暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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アトリエシリーズにはアンデットモンスターはいるにはいますが、基本的にユーモラスな幽霊がほとんどですね。スケルトンとかゾンビとかのえぐいのはあまり出て来ません。いないとまではいいませんが。

ライザのアトリエにはいわゆるリッチっぽいのが出ていましたし(リッチというのは高位の魔術師が更なる力を求めて敢えて自分からアンデットになったもの)、今後はえぐいのが出てくるかも知れません。

まあアトリエシリーズが近年は人の業を描くようになって来ている事を考えると、方向性を変えてそういうアンデットを出してくるかも知れませんね。






3、古代の墓所

カタコンベ。

 

正式なこの遺跡の名前は、まだアーランドでは判明していない。分かっているのは、中に膨大な骨が散らばっていること。複雑な構造をしている上に、半ば土に埋もれていて、一種のダンジョンと化している事だ。

 

その特性から、盗賊団が根城にする事が多く、今まで何度となく討伐と駆除が実施されている。

 

だが不思議な事に、モンスターは近寄ろうとしないのだという。

 

以上の知識は、事前にロロナがステルクに聞かされたものだ。どうにか宿から出てきてくれたリオネラを加えて、ステルクとクーデリアと、四人でカタコンベに向かう。

 

途中、ハロルド村という場所で一泊。

 

旅人用の小さな宿がある。アーランドから此方に来る旅人が利用するためだが、勿論色宿も戦士宿もない。

 

村の人達は、ステルクが騎士である事を知ってか知らずか、あまり歓迎している空気ではなかった。

 

この村の人達にとって、カタコンベは禁忌。

 

だとすれば、其処を何度となく「荒らしている」騎士団には、良い感情を持てないのも道理である。

 

夕食は、だからだろうか。

 

極めて粗末で質素なものが出た。料金は割高だけれど、こればかりは仕方が無い。

 

全員で、黙々とやたら硬いライスを噛む。

 

噛んでいると、無口になって行くのが、何となく分かった。

 

「明日の早朝、カタコンベに入る。 最深部までは、ほぼ半日ほどかかるから、引き際を考えて欲しい」

 

「地図はあるの?」

 

「これがそうだ」

 

ステルクが出してきた地図は、彼方此方が黒塗りされていた。機密という事だろう。まあ、それは仕方が無い。あまり一般人が入る事を想定していない遺跡なのだ。

 

粗末なベットには、蚤だらけ。

 

ロロナはまず、魔力を通して、蚤を追い払う。リオネラも同じようにして、手際よく作業をしていた。

 

アラーニャとホロホロは、部屋に入るまで出さなかった。

 

小さな村で、人目を引きたくないのだと、道中で言っていたけれど。どうしてなのだろう。子供達は、喜びそうなのだけれど。

 

粗末な宿に泊まるのは、初めての経験ではない。

 

一晩ぐっすり眠って、翌朝には出る。まだ日が昇る前だったけれど。誰も眠そうにはしていなかった。

 

ステルクに案内されて、村から東へ。

 

途中小川が幾つかあったけれど、どれも橋が架かっていない。小さな石が飛び飛びに、乱暴に置かれているくらいだ。これを渡って行けと言うことなのだろう。

 

「すまぬな。 この辺りは、インフラが通っていないのだ」

 

「したところで、維持も整備もできないでしょう? だったらどうだって良いわよ」

 

ステルクとクーデリアが、よく分からない単語を使って話している。

 

ロロナはリオネラの手を引いて、一緒に石を跳んで川を渡る。浅い川だけれど、中には魚だけではなくて、強い毒を持つ水蛇も泳いでいるのが見えた。当然のことだけれど、モンスターもいるだろう。

 

幾つかの川を越えて、丘を渡ると。

 

日が昇る頃には、遺跡が見えてきた。

 

思っていたのと、全然違う。

 

お墓と言うから、石造りで、苔がむしていて。見るからに、おばけがでそうなのを予想していたのだけれど。

 

其処にあったのは、何というか。

 

アーランドにもありそうな工場。いや、オルトガ遺跡に、何処か似ていた。殆ど埋まってしまっているところが違うが。

 

未知の金属で構成されていて、所々に光が走っている。

 

入り口部分は、こじ開けた跡があったけれど。近くに常駐している戦士はいない様子だ。それに、周囲は荒野が目立つ。

 

川からも、かなり距離が離れているように思えた。

 

つまりこの遺跡は、常駐の監視員がいないのだ。

 

アーランド王都からそれなりに距離があるとはいえ、どうしてなのだろう。入り口には鎖が掛けられていたが、さび付いていて、誰も気にしないだろう。

 

中は真っ暗ではなく、薄明かりが満ちている。

 

ステルクがずんずん中に歩いて行く。クーデリアが、先に行くよう促した。リオネラはどうしただろうと思ったら。

 

ステルクについて行っている。暗いのはへいきなのか。あれほど恐がりなのに。

 

慌てて、荷車を引いて中に。

 

ぱきりと、音がした。

 

嫌な予感がして、下を見ると。息が止まりそうになった。

 

膨大な数の骨が、散らばっているのだ。百や千どころでは無い。事前に人間のものと聞かされていなかったら、ショックで心臓が止まったかも知れない。それでも、思わず悲鳴を上げそうになって、クーデリアに口を押さえられた。

 

ステルクが振り返る。

 

涙目になってばたばたしているロロナに、呆れたようだった。

 

「何をしている。 急ぐぞ」

 

「ほ、骨、骨がっ!?」

 

「そう言う場所だと言うことは、事前に分かっていたはずだが」

 

ステルクは全く動じていない。見ると、左右の壁は、オルトガ遺跡の外と殆ど同じだ。正体が分からない金属で出来ていて、時々筋状の光が走る。

 

所々にあるへこみには、大量の骨が詰め込まれていた。通路の左右も同様。中には、ロロナの背丈よりも、骨が積まれている箇所が見える。

 

「調査隊が最初に入ったときには、どの通路も腰の辺りまで骨が詰まっていた。 ある程度外に出したり、脇に避けたりして、ようやく入れるようになったのだ」

 

「ふ、ふええ……」

 

「モンスターはいないが、盗賊が潜んでいる可能性がある。 油断するな」

 

そう言われると、気を引き締めることも出来るけれど。

 

歩く度に、油断すると骨を踏んでしまう。

 

荷車も。時々、ばきりと音を立てる。

 

これでは幽霊話が出るのも当然だ。いまだって、どこからか覗かれているように思えてならないのだから。

 

殿軍を努めてくれているクーデリアは、ずっと気を張ってくれている。リオネラは、しばらく精神が不安定だったとは思えないほど落ち着いていて、むしろ心地が良さそうだった。ロロナだけがびくついている。

 

ステルクが、さっさと前を進んでいく。

 

広間に出た。天井は広く、部屋の真ん中辺りに、巨大な建造物が見て取れる。それだけでも、外の村にある風車くらいの大きさはありそうだ。

 

此処は、お墓なんかじゃない。

 

直感的に、そう理解できた。

 

建造物は、明らかに何かしらの機械なのだ。しかも光が時々走っているという事は、未だに動いていることを意味している。

 

好奇心が刺激されたからか、少しずつ怖くなくなってきた。

 

通路が、四方八方に延びている。

 

ステルクは地図を見ていたが、やがて歩き出す。その間、クーデリアが辺りを見て廻っていた。

 

「足跡があるわね」

 

「えっ!」

 

「盗賊よ、恐らくは。 ただし、今もいるかは分からないけれど」

 

リオネラは黙り込んだまま、骨の山をじっと見つめている。

 

目に光がないのは、気のせいだろうか。

 

アラーニャとホロホロに聞いてみる。だが、二人とも、リオネラは暗いところの方が好きだというだけだ。

 

いや、鉱山の時は、こんな反応はなかったはず。

 

ひょっとすると、暗いの定義が違うのか。

 

「早く行くぞ。 一旦最深部まで見てから、後の探索をどうするか、考えよう」

 

ステルクの声が飛んでくる。

 

慌てて、ロロナは荷車を引いた。

 

 

 

変な茸が、たくさん骨から生えていた。

 

それだけではない。彼方此方に、触るとかなり熱い砂が散らばっている。これは、確か参考書にあった燃える砂だ。実は鉱山でも見つけたのだけれど、その時見たものよりも、ぐっと熱い。

 

すぐにゼッテルに包んで、保存する。

 

他にも、いろいろなものが散らばっていた。たとえば、非常に頑強な巣を張る蜘蛛が、かなり住み着いている。

 

小さくて可愛い蜘蛛なのだけれど、巣はとても強靱なのだ。

 

謝りながら、巣を少しもらう。

 

繊維として優秀で、使い出があるのだ。

 

他にも、幾つも興味深い素材がある。骨の山の中から生えている、光る草。確か蛍火草という筈。

 

触ってみると、ほんのり温かい。

 

これも、いくらか摘んで、ゼッテルに包んだ。研究資料としては、どれもこれもが有用だ。

 

師匠の言うことは間違っていなかった。

 

これでロロナを思い切り怖がらせるようなことをしなければ、名師匠なのに。

 

奥まった所で、ロロナはリオネラに手伝ってもらって、採取を続ける。リオネラはずっと黙りこくっていたけれど。

 

不意に、口を開く。

 

「ロロナちゃんは、こういう所嫌い?」

 

「え? そうだね、怖い……かな」

 

「私は大好き。 静かで、人の気配がなくて。 こういう所で、ずっと暮らしたいな……」

 

そういったリオネラの目には光が全く無く。光彩は黒塗りしたかのようだった。彼女は、心底からそう言っている。

 

それが分かって、ロロナは背筋に寒気が走る。

 

変わったところのある子だけれど。はじめて、こういった狂気的な部分は見た。友達になって行きたいとは思うけれど。怖いところは怖い。

 

「あ、アラーニャ!、ホロホロ!?」

 

「ごめんなさい。 この子ね、こういう場所に来ると、少し人が変わるから」

 

「幽霊に取り憑かれてるってわけじゃねえから、安心してくれ」

 

そう言われても。

 

本当に嬉しそうにリオネラは、いつもだったら絶対浮かべないような、蠱惑的な表情まで浮かべている。

 

荷車に積み込んだ素材は、かなり多くなってきた。

 

此処を離れたい。

 

そうロロナは思ったけれど。ステルクが剣に手を掛けたので、そうも行かなくなった。此処は袋小路。向こうから、何か来たという訳か。

 

クーデリアも、拳銃を引き抜く。

 

薄い明かりの中、見えてくるのは、複数の人影だ。

 

よたり、のたりと歩いて来る。

 

どうも盗賊らしいのだけれど。様子がおかしい。

 

いずれも目がうつろで、手にはライフルをぶら下げているが。此方に向けてくる様子も無かった。

 

「何だ。 精神操作でも受けているのか」

 

ステルクが、剣を向けたまま、油断なく言う。

 

数は十人以上もいる。足跡は、間違いなく、あの盗賊達だろう。それにしても、動きが変だ。

 

此方に気付いている筈なのに、攻撃してくる気配がない。

 

「武器を捨てよ。 降伏するなら、斬らぬ」

 

ステルクが宣言する。

 

だが、盗賊達は動きを止めない。

 

ここに入ってから骨の強い臭いで気付かなかったけれど。盗賊達の体からは、それさえを凌ぐような、凄まじい臭いがしていた。

 

杖を構える。

 

どのみち、逃げ道はない。詠唱を開始。ステルクとクーデリアが時間を稼いでいる間に、相手を一掃できるだけの術式を準備しなければならない。

 

リオネラが、何も言わないのに、自動防御を展開してくれた。

 

嬉しい配慮だ。

 

これなら、流れ弾を気にせず、遠慮無く準備が出来る。

 

異変が、起きたのは。

 

その時だった。

 

盗賊達の全身が、はじけ飛んだのだ。そして、その時、ようやく気付く。その盗賊達は、とっくに死んでいたのだと。

 

中から姿を見せたのは、何だろう。形容しようがない存在だった。

 

鈍色に光っていて、虫のように長くて。とにかく、それが盗賊達の死体の内部に入って、動かしていたことは分かった。

 

生唾を飲み込むロロナの前で、ひゅんと、鋭い音。

 

ステルクが切り上げる。

 

だが、恐るべき強靱さを発揮して、紐状の何かは、切断を免れた。

 

思わず悲鳴を上げそうになる。

 

次々、死体がはじけ飛んでいき、銀色の紐状の何かが姿を見せ始める。それだけじゃない。

 

後ろからも。

 

袋小路だったはずなのに、骨の中から、その銀色の何かが、出てくる。

 

まるで、無数の触手。

 

何かの体内に紛れ込んでしまったかのよう。

 

「突破する!」

 

ステルクが一喝。稲妻を纏わせた剣を一閃した。

 

薙ぎ払われた無数の銀色の紐が、今度こそ悲鳴を上げながら、もがく。水の中で蠢く、蚊の幼虫のように。

 

どっと迫ってくる、銀色の紐。

 

必死にロロナは、荷車を引いた。何度も、自動防御にはじき返される銀色。

 

あっと、気付いたときには、クーデリアが左腕を掴まれていた。

 

何度も銀色の紐を撃ち、無理矢理外させるクーデリア。だが、多分凄い力で締め上げられたのだろう。手から、血が滴っている。

 

まるで銛。次々、銀色の触手が襲ってくる。

 

突破したからか、後ろから、際限なく。けらけらと笑っているのはリオネラだ。何か、スイッチでも入ったのだろうか。

 

詠唱完了。

 

「くーちゃん! 荷車お願い!」

 

自動防御から飛び出したロロナ。クーデリアが無言で、位置を変える。ぐっと引っ張って、反旋回させるように、荷車を動かして。

 

ロロナの射線上に、銀色の触手が、根こそぎ入るようにした。

 

「フルハート、アタック! いっけええええっ!」

 

全力で、魔力の塊をぶっ放した。

 

どうやらロロナの魔力は、ハートを形作るらしい。だから、全力での射撃は、フルハートアタックと呼ぶようにしている。

 

そして、魔術の名付けなど、そんなもので良いのだ。

 

放出された膨大な魔力が、乱反射しながら、通路を薙ぎ払っていく。それはさながら、稲妻の蛇が大暴れしているような光景。

 

骨が吹っ飛び、焦げた肉の臭いが充満する。

 

すぐに、クーデリアがロロナの手を引いた。全滅したわけではない。まだ、奥の方から、銀色の触手が追ってきている。

 

「なんだろ、あれ!」

 

「分からん! あのようなもの、以前の調査で姿を見せたことはなかった!」

 

ステルクが連続して、稲妻を纏わせた剣を振るい、路を作る。

 

息が切れ始めた。ずっと走っているのだから、当然だ。

 

ずっとずっと、ひたすらに走り続けて。

 

やっと、先ほどの、奇怪な構造物がある辺りまで来た。

 

追ってこない。ロロナはすぐに何枚かのゼッテルを取り出す。防御の術が掛かっているものだ。それを、通路に放り込む。

 

これで、防御の術を発動できる。

 

あの銀色が追ってきても、すぐには突破できないだろう。何しろ、煮込みに煮込んで、爆発寸前まで濃度を上げた中和剤を使ったインキで、魔法陣を書き込んだのだ。

 

呼吸を整えて、みんなの無事を確認しようとした瞬間。

 

突き飛ばされた。

 

ゆっくり、世界が動いていく。反射的に展開されたリオネラの自動防御を貫通して、壁から伸びてきた銀色の触手が、クーデリアを吹っ飛ばす。

 

ステルクが、触手を大上段から一刀両断にする。

 

「くーちゃん!」

 

絶叫したときには、クーデリアは壁に叩き付けられていた。

 

 

 

ようやく、攻撃が収まったらしい。

 

もう何処が危険で、何処が安全かさえも分からない。ステルクが嘘を言っていたとは思えないし、今までこんな事態は起きたことがなかったのだろう。

 

クーデリアは意識がはっきりしているが、おなかの傷がまだふさがっていない。最初は腸が見えていたほどなのだ。へその左横から脇腹まで、人差し指二本分の長さに達する傷だった。

 

しかもこの触手で差された傷だけではない。

 

逃げる間に受けた傷が七カ所。気付いていなかったが、左足のふくらはぎにも、かなり深い傷があった。

 

更に、最後に、壁に叩き付けられた打撃。

 

アーランド人でなければ、即死していただろう。今だって眉一つひそめていないが、発狂するほど痛いはずだ。

 

傷口を縫合して、薬を塗って。

 

しばらく安静にするしかない。出来れば二日か三日、動くのは避けてもらいたかった。

 

傷口の消毒と縫合は、ステルクがやってくれた。

 

今までの失敗を考慮して、今回はいろいろな薬品を持ってきてある。煮沸消毒した針も、糸もある。ただ、ロロナが持ち込んだ分以外に、ステルクが軍用の小さなソーイングセットを持ってきていて、それを使ってくれたのだが。

 

縫うのに麻酔などない。流石のクーデリアも、針をおなかに入れられたときは、眉を一瞬だけ動かしていた。絶対に悲鳴は上げなかったが、それはクーデリアの矜恃なのだろう。何度もロロナは涙を拭った。

 

出来ればこの恐ろしい遺跡から出たいけれど。

 

今は、怖くて身動きも出来ない。

 

「あんたは無事?」

 

「わたしなんてどうでもいいよ! くーちゃん、痛くない?」

 

「そりゃあ痛いわよ」

 

触手に突き刺された瞬間も、クーデリアは受け身をとっていた。

 

更にステルクが触手を斬り伏せた事もあって、体を貫通されることも無く。内臓への打撃も、最小限に押さえ込んだ様子だ。

 

ステルクは、ずっと周囲を見張ってくれている。

 

リオネラは意外に冷静で。持ち込んでいる水をランプで煮沸してくれたり、クーデリアの額を拭いてくれたりと、適切な看護をしてくれていた。

 

遺跡は怖いところだと、分かっていたはずなのに。

 

どうして自分はこう馬鹿なんだろうと、ロロナは思い知らされてばかりだ。

 

ステルクが、様子を見てくると言って、奥に。

 

そして、すぐに戻ってきた。

 

盗賊を一人、引きずっている。どうやら生きているようだった。

 

「気配があったから、見つけることができた」

 

「な、なんでもしゃべる! お願いだ、殺さないで、殺さないでくれ!」

 

気の毒なほど取り乱しているのは、中年の男性だ。手にはライフルを持っているけれど、誰も気にしない。

 

そんなもので、死ぬような人間は、此処にはいないからだ。

 

多分、あの盗賊の死体は、この男性の仲間だったのだろう。ライフル如きを手放さない所から見て、よその国の人だとみた。

 

ステルクが男性を座らせて、ライフルを取り上げる。

 

震えている男性は、寝かされたままのクーデリアを見て、小さな悲鳴を上げた。

 

「彼奴らに襲われて、生き延びたの、か」

 

「彼奴らというのは、あの触手みたいなモンスター?」

 

「ち、違う。 あれは、この遺跡の……」

 

震えながら、男は周りを見る。

 

頭を抱えて、ぶつぶつ何かを呟いていた。しらけた目で、リオネラが言う。

 

「この遺跡の守り神だ、だって」

 

「守り神?」

 

「知っている事があるなら全て話せ。 死者が出ているのだ。 あまり悠長なことは、言っていられない」

 

ステルクの声も怖い。

 

ロロナは泣きそうだったけれど。それ以上に、盗賊の人は、気の毒だった。

 

「お、俺たちは、その。 半月ほど前に、来た。 此処がヤバイ国だってのは知ってたけど、いろんな遺跡があって、荒稼ぎ、出来るって。 それで、警備が薄いこの遺跡に、潜り込んだんだ」

 

「それで?」

 

「お、奥の方に、隠し部屋を見つけた。 仲間の一人に、そういうのが得意な奴がいて、それで、それで……」

 

悲鳴を上げて、男が頭を抱える。

 

ステルクが大きく嘆息した。

 

「遺跡の中には、自分を守る力を有しているものがある。 恐らくはこの男達、遺跡を根本的に破壊するか、それに近いような事をしてしまったのだな。 それで、遺跡が身を守るための力を発動させたのだ」

 

「外には、出られないの?」

 

「お、お前達も、見ただろう! 外に出ようとして、みんなああなった!」

 

ならば、出口への通路は、もう安全ではないと見て良さそうだ。

 

クーデリアがこんな状態では、どうしようもない。腕組みしているステルクに、話を聞いてみる。

 

「何か、良い案はありませんか?」

 

「私にそれを聞くか。 しかし、遺跡に一番詳しいのが今の時点では私か……」

 

ますます、ステルクの眉間に皺が寄っていくのが分かる。こわい。

 

だが、正直な話。クーデリアがこんな状態なのである。誰の手でも、借りられるなら借りたい。

 

「ちょい提案があるぜ」

 

挙手したのはホロホロである。

 

くつくつと、リオネラは不気味に笑っている。この子は、何だか遺跡に入ってから、人が変わってしまっている。

 

「此奴に案内させて、その隠し部屋とやらに行ってみないか?」

 

「正気か」

 

「元々この遺跡、おとなしかったんでしょう? けが人を抱えた状態で、脱出できるか難しい今の状態を考えるなら、損は無いと思うけれど」

 

ステルクが腕組みする。

 

クーデリアは半身を起こそうとするが、上手く行かなかった。

 

「隠し部屋とやらで、何をしたのか、話せるか」

 

「……」

 

盗賊が、震えながら差し出したのは、淡く輝く宝石だ。

 

こぶし大ほどもある。ちらっと見たが、どうも様子がおかしい。本当に宝石なのか、かなり疑わしい。

 

貸してもらって、触ってみると、ほんのり温かい。

 

というよりも、何というか。振動している。その上、中から音がしているようにも思える。

 

これは何だろう。多分、宝石ではない。

 

ペンデロークとも、多分違う。図鑑で見たペンデロークは、青紫をした、もう少し地味な色合いの石だった。

 

「隠し部屋に、変な機械があって、これが」

 

「奪ったのか」

 

「だ、だって、価値があるものだと……」

 

「この遺跡が生きている事は分かっていただろう。 それなのに、遺跡を怒らせるような事をして、無事で済むと思ったのか」

 

ステルクの声には、静かな怒りが籠もっている。

 

もし怒りが、クーデリアを怪我させ、盗賊の仲間達が多く死んだことに向いているのなら。ロロナとしては、嬉しいけれど。

 

今は、この何か良く分からないものを、戻すのが最優先だ。

 

「わ、わたし行きます」

 

「ロロナ君?」

 

「ここ、モンスターはいないって話ですし、何よりくーちゃんには護衛が必要です」

 

それに、この盗賊のおじさんくらいなら、何かされても対処できる。

 

腕組みして考え込んでいたステルクだが。あまりいい表情はしていなかった。賛成できないというのだろう。

 

クーデリアが、不意に発言した。

 

「さっき気付いたのだけれど、あの触手、其処の騎士が攻撃するまでは、静かだった気がするわ。 死体をぐしゃぐしゃにはしたけどね」

 

「どういうこと?」

 

「ひょっとすると、攻撃しなければ、安全なのかも知れない、という事よ」

 

気休めの発言だけれど。

 

今は、その可能性にすがっておきたい。

 

盗賊のおじさんを促して、ロロナは行く。くーちゃんを守るためには、他に方法がなかった。

 

 

 

やせこけた盗賊のおじさんはすっかり怯えきっていたけれど。

 

もはや他に方法がないことは、分かっているのだろう。ロロナに促されるまま、カタコンベの奥へ奥へと行く。

 

「おじさんは、どうしてこんな事を?」

 

「……」

 

最初は口をつぐんでいたおじさんだけれど。

 

骨の山の間を歩きながら。ぽつぽつと話してくれた。

 

「好きで、盗賊なんてやってねえよ……。 まして、こんなおっそろしい国、来るもんかよ」

 

「それなら、どうして」

 

「暮らしていけねえんだよ」

 

世界には、まだまだ荒野が広がっている。

 

誰かが、一度世界を滅茶苦茶にしてしまったのだ。そう、盗賊のおじさんは吐き捨てた。そんな荒野の一角。砂漠のすぐ側に、おじさんの村はあったのだという。

 

口減らしは当たり前。

 

奴隷商人が出入りして、子供は商品の一つ。

 

長男だったおじさんは、弟や妹が売られていくのを、恐怖とともに見ていたという。売られていく子供達は、当然村に戻ってくることなど、一度もなかった。

 

やがて、それでも村が立ちゆかなくなっていく。

 

田畑では、作物が立ち枯れてしまう。

 

川の水量が減っていき、生きることさえ難しくなっていく。

 

税など、収められるはずもない。

 

離散した家が幾つも出る中。おじさんの家も、村を夜中に去ったのだという。

 

「都会で物乞いをするうちに、犯罪組織に声を掛けられてよ。 最初は悪い薬の売人をやらされてたが、その内こっちの仕事が来てな」

 

辺境は、モンスターがたくさんいる代わり、豊かな場所が多いと聞いて、一も二もなく志願した。モンスターを見た事もなかったおじさんは、どうせ大した事はないだろうと、思ってしまったらしい。

 

ライフルを渡されて、同じような境遇の仲間と組んで、最初は別の国に出向いた。密漁が、主な仕事だった。辺境の戦士の凄まじい強さは、良く見せつけられたからだ。ライフルがあっても通用しないことは、おじさんにも分かっていたらしい。

 

魚や獣をこっそり取って、持ち帰って売る。

 

水を汲んで持っていくだけでも、相当な金になった。

 

何より、荒野が緑より少ない地域にいるだけで、おじさんはとても嬉しかったという。

 

「足を洗おうとは、思わなかったんですか?」

 

「そうだな。 とともかかあも物乞いしてるうちに流行病で死んじまったしな。 でもな、染みついた手癖の悪さと、それに仲間を売るようなことも出来なかったんだ」

 

悲しい話だ。

 

アーランドは、戦士達の血みどろの苦労の末、やっと今の豊かな生活を手に入れた。

 

だが、努力しようもない土地に生まれた人もいるのだ。

 

そんな土地に生まれていたら。

 

ロロナも、きっと奴隷商人に売り飛ばされたり、飢餓の中口減らしで殺されてしまったのだろうか。

 

此処だと、おじさんが足を止めた。

 

確かに壁には何も無いように見えるのだけれど。おじさんが手を触れると、驚くことに壁がスライドして、空間が出来た。

 

今までの時点で、触手は襲撃してきていない。

 

クーデリアの言葉が、どうやら真実だったらしい。有り難いと言うよりも、そうでなければ、生きてはいられなかっただろう。

 

小さな部屋だ。

 

確かに、奥には変な機械がある。

 

机みたいなものがあって、その上に筒状のよく分からないもの。途切れている場所があり、其処にこの宝石が浮かんでいた、というのだ。

 

不意に、前後左右の床から壁から、触手が出てくる。

 

もう、今は、覚悟を決めるしか無い。

 

「この石を、返しに来ました! とってしまってごめんなさい!」

 

二度、繰り返す。

 

触手はしばらく、ロロナと盗賊のおじさんを囲んでいたけれど。襲ってくる気配はなかった。

 

やはりさっきの悲劇は、此方から手を出したから、だったのだろうか。ステルクに責任はない。

 

不幸な事故だった、としかいいようがない。

 

何だかよく分からない言葉が聞こえる。

 

ロロナには分からなかった。師匠だったら、理解できたかも知れない。

 

ふと、視界の隅に、変なものが映った。

 

テーブルがあって、其処に熊のぬいぐるみが置かれているのだ。どうしてこんな所に、ぬいぐるみが。

 

宝石を、まずは戻すことが重要だ。

 

おじさんに聞いていた位置に、宝石を置く。本当に浮いた。宝石の上下に光が走り、ゆっくりと周りはじめる。

 

触手が引っ込んでいくのが分かった。

 

胸をなで下ろす。ふいに、触手が一本だけでて、熊のぬいぐるみを掴み。ロロナの方へと、押しやってきた。

 

「え……?」

 

持って行け、というのだろうか。

 

ぬいぐるみは、何かの変な液体で、少し汚されていた。何かは分からない。ただ、あまり嫌な臭いはしない。

 

触手が、引っ込む。

 

盗賊のおじさんが、顔中に汗を掻いていたのが、ようやくその時分かった。

 

「ど、どういう度胸だよ」

 

「助かったんだし、良かったじゃないですか」

 

「……オレは、助かったのか。 そうか」

 

肩を落として、盗賊のおじさんは、そう言った。

 

帰り道、触手が襲ってくる事はなかった。

 

勿論、ステルクもクーデリアも、無事なまま待っていた。クーデリアの傷は、出来れば数日は動かさない方が良いが、しかし栄養を取った方が良い。その判断から、一旦カタコンベから運び出し、近くのハロルド村に寄る。

 

おかしな話だが。

 

カタコンベを出ると、いつものように、リオネラは臆病な女の子に、戻ったのだった。







盗賊の事情も色々です。

リオネラさんの異変もまた……

深い闇を抱えている子です。それはその内明らかになります。



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