暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
だんだんロロナさんに求められる課題が戦略的になっていきます。
今度はいわゆる軍用食、それも極めて現実的で量産可能なものです。
アーランドも色々あって戦争には備えていますので、こういうものが必要なのです。
そしてこの後想定以上の最悪の事態が発生したため。
ロロナさんがやっていたことはまったく無駄にならなかったという結果を後に招いたのです。
序、耐久糧食
ロロナが受け取った課題には、以下の要件だけが書かれていた。
缶詰よりも軽く、大量生産が可能で、なおかつながもちする美味しい食物を作れ。以上の要件を、次の課題とする。
それ以外の内容は、一切問わないというのだ。
しばらくスクロールを見て、ロロナは途方に暮れて、顔を上げた。
複雑な面持ちのステルクが、腕組みしている。
「私に抗議されても困る」
「でも……」
「君はかなり無理がある、任意の幻覚を見せる装置を完成させただろう。 今回も、同じように仕事をこなして欲しい」
そう言われると弱い。
この間もギリギリだったとは言え、どうにか課題は突破したのだ。そして、どんどんハードルが上がってくるのは、目に見えていた。
今回は、そもそも何を作れば良いのか、見当がつかない。
ロロナは、ふらふらとサンライズ食堂に入っていった。まず、そんな食べ物をイメージできなかったからだ。
イクセルはさほど忙しくないらしく、すぐに水を持ってくる。
話を聞いてみると、幼なじみの少年は、腕組みして考え込んだ。
「要は、軽くて美味しい缶詰ってわけだな」
「そんなもの、どうするの?」
「決まってるだろ。 遠くに行くとき、持っていくんだよ。 戦争するとき、荷駄ってのが必要になるだろ」
それはロロナも知っている。
いつもロロナが使っている荷車のようなものや、或いは馬車とかに、戦士達の食べ物や武器を満載して、後からついていく部隊。
ロロナはまだ戦争に出かけていく軍隊は見たことが無いけれど。
小規模なモンスターや盗賊の討伐で、遠征する騎士団は、年に何回か見かける。
確かに幌のついた馬車を連れて行く。馬車の中には、工場で作ったらしい缶詰が、たくさん積まれているのが普通だ。
近年、糧食はほぼ缶詰で決定している。
缶に食糧を詰めて熱することで、いつまででも保つようにしたもの。ただし、どれも味が著しく悪い。
その上、いろいろな欠点もある。
たとえば、不良品でちゃんと蓋が密閉されていなかった場合、すぐに駄目になってしまう。工場製ではこの不良品がまざる確率が高くて、噂によると5パーセントに達しているのだとか。
その上保存食の筈なのに、衝撃にも弱い。
ちょっと衝撃を与えると、すぐ密閉部分が駄目になってしまって、痛む。
更に、もう一つ、致命的な問題がある。
金属そのものが、どうも中の食べ物に流れ込んで、毒素になるようなのだ。半年程度までなら大丈夫のようなのだが。
それ以上の期間保存されたものは、畏れを知らぬアーランド戦士達も、口にしようとはしないという。
勿論改善を図っているが、質を上げようとすると貴重な高純度の金属が必要になってくる。
かといって、コストを下げると、質も一緒に落ちる。
確かに、缶詰に変わる糧食は、必要なのかも知れない。しかし、錬金術師達が発掘した文明による工場は、著しく糧食の質を上げたはず。
どうすれば良いのだろう。
「いきなり難しい事言われたな」
「前からだよ、もう」
「まあ良いから、甘いモンでも飲め」
出されたのは、三色ベリーから作ったジュースである。ロロナはしばらく黙り込んでいたが、やがてぐっと飲み干す。
何とも言えない酸味と甘みが心地よい。
たとえば、だが。
穀物などは、薄暗くてよく冷えた場所にしまっておくと、年単位でもつ。クッキーなども、保存方法次第では、長時間保たせることが可能だ。
今まで、参考書の中に、長期保存食の類は記載が無かったけれど。
ひょっとしたら、何かいい手があるかも知れない。
落ち着くと、少しずつ頭が回る。
イクセルは流石だ。ロロナがどういう頭の構造をしているか、よく分かっている。もう一杯ジュースを頼む。
今度はぐっと酸っぱいのが来た。
「これはなーに?」
「サワーアップルのジュースだよ」
「えっ……」
「大丈夫、飲めるだろ? ぎゅっと絞った後、秘伝のレシピで味を調整してるんだよ」
確かに、口に入れると、酸っぱいけれど。
拒絶反応を示すほどではない。サワーアップルは確か、もっと強烈に酸っぱかった筈だ。これはきちんと飲める。
頭が随分すっきりした。
代金を払うと、サンライズ食堂を出る。最初はどうしていいか全く分からなかったけれど。
イクセルのおかげで、光が見えてきた。
こういうときに、いつもロロナは思う。周りの人達に支えられて、ロロナは生きていると。
だからこそ、ロロナがしっかりすれば。成功すれば。みんなに、それだけ恩返しが出来るのだ。
アトリエに戻ると、さっそく参考書を調べはじめる。
いつもいつもギリギリになってしまうのだ。今回くらいは、余裕を持って、課題を終わらせたい。
錬金術と料理は関連が深い。
参考書を調べていくと、料理に関連したものがかなりある。
途中、パイの作成に応用できそうな記述があったので、付箋をつけておく。少しずつ難しい参考書も読めるようになってきた。その分、難しさもうなぎ登りで、調べるのも一苦労だが。
まず、いつものように、大まかにどういったものを作るか、からだ。
持ち運びが簡単で、痛まず、壊れず、美味しい。
極めて都合が良いと思うけれど。
常に向上を図ってこその人間だと、ロロナも思う。進歩のない生活をしていたら、きっと駄目になってしまう。
いつの間にか、夜になっていた。
適当な参考書がかなり見つかったので、机の側に積んでおく。
師匠が戻ってきた。
かなり腹を空かしている様子だが。ロロナが忙しく動き回っているのを見ると、今日は夕食を作らなくて良いと言った。
「あれ? どうしたんですか?」
「丁度今、私も研究がたけなわでな。 悠長に食べている暇が無いんだ」
「師匠が? 珍しいですね」
「私は天才だが、それでも今回挑戦しているのは、錬金術の究極だからな。 かの賢者の石の作成に匹敵する、最高の存在よ」
賢者の石か。
確か金を作り出す事が出来るという、錬金術の究極目標、だったはず。今のロロナではとうてい手が届かない、遙か高みにある未知の存在だ。
それに匹敵するとなると、何だろう。
「いつも、何だかなまごみみたいな臭いがしますけど、その関係ですか?」
「ああ。 私でさえ試行錯誤が必要な代物でな。 まあ、その内成果を見せてやるから、楽しみに待っていろ」
笑顔で部屋に入る師匠を見送ったが。
はっきりいって、ロロナに言わせて貰えば、そんな事よりも国の課題をして欲しかった。だが、怖いし、面と向かってはいえない。
それに、何というか。
少しずつ、この状況が楽しくなりつつあるのも事実だ。
ずっと頑張って、四苦八苦はしているけれど。その代わり、少しずつ周りの状況だって、良くなってきている。
このまま頑張って、みんなと仲良くやっていきたい。
頬を叩いて、気合いを入れ直す。
次の作業に入る。
まだまだ、資料が足りない。今晩中に、どうにか資料だけでも、揃えてしまいたかった。
技量が上がってきているロロナさん。
錬金術師としても戦士としても魔術師としても。
故にわずかずつ余裕も出てきます。
経験を積むと人は短時間で変わっていく事もあります。そう滅多にあることではありませんが、ロロナさんの場合は例外だった……といえます。