暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
近年では自分でも戦えるアトリエ主人公が多いですね。ライザさんは豪快な蹴り技でモンスターを粉砕しますし、ユミアさんは足につけているスラスターっぽいものもあってサイボーグじみた空中戦をやってのけます。最新作のリアスさんも鞭というよりもガリアンソードに近いものを使って戦う上に、不意打ちでゴーレムにぶん殴られてもすぐに立ち上がってくる超人的タフネスの持ち主です。
ロロナさんの時代は、錬金術師は育たないと其処まで最初から強くは無かったのですが(錬金術師でありながらタンクをこなせたアーシャさんが、イリスなどのRPG主体のアトリエを除くとこの手の戦える錬金術師の最初だったような気も。 前衛型の錬金術師にはユーディーさんもいましたが)。それを反映して、最初のロロナさんはあんまり強くないです。
くーちゃんもそれは同じ。
どうして最初は弱い戦士しか側に付けていないのかも、このプロジェクトの重要な要素となっています。
アーランドの東。
遺跡が広がる西側とは真逆の其処は、歩いて十日ほど掛かる森になっている。此処がかっては荒野だったとは、信じがたい事だが。事実だ。
錬金術師達が栄養剤を使って地面を豊かにし、まずは雑草から。少しずつ木を植えていき、森を作っていったのだ。
今は、地面を掘ればミミズが出てくる。
腐葉土が分厚く積もった、根のしっかり張った森になっている。森の中には路が作られているが、これは此処がアーランド戦士の訓練場でもあるからだ。実際荷車を引いて歩いているロロナは、ずっと視線を感じていた。
此方を見ているのは、きっと狼だろう。
他にもこの森には、何種類かのモンスターがいる。一番多いのはぷにぷにと呼ばれる存在だが。これはまだ、姿を見ていない。
荷車が、また石を踏んだ。
後ろからクーデリアが押してくれる。うんしょうんしょと二人で荷車を引っ張って、やっと石から車輪が抜けた。
「ふう、意外に重労働ね」
「ごめんね、くーちゃん。 手伝ってくれる人が、くーちゃんしかいなくて」
「これくらい平気よ。 どうせ暇だったしね」
そう言いながらも、クーデリアは少し嬉しそうだった。着込んでいるのは上物のシルク服だが、ロロナは知っている。
クーデリアの家は敵が多い。
あの服は、確か要所に鋼線を織り込んでいる、戦闘用のものだ。
それに、今でこそ、手にも顔にも傷はないけれど。昔のクーデリアは、出会う度に傷だらけで、とても痛々しかった。
その傷をロロナに見せないようにしている辺りが、特に。
明らかに本職戦士ではない女の子が二人だけという状況だ。時々すれ違う警備の戦士には、身分証の提示を求められる。
クーデリアが身分証を見せれば、だいたいの戦士は敬礼して通してくれるが。
中には、辺りの事を、懇切丁寧に教えてくれる人もいた。
朝から荷車を引っ張って、夕方に、適切な場所に着く。この辺りは、枯れ木の採取地として知られていて、みんなが薪を拾いに来る場所だ。
ロロナも、たまに足を運ぶ。
「薪を拾えばいいの?」
「うん。 後は、この植物、見た事ある?」
「どれどれ」
ロロナが書き写した絵を見て、クーデリアは頷いた。
特技として、ロロナは模写がある。あまり本格的にはやっていないのだが、何か見たものの特徴を捉えて、絵にするのが得意だ。ただし、あくまで趣味の領域なので、絵描きになれるほどではない。
クーデリアの特技の一つは、記憶力。
今のロロナの絵を見て、すぐに内容を覚えてくれた。
この辺り、二人はとてもかみあっている。
今日は様子見だから、まずは薪拾い。遠くで狼が遠吠えしているが、それくらいは別にロロナも平気だ。
アーランド人なら、子供でも狼くらいは撃退できる。
ましてやこの辺りは、子供用の訓練場にもなっている。ロロナも幼い頃、両親に連れられて、この辺りで狼と戦わされた。
それはおそらく、クーデリアも同じだろう。誰もが最初は、此処で戦いというものを覚えさせられるのだ。
薪を探して拾っている内に、クーデリアが植物を見つけてきてくれた。
荷車を引っ張って、そちらに移動。
確かに、かなり群生している。
これならば、ゼッテルの材料としては、充分かも知れない。状態を見て、摘んでいく。あまり取りすぎると、全部駄目になってしまう。
採った草は、すぐに油紙で包む。
これは、クーデリアが家から持ってきてくれたのだ。ロロナは、油紙の事なんて、思いつきもしなかった。
手際の問題だとは思うのだけれど。まだまだ半人前以下だというのが、思い知らされて悲しい。
「所で、この草はなんて名前なの?」
「マジックグラスだよ。 ただ、あまり質が良いのは育つ条件が難しいらしくて。 みて、茎の辺りが、何だかごわごわしてるでしょ?」
「紙にするっていうことは、一旦分解するんでしょ? 荒いのとっちゃえばいいじゃない」
「そうもいかなくて」
ロロナが調べたところによると、条件が良い所に自生しているマジックグラスは繊維が均一で、特に紙にする芯の部分は、触ると崩れるくらいに柔らかいのだという。或いはそれが、本来のマジックグラスの姿なのかも知れない。
此処に生えているマジックグラスは、自然と人間の脅威に晒されて、頑丈になりすぎている。多分芯の部分も、かなり硬いはずだ。
レシピよりも、相当に薬品の量を増やしていかなければならない可能性が高い。
時間が足りるのか、不安になってくる。
幸い、マジックグラスは相当数が自生している。
これならば、往復しなければならない回数は、ある程度抑えられるかも知れない。更に言うと、マジックグラスは繁殖力が強い植物で、根こそぎにでもしない限り、すぐに空き地に生えてくる。
これも、きっと鍛え抜かれた結果なのだろう。
「今日はこんな所かなあ。 くーちゃん、帰ろう」
「待って」
クーデリアが、ぶら下げている小型の拳銃に手を掛けている。
それだけで、何が起きたのかは、だいたい分かった。
音もなく、忍び寄ってきていた。
十を超える殺気を湛えた目が、此方をうかがっている。この森に、多数生息しているウォルフ、つまり狼だ。
いずれも、子供や駆け出しの訓練用に放たれている者達だが。
逆にいえば、訓練用にもならないようでは話にならないので、品種改良が行われ、攻撃的で何をも怖れない性格になっている。
大きさも相応だ。
どの狼も、成人男性くらいのサイズはある。
ロロナも、荷車を背中に、杖を手に取った。
母から受け継いでいる魔術を増幅するための杖。
戦うのなんて、随分久しぶりだけれど。
どうにかなる。言い聞かせながら、呪文の詠唱を開始。ウォルフは包囲を崩さず、じわじわと迫ってきている。
クーデリアが先に発砲。
ウォルフの足下に着弾。
だが、怯む様子は無い。戦いは、避けられない。
「来るわよ!」
クーデリアが叫ぶ。
同時に、数頭の狼が、同時に躍りかかってきた。
だが、その先頭のウォルフが、いきなり顎を蹴りあげられ、宙に舞う。クーデリアが、相手より早く動いたのだ。
更に旋回しながら、無言で拳銃を連射。
牽制にしかならないが、左右のウォルフの顔面側頭部に命中。若干態勢を崩したウォルフ達が、飛びずさる。
更に、少し遅れて来ていたウォルフ達も、吼えながらクーデリアを囲む。
詠唱を、ロロナは続けた。
「せいっ!」
飛びかかってきたウォルフを、肘鉄で地面に叩き込むクーデリア。
体術を鍛え込んでいると聞いているが、見事な動きだ。小さい分速いという事を最大限に生かしている。
クーデリア自身も、まだ本来の戦闘技術を出せる状態にない。敵の数が多いから、牽制に徹しているだけだ。
周囲を回りながら、二匹が同時にクーデリアに飛びかかる。前後からの、同時攻撃。
しかしクーデリアは身を沈めると、真横に飛びつつ、側転して包囲を抜けた。唖然とするウォルフ達に、中空で引き金を引いて、銃弾の雨を降らせながら、後退。いずれも、毛皮を破るには到らないが、頭に血を上らせる事、更には注意を引きつけることは、完璧にこなしてくれている。
クーデリアの至近。
今の動きに対応していたのが、一匹だけいた。
クーデリアが着地すると同時に、腕に食いつきに掛かる。跳躍してからの動きを、完全に先読みしていたのだ。
狼の噛む力は相当に強い。子供の腕の骨くらいなら、折れ砕ける事もある。
更には、今では殆どいなくなったが。噛まれたことでよく分からない病気を受けて、命を落とす場合もあったらしい。
「遅いっ!」
だが、それでも、クーデリアが上を行く。
素早くもう一つ拳銃を引き抜くと、連射。五発以上の弾丸を浴びた狼が、悲鳴を上げて吹っ飛ばされる。
木を背に、クーデリアが銃を一つ、腰のホルスターにしまった。更に、自然な動作で、リボルバーを動かして、銃弾を装填している。指の動きが非常に速くて、ロロナは感心してしまった。
一匹が、此方に来ようとする。
だが、クーデリアが即応。銃撃して、後ろ足を正確に撃った。鬱陶しそうに跳び上がったウォルフが、クーデリアに向き直り、包囲に加わる。
クーデリアは、六頭の狼に囲まれても、冷静だ。相手は木の周りを回りながら、時々クーデリアに牽制の攻撃を仕掛ける。
しかし、背中から襲ってこないならば余裕とばかりに、クーデリアは対応している。今などは、狼の顎の下を掴むと、放り投げてみせる。
やっぱり訓練しているんだ。
クーデリアが冷静に狼を捌いているのを見て、ロロナは凄いなと思った。実家で訓練している事は、ロロナも聞かされていたのだけれど。もっと小さいとき、遺跡で怖い目にあったときは、ロロナもクーデリアも、闇と恐怖に押し潰されて泣くだけの子供だったのだから。
「ほらほら、もっと来なさい!」
呼吸も乱さず、クーデリアは狼たちを挑発してみせる。
だが、その時。
思わずロロナは、籠の中に入れていた、うにと呼ばれる棘だらけの実を投げつけていた。何かの役に立つかも知れないと思って、来る途中、拾っておいたものだ。
クーデリアの足下。
影からにじるようにして、緑色の存在が近づいているのを、認めたからである。
ぷにぷにと呼ばれる軟体肉食生物だ。
大きさは様々だが、この森にいるのは、人間の半分ほど。
勿論クーデリアの敵にはなり得ないが、狼に囲まれている今、足でも噛まれると面倒である。
うにが直撃したぷにぷには、甲高い悲鳴を上げると、狼たちの足下を抜けるようにして、逃げ去っていった。奇襲を仕掛けようとしていたから、逆に自分が驚かされた事で、戦意を失ってしまったのだろう。
クーデリアは、一瞬気をそらしてしまう。
四頭の狼が、同時に飛びかかる。
だが、身を縮めたクーデリアが、跳躍。木の幹を蹴って跳び上がり、空中で狼たちに乱射。
着地した時には、包囲を抜けていた。
だが、一頭がその時、ついにクーデリアの防御を抜く。
脇腹に、横から飛びつくようにして食いついたのだ。だが、吹っ飛ばされることはなく、踏みとどまりすぐに肘を打ち下ろすクーデリアだが。三度脳天に叩き込まれて、やっとウォルフはクーデリアを離した。
「くーちゃん!」
「大丈夫、こんな程度でやられるほど、やわじゃないわ!」
クーデリアは冷や汗を流しているようだが、それでも余裕があるのが見て取れた。
好機とばかりに飛びかかってくる狼たちを、全ていなしながら、バックステップするクーデリア。
そして、にじり寄ってくる狼たちを前に、なにやら詠唱しながら、銃の背中を撫でている。
切り札を使うつもりなのか。
だが、その時には、ロロナの準備も出来ていた。だから、クーデリアが切り札まで使う必要はない。
ロロナの詠唱が終わる。
頷きあった。
杖を振り上げると、光が宿った。ロロナが使いこなせる、魔術。狼たちの群れに向ける。
両親によると、ロロナは少し魔力が強すぎるので、制御はむしろしない方が良い。単純に、魔力を放出して、ぶつける方が有用だという。
言われるままに訓練をして。
岩を砕いたとき、両親の言うことが本当だったと、実感する事が出来た。
術式の最後の一節を叫びながら、杖を向ける。
「砕け、光の奔流! エーテル、ライトっ!」
狼たちが、ようやく此方に気付いたときには。
白光が、狼たちの群れを撃滅していた。爆裂する光が、人間大の狼の群れを薙ぎ払い、吹き飛ばす。
鋭い悲鳴。
どうやら、クーデリアが切り札を出す必要は無さそうだった。
吹っ飛んだ六頭の狼は、それぞれずたずたに傷ついた体を引きずって、悲鳴を上げながら逃げはじめる。敵の背中に銃口を向けたクーデリアは、小さくため息をついた。
「まあいいわ。 逃がしてあげる」
「くーちゃん! 平気!?」
「あんたこそ!」
「わたしは何ともないよ。 くーちゃんが守ってくれたもん」
魔術は、日常的に使っている。ロロナは体が小さいから、他の人よりも弱い力を補うために、色々工夫している。
その一つが、魔術だ。
今も、腕力を強化するのにも、脚力を強化するのにも。魔術を利用している。
ただし、その分頭の回転が鈍りがちなのだけれど。
クーデリアが戻ってくる。
腰を下ろした彼女に、上着を巻くってもらう。白い肌の脇腹に、青黒い痣が出来ていた。このくらいなら、二日もすれば直るだろう。ただし、一応手当はしておく必要がある。持ってきた傷薬を塗る。
ひんやりした傷薬を塗っているとき、一瞬だけ、クーデリアは眉をひそめた。結構痛かったに違いない。
クーデリアは、武闘派で鳴らした両親の子で、ロロナと同じ。戦士として育った一族の末裔だ。
この程度の事で、どうにかなる筈もない。
「くーちゃん、凄く強くなったね」
「まだまだよ。 うちにいるエージェント達の誰にもかなわないもの」
「うわ、凄い人達が集まってるんだね」
「凄いもんですか。 あたしが弱いのよ。 あんたと同じ。 あたしなんて、半人前以下なんだから」
悔しそうに呻くクーデリア。
なんでかは、ロロナには分からない。
クーデリアは勇敢に戦って、詠唱中のロロナには、結局一頭も敵を近づけさせなかったのだ。
前衛としての仕事を、完璧にこなした。
半人前以下のものか。
「もう日が暮れるわ」
日が暮れても、まだもたついていると、管理の戦士達に何を言われるか分からない。
此処で野宿するにしても、国が決めているキャンプスペースにいかないと、後で散々怒られるものなのだ。
荷車を引いて、帰ることにする。
今からなら、夜のとばりが空を覆う頃には。アトリエに帰り着くことが出来るはずだ。
「ねえ、ロロナ」
「どうしたの?」
「これからも、こんな風に採集に出るんでしょう?」
「そうだよ。 みんなと別れたくないから」
師匠が、少しでも働いてくれれば。こんな試験、簡単に突破できるはずなのに。
それはロロナにさえ分かっていることだけれど。もう師匠については諦めているから、何も言わない。
あの人には、きっと。
神様がいたとしても、言うことを聞かせることなんて、出来ないだろう。
それに、錬金術師としてやっていくことは、ロロナにとっては道筋だ。
いきなり一年も早く、一人前として扱われることになってしまって困惑はしているけれど。
今では、少しずつ、心も落ち着いてきていた。
そうと、クーデリアは一言だけ言った。傷が痛むのかなとロロナは思ったけれど。傷を気にしている様子は無いし、きっと違うだろう。
「さっきの、一匹くらいは仕留めたかったわね」
「そうだね。 晩ご飯にはなったよね」
「そうそう。 あんた、生活資金は大丈夫?」
「師匠がね、生活費だけは出してくれるって。 だから、気にしなくても、大丈夫だよ」
狼の捌きかた位は、ロロナだって知っている。アーランド人だったら、子供でもこなせるていどの事だ。
確かにクーデリアが言うように、一匹くらいは仕留めておけば。今日の夕食代は、浮いたかも知れない。
きっと師匠も、喜んで食べてくれただろう。
だけれども。
今日は、もう疲れた。狼を血抜きして、皮を剥いで、肉を切り分けて。分別して、持ち帰る余裕はない。
星が出ることに、アーランドの城門前についた。
見張りに立っている戦士達は、ロロナとクーデリアを見て、遠慮無く笑った。出かけるときに、どこへ出るかは書かなければならない。
近くの森に出かけていたというのは、彼らも知っているのだ。そして、戦闘の痕跡も、即座に見つけた。
彼らくらいの熟練者になれば、何と戦ったのかも、どれぐらい苦労したかも、即座に見抜けるのだろう。だから、笑ったのだ。
苦笑いするロロナ。
だが、クーデリアは。
本当に悔しそうに、唇を噛んでいた。
「まあ、本職の戦士じゃないんだ。 しかたねえよなあ」
「次は護衛に本職を雇いな」
言い返せないのだから、仕方が無い。
街に入ると、クーデリアは帰ると言い残して、荷車の脇を離れた。きっと、今の言葉、かなり悔しかったのだろう。
クーデリアを悲しませないためにも。
ロロナは、少しは強くならなければならなかった。
この過酷なアーランドでは、ロロナもくーちゃんも今はひよっこのルーキーに過ぎません。
今はその辺の戦士にも及ばないのです。