暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
ネクタルさえ出来てしまえば、完成させるのは、難しくなかった。何しろ、この日のために、ずっと準備していたのだから。
ロロナは粛々と、耐久糧食の完成にとりかかった。
まず、味を薄めに伸ばした圧縮パイを作る。
これに関しては、もちが良い、蜂蜜をふんだんに含んだパイを使用する。ただし、最初に味を意図的に薄くしたホールパイを用いて、これを圧縮することで、味を調整するのだ。
その後、ボウル一杯分程度に取ったネクタルに、中和剤を入れ。これを、低温で、釜によってかき混ぜる。
中和剤はミルクを用いて、なおかつ魔力をかなり強めに。
ポイントは、圧縮パイを作るときと同じ中和剤を用いる事だ。
つまり、パイと同じ中和剤をネクタルに入れることで、親和性を強くするのである。
そして、ある程度低温でじっくり煮詰めたところで、パイを満を持して投入。
ネクタルは一度出来てしまうと、超高温で沸騰させて長い間煮込みでもしない限り、効果がなくならないことが、既に分かっている。
更に言うと、嫌みなほど無害なことも。
植物が異常な反応を見せていたが、あれは今は考えないことにする。少なくともロロナの背中から羽だの触手だのが生えることはなかった。前より妙に魔力が強くなったような気がするが、それ以降何度か実験的にネクタルを飲んでも、同じような効果は発生しなかった。
たっぷりパイがネクタルを吸ったところで、これを天日で乾かす。
それで、できあがりである。
これを、ゼッテルで包む。
包むゼッテルは、水を吸わないように調整したものを用いる。油紙を使うと、パイがまずくなるので、ゼッテル。それも、先ほどまでネクタルに入れたのと、同じ中和剤を用いて作ったゼッテルを使う。
こうすることで、ゼッテルそのものも保ちが良くなるのだ。
ゼッテルでは衝撃に弱いので、最後に包んだ圧縮パイを木箱に入れて、完成である。まあ、衝撃に弱いと言っても、包み紙は工夫している。最後にのり付けもしているから、そこそこにしっかりした造りだ。
こうして、美味しくてながもちする、圧縮パイの完成だ。
まだ日にちが残っているが、その半分以上を、これより実験に使う。出来たものを、過酷な環境に放置して、状況を観察するのだ。
ネクタルは有り余るほど出来ている。
圧縮パイを大量に作って、それをゼッテルに包み、なおかつ木箱に詰めて。
直射日光を浴びる場所。
乾燥した場所。
逆に、湿っていて、すぐにお肉が傷んでしまうような場所。
などなどの場所に、順番に放置していく。
普通だったら、二日ともたない過酷な環境。場合によっては、ロロナは魔法陣を書いて、意図的に真夏並の気温や、砂漠並みの乾燥、逆に高温低温の寒暖差を造り出した。
クーデリアはと言うと、実験を時々手伝ってくれたが、それ以外は屋敷で訓練に励んでいるらしい。
今年中に、半人前を脱出するのだと、意気込んでいた。
既に四回目の課題。つまり、最初に課題を始めてから、一年が経過しようとしている。来年になって少しすれば、ロロナもクーデリアも十五。確かに、一人前になっていなければ、恥ずかしい年ではあった。
クーデリアは凄まじい努力を続けて、大嫌いな兄に実力で勝った。ロロナを何度も、命がけで助けてくれた。護衛としてついてきてくれている採取地で、クーデリアがいなければ、一体何回死んでいたことだろう。
だが、それでもクーデリアの環境が改善されたという話は聞いていない。
ロロナが頑張って、少しでも友人の苦境を、改善しなければならないのだ。クーデリアだけの努力では、彼女の環境が良くなるとは、とても思えない。
最初に、耐熱実験。
砂漠並みの環境に放置した木箱を開けてみる。
ゼッテル詰めした掌大の圧縮パイ。ゼッテルを剥がしてみると、かなり熱くなっていた。
しばらく躊躇したが。
それでも、自分の作ったネクタルを信じる。
口に入れてみる。
目をつぶって、飲み込んだ。
大丈夫。食べられる。痛んでいない。
ゼッテルに数字を書いて、更に数日の実験を行う。低温はどうか。こちらも、大丈夫だ。
中和剤によって強く親和したネクタルとパイは、非常に強力な品質保持効果の中にある。特にネクタルは、ちょっとやそっとのことでは、壊れそうにない。
更に言えば、アルコールの特性も持っているネクタルに漬けることで、圧縮パイがとてもまろやかで食べやすくなっている。事前のもくろみ通り、食べても口の中が乾かないことが、とても大きな意味も持っている。
以前の圧縮パイはとにかくぱさついて、食べると口の中が乾いてしまった。つまり、水とセットにしなければならなかったのだ。
今回のは、違う。
水を飛ばさないよう工夫したゼッテルで包むことで、しっとりとした食感を維持している。
なおかつ、その水分はネクタルだ。
食べた後は、力もわいてくる。それも、明確に分かるほどに。
パイ自体も、ホールパイを圧縮しているから、栄養満点。これならば、歴戦の勇者達も、二つ三つで満足できるはずだ。
数日は、味の改良と、過酷な実験に費やした。
今回は、課題の完成が早かったから。実験の時間を多く取ることが出来た。ネクタルも、最初につくった分に時々苗床を足すことで、品質を維持できているのが分かる。これなら、きっと行ける。
七日目で、耐熱実験を終了。
荷駄とはいえど、これほど過酷な環境に、補給物資を放置し続ける事はまずない。途中からは木箱から出して、野ざらしで砂漠並みの環境に晒したのだけれども。それでも、まるで品質が変わらなかった。
この様子だと、ゼッテルを破いてしまわない限り大丈夫だろう。生のまま晒すと、流石にありさんたちの餌食になってしまうから、ロロナとしてもお勧めは出来ない。
低温実験も、十日目でクリア。
凍らせても平気。ただし、包み紙のゼッテルが痛むのが問題だ。ぼろぼろになってしまう。
ただ、木箱の中に入れておくことで、過酷な環境をある程度は緩和できる。これならば、想定よりも長い間、保つはずだ。
耐久実験も行う。
ゼッテル自体が破けないように、形状を工夫するためだ。
投げてぶつけたり、木箱を激しくシェイクしたり。ホムに手伝ってもらって、色々やる。
ゼッテル自体は、かなり頑強に作る事が出来るようになってきているので、後は破けないようにすれば良い。
それと同時に、湿気や不潔な環境における実験も繰り返した。
少なくとも、缶詰よりタフでなければ、作った意味がないのだ。缶詰の最大の弱点は、衝撃に弱いことにある。缶がすぐ駄目になってしまうのだ。それくらいは、カバーできなくては。
ホムに木箱をシェイクさせてみる。腕力は、ロロナよりも強いかも知れない。まだ幼い見かけだが、アストリッドが身体能力ではロロナより上だと言っているだけの事はある。充分に、木箱を振り回すことが出来る。
「マスター、これをいつまで続けるのですか」
「交代でしばらくやってみよう」
そういえば、缶詰の弱点は、重いという事もある。
木箱を振り回して思ったが、この耐久糧食には、とても軽いという利点もあった。上手く完成すれば、戦場にいる人々に、力を与えられるはずだ。
後は、ありさんをはじめとする、虫たちをどう避けるか。
これは、いっそ木箱を利用した方が良いかもしれない。
強い魔力を発する事で、ありさんは追い払う事が出来る。これは虱や蚤だらけのシーツで寝る時や、野外で休むときに、アーランド人が使うテクニックだ。ゼッテルに極限まで強く魔力充填した中和剤を用いる事で、虫除けの結界を作り出す事が出来る。これを木箱に張れば、ありさんは多分寄ってこない。
実際に耐久糧食を作るよりもかなり早く、時間が過ぎていく。
ただしロロナは、これなら実験の全てをクリアできると、確信していた。
期日まで十三日ほどを残して、ロロナは完成した耐久糧食を納品した。
かなりの量がある。ついでに、つくった木箱も納品したのは、これも不可欠だと思ったからである。
どんなに酷暑や湿度に耐えても、むしによる食害はどうにも出来ないからだ。
いずれの耐久糧食も、実験をクリアした。
ネクタルの性能が、それだけ高いという事である。やっぱり、今でもネクタルによって、カタコンベ周辺の植物が元気すぎる状態になっている事実は、不安だ。あんなものを食品に混ぜて大丈夫なのか、怖いとも思う。
だが、ロロナは。実験の過程で、散々圧縮パイを口に入れた。無責任なものを、納品はしていない。
食べてみて分かるが、これは害のあるものではない。少なくとも、食べた人から触手が生えたり、目が三つになったり、背中から羽が出たり、火を吐いたりできるようにはならない。
それに、パメラも言っていた。
ネクタルはこの地域一帯の地面にしみこんでいると。つまり、今まで口にしていた食べ物全てに、希釈されたネクタルが含まれているという事だ。多少、それが濃くなっている、と言うことなのである。
荷車一杯の耐久糧食を、王宮の受付で引き渡す。
マニュアルも、例のごとくクーデリアと一緒に書いた。ロロナだけでは、相変わらず擬音だらけになってしまうからだ。何度文章を精査したか分からない。クーデリアは、マニュアルを書くときに、言ったものだ。
「錬金術は進歩してるのに、これだけは駄目ね、あんたは」
「うう、面目ないです……」
やりとりを、頭の中で、再現できる。
悲しいけれど。ロロナの不得意分野なのだろう。何というか、人に説明するときは感覚でやってしまうのだ。
受付に来ていたステルクが、さっそく木箱の中から一つを取り出す。包んでいるゼッテルを破いて口に入れて、驚いた様子で顔を上げた。
「これは、食べやすいな」
「はい。 自分でも驚くくらいに、美味しく仕上がりました」
「ふむ……」
ステルクが嬉しそうにするのを見て、ロロナも嬉しくなった。
勿論、ステルクが食べやすいと言ってくれているのは、缶詰に比べての話だろう。これ自体は、少し美味しくて、喉が渇かないお菓子、くらいの味なのだ。ただ、栄養に関しては、自信がある。
いつの間にか来ていたエスティも、美味しそうに食べてくれた。自分が作ったものが、人を喜ばせる光景は、とても気持ちが良い。イクセルも、こんな光景が見たいから、料理人をしているのだろうか。
「もしこれが兵糧として正式採用されたら、戦士達の士気はあがるわねえ」
「缶詰の方はどうするか」
「工場の生産ラインを切り替えれば済むだけの事よ」
「それもそうだ。 金属をより有効活用する方向へシフトすれば良い」
いつの間にか、騎士達が何名か来て、品評会を始めていた。みんな絶賛してくれたので、ロロナは恥ずかしくて恐縮してしまう。
慌てているロロナを見て、エスティが助け船を出してくれた。
「後はやっておくから。 マニュアルちょうだい」
「はい、此方になります」
「へえ。 実験も、しっかりやってるのね」
ぱらぱらとマニュアルを見ながら、エスティが喜んでくれたので。ロロナも、安心して、アトリエに戻る事が出来た。
これなら、今回は合格で、間違いないかも知れない。だが、油断は禁物だ。これから数日、念のために、もう少し自分でも実験をしておいた方が良いだろう。
ふと、王宮を出るときに、気付く。
木箱を運んでいる、小さな姿。何だかホムに似ているような気がした。メイド服を着込んでいるから、王宮で働いているのだろうけれど。
たまに、天才的な素質を持つ子が、幼いうちから働くことはあるとか聞いている。確か今の王様もそうだ。七歳の頃には戦場に出て、初陣で歴戦の戦士達に混じって武勲を上げたのだとか。
しかし、そう言う子なのだろうか。
アーランドは狭い。
天才的な素質を持つ子供が出れば、どうしても噂になる。ロロナも、クーデリアという事情通が側にいるから、耳に入れるはずだ。そんな話は聞いていない。
アトリエに戻る。
その時、ある可能性に思い当たったが。
しかし、頭を振って、その可能性を追い払った。確か師匠は、王宮のことを行くのも嫌だと言っていたはず。あの面倒くさがり屋の師匠が、わざわざ王宮のために、苦労をするだろうか。
アトリエに戻ると、ホムが掃除を済ませてくれていた。
「マスター、用件は終わりましたか?」
「うん。 これからご飯を作ろうね」
今日は、圧縮したのではない、普通のパイだ。お肉をふんだんに使った、食べて元気が出る奴にしよう。
そう思ったロロナは、レシピを引っ張り出す。
ここのところ圧縮パイばかり作っていたから、目分量はまず間違えると思ったからである。
生地をこねていると、師匠が部屋から出てきた。
眠そうにあくびをする。
そして。
部屋からは。相も変わらず、あの生ゴミのような異臭が漂い来ていた。
プロジェクトの進捗会議が行われる地下室では。既に人員が集まっていた。
最後に部屋に入ったステルクは。テーブルの上に、山積みにされた、圧縮パイを見やる。既にレポートは展開されていて、ステルクが着席すると、すぐ会議が始まった。
腕組みした王の前で、眼鏡を直すメリオダス大臣。
珍しく、喜んでいるのが見て取れた。
「これは、予想以上の成果物です。 王宮の魔術師達を動員して耐久実験を行いましたが、長期の荷駄に余裕を持って耐え抜くと報告が来ています。 そればかりか、食べる事によって、著しく体力を取り戻させる力もある事が、ほぼ確実であるとか」
「うむ、素晴らしい」
「味の方は市販の菓子程度ですが、現在の缶詰とは雲泥の差です。 木箱とセットで運用しなければならないのが少々面倒ではありますが、今までの缶詰も、木箱に詰めて運んでいましたので、なんら問題はありません。 しかも木箱には、虫除けの処置まで施してあります。 多少包装が破けても、滅多な事では痛みませんし、食べられない状態にはならないでしょう」
本来、頑丈で持ち運びしやすく、なおかつながもちするという筈だった缶詰なのに。現実に運用してみると、振動させないよう傷つけないよう細心の注意を払わなければならなかった。
その上、多少改善してきたとはいえ、味が酷くて、戦士達の士気を著しく削いできたのだ。
ステルクも、缶詰には良い印象がない。
もしもこれが大規模採用されれば、戦場における糧食の概念が一変するだろう。
「大量生産は可能か?」
「レシピを見る限りは、不可能ではないでしょう。 ネクタルの原液さえ入手できれば問題は無いかと。 最悪の場合、ロロナに提出させれば大丈夫でありましょう」
「うむ。 それでは、早速実行に移れ。 工場のライン切り替え後は、不足している物資の生産に当たらせよ」
「ははっ……」
王の決断は早い。
というよりも、実際には出来レースだ。
この会議の少し前から、ロロナが作っている圧縮パイのネクタル漬けが、想像以上の品質である事は、既に分かっていた。
王とメリオダスは事前に協議を重ねており、ステルクも最高幹部の一人として、何度か会議に参加した。
工場関係者とも、連携が取れている。
今回のこの決定は、プロジェクト参加者への意思表示に過ぎない。
ただ、会議はこれだけでは終わらない。
「こうなると、次の課題では、目標を一つスキップしますか」
提案したのは、ライアンだ。
実のところ、次の課題は、ある地域にいるモンスターを駆除する事が想定されていた。勿論ロロナだけにやらせる内容ではない。リミッターを一段階解除したステルクが同行するほか、アーランド騎士団から精鋭を十名ほど募る予定だった。
その後、歴代の錬金術師達がやっていたように、栄養剤を用いて土地を緑化。一部を耕地にして、人口を十年単位で増やす予定だったのだが。
まずモンスターの駆除を先行して騎士団だけで実施。栄養剤の作成を、ロロナにやらせる方向で良いのではないのか。
そう、ライアンは言うのである。
ステルクもそれには賛成だ。ロロナに実戦経験を積ませるのも目的の一つだったのだが、今回の成果を見る限り、此方の予想よりも成長がはるかに早い。このまま課題をこなさせていけば、今後は前倒しでプロジェクトを進めることが出来るはずだ。
「良い案だと思います。 ついでに、ホムンクルスの実戦投入も行いましょう」
エスティがそれに追加で提案。
アストリッドが、眼鏡を直した。
既に七体のホムンクルスがアストリッドによって納品され、いずれもが戦闘訓練を受け始めている。
全員が幼い女の子の姿をしているのがステルクには気になるが、いずれにしても、歴戦のアーランド戦士に匹敵する実力があるとか。
あまりホムンクルスには良い顔をしない戦士も多い。
過酷な環境の中、アーランドを支えてきたと自負する戦士達にとって、人工的に作られたホムンクルスが活躍するのは、確かに面白くないだろう。だが、現実問題として、今の時代は人間が足りなさすぎるのだ。歴戦の使い手も、数が著しく足りていない。しかも、どうしても、年々消耗する。
アーランドをプロジェクト通り発展させるには、歴戦の使い手に匹敵する武力が、今よりもずっと多く必要になってくる。
今のうちに、ホムンクルス達の実力をアピールする必要があるだろう。それにステルクも、接していて思うのだ。ホムンクルスとはいえ、出自が違うだけで人間。ステルクの顔をみて怖がるホムンクルスもいた。つまり、普通の人間と、同じ反応だ。
それに、アーランド戦士は、相手の実力を認めることが出来る。ホムンクルスが活躍を見せれば、戦士達も態度を軟化させるだろう。
「アストリッドよ、行けるか」
「問題ありませんが、最低条件として私も同行します。 問題が発生した場合は、専門家が側にいた方が良いでしょう」
「うむ。 では討伐の実施を前倒しする。 その計画を悟らせないように、年末には大規模なイベントを行っておけ。 そうさな、キャベツの収穫競争かなにかで良いだろう」
そういえば、ここのところ森のキャベツが記録的な豊作だという。
王が言うとおり、年末の祭にあわせて、大量収穫しておけば、それでかなりアーランドの民達は喜ぶだろう。
生活の足しになるからだ。
工場で作っている食品では、どうしても天然物に味が劣る。畑での収穫に限界がある現状、こういったイベントは、皆が喜ぶ。
一方で、傭兵として少数の戦士がよそに赴くなら兎も角、近場での大規模討伐作戦は、民が不安になる。
そういった不安を取り除くため、視線をそらすことも、また必要なのだ。
他の国ではごまかしが利かないかも知れないが。この国の民は、強い分単純な者が多いのである。
その後は、プロジェクトMの進捗について、話がシフトした。
アストリッドによると、完成体ホムンクルスは予定通り来年二月に仕上がる。それまでに、合計十二体のホムンクルスを納品できるという。
今いるものと会わせて十九体。
完成体が予定通り納品されれば、二十体か。
現在、ベテランのアーランド戦士のうち、一線級と言える実力者は四千人ほど。このうち、アーランド近辺で即座に動ける人員が五百人程度である。他は各地で傭兵働きをしていたり、国境での警備、危険地帯の巡回や、村々の間を回っての警邏などに当たっている。そして戦士は消耗品だ。一人前になった戦士が毎年加わる一方で、戦死したり負傷したりで、人数は増えたり減ったり。かといって、戦士を温存している余裕など無い。国家軍事力級と言われる実力者は数名しかおらず、其処まで到達できる戦士は滅多にいない。
平和なのは、アーランドの王都近辺だけ。
その周囲は、いまだ修羅がなお怖れる、人外の地も多いのだ。
つまり二十人が追加されれば、大きな意味がある。
今後増産計画を進めていけば、一線級のアーランド戦士を倍増させることも不可能ではないだろう。
「良い成果だ。 今後も計画を続行するように」
「御意」
言葉短く、アストリッドが着席する。
その後は、プロジェクトの進捗を全体で確認し。そして敬礼をかわして、会議を終えた。
地下室をぞろぞろ出て行く皆。クーデリアとフォイエルバッハ卿は、今回も声を掛けるどころか、視線さえ合わせない。
ステルクはロロナも心配だが。クーデリアも見ていて不安になる。
この間フォイエルバッハ家に仕えているエージェントのアルフレッドと話したのだが、既にクーデリアは一人前と言って良い実力に到達しているという。
だが、フォイエルバッハ卿は相変わらず頑なな態度を崩さない。
ステルクも、クーデリアとロロナに共通する過酷な背景については知っている。このプロジェクトで、重要なポジションにいるのだから当然だ。
だが、それ以上の何かがあるように思えてならない。
何か理由があるのだろうとは想像がつく。あの男は計算が出来る人間だ。感情にまかせて、プロジェクトの重要人物を冷遇しないだろう。
或いは。
その計算さえ上回るほど、過酷な理由があるのか。
クーデリアの隣に行くと、彼女はステルクに、不満げな声をぶつけてきた。
「何よ」
「怪我を増やしたりはしていないか」
「平気よ。 ロロナに心配させるわけにはいかないし、これ以上もたついてもいられないしね」
「本当にロロナ君が好きなのだな」
クーデリアは言うまでも無いとばかりに、鼻を鳴らした。
いや、本当にそうか。
ステルクも、今回のプロジェクトの全てを知っているわけではない。接していて、ロロナとクーデリアには、何か友情の枠を超えたものを感じるのだ。
「一つ聞きたいのだけれど。 騎士団の寮を借りることは可能かしらね」
「一人暮らしをするつもりか」
「そうよ。 もう少し実力がついたら、だけど」
良いだろうと、ステルクは応えた。
この子は自立心も強い。今後は或いは、社会的に一人前として扱うのも悪くはない。ましてあの酷薄な親から離れたいというのなら。ステルクとしては、反対はしない。
外に出ると、太陽がまぶしい。
だいぶ日が落ちるのが早くなってきたが。
それでも、外はまばゆい光に満ちていた。
(続)
くーちゃんのロロナに対する感情は、愛というよりは比翼に対するものですね。
どっちもどっちを家族と考えているのですが、それには色々と重い理由があるのです。
最初GLのタグをつけましたが、考えて見れば違うのですぐに外しました。
世の中にはそういう関係もあるのです。
いずれにしても超強力なレーションが完成です。これは後々、アーランドにとって大きな力になるのです。
感想評価などよろしくお願いいたします。励みになります。