暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ネクタルは、本作においては極めて重要な代物です。

これがどれくらい重要な代物であるかは、いずれ分かってきます。

高濃度のネクタルの作成は、極めて危険な事でもあるのです。






いのちの形
序、神の飲み物


今までに無いほど、難しい調合だった。

 

まずは、苗床を用意する。

 

ネクタルに必要なのは、神の飲み物の主成分だけではない。主成分が増えるために、必要なのが「苗床」なのだ。

 

しかしネクタルの主成分にとって美味しいものは、他の存在にとっても美味しい。たとえば蟻さん。蠅さん。こういった存在が、近寄らないように、工夫しなければならないのである。

 

いろいろな素材があるのだけれど。ミルクの樹液というものが、素材の一つとしてあげられる。

 

これは主に近隣の村で採れる、特殊な樹液だ。

 

特産品になっているほどで、簡単に採取できる上に、のどごしも良い。ただし蟻さんの大好物なので、採取に気を遣わないと、いつの間にかおけが蟻さんだらけ、ということになってしまう。

 

これについては、以前旅人の街道に出向いたときに、ある程度入手してきた。

 

ただ。この樹液に関しては、別に他でも良い。

 

要するに栄養があれば、問題は無いのだ。

 

まずベースになる栄養のある液体を釜に満たす。そしてゆっくり煮込みながら、途中で温度を調整。

 

濾過した水を足しながら、二日間煮込むのだ。

 

それが終わった所で、手に入れたペンデロークの出番となる。

 

ペンデロークは強い魔力を蓄え、共振させる。魔法陣を書いて、その上にペンデロークを入れた中和剤を置く。

 

こうすることで、中和剤の魔力が、全てペンデロークに流れ込んでいく。

 

強い魔力を蓄えている宝石や、もしくは蓄える事が出来る石なら、別に他のものでもよいという。

 

そして、苗床に、良く洗って煮沸消毒したペンデロークを入れる。

 

その後も、丁寧にゆっくり煮込んでいく。この間、蒸留した水を足すこと七回。いずれも分量を間違えてはいけないという、気を遣う作業だ。

 

こうしていくと、だんだんミルクの樹液が澄んでくる。

 

こうして、強い魔力を蓄えた苗床が出来る。

 

此処からだ。

 

参考資料によると、あの膨大な骨が、重要なのだという。

 

よく分からないけれど、持ち帰った骨をまずすりつぶす。何の骨だかは分からないけれど、完全に古くなっていて、石と殆ど変わらなかった。すりつぶす前に一旦蒸留水で洗って、埃を落とさなければいけない。

 

ここからが重要なのだが、骨粉末に熱を加えては駄目なのだという。

 

かといって、そのままでも駄目。

 

まず、幾つかの植物から抽出した液と、骨の粉末を混ぜる。この過程が難しくて、しかも成功の判定条件が厳しい。

 

何度もフラスコを振りながら、ロロナは神経をすり減らしていった。

 

にこにこしながら、天井近くを浮遊している幽霊のパメラは、ロロナの作業を見ている。

 

何だか、慈愛に満ちた視線だ。

 

子供の手習いを、見つめる大人のような。

 

ひょっとして、ロロナが何をしているのか、理解しているのか。

 

だとすると、悔しい。

 

今、ロロナが分かっているのは、七代前の錬金術師が実行した手順だけ。

 

それも、油を垂らして針の穴を通すような、極めて繊細な作業。七代前が試行錯誤の末に成功させた内容を、ただたどっているだけ。

 

何をしているのかは、具体的には分かっていないのだ。

 

幾つかの過程で、同じように厳しい条件を満たしていく。順番を間違えてはいけない。温度や、置いておく時間を間違えてはいけない。

 

参考書によると、こうして不純物を取り除くのだという。そうして、骨に蓄えられた何かを、取り出すのだとか。

 

どういう意味なのかさえ、よく分からない。

 

だが、とにかくまずやってみる。説明についての考察も読んではみたのだが、ほぼ理解できなかった。

 

だから、手を動かしてみる。

 

ネクタルは、極めて重要な存在だ。まず造り出してみる。一旦造り出せば、後は増やすことが難しくない。

 

フラスコが増えていく。

 

ラベルを貼ったフラスコには、作業の中間液が入る。1から7まで。そして、まだ5までしか、液体は満たされていない。しかも、5に入っているのは失敗作だ。

 

5回目の作業が、壁になっている。

 

どうしても上手く行かないのだ。

 

骨をすりつぶして、また粉にする。その間、他の骨を洗浄もする。作業の手が足りないけれど。

 

クーデリアに手伝ってもらうには、少しばかり繊細すぎる作業なので。手伝ってとは、言えないのだ。

 

雑用が出来る存在が、側にいれば良いのだけれど。

 

ちらりと、パメラを見る。

 

最初見た時、この世の破滅のように怖れてしまったロロナだけれど。一週間以上一緒に暮らしてみると、案外怖くないことが分かってきた。というよりも、ステルクの時と同じだ。慣れてきた。

 

一度などは、寝床に侵入されて、目が覚めたらにっこり真横でほほえまれたのだけれど。

 

流石にもう平気だ。

 

脅かされたときは、毎回学習能力無しに、悲鳴を上げてしまうが。

 

「パメラさん」

 

「なあに、ロロナちゃん」

 

「ひょっとして、この作業が何をしているのか、知っているの?」

 

「知ってるわよぉ。 でも、教えちゃ駄目って、アストリッドちゃんに言われてるの」

 

そうだろうと思った。

 

ただ、だからといって、師匠を恨むのは筋違いだ。何よりも、知っていたところで、多分どうにもならないだろう。

 

今回も、5回目の中間液が作れない。

 

ため息をつくと、外に廃液を捨てに行った。試験用の薬剤も、簡単に作れるものではないのだ。

 

時間のロスが大きい。

 

もう一度、参考資料を読み直してみる。

 

四番目の中間液からの加工手順が、極めて難しいのは。その温度調整管理にある。フラスコを直接火に当ててしまうようでは駄目だ。

 

人肌よりだいぶ温かいのだけれど、沸騰したお湯よりは冷たい。

 

そんな温度を、保たなければならないのだ。しかも、一昼夜。

 

温度を測る装置自体は、ある。

 

だが、ぶれが許されるのは十度ほど。一体どうすればよいのだろうと、ロロナは小首をかしげてしまった。

 

この参考資料を書いた人は、どうやって突破したのだろう。

 

見ると、弟子達を交代で寝起きさせて、人海戦術で突破したとある。なるほど、そう言うことか。

 

しかし、クーデリアやリオネラ、イクセルに、徹夜してくれなどと頼むことは出来ない。頼んだところで、失敗されても、怒る資格など無いだろう。

 

一旦中間液を全て片付ける。

 

ついでに、釜から、苗床も出す。苗床は一旦完成さえしてしまえば、冷たいところに保管すれば大丈夫とあるので、問題は無い。

 

片付けが終わると、ロロナは自分の肩を揉みながら、サンライズ食堂に向かった。

 

何か、気晴らしに食べておきたい。

 

途中、クーデリアと会った。サンライズ食堂に向かうところだったらしい。

 

ほっぺに傷跡があった。アーランド戦士としては、傷を見せるのはむしろ誇りになるのだけれど。

 

ロロナは思わず心配してしまった。

 

「どうしたの、くーちゃん! 十字傷なんて」

 

「少し前から、一人で旅人の街道に出向いて修練してるのよ」

 

ぞっとした。

 

あの辺りにいるモンスターの戦闘力は、近くの森とは比較にならない。大丈夫なのだろうか。

 

だが、ロロナの不安を察してか、クーデリアは嘆息する。

 

「大丈夫、エージェントに同行を頼んでるから。 いざというときまでは、手を出さないように言ってるけど」

 

「無理しちゃ駄目だよ」

 

「あんたこそ。 ここしばらく、ずっとアトリエに籠もりっきりじゃない」

 

「えへへー。 どうしても、途中の作業が上手く行かなくて。 それさえどうにかなれば、耐久糧食の作成まで、一気に進められそうなんだけど」

 

サンライズ食堂に入る。

 

この間ステルクが食べていたホーホを注文。そうすると、クーデリアも、同じものを頼んだ。

 

どんと、大きな皿が二つ出てくる。

 

ほかほかのお野菜とお肉、それにたれ。炊いた穀類の香り。

 

庶民のためのジャンクフード扱いのホーホなのに。此処のは本当に美味しそうだ。ただ、滅茶苦茶に量が多い。

 

食べきれるか不安になったけれど。

 

疲れが溜まっていたからか、おなかがとてもすいていたからかは分からないが。食べ始めると、意外や意外。何処にこんなに入るのだろうと自分でも思うくらい、ぱくぱくと食べる事が出来るのだった。

 

クーデリアも、状況は同じ。

 

元々相当な訓練で、自分を追い詰め続けているのだ。

 

食べ物なんて、いくらあっても足りないだろう。

 

「そういえばくーちゃん、あの盗賊のおじさんは、大丈夫かな」

 

「少し前に工場に寄ったけど、立派に働いてるわよ。 ちゃんと食事も出てるし、寝床も用意されてるから、血色も前より良くなってるわ」

 

「そう、それは良かった」

 

あのおじさんが語った身の上話が本当かは、ロロナにもよく分からないけれど。

 

ただ、あの人は、逃げる機会があっても、そうしなかった。

 

嘘は言っていたかも知れないけれど。きっと、これからは、安定した生活ですさんだ心も癒やされていくだろう。

 

むしろ、ロロナは。

 

クーデリアの方が心配だ。

 

食事を終える。

 

イクセルが、おまけだといって、ジュースを出してくれた。

 

「わあ、イクセくん、ありがとー。 これ、何のジュース?」

 

「飲んでみな」

 

「うん!」

 

しらけた目で見ているクーデリア。

 

とりあえず、ジュースを口にする。もの凄く甘ったるい。ただ、のどごしと、後味は悪くない。

 

ちょっとべたべたもした。

 

「これ、何のジュース?」

 

「ミルクの樹液を煮詰めたもんだよ。 この間、街道まで出かける機会があってな」

 

「ああ、なるほど」

 

イクセルは、新しく手に入れた食材を、すぐに使って試したがる。今回のは、試供品扱いと言うことなのだろう。

 

ミルクの樹液は入手が難しい素材ではないし、食材としては割とポピュラーだ。ただ、そのまま飲むのは少し厳しい。だいたいの場合、ある程度加工してからだ。

 

イクセルも、ただ煮詰めただけではないだろう。

 

何をしたのかは、聞かないでおく。企業秘密になるだろうから。

 

「もう少し、甘みを抑えた方が飲みやすいわね」

 

「おう、ありがとう。 ロロナは?」

 

「わたしはこれでもいいよ?」

 

「あんたは本当に甘い物好きね。 虫歯になるわよ」

 

呆れかえったクーデリアに、お小言を言われてしまった。

 

おなかも膨れたし、気分転換も出来た。食堂を出ると、其処でクーデリアと分かれる。まだ、何処かに採集に行く必要はない。

 

それよりも、出来るだけ早く、ネクタルを仕上げなければならなかった。








カタコンベで生き残った盗賊のおじさんは、再就職先を見つけたようです。

まあ奴隷商人に子供売ってるような限界集落よりは、労働力としてちゃんと面倒を見てくれる上に、相応に福祉厚生がしっかりしていて、ちゃんと仕事をしていれば結婚も出来るアーランドの方がまだマシでしょうね。

アーランド人と結婚したらケツにしかれるのは目に見えていますが。

アーランド人の女性と盗賊のおじさんでは戦力がヒグマと蟻くらい違うので。




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