暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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危ない目にあったら動揺します。

まだ経験が浅いロロナさんは失敗を引きずってしまいました。

さて此処からどう立ち直るか……

まだまだ経験が浅いロロナさんは、苦労を重ねることになります。





1、挫折の余波

どうしても、研究が手に着かなかった。

 

いつもだったらすぐに思いつくようなことが、出来ない。魔女の秘薬も、最後の調合の部分で手間取って、ケアレスミスを繰り返していた。

 

それでも、時間は容赦なく、遠慮も無く、経過していく。師匠が時々ロロナをからかっていくけれど。

 

今は、それに対して、怒る気力もなかった。

 

どうして自分はこんなに弱いのだろう。課題を二つ突破して、少しは強くなれたと思ったのに。

 

ドアがノックされる。

 

入ってきたのは、クーデリアだった。

 

ひんやりした牛乳を出されたので、二人で飲む。クーデリアは、ロロナが何を苦しんでいるのか、良く理解しているようだった。

 

「まだ、悩んでるのね」

 

「うん。 どうしたら、強くなれるんだろう」

 

「戦闘で言うなら、経験を積むしかないでしょうね。 あたしも、今は実戦を繰り返して、少しでもマシになろうとしているところだし」

 

「そう、だね」

 

リオネラについて、クーデリアは話してくれる。

 

あれから宿にまで連れて行ったけれど、少し落ち着いたようで、数日前からまた人形劇を始めている様子だ。

 

謝った方が良いのだろうか。

 

そう言うと、クーデリアは首を横に振った。

 

「あんたは悪くないでしょう。 むしろ、護衛でついていったのに、何も出来なかったあの子が悪いわ」

 

「でも、わたし、何も出来なかった」

 

「あんたはあの子を落ち着かせて、なおかつ助けが来るまで待つって最善策を選択できたでしょう。 パニックにもならなかったし、無謀な突破もしなかった。 結果、二人とも、無傷で生還できたのよ。 結果オーライよ。 事実、あんたを責めてる人間は、誰もいないでしょう」

 

そう言われると、つらい。

 

確かに結果は良かったけれど。それは、あのドナーン達に見つからなかったから、得られたものだ。

 

クーデリアとはぐれた時、無理に南に突破をしていれば、籠城することもなかっただろうに。

 

それに、戦略上の問題は他にもある。

 

荷車に積んでいた道具類の手数が、明らかに足りていなかったのだ。単純な戦闘しか想定していなかった。もっと、いろいろな道具類を、持っていくべきだった。近場の採取と油断しないで。

 

唯一、持久戦用に備えていたのが、圧縮したパイだけというのが、自分でも情けなくなってくる。

 

クーデリアには、話せることが多い。

 

彼女は、ロロナの涙を、面倒くさそうにハンカチで拭いてくれる。優しく慰めてくれるわけではなかったけれど。

 

それでも、自分がどう情けないかを話すだけでも、随分と落ち着いた。

 

「失敗だと思うなら、次に備えなさい。 実戦に普通次はないけれど、次が今回はたまたまあったんだから。 同じ失敗をしなければいいのよ」

 

そう、クーデリアに言われると、嬉しかった。

 

それから、二人で調合について話す。

 

やはり悩んでいたからか、どうしても出来なかった魔女の秘薬の調合の最後の部分が、すんなりと思い当たった。

 

そのまま、調合に入る。

 

複数の中間生成物を混ぜ合わせた後、中和剤を足しながら、水分を飛ばしていく。その時の温度は、極めて低めに保つ。

 

なおかつ、釜での作業はしない。

 

フラスコに入れて、アルコールランプで温めるのだ。そして、蒸発した分は蒸留装置代わりに、上に載せたフラスコと、途中の硝子筒で受け止める。

 

蒸留装置と呼ばれる仕組みである。

 

その中で対流させて、液化した分をためておいて、更に蒸留。何度かやっていくうちに、水分だけを飛ばすことが出来る。

 

更に、最後の行程で、一気に冷やす。

 

中和剤を使って、複数の毒素を馴染ませていた所であるけれど。水が主成分である事には変わらないので、こうすることで一気に成分が均一化する。

 

あとは暗いところにしばらく置いておいて、安定させれば完成だ。

 

一連の工程をこなすのが、さっきまではどうしても困難だった。

 

大がかりな蒸留装置を洗って片付ける。既に夕方を廻っていた。泊まっていくかと聞いたけれど、クーデリアは首を横に振る。

 

今は休むことよりも、進むことを考えろと、言うのだ。

 

「それより、最後の一つに手こずってるんでしょう?」

 

「うん。 まだ理論もどうすればいいか、よく分からなくて」

 

「それなら、気が上向きになってきた今が好機よ。 今なら何か思いつくかも知れないから、調べて見なさいよ。 あたしもアドバイスなら出来るから」

 

頷くと、ロロナは今夜、無理をしない範囲で研究を進める、場合によっては徹夜する覚悟を決めた。

 

まだ、悩みは晴れていない。

 

だが、クーデリアはロロナの窮状を理解した上で、アドバイスをしてくれた。側にクーデリアもいるし、今なら、少しはましに動けるかも知れない。

 

 

 

翌日。

 

ロロナは、少しは気分も晴れて、外に出た。

 

結局昨日、クーデリアは泊まって行ってくれたけれど。それでも、獣の像について、これといった案は浮かばなかった。

 

幻覚を見せることは難しくないのだけれど。

 

どうしても、狙った存在の幻覚を見せることは、出来ないのだ。今の時点では、やり方も想像がつかない。

 

魔術の類を使うなら簡単だけれど。

 

錬金術の骨子は、手順さえ踏めば誰にでも出来る、と言うことにある。

 

気分転換代わりに、まず出来た癒やしのアロマを納品してしまう。三十セットほど出来たので、今後の事を考えて半分ほどを納品した。忙しそうにしていたステルクではなくて、エスティが代わりに受付をしてくれた。

 

エスティはいろいろな仕事をしていて忙しそうだけれど。ロロナが来ると、嫌な顔一つせずに、仕事をしてくれる。

 

でもこの人は、何だか笑顔が作っているようで、其処だけが少し苦手だ。後はへいきなのだけれど。

 

「へえ、これは面白そうねえ」

 

「工夫次第で、お花とか、果物とか、いろいろな香りを出せます。 今回のは、近くの森で採れた、グリーンアップルの香りです」

 

「ふうん、マニュアルは?」

 

「準備してあります」

 

以前の発破の時に苦労したので、今回はクーデリアと話しながら、マニュアルも先に作ったのだ。

 

何度かマニュアルに目を通していたエスティだが。やがて頷くと、納品を受け付けてくれた。

 

あと数日ほど寝かせておけば、魔女の秘薬も出来る。

 

荷車を引いてアトリエに戻りながら、ロロナはそのマニュアルについて、どうしようか考えはじめていた。

 

後、少しずつ技術はついてきたので、以前子供の工作みたいな見かけだと言われた仕掛け発破の外装も、どうにかしたい。

 

見栄えの善し悪しと性能はあまり関係がないけれど、使う人が見て不安にならないようにする工夫は必要だ。

 

「あ……」

 

声を聞いて顔を上げる。

 

ロロナはこれでも耳が良いから、誰の声かはすぐに分かった。

 

リオネラだ。

 

凄く所在なさげに、此方を見ている。視線をそらそうとしたので、待ってと声を掛ける。

 

一言謝りたい。友達になったのだ。これ以上、不幸なことには、したくなかった。どうせ、近いうちに、会いに行こうと思っていたのだ。

 

「りおちゃん、その」

 

「……」

 

「リオネラ、良い機会よ。 謝りに行こうって、言っていたでしょう?」

 

「洞窟の中でガクブルしてたのに、呆れないで最後まで一緒にいてくれたんだぜ。 ほら、勇気出せ」

 

ぬいぐるみ達が、リオネラの背中を押す。

 

何も、謝って欲しいとは思わない。むしろ、ロロナの方が、謝りたい気分で一杯だった。

 

二人並んで、歩く。リオネラは真っ青になっていて、一度もロロナの方を見ようとはしなかった。

 

根気強く待つ。

 

アトリエについてしまった。

 

上がって欲しいと言う。クーデリアは、朝に帰ったので、今はアトリエの中には誰もいない。

 

「今、幻覚を造り出す道具を造っているの」

 

「そんな事が、できるの……」

 

「ううん、幻覚そのものは造れるんだけれど、どうしても犬とか、鳥とか、そういった具体的なものを任意には造り出せなくて」

 

「ロロナちゃん、凄いね……」

 

リオネラは、死んだ魚みたいな目をしていた。

 

せっかくすごくかわいいのに、なんてもったいないんだろうと、ロロナは思う。鬱屈した雰囲気は、整った容姿を台無しにしてしまう。

 

「わたし、何も出来なかった。 本当だったら、最初に大勢に襲われたとき、荷車を捨ててでも、りおちゃんの手を引いて、逃げるべきだったのに。 その後も、籠城するだけで、具体的な対策を、何も考えられなかった」

 

ごめんなさいと、謝る。

 

そうすると、リオネラは、顔を上げた。

 

薄笑いが浮かんでいる。それは侮蔑ではなくて。もう、リオネラは、どうしていいか分からないようだった。

 

「私、どうすればいいの? ロロナちゃん、私なんかに謝ってくれたけれど、役立たずで無能で、明日の命も危ない私は、ロロナちゃんに何を返せば良いの?」

 

「そんなこと無いよ」

 

やっぱり、今までロロナと、一度もリオネラは視線を合わせてくれていない。

 

だけれど、ロロナにとって、リオネラは友達だと思う。

 

それに、弱いから、友達失格なんて、あり得ない事だ。ロロナだって弱い。他のアーランド人が強いという事もあるけれど。

 

「わたし、りおちゃんと友達でいたいよ」

 

「……」

 

「ここまで言ってくれる奴、そういないぞ」

 

ホロホロが、リオネラの背中を叩く。

 

リオネラはやっぱり、それでも何も言えないようだった。だけれど、ロロナは、彼女が少しでも歩み寄ってくれることを、待とうと思った。

 

お茶を出す。

 

パイも出す。少しずつ味が良くなってきている。小麦粉を工夫し、中和剤の素材を工夫して。焼く温度も、普通にパイを窯で作る時とは変えている。試行錯誤で少しずつ味が上がると、それを全てメモして、残しているのだ。

 

そうやって実績を積み上げて、錬金術で美味しいパイを作れるようにしていく。お客様に出せば、喜んで貰える。

 

最近は、トッピングのホイップも、錬金術で作れるようになってきた。料理については、パイ関係だけだけれど、一応基礎があるので、多少は楽だ。

 

甘いものが好きなのは、年頃の女の子なら、みんな同じだとロロナは思う。

 

やっと、少しリオネラも、雰囲気が柔らかくなってきた。

 

「また、此処に来ても、いいの?」

 

「うん。 そうしてくれると、嬉しい」

 

「ほら、リオネラ」

 

アラーニャが、リオネラに諭すように言う。

 

うつむいていたリオネラは。

 

ロロナに視線を合わせてはくれなかったけれど。小さな声で、なにもできずにごめんなさいと、言ってくれた。

 

そして、ずっと友達でいたいとも。

 

 

 

リオネラと仲直り出来た事は良かったけれど。

 

結局の所、ロロナが何も出来なかったことに変わりはなかった。どうにかして、少しは変わりたいと思うのだけれど。なかなか出来ない。

 

何かあの事件を、リオネラが知っていたことは、敢えて追求しない。恐らくは、やぶ蛇になるからだ。

 

それに、何か大きな裏がある事も、わかりはじめていた。

 

ひょっとすると。

 

いや、考えない方が良い。今は、錬金術師として、少しはいっぱしになる事が先。全ては、その後で良い。

 

魔女の秘薬の、中間生成物はまだ残っている。

 

この薬は、簡単に言うと、通常では混ざらなかったり、或いは打ち消し合ってしまう毒物を、一緒にしているものなのだ。

 

これを作った魔術師は、その固有能力で、強引に幾つかの要素を一緒にして、この奇跡の毒物を成立させていた。

 

基本的な部分で、この薬は、まず人間なり動物なりの、免疫能力を弱体化させる。

 

理論が難しくて細かい所はよく分からなかったのだけれど、要するに、本来あるべき守りの力をなくして、普段だったらあり得ない毒が体に入るようにするのだ。そうするためには、幾つかの毒物を、混ぜ合わせる必要がある。

 

自然では、それは起きえない。

 

起きえるようにしたのが、この薬の凄いところなのである。

 

そして、重宝された理由も。

 

生半可な毒なんか効かないアーランド人にも。この薬は、効くのだ。

 

文字通りの、魔女の秘薬である。

 

其処に、眠り薬なり、しびれ薬なりを混ぜ込むことによって、いろいろな用途の毒が出来る。

 

最初にできあがるのは、眠り薬。

 

次はしびれ薬も作るつもりだ。

 

後は、相手の体力を激しく奪い取る薬も作っておきたい。

 

即死させるような薬は、怖くて作れない。もし作るとしたら、それは本当に危険で、今のロロナが手を出す事はまだ出来ないだろう。

 

アトリエ地下のコンテナに降りる。秘薬を手にとって、確認。

 

どうやら、魔女の秘薬の第一弾は、できあがった様子だ。実験してみる。

 

成分を薄めて、自分で飲む。動物で実験するのも良いのだけれど、やはり作った責任もあるし、飲んでみるのが一番良い。

 

効果は絶大だった。

 

ベットの上に腰掛けて使ったから良かったものの。そうでなければ、その場で倒れていただろう。

 

気がつくと、アストリッドに見下ろされていた。

 

「ロロナ、もう昼だぞ。 飯作れ」

 

「……はい」

 

ぼやけていて、アストリッドがよく見えない。

 

起きようとして、何回か失敗した。無理矢理起きたのは、そのままだと悪戯されかねないからだ。

 

転びそうになる。

 

少しずつ、強烈な眠り薬を飲んだことを思い出す。これは原液を摂取したら、命が危なかったかも知れない。

 

少しずつ、体が元に戻っていくのは分かったけれど。

 

マニュアルには、危ないから、薄めて使うようにと書かなければならないと、ロロナは思った。

 

とりあえず、欠食児童と化した師匠を落ち着かせなければならない。自分で作れば良いような気もするのだけれど、言い出した師匠は絶対に聞かない。台所に立つと、包丁を持とうかと思ったけれど、止めた。今は、刃物を使わない方が良いだろう。

 

いつもの倍も掛けて、作っておいたパイを温めて、出す。

 

ミートパイだから、お昼ご飯にはなる筈だ。

 

まだ体がふらつくけれど。

 

師匠はその様子を見て、笑うことはなかった。ただ、テーブルに着くと、妙なことを言い出した。

 

「時にロロナ、お前は妹と弟、どちらが欲しい」

 

「急に、なんれすか……」

 

ろれつが良く回っていない。

 

パイを口に入れてみるけれど。大好物の筈なのに、あんまり味がしないような気がする。いや、下ごしらえはちゃんとした記憶がある。多分、舌まで、まだ寝ぼけているのだと見て良いだろう。

 

「お前、あのレシピの眠り薬を飲んだのか。 何倍に薄めた」

 

「十倍ですけれ、ろ……」

 

「ちょっと待っていろ」

 

何か、薬を出してくるアストリッド。

 

言われたまま、口にする。しばらくすると、ぐっと目が冴えてきた。多分、魔女の秘薬の成分を、中和するものだろう。

 

さすがは師匠と驚かされた。舌も、ろれつが回るようになってきた。

 

「少し成分を強く作りすぎたな。 それにしても実験で自分で飲むとは」

 

「その、責任を、きちんと取りたくて」

 

「次からは動物を使え。 狼くらい、近くの森で捕まえられるだろう。 それで、さっきの質問だが」

 

「ええと……そうですね」

 

あまり実感はわかないけれど。

 

ただ、両親はとても仲が良いし、いつ新しい家族が出来ても不思議では無い。二人とも、まだまだ充分に子供を作れる年なのだ。

 

もしも兄弟姉妹が出来るのなら。

 

「弟は元気そうで家の中が明るくなりそうですし、妹は一緒にお洋服を着て楽しめそうですね」

 

「ほう、それで」

 

「今は、妹かなあ」

 

アストリッドに、何故かと聞かれる。

 

そう言われても、何となくとしか言えない。まあ、アストリッドはそれ以上しつこくきいては来なかったので、まあよしとするべきなのだろう。

 

食事が終わる頃には、目もすっかり冴えていた。

 

マニュアルの整備をし直す必要がある。元々、マンドラゴラをすりつぶして毒素を抽出している、危険なものなのだ。

 

マニュアルの書き方についてアストリッドにアドバイスを受けようかと思ったけれど、断られる。くーちゃんにでも聞けと言われたので、そうしようと思った。ロロナがマニュアルを書くと、擬音だらけで、とても他の人には見せられないと言われてしまう。事実、メモは擬音だらけだ。ロロナにはそれでよく分かるのだけれど。

 

お薬の生成が一段落したし、次はいよいよ獣の像だ。マニュアルは、次にクーデリアと会った時に作れば良い。昨日癒やしのアロマを納品したばかりだから、まだ時間はある。ただし、そろそろ、獣の像をどうにかしないとまずい。

 

残りの日数は、半分をとっくに割っているのだ。

 

幻覚を見せる事だけなら、多分出来る。

 

幾つかの茸には、そういった成分があるし、抽出する手段も分かっている。皮肉なことに、この間ドナーンの大群に追いかけ回された時、採取できた材料の中に、必要な茸も混じっていた。

 

問題は、ただの幻覚では駄目だと言うこと。

 

この像を、くだんの魔術師は、自分のために用いていた。動物を飼えない彼女は、これを使って、犬や鳥、ドラゴンをペットにするリアルな幻覚を見たかったのだ。妄想では我慢できなかったのである。

 

この間までの、うち沈んでいた状態では、どうにもならなかったけれど。

 

今は、リオネラとも仲直りできたし、少しは頭も働く。

 

何か、ヒントは得られないものか。

 

そう思って、ロロナは外に出た。

 

挫折の余波は、まだ癒えていないけれど。

 

いつまでも、もたついてはいられなかった。









まだまだ未熟であっても、それでも立ち上がろうとする。

その意思が尊い。

まだ失敗が許される年であるからこそ。

失敗をしていくべきなのです。






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