暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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まだ未熟なロロナさん。当然ミスはします。致命的な奴も。

包囲に晒され自分以上に未熟なリオネラさんも危険にさらし。

だからからこそ、必ず生きて帰るべく、リカバリーに決死になります。





渦を巻く路
序、包囲


ロロナは急いで革袋の水を飲み干した。既に周囲が完全に囲まれて、しばらく時間が経っている。

 

最悪なことに、側にいるのは、怯えきっているリオネラだけ。

 

クーデリアはいない。

 

リオネラの自動防御は強力だが、この数をしのげるとはとても思えない。今、外に出るのは、自殺行為だった。

 

真っ青になっているリオネラは、言葉もないようで、肩を掴んで震えている。

 

今、ロロナは。

 

アーランド近辺の森の最深部にいる。

 

周囲を囲んでいるのは、無数のドナーン。更に、どういうわけか、かなりの数のヴァルチャーも旋回していた。

 

獲物にありつけると、判断したからかも知れない。

 

どちらにしても、アードラの上位種であるヴァルチャーは、簡単な相手ではない。もしも見つかってしまったら、最後だ。

 

今回は、油断したとしか言えない。

 

巡回の戦士達も、こんな森の奥までは、中々来ない。ただ、クーデリアが簡単に倒されたとは思えない。増援さえ呼んできてくれれば、どうにかなるはずだ。

 

呼吸を必死に整える。

 

さっき、この小さな洞窟に逃げ込む際に、魔力を相当消耗した。

 

今はとにかく、脱出のために、力を回復しておかなければならない。それに、リオネラが足手まといになったままでは、逃げられるものも逃げられないだろう。

 

泣きたいのは、ロロナも同じ。

 

アトリエに戻った後、いくらでも泣けば良い。

 

アーランド人にとって、危機はごく普通のものだ。絶体絶命の危機を乗り切って、はじめて一人前になるという話さえある。

 

一応、発破の類も、荷車に積んでは来たけれど。

 

相手があの数では、どうしようもない。それにはっきり見たわけでは無いのだが、ドナーンの中に、上位種が混ざっているように見えた。

 

ドナーンは数が多いだけあって、様々な亜種がいる。

 

この近辺だと、緑色の頑強な鱗を纏い、ブレス能力を有するイグアノスや。全身が真っ赤で、炎に対する著しく強力な耐性を持つサラマンダーなどが有名だ。国有鉱山にも、上位種が住み着いているという噂があるけれど。幸い、今までは、遭遇したことがない。

 

更にこれらが長生きすると、場合によっては下級のドラゴンに匹敵するほどの戦闘力を得ることさえある。

 

ステルクがいれば、上位種がいても不安は無いのだろうけど。

 

やはり、心の何処かに、甘えがあったのかも知れない。

 

「リオネラ、落ち着いて。 今はロロナさんと一緒に、脱出する事を考えましょう」

 

「そうだぜ。 泣いてたって、モンスターどものランチになるだけだ。 泣くのは、あとでだって良いだろ?」

 

ぬいぐるみ達が、口々にリオネラを慰めている。

 

ロロナは、口を挟む必要もなかった。ただ、リオネラはずっとくすんくすんと泣いていて、気の毒極まりなかった。

 

とにかく、落ち着いてもらうしかない。

 

どうやって。

 

リオネラが、人を怖がっていることは、ロロナには何となく分かる。抱きしめたりしたら、逆効果になりかねない。

 

それにリオネラは。

 

こんな状況でも、家族の名を口にしたりはしなかった。勿論、恋人らしい人の名前も、口から出ない。

 

青ざめて、震えているのに。誰も助けを求める人がいないのだ。

 

リオネラは恐ろしいほど孤独なのだと、改めてロロナは思い知らされていた。

 

それと、もう一つある。

 

ロロナでも分かるくらい、リオネラの顔に書いてあるのだ。こんな筈ではなかったと。多分、何かの失敗をした結果だ。

 

考えて見れば、おかしかったのだ。

 

そもそもこの辺りは、これほどモンスターが群れる場所ではない。ロロナが確認しただけでも、五十はドナーンがいた。もう少し北に行けば、ドナーンの群生地もあるけれど、数は厳重に管理されている。

 

野良のドナーンが、まとめて何かしらの理由で、集ってきたという感触である。

 

耐えれば、或いは。

 

この異常事態に気付いた戦士達が、駆けつけてくるかも知れない。ベテランが五人もいれば、この程度のドナーンは蹴散らせる。

 

気付かれると厳しい。

 

包囲を敷かれて、波状攻撃でも掛けられたら。リオネラの自動防御が切れた瞬間、大量のドナーンがなだれ込んでくる。そうなったら、二人とも、瞬く間にミンチにされてしまうだろう。

 

リオネラの側にかがむと、洞窟の入り口を見たまま、ロロナはゆっくり話しかけていく。

 

「りおちゃん、状況を整理しよう」

 

「うっ……ぐすっ……」

 

「いい、まずわたしたちは、洞窟に追い込まれて、敵がそれを探してる。 敵の数は、ドナーンがざっと見積もって五十、ヴァルチャーが五ないし六、それに上位種らしいドナーンがいるかも知れない」

 

指折りで数えていくと、絶望的な戦力差だ。

 

ベテランだったら笑ってしのげるかも知れないけれど。火力はあっても防御が紙のロロナと、防御は出来ても戦闘慣れしていないリオネラでは、致命的。

 

クーデリアははぐれてしまったけれど、きっと来てくれる。

 

だが、クーデリアがいても、包囲を突破できるかどうか。

 

「こういうときは、支援を待つのが鉄則なの。 りおちゃんは、力を温存して。 自動防御は、命綱になるから」

 

「……」

 

泣きはらした目で、リオネラが見上げてくる。

 

今言ったことは本当だ。ただし、援軍の宛てがない籠城は、ただの自殺行為でもある。どうにかして、助けを求めなければならない。その方法が思いつかない。

 

ロロナはどうやったら助けを呼べるだろうと、必死に考えるけれど。今、敵の群れに見つかっていないことが、不思議な位なのだ。

 

喋ることさえ、危ない。

 

だから、言葉を選びながら、出来るだけ声のトーンを落とす。

 

「巡回の戦士達が、いずれ異常に気付くはず。 近場のベテランを集めて駆けつけてくれるか、或いはくーちゃんがベテランを呼んできてくれれば、形勢逆転。 きっと、もうすぐそうなるから」

 

「……ううっ」

 

「だから、泣かないで」

 

ロロナは、向き直ると、ハンカチでリオネラの涙を拭く。

 

ぐしゃぐしゃに泣きはらしていると、どんなに可愛い顔でも、歪む。リオネラだって、それは同じだ。

 

リオネラはロロナから見て、大人っぽい体つきと、とても綺麗に整った顔立ちを持っていて、羨ましい。

 

だけれど、戦士であるならば。

 

いつまでも泣いていないで、戦う覚悟を決めて欲しいとも思う。

 

アーランドの戦士達なら、そうリオネラを叱責するだろう。ただ、ロロナは、あまりアーランド戦士の中では強い方では無い。心も、体も。

 

だから、リオネラの悲しみが分かるのだ。

 

それに、何より。リオネラの孤独も、此処にいると分かってくる。だから、無理強いは出来なかった。

 

どうすればいいのか、最初から考えて行く。

 

確かに待ちの一手なのだけれど、それだけでは、助けが来るまでの時間が、大幅に伸びるだろう。

 

しかし、発破の類を使うのは自殺行為だ。

 

もしも発見された場合、一刻も持たないだろう。自動防御で入り口を防いで、ロロナが火力を総動員しても、敵を蹴散らし尽くせる筈がない。なだれ込んでくる敵に蹂躙されて終わりだ。

 

どうすればいい。

 

時間が過ぎていく。洞窟からこっそり覗き込むと、やはり相当数のドナーンが、周囲を探して廻っている。

 

動きが組織的で、ボスがいるのは確実だ。

 

これだけの群れを統率しているのだ。並のドナーンではないだろう。

 

いっそ、抵抗を諦めて、防御系の術式を洞窟の入り口に徹底的に張るか。いや、ロロナの技術では、難しい。

 

一応防御の術も使えるが、どう考えてもドナーンの突進を食い止めるほどの力を出せないのだ。

 

何重にも展開したところで、結果は同じ。

 

いずれ喰い破られて、なだれ込まれる。その時には、もうどうにもならない。

 

呼吸を整える。

 

頭は冴えているけれど。ロロナの知識と経験では、どうしても上手い手を思いつかない。震えているリオネラが可哀想だ。

 

力が欲しい。

 

ドナーン達が、一斉に顔を上げた。

 

何か来る。

 

姿を見せたのは、黒いドナーンだ。あんな体色の奴は、見たことが無い。その上、とんでもなく大きい。威圧感も凄まじい。

 

以前戦った大型ドナーンよりも、更に二回りは大きいのではないのか。

 

ロロナの背丈の四倍以上はある。

 

ちろちろと舌を出しながら、巨大ドナーンは、辺りを見回していた。あれに見つかりでもしたら、終わりだ。

 

幸い、少しすると、先に行ってしまったけれど。

 

そう長くは、見つからずに済ませられるとは思えない。

 

洞窟の奥に引っ込むと、ロロナは荷車を探る。何か、打開できるものが入っていないか。いや、無理だ。

 

持ってきた道具は戦闘用のものばかり。それは、味方の戦力が機能していて、はじめて意味が出てくる。

 

目を閉じて、精神を集中。

 

少しは魔力を回復しておきたい。リオネラは、いつの間にか泣き止んでいた。抗議するように、ロロナを見る。

 

こんな所に連れてきたロロナが悪いというのだろうか。

 

でも、危険があることは、リオネラも分かっていたはず。近くの森とは言え、油断しないで欲しいと、出るときにも言ったのだ。

 

まさか、これほどの数のモンスターに襲われるとは、ロロナも思ってはいなかったけれど。

 

むしろ、ロロナが気に病んでいるのは。

 

こんな時、何も出来ない、自分の無力さだ。少しはましになったと思ったのに、全く見当違いだった。

 

悔しくて、それ以上に悲しい。

 

自分が死ぬことはどうでもよいのだけれど。リオネラを、命を賭けてでも助ける手を見つけられないことが。

 

不意に、何か思い出す。

 

昔、このようなことがなかったか。

 

暗がりで、二人で膝を抱えて、何も出来ずに。そのまま。

 

頭を振る。

 

分からない。思い出してはいけないことのような気がする。今は、少しでも気丈でいなければならない。不安定な精神のリオネラを放ったまま、自分が落ち込んでいてはいけないからだ。

 

持ってきた携帯食料を取り出す。

 

硬く焼き固めたパイだ。遭難した時用に作ってきた。こんな時に使う道具では、確かにある。

 

「はい、りおちゃんの分」

 

「……いらない」

 

「いらなくても食べて。 次は、いつ食べられるか、分からないから」

 

リオはそれでも受け取ろうとしなかったけれど。

 

ぬいぐるみ達に言われて、渋々手に取った。どうにか泣き止んではくれたけれど、戦える状態ではない。

 

不意に、事態が動いたのは、その時だった。

 

大型ドナーンが、空に吼える。

 

そうすると、彼が率いているドナーンの大軍勢が、さっと身を翻し、移動しはじめたのだ。

 

思わずリオネラの口を押さえた。

 

罠の可能性が高いと思ったからだ。ドナーンの群れは、尻尾を立てると、走り始める。確かアレは、ドナーンが全力で走るときの態勢だ。移動しはじめたのは、ドナーンだけではない。ヴァルチャーも、見る間にいなくなっていく。

 

外の気配がなくなる。

 

しばらく、身を潜める。ようやく動く気になったのは、クーデリアの声が聞こえてからだ。

 

「ロロナー! リオネラー!」

 

「くーちゃんだ!」

 

思わず安堵の声が漏れてしまう。まさか、他人の声真似をするような器用さを持つモンスターではないだろうし、待ち伏せしてクーデリアを襲っても、彼女なら対応できるはずだ。

 

おそるおそる洞窟から顔を出す。

 

クーデリアと、何名かの戦士がいる。いずれもベテランばかり。不意を突かれても、充分に対応できるだろう。

 

向こうも、ロロナを見つけてくれた。

 

駆け寄ってくる。クーデリアは一瞬だけ、本当に良かったと安堵を表情に浮かべたけれど。人前で、やはり素の表情を見せるつもりはないらしくて、すぐに真顔に戻った。

 

「ロロナ! 無事で良かった! リオネラは!?」

 

「奥にいるよ。 やっと落ち着いたところ」

 

「そう。 無理に突破を図らないでくれて、良かったわ」

 

今、アーランドの街から、討伐部隊が出たところだという。

 

ステルクもその中に加わっているだとかで、ドナーンの群れを半分以下にまで削り、生息地に追い込むつもりだそうだ。勿論あのリーダーの大型ドナーンは、処分してしまうそうである。

 

死者は出ていないが、大軍に襲われて命からがら逃げ出した新人の戦士達が、何名か怪我をしている。

 

いずれも、既にアーランドに収容されて、治療を受け始めているそうだ。

 

リオネラに毛布を掛けて、女性の戦士が連れ出す。

 

彼女の視線は冷たい。

 

戦士として情けないと、顔に書いてある。だけれど、ロロナは、其処までは考えられなかった。

 

リオネラはアーランド人ではないし、戦闘経験だってそれほど多くない。

 

それよりも、だ。

 

「くーちゃん。 わたし……何も出来なかった」

 

「あたしだって同じよ。 あんたとはぐれたとき、どれだけ心配したか」

 

「どうしてわたし、無力なんだろう。 少しはましになったって、思ってたのに。 わたしがステルクさんくらい強かったら、りおちゃんをあんなに悲しませたり、くーちゃんを苦しめたりしなかったのに」

 

少しずつ、感情がわき上がってくる。

 

情けない自分が、本当に憎らしかった。それ以上に、悲しくて、悲しくて。

 

アーランドにどうやって戻ったか、よく覚えていない。ただ、気がつくと、ベッドで、枕に涙を吸わせていた。

 

二つの課題を突破して。

 

三つ目の課題も、三分の一はクリアできた。もう二つの内、魔女の秘薬も、既に生成法について、ある程度目処が立った。

 

少しは一人前になれたかと思っていたのに。

 

ロロナは、今更ながら。無力で、何ら出来ることがないただの子供だと思い知らされていた。

 

アトリエに出る。

 

ひんやりと冷たくて、誰もいない。師匠もおそらく、出かけているのだろう。

 

声を出して泣いて、少しは気分が晴れるのだろうか。

 

何度も涙を拭う。

 

一歩間違えば、リオネラを助けることも出来なかった。自分が死ぬ事なんて、何でもないのに。それでも他人を助けられないなんて、どういう無能だ。なんで、策の一つも、思いつかなかった。

 

怒るより先に、悲しい。

 

思考が堂々巡りして、どうしても先に進めなかった。







まだまだこの程度危機の内に入らない……といえるのは数限りない死線をくぐった歴戦の猛者だけ。

ロロナさんはまだその域にはいないのです……




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