暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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とにかく今回も苦労が絶えない状態です。

ロロナさんも上がった技量をフル活用して課題に挑みます。

それでも壁は高い。

成長しても成長しても先が見えないほどに。






2、ネクタル苦闘

作った灰褐色の液体に、泡をたくさん作り出す欠片を投入。

 

しばらくかき混ぜながら、様子を見ていく。

 

やがて、錬金釜から取り出して、成形。冷えると、少しずつ灰色に近い状態になってきた。

 

触ってみると、とても軽い。

 

早速実験をしてみる。

 

断熱材の向こうで、クーデリアに触ってもらう。ロロナ自身は、その反対側で、魔術によって、熱を起こした。これくらいは、簡単だ。

 

しばらくするが、クーデリアは首を横に振った。

 

「熱は全く伝わらないわ。 冷たいままよ」

 

「良かった、それなら熱も逃げることが無さそうだね」

 

「これ、どういう仕組みなの?」

 

「ええとね、これによると。 断熱材として最も優秀なものは、空気なんだって。 それで、空気をこの中に閉じ込めることで、熱を防ぐんだって」

 

凄い仕組みだねと言うと、クーデリアは肩をすくめた。

 

ひょっとすると、彼女には既存知識なのかもしれない。ただ、ロロナは、新しいことを覚えて、嬉しかった。

 

この断熱材を、二重三重に、フラスコに巻き付ける。

 

柔らかいので、加工は容易だ。その間、ホムには中和剤を作ってもらった。釜があいている時を見計らって、その内ゼッテルを作ってもらうのもいいだろう。

 

フラスコを充分に温めると、此処からだ。

 

第四次中間液を、フラスコに注ぐ。

 

そして、中に、事前に生成していた液体を注ぐ。石灰を中心にして破砕して、其処に一種の酸を混ぜたものだ。

 

フラスコを、完全に断熱材で包んだ後は、何度か混ぜて環境が安定している地下コンテナに。

 

第四次中間液は、まだまだたくさんあるけれど。この先は、今だ一度も成功していない。上手く行けば、丸一日経った後、フラスコ内の液体が透明になるはずなのだが。今までは、ずっと赤黒く濁ってしまっていた。

 

コンテナから出てくると、ソファに腰掛ける。

 

ため息が漏れた。

 

これで駄目だと、正直な話、手の打ちようが無い。

 

一応念のため、二度ほど実験した。

 

フラスコにお湯を入れて、断熱材で包んで、放置してみたのだ。断熱材の効果は抜群で、翌日になってもお湯のままだった。

 

だから、今回も上手く行く。

 

その筈だ。

 

着実に過ぎていく時間が怖い。残り時間はまだまだあるけれど、やはり今回も綱渡りだ。

 

もっと簡単に済ませる方法があれば良いのだけれど。師匠が出てきてくれれば、きっと何もかも全部一発で解決するのに。

 

だが、文句ばかりを言ってはいられない。

 

ホムが釜を洗ってくれていた。非常にこれも手際が良くて、ロロナは横から口を出さなくても大丈夫だ。

 

「マスター、次は何をいたしますか」

 

「じゃあ、ゼッテルを作ってもらおうかな」

 

「分かりました」

 

すぐに動き出すホム。

 

コンテナから、ゼッテルの素材になるマジックグラスを、どっさり取ってくる。今まで採集して、蓄えておいたのだ。

 

レシピを見ながら作業するホム。にこにこしていながらロロナが見ていると、時々とんでも無く辛辣なことを言う。

 

「どうしてマスターは、レシピに擬音を入れるのですか?」

 

「え? その方が、分かり易いからだよ」

 

「わかりにくいです」

 

「そうかな?」

 

天井近くでやりとりを見守っていたパメラが、降りてくる。

 

すっと音もなく移動するので、時々ロロナは心臓が止まりそうになる。やっぱりまだまだ、パメラは怖い。

 

「ロロナちゃんのレシピを幾らか見せてもらったんだけれど、ピューとかぐーるぐーるとか、面白い表現が多いわよねえ」

 

「マスターの言語中枢には問題があるとしか思えません」

 

「酷いよホムちゃん!」

 

「マスターが完全に自作したレシピに到っては、ほぼ解読不能です」

 

多分それは、獣の像のレシピなどのことだろう。

 

他にも最近は、幾つか小さな作業をこなして、新しいアイテムを造り出している。その時には、後で自分で分かるよう、レシピを書いているのだ。

 

そういえば、クーデリアにも、同じようなことを言われた気がする。

 

「うーん、そうなのかなあ」

 

「ロロナちゃんはお馬鹿だけど、とても賢いのよねえ」

 

さらりと、訳が分からないことを言われる。

 

混乱するロロナに、パメラはなおも追加した。

 

「多分、普通の人が筋道立てて到達する終着点に、感覚で到着してしまうのね。 それを、上手に説明できないのよ」

 

「それで、お馬鹿で、賢い、ですか」

 

「何だか酷い事を言われている気がする」

 

「ロロナちゃんは、天才だと思うけれど」

 

あれ。

 

どうしてか、パメラが褒めてくれている。驚いたロロナに、パメラはにんまりと笑みを浮かべてくれる。

 

「でも、やっぱりお馬鹿だわ」

 

そこまで言われると、かなりへこんでしまう。

 

ゼッテルを作り始めたホムを見る限り、作業には問題も無い。師匠は朝から出かけてしまって、帰ってくる気配もないし、食事は作らなくても大丈夫だろう。

 

ただ、ホムを放置する訳にはいかない。

 

相応におなかも空くようだし、子供にとってそれは酷だ。幸い、今はロロナの手が空いているから、食事に取りかかる。せっかくなので、パイの研究を進めておきたい。釜がないけれど、幾つか作っておいた、圧縮パイのレシピを精査する。

 

保存食として作った圧縮パイ。

 

元々のホールパイを、幾つかの手順を経て、掌サイズにまで潰してある。柔らかい食感はその結果失われ、代わりにクッキーのような歯ごたえになっている。ただし、問題も多い。

 

まず、美味しくない。

 

それに、食べると喉が渇いてしまう。

 

だからロロナは、この問題を克服しようと、今研究を進めているのだ。

 

この間、製法を変えて作っておいた三つを口に入れてみる。

 

材料として肉を入れたものは、とにかく硬くて、しかもお肉の旨みをあまり感じる事が出来なかった。

 

レシピ帳に、これは駄目と書く。

 

森キャベツを使ったパイについても、あまり美味しくない。新鮮な森キャベツは柔らかくてとても食べやすいのだけれど。圧縮してしまうと、まるでにんじんか何かの芯を食べているかのようだ。

 

これも駄目。

 

最後に、ミルクをふんだんに使ったパイだが。

 

口に入れてみると、結構行ける。

 

水分はほぼ飛んでしまって硬いけれど。味がかなり柔らかい。これは実のところ、ホールパイにして作ったとき、あまり美味しくないと思ったものだったのだけれど。圧縮すると、結構食べられる。

 

これは、少し改良すれば、ありかも知れない。

 

食べてみて気付いたのだけれど、元からしっかり味がついているパイは圧縮すると良い結果にならない。

 

逆に、元の味が薄い場合は、圧縮するとかなり食べられるようになる。

 

今ので、少し方向性が見えてきた。

 

実際問題、今までの圧縮パイは、元から美味しかったパイを、台無しにしてしまっていた。

 

味を薄めに付けてパイを作れば。圧縮時に、或いはかなり食べられるようになるかも知れない。

 

今まで百を超える圧縮パイを作ったが、これでどうにか先が見えてきた。

 

「マスター、ご昼食はそれで終わりですか?」

 

「んーん、パイは別腹」

 

「そうですか」

 

ホムがおののいていたようだが、それはどうでもいい。とりあえず、昼食を買ってくる。今日はどのみち、第五中間生成液が出来るまで、やる事がないのだ。

 

それならば、これからネクタル漬けにする圧縮パイの品質を上げるべく、レシピを組む。ただそれだけだ。

 

 

 

コンテナに降りたロロナは、大きく嘆息した。

 

どうにか、出来ている。

 

断熱材を取り去ると、フラスコはまだ熱く。そして、第五中間生成液は、嫌みなくらい綺麗に澄んでいた。

 

まだホムは起きてきていない。

 

これから作業をして、一気に第六、第七と、こなしてしまいたいものだ。

 

第六中間生成液は、五番目に比べると、さほど難しくない。

 

というのも、三度ほど蒸留した高純度の水を加えて、かさを増やした後。今度は熱を加えて、三分の一にまで減らすと言うだけだからだ。

 

途中沸騰させてはいけないという制限がつくけれど、それくらいなら充分にコントロール出来る。

 

蒸留水については、とっくの昔に用意もしてある。

 

フラスコから、蒸留水を移す。

 

澄んだ液体同士が混ざり合うと、ぽこぽこと泡だった。内部でどのような変化が起きているか、ロロナには分からないけれど。

 

参考書の記述を信じるならば、これできっと。最終的には、ネクタルが出来るはずだ。

 

火を熾し、フラスコを温めはじめると、ホムが起きてきた。

 

ホムは寝ているときまで無表情で、いわゆる天使のような寝顔というのとは無縁。ロロナと同じベットで寝ているのだけれど。寝相が良いことは良いのだが、寝ているときの無表情ぶりを見ると、少し怖いくらいである。

 

パメラはと言うと、天井板に張り付いて寝ている。

 

下を向いて寝ているのだけれど、寝よだれの類は垂らしていない。幽霊だから、そういうのはないのだろう。

 

「マスター? 何をすれば良いですか?」

 

「そうだねえ。 それじゃあ、朝ご飯を作ってくれる?」

 

「分かりました」

 

昨日分かったことがある。

 

ホムは命令すると、ずっと同じ事を続けてしまう。だから、時々、休憩を入れる意味もあって、終わりが早い作業を入れておいた方が良い。

 

アーランド戦士並みの身体能力と言っても、子供なのだ。無理をさせてはいけない。

 

しばらく、じっとフラスコの様子を眺める。

 

突沸が起きないように、火からはある程度離してある。それが故に、温まるまでは、時間も掛かる。

 

目を離すと、一気に温度が上がるような気がして、怖い。

 

気がつくと、ホムがサンドイッチを差し出してきた。

 

「あり合わせの品ですが、どうぞ」

 

「ホムちゃんは?」

 

「ホムはもう食べました」

 

「そう。 わたしより少し多めに食べるようにして」

 

サンドイッチを頬張りながら、少し火力を調整。

 

小首をかしげるホムに、敢えて説明はしない。アーランド人の道徳を実践しているだけだ。

 

程なく、フラスコの温度がかなり上がって来た。内部の液体も、泡立ちが激しくなってきている。

 

火を一度止めた。

 

かなりの量、蒸気が立ち上っている。

 

参考書を見ると、この過程を終えた後、しばらく冷やす。そして最後に、何種類かの木の実から取り出した液を投入して、終わりだ。

 

ネクタルの原液が出来る。

 

そして、その原液を、最初に作った苗床に入れると。ネクタルは、自動で増え始めるのだ。ゆっくり、ゆっくりと。

 

そしてある程度熟成すれば。人間の傷を治し、ものの腐敗を遅らせる、とても凄い液体に変わるのである。

 

フラスコ内の液体は、冷める速度が遅い。

 

流石に火を止めた後、沸騰からは遠ざかっているけれど。まだかなり激しく泡立っていた。

 

透明であっても、水ではない。

 

それは、この異常な泡立ちからも、よく分かる。

 

壁は越えた。

 

だが、まだ油断は出来ない。最後の段階で投入する液で、何か躓くかも知れない。今のうちに、材料などは揃えておいた方が良いだろう。それに、この異常な泡立ちが正しい現象なのか、確認もしておきたい。

 

参考書をしっかり読んでおく。

 

確かに、第六段階で、非常に泡が立つという記述がある。なるほど、どうやらこれで正しいらしい。

 

また、この辺りになると、臭いも出なくなると言う。

 

あまり臭いはない。

 

念のために、第五段階の中間生成液を、また作っておく。やり方は分かったから、次もどうにかなるはず。

 

手持ち無沙汰にホムが座っているのが見えたので、買い物を頼んだ。

 

リストとお金を渡すと、頷いて、アトリエを出て行く。流石に工場に行かせるわけにもいかないので、買いに行かせたのは日常品だ。

 

フラスコを温めて、断熱材を巻いていると、眠そうに目を擦りながら、部屋から師匠が出てきた。

 

そういえば。

 

師匠の部屋からは、相変わらず生ゴミみたいな臭いが出続けている。まだ、ホムンクルスの研究をしているのだろうか。

 

「どうだ、上手く行っているか-?」

 

「どうにか、なんとかなりそうです」

 

「んー」

 

寝起きの師匠は機嫌が極めて悪い。いわゆる低血圧なのだ。

 

最悪なのは、大きな音などで無理矢理目覚めさせられたとき。師匠は物理的な手段も含めたあらゆる方法で、音の発生源を排除する。

 

一度だったか、近くの工事現場を壊滅させたことがあった。

 

「おはよう、アストリッドちゃん」

 

「パメラ、不肖の弟子の様子は?」

 

「頑張ってるわよお。 何だかほほえましいわあ」

 

「そうかそうか。 それが良いのだ」

 

ソファに座った師匠が、パメラと何か専門用語を使った話を始める。本当にこの幽霊は、生前何者だったのだろう。

 

錬金術師ではないと言っていたけれど。

 

学者なのだろうか。

 

学者が知的な佇まいだなどという幻想は、ロロナには無縁だ。何しろ、有数の錬金術師であるはずのアストリッドの現実を、目の前で見ているからである。それに父はこの国でも上位に入る戦士だが、家では無邪気で子供のようで、威厳なんて欠片もない。母も同じく優れた魔術師だが、家ではロロナ以上ののんびり屋さんだ。

 

凄い人の現実を見ているから、ロロナは夢なんてみない。

 

第五段階の生成液の調合が完成。

 

地下のコンテナに入れてくる。前と全く同じ調合をしているし、これで問題は無いはずだ。

 

アトリエに戻ってくると、第六段階の状況を確認。

 

泡立ちが、だいぶ収まってきている。

 

フラスコに触ると、かなり熱も下がってきていた。

 

これならば、成功と見なして良いだろう。一時はかなり焦った。温度が上がったままになっていたからだ。

 

メモを付け加えておく。

 

これは、或いは。多少の加熱で、充分なのかも知れない。

 

作っておいた、第七段階の生成液に必要な薬剤を混ぜる。フラスコ同士から混ぜるのではなくて、試験管から、硝子棒を伝わせて、慎重に入れる。

 

流石にこういうときに、師匠は脅かしてはこない。

 

一滴。

 

二滴。

 

フラスコの中に、作っておいた液体が混ぜ込まれる。

 

これで上手く行くはず。

 

一ヶ月近く足踏みしたのだ。どうにかなって欲しいと思うけれど。ロロナが願うことは、だいたい上手く行かないような気がする。

 

フラスコの中の液体は、透明なまま。

 

ただし、この作業が終わると、泡立ちが収まるはず。

 

じっと見つめているが、しかし。

 

泡立ちが、収まらない。

 

参考書を見る。温度はこのままで良い筈。しばらく、待てば良いのだろうか。右往左往しているロロナを見ている、アストリッドとパメラが、とても嬉しそうにしているのが、何だか悲しかった。

 

泡立ちが収まってきたのは。

 

ホムが戻ってきた頃。既に、昼をとっくに過ぎていた。

 

数刻は、不安に心をわしづかみにされていた事になる。なんだかげっそりしてしまった。

 

 

 

水にしか見えない、この液体が。

 

ネクタルの原液だ。

 

神々の飲み物にして、不老不死を約束する液体。ロロナはじっと見つめるけれど。液体は液体だ。喋り掛けてくるわけでもないし、いきなり固体にもならない。

 

用意しておいた、苗床に原液を注ぐ。

 

そして、ゆっくり。人肌に温めて、かき混ぜていった。

 

参考書には書いてある。

 

ネクタルは、生き物なのだと。

 

この苗床は、ネクタルのご飯なのだ。だから、出来た後も、時々苗床を足してやらなければならない。

 

苗床がなくてもネクタルは存在し続けるらしいのだけれど。それ以上に品質が上がる事もないそうだ。

 

「で、出来たー」

 

思わず、へたり込んでしまう。

 

これほど気合いを注ぎ込んだ調合は、初めてだ。

 

そして今後は、もっと難しい調合も、どんどん出てくるのだろう。正直胃を痛めそうだけれど。

 

これも、自分で決めたことだ。

 

数日、暗いところに置いておけば、つかえるようになるという事が書いてある。実験を済ませたら、次の作業に掛からなければならない。

 

つまり、耐久糧食の作成だ。

 

コンテナに、たっぷり作ったネクタルを移す。

 

気が抜けてしまっているのか、何度か硝子瓶を落としそうになった。全ての作業が終わった後、自室のベットに無言で移動。

 

そのまま、寝込んでしまった。

 

気がつくと、夜。

 

アトリエに出ると、ホムが夕食を作っていた。

 

小さい体で背伸びして、包丁でお肉を切っている。木箱を持っていくと、ホムはロロナを見上げた。

 

「使って」

 

「ありがとうございます」

 

「わたしも、ちっちゃな頃、これを使ってたの。 師匠ってば、わたしがちっちゃい頃には、もう怠け者だったから、料理もあまりしてくれなかったんだ」

 

「グランドマスターは、確かに怠け癖があるように思えます。 しかし……」

 

ホムが言うには、仕事をしているときには、すごく機敏に動くのだという。どちらが本当のグランドマスターか、よく分からないというのだ。

 

ロロナは、正直なところ。

 

師匠が錬金術をしているところを、見たことが無い。うんと幼い頃には、師匠の部屋に入れてもらった事はあるけれど。

 

最近は、それもないからだ。

 

見ていると、ホムはそこそこに、料理も上手にこなせている。

 

何でもある程度出来るというのは、とても便利だ。それに、師匠が言うには、身体能力も高く作ってあるとかで、採集もこなせるとか。それも一人で。

 

まあ、それは様子を見ながらだ。

 

さっと肉を湯にくぐらせて、火を通す。

 

ロロナが見ていても、特に失敗はしなさそうだ。肉の火加減も、丁度心得ているように思える。

 

小さくあくびをしながら、パイ作りにかかる。

 

レシピを見ながら、小麦粉の分量を調節して。作り置きしてあるミルクの中和剤を準備して。

 

炉に火を入れていると、ホムが裏口から顔を覗かせた。

 

「マスター、できあがりました」

 

「うん、ちょっと待っていてね」

 

炉の中に、パイを投入。

 

意図的に味を薄く作っている圧縮用のものではない。今日のは、そのまま食べるためのホールパイだ。

 

ちょうど良い貝が手に入ったので、貝肉をふんだんに使ったシーフードなパイである。アーランドからかなり南に行くと、幾つかの漁村が点在していて、その辺りから乾燥した貝肉を運んでくる行商人がいるのだ。

 

その中の一人が、昨日来たので、買い込んでおいたのである。

 

貝肉は適切に乾燥させると、かなりもつ。しかも、お湯で戻すと、とても美味しく食べられるので、ロロナも好きだ。

 

脈を測って、炉の中に入れている時間を調整。

 

数え終わった所で、炉からパイを出す。

 

じゅうじゅうと肉汁が音を立てていて、とても美味しそうに仕上がった。

 

「ま、美味しそうなパイねえ」

 

「ひゃあっ!」

 

いきなり、炉からパメラが顔を出したので、思わずパイを取り落としそうになる。幽霊だけあって、流石に何でもありだ。

 

食べるかと聞いてみたが、珍しくパメラは悲しそうに、一瞬だけ眉をひそめる。

 

食べられない、と。

 

それも、そうか。

 

「とりついていいのなら、食べられるのだけれどぉ」

 

「ちょ、やめてください!」

 

「やあねえ、冗談よ」

 

けらけらと笑うパメラだけれど。

 

ふと、気付いてしまう。

 

この人は、どうして幽霊になどなったのだろう。色々ロロナなりに調べて見たのだが、幽霊というのは、余程に強い魔力や意思の力を持った人が、強い執念や未練を残して死んだときに、心だけが残るのだとか。

 

この楽天家で、何でものんびりしている人が。

 

一体、どうしてこの世に留まっているのか。

 

パメラはロロナをからかうばかりで、何も教えてくれない。師匠と時々難しい話をしているが、ロロナには内容も理解できないし、教えてくれもしなかった。

 

とにかく、食事にする。

 

ホムはテーブルマナーもロロナより上で、口の周りを汚したり、粗相をしたりは一切しない。

 

妹がいたら、そういうのも教えてあげたりしたかったのだけれど。

 

そう言う楽しみは、今後一切無縁そうだった。

 

頭もきっとロロナより良いだろう。少なくとも、ロロナの前で、ホムが何か失敗するところは。

 

既に現時点で、思い当たらない。

 

シーフードのパイは、良く出来ていた。貝肉はこりこりしていて、口に入れるとパイ生地との相性が最高である。ちょっと塩味が効いているから、お昼ご飯には最適かも知れない。ただ、少しロロナとしては減点せざるを得ない箇所もある。何種類かの調味料が、上手にかみあっていないのだ。

 

食べながらレシピを出して、調整。

 

次に作る時は、もっと美味しく。パイ作りには、ロロナは妥協しない。

 

「マスター。 この出来でも、気に入らないのですか?」

 

「ホムちゃん、美味しかった?」

 

「正直、マスターが作られる他の料理とは雲泥の差です。 この間食べた市販のパイと比べても、全く遜色がないように思えるのですが」

 

「ありがとう。 でも、好きなものには、妥協したくないからね」

 

師匠は自室を出てこない。

 

ホムによると、出かけてしまっているという。それなら、残しておいても仕方が無い。

 

残ったパイは、隣近所にお裾分けしてしまう。ホムと手分けしてお裾分けが終わると、片付けもすませて。

 

それが終わった後、ロロナはネクタルの様子を見に行った。

 

苗床の液体は、少し様子が変わっている。

 

色が薄くなったというか、何というか。

 

泡立ちはじめているのが分かった。

 

生き物だというネクタルが、苗床を食べているのだろうか。参考書を見てみると、完成したネクタルは、かなり激しく泡立つものなのだという。

 

ならば、これで良いのだろう。

 

数日、時間が出来た。

 

その間に、色々やっておきたい。コンテナの中を調べて、素材の在庫を確認。少しゼッテルの材料が、減ってきていた。

 

今のうちに、採集しておくか。

 

「ホムちゃん、留守番を頼んでいい?」

 

「はい。 いつ頃お戻りですか?」

 

「そうだねえ」

 

ネクタルの方は、どうせ少しの間寝かさなければならない。見ていても仕方が無い。

 

出来たネクタルを使う実験の方は、レシピも出来ている。失敗ばかりしている間に、レシピの整備は終わっていたからだ。

 

後は、ネクタルの現物を使っての実験が全て。此処にいても、出来る事はない。

 

それならば、いっそのこと。

 

「カタコンベに行ってくるから、三日くらいかな」

 

「あら、カタコンベに行くの?」

 

いきなりパメラが、ひょいと天井から顔を出す。

 

ついていきたい、というのだ。

 

しばらく悩んだが。あそこにいたパメラは、危険な場所についても、知っているかも知れない。

 

「分かりました。 今、荷車を準備するので、待っていて貰えますか?」

 

もしも、カタコンベについて知る事が出来たら、有意義だ。

 

ネクタルの研究は今後、大きな意味を持ってくる気がする。余った時間を使って調べてはいるのだが、そうすればそうするほどに不可思議な力を持つ存在である事が分かってくるのだ。

 

今回の耐久糧食作成で、大きな意味を持つだけではない。

 

きっと、何か聞き出せれば、とてもすてきな事につながる。

 

そうロロナは思って。パメラに散々脅かされるのを覚悟の上で、同行を頼んだのだった。








アトリエシリーズの主人公には好物が設定されている事がありますが、時々好物の度が超えているケースがありますね。

ヴィオラートさんの人参やエリーさんのチーズケーキ、ルルアさんのカレーなど。

そしてロロナさんはパイ狂です。

あのアストリッドさんが原作で唯一引いたのが、ロロナさんのパイに対する情熱だったりします。




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