたリオネラは、やがて何度か、小さく頷いた。どうしても、ロロナの事は見てくれない。まるで、恐ろしい魔獣か何かを前にしているかのようだ。

 

此処が隅っこで、逃げられないから、かも知れない。たまたま隅っこにいるところで声を掛けたから、良かったのだろうか。そうで無ければ、そのまま走って逃走されていたかも知れなかった。

 

「立ち話も何だし、お茶でもおごるから、アトリエに来てくれないかな。 リオネラさんの事も、色々知りたいし」

 

「お、それいいな」

 

「リオネラ、ほら、立って。 この子は大丈夫よ」

 

ロロナは、どうも妙な違和感を覚えていたけれど。何も言わず、ぬいぐるみに背中を押されるようにして、荷車についてくるリオネラを誘導する。

 

道中でリオネラは。

 

結局、一言も喋らなかった。

 

まるでこの世の終わりを見てしまったような顔を、ずっとしていた。

 

 

 

アトリエに戻ると、さっそくお茶を出した。

 

昔だったら美味しいパイも出せただろうけれど。今は、普通のパイしか出せない。どうしても、味が再現できないのだ。

 

ぬいぐるみ二体はふわふわと浮かんで、辺りを飛び回りながら、興味津々の声を上げている。

 

「へー、変わった道具があるもんだなあ!」

 

「錬金術師なの。 まだ半人前だけど」

 

ロロナは、見えている。

 

ぬいぐるみ達の魔力が、常にリオネラとつながっている事を。どうもおかしいのだけれど、その正体が分からない。

 

自分の頭があまり良くないことを、ロロナは良く理解している。

 

物事を論理的に解釈することも苦手だし、筋道立てて考える事なんて、もっと出来ない。借りてきた猫みたいにソファで静かにしているリオネラに、お茶を出す。ミートパイにしようかと思ったけれど、お茶請けはフルーツパイにした。

 

温かいお茶を飲んで、やっとリオネラは人心地ついたようだった。

 

テーブルに向かい合って座る。リオネラは、やはり、ずっと視線を泳がせ続けていた。

 

「わ、わたし、ど、どうする、つもり?」

 

「?」

 

「あー、こいつな。 臆病だから、何かされると思ってるんだよ」

 

「そんな、ただお友達になりたいなって思っただけだよ」

 

リオネラはロロナを見てくれない。

 

ちょっと思ったのだけれど。最初にステルクと接したとき、ロロナはこんな感じだったのではあるまいか。

 

「恐がりなんだね。 わたしも恐がりだから、リオネラさんと同じだね」

 

「お前が恐がりだったら、此奴なんかは……なんだろ」

 

「ホロホロ、やめなさい。 ロロナちゃん、本当にうちのリオネラと、友達になってくれるの?」

 

「うん!」

 

手をさしのべる。

 

どうしてだろう。この光景、何処かで見た事がある気がする。その時、とても嬉しかったような。

 

まだおびえが、リオネラの目には残っていたけれど。

 

ロロナの伸ばした手を、戸惑いながら、とってくれた。








原作でも恐らくもっとも向いていないだろう仕事をしているリオネラさん。

本作ではもの凄い闇を抱えていたりします。原作でもそうなんですが、本作では更に凄まじいものを。

逆に言うと、だからこそプロジェクトに引きずり込まれたわけですが。

だからこそ。

精一杯あがくわけですね。





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