暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
原作でもとんでもねえ陰謀に巻き込まれて最初から大泣きするロロナですが(本当)。本作ではこの陰謀に周囲の全員が関わっています。
というかそれくらいこの陰謀が巨大な国家プロジェクトで、失敗が許されないし。
なんならロロナがこれに選ばれたのにも、理由があるからです。
とても血なまぐさい理由が。
まだ感情が不安定なロロナを残して、クーデリアは隣室に移る。不快だが、仕方が無い。これは、八年も前から、準備されていたことなのだ。極論すれば、自分が生きていられるのも。
この計画の、ピースの一つだからに過ぎない。
昔、クーデリアはロロナと一緒に、大きな事故にあった。ロロナは全く覚えていないか、或いは疫病にでもかかったと思っているようだが、違う。クーデリアはしっかりと覚えている。
その時から、この悪夢は始まっていた。
自分が周囲に比べて著しく小さいことは、決して偶然ではない。ロロナの発育が悪いことだって、同じ事。
「余計な事はしていないだろうな」
冷え切った声が、上から来る。
普段、クーデリアとアストリッドは、喧嘩友達のように接している。しかしそれはあくまで偽装。
アストリッドは、ロロナに肉親に対する愛情を向けていると、クーデリアは思っている。ただし、他の人間に対しての視線が冷え切っていることも知っている。
計画に関して、アストリッドは極めて重要なポジションにいる。
クーデリアの父も計画には噛んでいるが、アストリッドは更に上の立場だ。クーデリアが余計な事をすれば、たちまちに計画からは外されてしまうだろう。
場合によっては、消される。
誰も庇う者などいない。父でさえ、保身のためクーデリアをゴミのように捨てることは疑いない。
クーデリアの兄妹は何人もいる。殆どは血も半分しかつながっていない。
この国では、武勲を著しく上げた戦士は、妻を三人まで娶ることが許される。女性も同じで、夫を三人まで得ることが出来る。父は、若い頃からえげつない戦い方で武勲を積み重ねてきた男だ。通称ベヘモット。貪欲な魔の獣を渾名とする若い頃の父と敵対することは、アーランドの凶猛な戦士達でさえ、怖れたという。
その父にとって、エリート教育をしているにも関わらず、まだ半人前以下のクーデリアなど、消耗品程度の価値しか無い。
クーデリアが死んでも、誰も悲しまない。むしろ喜ぶのが現実だ。この世に、クーデリアの居場所など、ない。ロロナの隣以外には。
「していないわよ。 あのまま心が折れたら困るでしょ」
「ならばよし。 これからも、ロロナの友人として、あの愛らしくも弱々しい心を支えてやってくれ」
「そんなこと……」
言われるまでも無い。
目も見ずに、言い返した。膝が震えているのが分かる。アストリッドとクーデリアの差は、あまりにも圧倒的だ。
父のエージェント達に訓練を付けてもらってはいるが、かろうじてロロナの身くらいは守れる程度の力しかないクーデリアと、国家軍事力級と言われているアストリッドの実力は違いすぎる。アストリッドは強者揃いのアーランドでも、ドラゴンやモンスターを含めたとしても五本の指に入るほどの使い手なのだ。
単純な戦闘能力だけの話ではない。社会に対する影響力も、英知も。何より、ロロナに対してしてやれる事も。違いすぎる。
何より。
クーデリアは、ずっと罪悪感を感じている。
ロロナは、何の疑いもなく、クーデリアの友情を信じてくれている。クーデリアだって、ロロナのことを、大事に思っている。
だが、それには。
今回の、国家的プロジェクトが、間に挟まってくる。
プロジェクトの進展次第では、瞬く間にこんな友情など、踏みつぶされてしまう程度のものでしかない。
父の元で、冷酷極まりない人間社会の論理を見せつけられているクーデリアは。己の無力さと、何より罪悪感で、いつも苦しめられていた。
「それならばよし。 いつも通りに、己の背丈を気にする可愛らしいくーちゃんのまま、アトリエから出て行って貰えるかな?」
「くーちゃんって、言うな……」
それは、きっとはじめて貰ったあだ名。
今でもそうロロナに呼ばれるのは恥ずかしいけれど。嬉しい。子供っぽい安直なあだ名だけれど。それでも嬉しいのだ。
だが、他の奴。たとえば、この冷厳な錬金術師に言われるのは、屈辱を通り越して恥辱だった。
部屋を出ると、ロロナがすがるようにこっちを見た。
クーデリアの、この世で唯一大事な人間。友達だと思ってくれている人。まるで小動物のように弱々しいけれど。
クーデリアにとっては光だ。
膝元で腰をかがめると、ロロナの目を見ながら、ゆっくり言い聞かせた。
「あんたが真面目にずっと勉強してきたこと、あたしは知ってる。 あいつは役に立たないと思うけど、あたしが出来る事はいくらでも手伝うから。 だから、諦めないで」
「うん……」
「ハンカチ、洗濯したら返してよ。 それ、お気に入りなんだからね。 あんただから貸すのよ」
アストリッドの視線が、早く出て行くようにと告げている。
クーデリアは出来るだけ音を立てずに、アトリエを出た。とうとう、この日が来てしまった。
友達ごっこは、もう終わり。
これからは、どんな手を使ってでも、ロロナを生き残らせなければならない。もしもプロジェクトが失敗でもしたら。
ロロナは、きっと。
自分が死ぬことは、あまり怖くないけれど。
ロロナが死ぬ事だけは、絶対に嫌だった。
クーデリアが元気づけてくれたので、ロロナは随分と心が落ち着いた。やっぱり友達は良いなと思う。
一つずつ、師匠に話す。
説明が終わると、やはりアストリッドは、予想通りの言葉を口にした。
「そうか。 がんばれよ」
「わたしが、やるんですね?」
「勿論だとも。 そろそろお前にも、錬金術師としての経験を積ませておこうと思っていた所だ。 良い機会じゃないか」
絶対に嘘だ。
にこにこしているアストリッドの様子から、ロロナはそう思う。
絶対におもしろがっている。
ロロナが苦しんだり悲しんだりする所を、アストリッドはいつも嬉しそうに見つめているからだ。
酷いと思うけれど。
アストリッドは、言い出したら聞かない。絶対に作業などするはずがない。
「そうだな。 課題がどうなるかは分からないが、まず近辺で錬金術の素材が取れそうな場所については、教えておいてやろうかな」
地図を持ってくるアストリッド。
人口八万のアーランドの周辺には、緑化政策で、幾つかの森が出来ている。歴代の錬金術師達が育て上げてきた、大事なものだ。
工場で食糧を生産するにしても、材料がいる。
周辺にある小さな村などでも家畜を生産しているが、それだけでは足りない。この森の中は敢えてモンスターが放し飼いにされていて、強靱な生命力が保たれるように調整されている。
勿論、戦士の卵である子供達も、最初はここで鍛えることになる。
たまに子供では手に負えないモンスターも出てくるそうなので、そういうときに備えて、常に腕利きが巡回しているそうだ。
「此処なら、ある程度は安全だろう。 くーちゃんでも連れて、行ってくるといい」
「他には、何かありませんか?」
「他の採取場所というと、オルトガ遺跡くらいか」
背筋に寒気が走った。
その名はよく覚えている。というよりも、アーランド人に知らない者はいないだろう。錬金術の伝説とも関係が深い。
この遺跡こそ、かっての機械文明の遺産を生産している場所だ。つまり、アーランド発展の礎とも言える。
遺跡自体は、アーランドからも見える。城壁に上がると、更にくっきりと、その姿形が分かるほどだ。
今では、掘り尽くされてしまっていて、新しい機械は見つからない。
しかし、遺跡の周りには、かって作られた足場がまだ残っている。この足場の辺りには、森から上がって来たモンスターが住み着いているので、危ない。
あの時も。
本当に、怖かった。
「こっちは鉱物素材の宝庫だな。 ただし、絶対に地下には行くなよ」
「地下?」
「オルトガ遺跡の地下には、腕利きしか侵入が許されていない空間があってな。 いわゆるダンジョンという奴だ」
これまた、ぞっとする話だ。
此処アーランドで、腕利きしか入れないという事は、それこそ人外の魔境である事を意味している。
どんなモンスターがいる事か、想像も出来ない。
ロロナやクーデリアなんて、それこそ入ったら、瞬く間に骨にされてしまうだろう。絶対に行きたくない。
「まあ、地上部分だったら、お前達でも大丈夫だろう。 足場は頑丈に作られているが、足を踏み外さないようにだけはしろ」
「師匠は、他には何もしてくれないんですか?」
「するか。 面倒くさい」
これだ。
だから、聞くのはいやだったのだ。
ロロナが消沈しているのを満足そうに見やると、アストリッドは、参考書を何冊か見繕ってくれた。
今までロロナが読んでいたものよりも、更に難しいものばかりだ。
だが、今までのものは、言葉の本で言うと単語だけが書かれているようなもの。錬金術の基礎の基礎。
此処からは、応用にも手を付けていかないと、話にならない。
一年分の勉強が、全部前倒しになる。
頭がぐるぐるして来た。本当に、何から手を付けて良いのか分からない。いきなり難しい課題がきたら、全てが終わってしまう。
こんな時でさえ、師匠は家事などしてくれるはずがない。もうろうとした頭で、師匠の分の夕食も造りながら。ロロナは、更にとどめを刺すような言葉を聞かされた。
「ああ、そうそう。 お前はパイが好物だったな」
「はい、大好きです」
「ならば禁止だ」
「へ……」
アストリッドは、固まったロロナに、とてもまぶしい笑顔を浮かべたまま、非情の宣告をするのだった。
まるで悪魔だと、ロロナは思う。
「パイを作りたければ、錬金術で作れ」
「錬金術で、パイ……!?」
「さほど難しい事じゃあない。 料理は錬金術と通じる要素がある。 それに、だ。 そのパンだのパイだの焼くのに使っている炉も、そろそろ本来の使い方をしなければならないからな」
ショックだ。
パイは唯一、ロロナが他人に自慢できるものだ。料理としても、売り物になると、幼なじみの料理人見習いに言われている。
ただ一つの趣味といってもいい。それなのに。こんな扱いを受けるのは、いくら何でも不当すぎる。
「泣くな。 錬金術を使えば出来る事だ。 丁度いい勉強になるじゃないか」
「し、ししょー!」
「禁止だ」
そう言われると、もう何も出来ない。
夕飯をたいへん美味しそうに食べるアストリッド。勿論、後片付けなど、全部ロロナ任せだ。
その日、ロロナは眠れなかった。
確か、あの怖い騎士の人は、明日来るとか言っていた。その時、課題の話をしてくれるという。
あのおっかない人と直接会う事でさえ、怖くて仕方が無いのに。
クーデリアは、諦めないようにと、言ってくれた。
その言葉を信じたい。
だが、どうしても怖くて怖くて。ロロナは、ぎゅっとお布団の中で、身を縮めるしかなかった。
翌日。
予告通りに、朝。あのおっかない顔の騎士が来た。
ロロナは昨日と同じように、アストリッドに正装をさせられて、待っていた。いつもより、ずっと時間が長く感じて。いい加減ぐったりしはじめていた頃に、ステルクというあの騎士が来る。
「どうした、眠れていないのか」
「はい。 どうも緊張して……」
騎士は相変わらず、にこりともしない。ずっと鋭い目でこっちを見ている上に、とても怖い顔なので、ロロナはもう生きた心地がしなかった。
ただ、今どうも優しい言葉を掛けてくれたような気はする。
気のせいかも知れない。いや、そうではないだろう。この人は、昨日も、気遣いを見せてくれていたのだ。
「それでは課題だ。 錬金術に関しては、我々も専門家ではないからな。 まずは現在の力量を見せてもらおうと言うことで、簡単なものを用意した」
そうして指定されたのは。
紙の作成だった。この地方では、ゼッテルと言われている。
言うまでも無く、紙は貴重な存在である。
とくに、錬金術で作った紙は、大量生産したものとは違って、魔術を込める事も出来るし、様々な福次効果を期待出来る。スクロールの材料にも用いられるはずで、特にたまに師匠が作っているゼッテルは、高く売れている様子だった。ロロナが知っている、数少ないアストリッドの収入源である。
幸い、ロロナも作り方は知っていた。
もう一つは、炭の作成である。
炭など、単に木を燃やせば出来ると思う者もいるかもしれないが、違う。
此処で言っている炭というのは、工業用に用いる燃焼材としての炭だ。普通に木を火に入れただけでは出来ない。
此方は炉を使えば作る事が出来る筈。ただし、師匠が言うように、そうやって炭を作り始めると、まずパイどころではなくなるだろう。
此方に関しては、勉強しなければならない。
存在は知っているが、作り方はよく分からないからだ。
そして、最後の一つ。
研磨剤。
これを錬金術で作る事が出来るとは思わなかった。確か、ものを研ぐときに使う粉だ。ロロナも生活している過程で使っているが、いつも工場で作られて、街で売っているものを利用している。
此方に関しては、錬金術で作れるとはじめて知ったほどだ。これからしっかり勉強しなければならないだろう。
まだ、錬金術は、何も知らない。
それを、課題を見た瞬間に、思い知らされてしまう。まだ初歩の初歩。足を踏み入れたばかりなのだと。
「これを、三ヶ月以内に、これだけ納品するように」
「え……」
提示された分量を見て、目を剥いた。
これはちょっとやそっとの量ではない。三ヶ月で実施するのは、あまりにも厳しい量だ。少なくとも、今日からは寝る暇も無くなると見て良い。
「こ、ここ、これを一人で!?」
「おかしなことを言う。 今までの歴代錬金術師達は、これくらいの量を毎月捌いていたそうだ。 三ヶ月であれば、簡単にこなせると私は判断したのだが」
そうか。
一人前の錬金術師であれば、それくらいはできていたのか。アストリッドを基準に考えていたから、どうにも納得が出来なかったが。
それならば、やるしかない。
言われるままに、書類を受け取る。
騎士は難しい顔のまま、アトリエを出て行った。アストリッドは今までどこにいたのか、騎士が帰ると姿を見せる。
「やれやれ、相変わらず愛想のない男だな」
「師匠、手伝ってくれないんですか?」
「こんな簡単な課題、自力でこなせ。 もし出来なかったら、押し入れの刑だ」
「ひ……!」
幼い頃の事だ。
ロロナが一番怖れていたのは、押し入れに閉じ込められることだった。他の場所では、空井戸に閉じ込めることもあったという。
暗くて、狭くて。
頭がおかしくなりそうになる。
今でも、恐怖は体に染みついていた。
「いずれにしても、今日からはのんびりしていられないぞ。 まあ、せいぜい計画的に、時間を過ごすんだな」
本当に、全くもって、他人事。
アストリッドは出かけて来るというと、それきりその日は、アトリエには戻ってこなかった。
勿論、もうロロナも、師匠には期待していない。
自分でやるしかないのだ。
まず机につくと、炭について調べていく。
炭は基本的に、物体を不完全燃焼という形で焼くと、出来るのだと資料にはあった。単純に言うと、燃やすのではなく、焼くのだ。
この過程で、錬金術による技法を用いる。
錬金術では、術者に限らず、魔力が絶対に不可欠だが。幸いにも、ロロナは魔力だけに関しては、人並み外れていると師匠にも褒められていた。実感は無いのだが、確か七才の頃には、相応の攻撃系魔術が使いこなせていたはずである。
蒸して焼き上げたあと、様々な処置をこなすことで、どうにか炭ができあがる。過程はかなり複雑で、ロロナは何度も頭を抱えそうになった。ただし、そうしてできあがる炭は、工場で作るものとは根本的に品質が異なる様子だ。
或いは、売り物になるかも知れない。
そして、研磨剤だが。
研磨剤は、さほど難しくない。手作業で、延々と作っていく事になる。
材料は、オルトガ遺跡近辺にいくらでも転がっている、フェストという石だ。これを砕いて、乳鉢ですりつぶしていけば良い。
錬金術によって、その過程を幾つか工夫するが。基本的には手作業である。
すりつぶしたフェストの不純物を取りだけ取り除くかが、錬金術師の腕の見せ所だという。
いずれにしても、集中力が必要な作業となりそうだ。かなり大変なことは、疑いがないだろう。
一通り調べたあと、今度は逆算で、必要となる素材を見繕っていく。
炭を作るには、単に燃料としての薪も必要となってくる。
幸い、倉庫から、荷車は引っ張り出すことが出来たが。近所の森に出向いて、薪を散々集めてくる必要があるだろう。
それだけではない。
炭にするための木材も必要だ。
ロロナだって、アーランド人だ。森でどうやって過ごすかは、両親に叩き込まれている。薪は、基本的にまだ生きている木から取ってはいけない。落ちているものを拾い、枯れている木から採取する。
それが、絶対の掟だ。
そもそも、何の植物が、炭に適しているか。それは、錬金術の教科書では、調べることが出来なかった。
いずれにしても、ゼッテルの材料だけでも、数回は森とアトリエを往復する必要が生じてくる。研磨剤の事を考えると、オルトガ遺跡にも出向かなければならない。この行き来だけでも、相当な時間が食われると見て良い。
かなりぎりぎりだ。余裕は、ほぼ無い。
翌日、街に出向く。
アトリエが大変なことになっているというのは、幸いと言うべきか、既に近所では知れ渡っていた。
隣にある武器工房には、恰幅のよい禿頭のおじさまがいる。ハゲルと言う名前を持つこの人は、その屈強な肉体からも分かるとおり、かっては相当な凄腕の戦士だったらしい。ロロナの両親とも、戦士として面識があるそうだ。
今では豪快で陽気なおじさまだが。
禿頭を大変に気にしていて、なおかつ名前で呼ばれると本気で怒る。だから、ロロナは親父さんと呼んでいた。
最初に此処に出向いたのには、理由がある。
此処は近年では珍しく、手作業で武器を作っているのだ。
店の真ん中には金床と炉があり、場合によっては真っ赤に熱した鉄を、其処で叩いている事もある。
戦士達は、此処で武器を買っていく。
これだけは、工場製のものでは駄目だと、口を揃えて、戦士達は言うらしい。アトリエと違って、親父さんのお店は、とても繁盛している。それも当然だろう。
「ふむ、炭ねえ……。 ロロナちゃんが大変なことになってるなら協力してやりたいんだが、正直こっちじゃ良くわかんねえな。 俺も炭は、以前はアストリッドの姉ちゃんから買ってたんだが、最近は仕事しねえだろ。 質は落ちるが、工場製のものを使うしかなくてなあ」
「親父さんは、自分で作ったりしないんですか?」
「流石に其処までの余裕はねえよ。 ただ、またアトリエで炭を作ってくれると、俺としても助かるかな。 やっぱり火力を確保するには、あの炭が一番だからよう」
ぺこりと頭を下げると、今度は更に向かい隣に行く。
サンライズ食堂。
ロロナの幼なじみでありながら、既に店の切り盛りを任されている男の子が、仕事をしている。
イクセルという彼は、クーデリアと並ぶ、ロロナの親友だ。
そろそろ年頃なのだが、ロロナはイクセルを兄弟だと思っているし、向こうもロロナを姉か妹か、多分妹か何かと思っている様子だ。幼なじみによくある関係で、互いを男女とは認識していない。
イクセルは話を聞くと、少し考え込む。
「炭に良い材料ね……」
「料理で炭、使うでしょ? イクセくんは何かしらない?」
「あいにくなあ。 ちょっと待ってろ」
そういって、出してきてくれたのは、古い本だった。
やはり料理にこだわりはじめると、炭から調べていくのだという。炭の種類によっては、臭いがついたり、火力が足りなかったりするからだ。
「これが確か、先々代の料理長のメモだ。 店長が宝にしている本だから、後で返してくれよ」
「うん! ありがとお!」
やはり友達はいいものだと、ロロナは思った。
後は、お世話になりそうな人と言えば、隣の雑貨屋さんだ。近所に出かけている余裕が無いときは、そちらで買い物をするしかない。
ティファナという名前の美しい女性で、いつもお店には多くの男性客が詰めかけている。軽い食事も出していて、そちらも人気のようだ。
ただ、未亡人なので、非常に苦労しているはず。
そのせいか、手酷い酒乱である。ロロナは何度かその餌食になっているため、サンライズ食堂にティファナさんがいるのを見ると、回れ右して逃げる癖がついていた。
ティファナさんにも、何冊か、必要な本を貸してもらう事が出来た。
その日のうちに、本は全部読んでしまう。
師匠は役に立たなくても。
騎士の人は怖くても。
周りの人達は、親切にしてくれる。だったら、その期待に応えなくてはならないと、ロロナは思うのだ。
翌日、本を返す。
一応、するべき事は分かった。集めるべき木についても、どうにか知識は得られた。後は、近所の森や遺跡に何度も何度も出向いて、課題の品を作るための材料を、かき集めていくだけだ。此処からは、肉体労働になる。
そして、殆ど休む暇は、なくなるはずだ。
ここまで読むと分かるかも知れませんが。
本作シリーズでもっとも苦労する一人がくーちゃんです。もう一人?ロロナに決まっています。
原作でもこの子、色々苦労した末に、ルルアの時代にはアーランドの国家元首にまで上り詰めているんですが。
金持ちだからそれになれたという雰囲気はありませんね。
漫画版だと暴徒じみた連中にあわやというシーンもあったりしましたし。
本作でのくーちゃんは、とにかくとにかくとにかく(大事なので三回)、最初から最後までロロナと一緒に苦労していく事になります。