暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ 作:dwwyakata@2024
キャベツ祭はあるにはありますが、参加した事だけです。
本作のロロナさんはクソ忙しいので、次の課題に備えて鍛練と準備を欠かせないのです。
比較的課題が緩い原作と違って、本作はちょっとロロナさんのおかれている状況がとても厳しいのです。
十日以上の余暇を、ロロナはしっかり使った。
休んだのは一日だけ。それ以降は、今までに試していなかった技法を使って錬金術をしたり。或いは、不足している素材を集めたりで、毎日とても忙しかった。
年末にはちょっとしたお祭りがあった。
キャベツを森に行って集めてくる、というものだ。
二人一緒で参加するのだがけれど。クーデリアは参加せず、結局ロロナはリオネラと組んで、森の中で手を泥だらけにしながら、走り回ることになった。
リオネラは怪訝そうにしていたが。
これは大事な、食費の節約だ。
冬とは言え、森の中は温かい。地方によっては、冬が極めて過酷な気候になるらしいのだけれど。アーランドはきっと、何かしらの理由で、冬が温暖なのだろう。冬はむしろ、若くて柔らかいキャベツがたくさん採れる時期なのである。
事故が起きないように、森の中の狼や他のモンスターは、既に巡回の手によって保護地に追い込まれている。
祭に参加する人達は、かなりたくさん森の中に入り込んできていた。みんな森には親しんでいる。歩き方も、知っている。
ロロナの強みは、若い事くらいしかない。
幸い今回は、本職の戦士達が殆ど見当たらない。それだけが救いかも知れなかった。
「りおちゃん、こっちだよ!」
「ほら、急げ!」
「食費を浮かせるチャンスよ!」
「う、うん!」
ぬいぐるみ達に手を引かれるようにして、リオネラは必死についてくる。
森の中で、クーデリアを見かけた。彼女はロロナと目が合うと、さっさと行くように、視線で促してきた。
そういうことか。
きっと、労働者階級の気晴らし、或いはまだ一人前ではない戦士達や、魔術師達や市民が楽しめるようにと、戦士達が企画したことなのだろう。
クーデリアは、今回は護衛側、というわけだ。
森の中で、キャベツがたくさんある穴場もあるけれど。だいたい、そういう所は、黒山のように人が群がっていて、既に対処できない状態だった。
「まいったなあ。 もう駄目そうだよ」
「おーい、こっちだ!」
ホロホロが手を振っている。
リオネラと一緒に行くと、かなり大きめの群生地が。リオネラと一緒に、掘り返して籠に放り込む。
一位は採れそうにないけれど。
今回は、収穫したキャベツを持ち帰って良いというルールだ。これだけ立派なキャベツなら、何日分の食糧になるか分からない。さっそく帰ったら、パイにしてホムにも食べさせてあげたかった。
リオネラは足首が細くて、とても女の子らしい体つきをしているけれど。
籠を背負って立ち上がると、それなりにしっかり形になっている。ここしばらく、外を随分歩いたから、だろうか。
結局、森を知り尽くしているおじさまおばさま達が、優勝どころか上位を総なめしていったけれど。
悔しくはなかった。
これだけ、森で新鮮なキャベツを手に入れることが出来れば充分だ。
それに、こんなにキャベツが豊作だと、ある程度間引かないと来年に響いてしまうはず。森のためにもなる。
「アトリエに戻ったら、パイを作ろうね」
「お、キャベツもパイに出来るのか」
「リオネラ、良い機会よ。 教わっておきなさい」
「ロロナちゃん、いいの……?」
こわごわ聞いてくるリオネラだけれど。ロロナとしては、嫌がる理由がない。
リオネラとはもっと仲良くなっていきたい。それに、リオネラには、他の人達とも、仲良くして欲しいのだ。
アトリエに戻ると、使ってしまうキャベツ以外はコンテナに入れて、低温保存の状態にする。
キャベツを置いた隣には、ネクタルの原液。
ネクタルはまだかなり余っている。
数日前、王宮からステルクが来て、ネクタルの原液が欲しいと言ってきたので、渡した。それでも、まだまだ余っている。しかも、苗床を足したので、またしばらくすれば、つかえるようになるだろう。
このネクタルが、恐ろしい効果をもたらすかも知れない事については、今は考えないようにしている。
次の課題が発表されるまで、日も無いはず。
今更、余計な悩みを抱えている余裕は、ないのだ。
キャベツをふたたま抱えて、台所に。
まず真ん中から割って、その後芯を取る。芯は刻んだ後、庭に埋めておく。庭には雑草が生えているけれど、その内ちゃんと土を作って、野菜でも育てたい。そのためには、栄養があった方が良い。
柔らかい葉はきちんと洗っておく。
あおむしは収穫するときに捕ったけれど。あおむしが食べた葉は味が落ちる。一枚剥くと中には綺麗な葉がみっしり入っているので、それは問題なく食べられる。ただ、野外にあった植物なので、きちんと洗っておかないと。
ロロナは平気だけれど。
リオネラは、おなかにむしが沸くかも知れない。
アーランド人はその程度でどうにかなるほど柔ではないけれど。外から来ているリオネラの胃袋に、同じ能力を期待するのは酷だろう。
その後は、二人で葉をきざんだ。
まだ若い葉だから、甘い香りがする。
きざみ終えると同時に、パイの生地を出す。小麦粉とミルク、それに中和剤で混ぜ込んだものだ。これにキャベツの葉を加えて、隠し味に調味料を幾らか。レシピは数十回以上繰り返して、その度に調整してきた。
そして、今回も調整を入れている。
キャベツのパイを作るときは、その葉の甘みを生かすのがいい。
だから、生地の方には、ちょっとお塩を強めに入れているのだ。
この辺りの話をしていると、リオネラは熱心にメモを取ってくれる。二人で作ると、料理は楽しい。
中和剤を入れることによって、幾つかの作業を簡略化できる。
焼くこと自体も、時間を短縮できるのが嬉しい。
途中の作業は、幾つかホムにも手伝ってもらった。三人で作業をすると、何だかはかどる気もした。
釜に入れて、しばらくして。
良く焼けたホールパイを引っ張り出して、できあがりだ。
じゅうじゅうと生地が香ばしい音を立てる。包丁の刃をいれると、さっくりといい音を立てて、パイが切れた。
大きめのホールパイを作ったから、三人で食べると、少し余る。
ただ、リオネラは。一口食べると、びっくりしたように目を丸くしていた。
「おいしい……」
「ありがとう! パイって、美味しいよね」
「うん……」
本当に嬉しそうにうつむくので、ロロナも吊られて笑ってしまう。
しばらく二人で、今日のことを話す。そういえば、ぬいぐるみ達は、何も食べなくて良いのかと聞いてみる。
リオネラは、寂しそうに笑った。
「二人は、何も食べなくていいの」
何となく、その理由はロロナにも分かってはいるのだけれど。具体的に、形にはしたくなかった。
翌朝。
王宮に出向いたロロナは、非常に眠そうにしているステルクを見つけた。この人は何日か旅を一緒にした場合も、ほとんど徹夜同然にもかかわらずいつも平気な顔をしているので。こんな風に疲れ切っている様子なのは、はじめて見た。
「ステルクさん、おはようございます」
「おはよう。 キャベツ祭は楽しんだかな」
「はい! 何個も大きなキャベツが採れました!」
「それは良かった」
最初の頃は、ステルクの顔が怖くて仕方が無かったけれど。
会ってから一年も経過すると、顔自体は平気になってきた。ただ、時々、まだ怖いと思うことはある。
ステルクは気分を切り替えたからか、眠そうな雰囲気をすぐに消した。
ただ、やはりいつもに比べて、動作が鈍いような気がする。
「では、今回の課題だ」
「はい。 え……」
流石に、見て最初意味が理解できなかった。
緑化事業を成功させよ。
ただ、それしか書かれていなかったからだ。
ステルクは咳払いすると、説明してくれた。
「少し前から、アーランドの南西部にある荒れ地を、開拓する作業が開始されている」
南西というと、確かモンスターがかなり住み着いている危険な場所だ。
アーランドの南にはあまり大きな都市がなく、別の国との国境もない。海岸線が続いていて、その殆どが荒廃していて、緑化どころでは無い。点在する村は身を守るので精一杯であり、街道と村という点と線だけが、人の領土となっていると聞いている。
それ以外は、荒野ばかり。
たまにある森や草原は、モンスターが住み着いているため、危険で子供は踏み込むことも許されていない。
アーランド王都南の荒野は、そんな場所の一つだ。
「あの、モンスターは大丈夫、なんですか?」
「既に掃討作戦は完了している。 川から水を引いてきているが、ここからが重要だ」
「栄養剤……ですね」
「そうだ」
ロロナも知っている。
アーランドの歴代錬金術師は、王都周辺の緑化政策に進んで協力してきた。ロロナでさえ知っていると言っても良い。
文明をオルトガ遺跡から持ち帰った後、錬金術師達は代々、アーランドを豊かにする事業に貢献してきた。
それは工業よりも、むしろ土地の力を強める作業の方が、多かったかも知れない。
アーランドの東に広がる森は、その成果の一つだ。
それに、ロロナも参加する、という事か。
「水と安全については、此方で保証する。 君は栄養剤を大量に作成して、納品して欲しい」
これは、ひょっとして。
ロロナが、一人前と認められたから、こんな難しい課題が来た、という事なのだろうか。
もしそうなら。
クーデリアの立場を、少しは良く出来るかも知れない。
家の人達に、あんなに酷い事をされずに、済むかも知れないと思うと。ロロナは、やる気が燃え上がってくるのを感じた。
「分かりました! 頑張ります!」
「うむ。 期待しているぞ」
ステルクに言われて、ロロナは頷くと。すぐにアトリエに戻った。
緑化政策についての資料は、いくらでもある。
それだけではない。今まで、この日が来ることは、想定していたのだ。
豊かな土の作り方。
栄養剤の作り方。
土地の育て方。守り方。それぞれ、歴代の錬金術師達が、ノウハウを本にまとめて、残してくれている。
それらを、ロロナは踏襲していけば良い。
勿論、困難な作業の筈だ。
それでも、やる価値は、充分にあった。
まず一日がかりで、必要な材料をリストアップする。今回の課題を見ると、事業を軌道に乗せれば良い、とある。それならば、ある程度の土地の緑化に成功した時点で、後は王宮の魔術師や技術者に引き継ぐことが出来るだろう。
ロロナは、最初の一押しをすれば良い事になる。
それでも、樽にして十個や二十個分くらいの栄養剤は必要になるだろう。
リストアップを終えると、今度はクーデリアに声を掛けて、現地を見に行く。アーランドからそう離れてはいない場所とは言え、オルトガラクセンの更に南だ。往復すると、半日は飛んでしまう。
早足で行く。今回は、荷車がないから、多少は移動が早い。
クーデリアは歩きながら、愛用の銃を何度となく確認していた。
「あの辺りって、危険なモンスターがたくさんいるって聞いていたんだけれど、やっぱりアーランド戦士は強いね」
「少し強すぎるくらいよ」
クーデリアは、あまり嬉しそうでは無さそうだ。近隣から、モンスターの脅威が去ったというのに。
街道の左右の緑は、南へ行くほど薄くなっていく。
カタコンベから流れ出ているネクタルが、少なくなっているから、だろうか。パメラは今日出てくるときも、師匠と難しい話をしていた。彼女に聞いても、教えてはくれないだろう。
小川が見えてきた。
流石に、川の沿岸には、草原と森がある。
その森の中で、誰かが楽器を演奏しているのが分かった。遠目に見ると、切り株に腰掛けた、多分吟遊詩人だろう。
いろいろな街を回りながら、人々に演奏と歌を聴かせて、日銭を稼ぐ芸人の一種。ずっと昔は、物語を伝える役割も果たしていたと、ロロナは聞いている。
最近は、他の旅芸人と変わらない立場になっているというけれど。
ただ、少しあの場所は危ないかなと、ロロナは思った。しかしながら、見ているとかなり手慣れている。
ひょっとすると、アーランド人かも知れない。
遠目にはよく分からないけれど。おしゃれな格好をしていて、かっこいい帽子を被っていた。手にしている楽器は何だろう。ロロナはあまり詳しくないから、遠目では種類を判別できない。
吟遊詩人は仕事の関係で、美しく身繕いしていることが多いのだとか。
「ほっときなさい」
クーデリアに腕を引かれたので、そのまま行く。
何だか気になったのだけれど。まあ、今は現地調査が先だ。
街道を急ぐ。
朝一番にアトリエを出て。丁度気温が上がってきて、心地よくなった位の所で、現地に到着した。
激しい戦いの痕跡が、彼方此方に残っているけれど。
既に片付けは済んでいるようで、死体の類はない。もしも死体がある場合は、ヴァルチャーなどのスカベンジャーが姿を見せるし、何より臭いで分かる。
見事な荒野だ。
此処に、まず水を引くらしいという事は、渡された資料を見て知っている。
緑化する地域は、手始めに五百歩四方ほどだという。あまり広大ではないけれど、三ヶ月で緑化の目処を立てなければならないのだから、大変だ。更に上手く行ったら、栄養剤を定期的に納品して欲しいとも、課題には付け加えられていた。
歴代の錬金術師達も、こんな風に、国から緑化の依頼を出されていたのだろうか。
ざっとくだんの土地を見るが、緑化予定地の周囲には、柵が立てられていた。この内部を、緑化すると言うことだ。
柵の四隅には見張り台。
少し前まで、モンスターがいたのだし、当然だろう。巡回の戦士が、柵の辺りで話し込んでいるのが分かった。
はて。
何だか、子供のような姿がある。フォーマンセルの戦士達の中に、一人混じっているけれど。
クーデリアに、袖を引かれた。
「彼方此方注意が移り過ぎよ」
「ごめん、くーちゃん」
まず、腰をかがめて、土の質を見る。
触ってみると分かるけれど、完全に死んでしまった土だ。
こんな土では、雑草くらいしか生えないだろう。それも、干涸らびたやつだけ。文字通りの、不毛の大地。
だけれど、このくらいの不毛の土地は、当たり前のように存在している。
世界の殆どは荒野と砂漠なのだ。内陸はもっと酷いと、いつだか誰かに聞かされた事もある。
「ロロナ!」
クーデリアが呼んでいる。
小走りでそちらに行くと、大きな穴が開いていた。明らかに何かを掘り出した跡がある。
戦いの後、調査チームが入ったのは間違いない。何か埋まっていたのだろう。或いは、遺跡、いや機械の類かも知れない。
貴重な機械だったら、工場に運んで、そちらで活用する事になる。
昔の錬金術師だったら、或いは直せたのかも知れないけれど。ロロナでは、とても無理だ。残念だけれど。
「周りを見てきたけど、酷い状態だね……」
「モンスターがいないだけマシよ」
「モンスターは、どうしてこんな所に住むんだろう」
「さあ。 ただ、モンスターといえど、こんな所では食糧を得られないでしょうね」
だから、街道に出向いて、旅人を襲ったり。
或いは近くの森や草原で、狩りをするわけか。
モンスターの巣穴らしいものも所々にあるが、全て潰されてしまっている。端の方では、既に引水作業が始まっている様子だ。
近くの川から、水を引いてきて、まずため池を作る。
これは、下流の水量を調整するためだ。
話によると、水源となっている山々の緑化が進んでから、明らかに川の水量が増えているのだという。
とはいっても、まだまだ緑化されている山など、数えるほどしかない。
水も、貴重なのだ。
ため池から、どれだけの水を引けるか。測量して、調査して。
ロロナの作業は、その後。
実際に土を豊かにするため、植物用の栄養剤を作る。ただこの土の状態では、それも厳しいかも知れない。まず土そのものを豊かにする必要がありそうだ。
雨が降り出した。
小雨だけれど、状態を見るには良い。
案の定、土は殆ど水を保持できていない。
働いている、左腕だけの老人が、此方に気付いた。左腕だけで、大きな鍬を振るっていたのだけれど。
この様子だと、恐らくは戦傷で前線を離れた老戦士だろう。
筋肉質で、体格も優れている。ごま塩状の髭もあまり長くは伸ばしておらず、その代わり顔に刻まれた皺は、その難しい性格を示すように深かった。
上半身はむき出しにしているが。その体には、歴戦を示すように、無数の傷が残されている。
「お前さんが、新しい錬金術師か」
「はい、ロロナと言います」
「ふん。 二代続けて怠け者と無能だったからな。 今度は当たりだと良いんだが」
いきなり酷い事を言われた気がする。
だが、ロロナは、どうにか持ちこたえた。実際、アストリッドが、錬金術師として殆ど仕事をしていなかったのは、事実なのだ。ロロナも幼い頃から、師匠が殆ど仕事をしていないことは、嫌と言うほど見せつけられていた。
それに、師匠の先代は、あまり評判が良くなかったとも、街の噂で聞いたことがある。
歴代の錬金術師達は、アーランド王都の発展のために尽くしてきた、それこそ中核的な存在だった。
それなのに、アトリエを取りつぶす、などという話が出てくるほどなのである。
二人がどれだけアーランドへの功績を欠いていたかは。この人に言われるまでも無く、分かった。
「俺の名前はジェームズだ。 かれこれ五十年、緑化政策に携わっている」
「ご、五十年!」
「戦闘で利き腕をやられてな。 その当時の王に、この仕事をもらったのさ。 だからお前さんの六代前から、錬金術師とは関わっている。 ここしばらくは、ずっと既存緑地の管理ばかりが仕事だったがな」
それは、凄いベテランだ。
若々しいアーランド人でも、戦士としての絶頂期に腕を失ったとして、八十くらいだろうか。
小雨が止んできた。舌打ちするジェームズ。やはり、この人から見ても、この荒れ地は酷いのだろう。
「ジェームズさんは、まず此処をどうするべきだと思いますか?」
「まず地面を耕して、栄養を入れる。 その後は、成長が早い雑草を植えて、其処にミミズや小虫を入れて行く」
よどみなく、ジェームズは説明してくれた。いきなり酷い事を言われたけれど、この人はプロだ。何をするべきか、しっかり理解している。
それに、ロロナの知識とも、今の発言は合致している。錬金術師達の手記にも、そういったことが書かれていた。
いきなり木を植えても、緑化は出来ないのだという。まず地面を作って、草を生やして。草が元気よく生えてくると、自然に虫も集まってくるようになる。其処に、低木を植えていく。最初の雑草は刈って、地面に埋め、更に土地を豊かにする工夫をしていく。
最終的に、木を生やしていく。
そうすると、其処はしっかりした土に守られて、森になって行くのだ。
勿論、其処までするには、何十年も掛かる。
ロロナが今するべき事は、土地を耕して、地面に栄養を与えて。草をたくさん生やして、土地の基礎を作る事。
そのためには、栄養剤が必要だ。
「栄養剤が、いりますね。 わたし、作ってきます」
「ほう? やる気だな。 そうだな、まずは、水をあの辺りに引く」
ジェームズが指さしたのは、今作っているため池の周辺だ。其処から、格子状に水路を作っていくのだという。最終的に、川に合流するようにするそうだ。
土地は若干傾いているという事だが、坂になっているほどではない。
「はっきりいって、俺はお前には期待はしておらん。 アーランド東の森から、まず余った土を運んで、其処からはじめる予定だ。 だが、お前がもしも栄養剤をしっかり作り込んできたら、工期は大幅に短縮できる。 そうだな、俺が死ぬまでには、此処に森を作る事が出来るかも知れんな」
相変わらず、歯に衣着せぬ物言いだ。
だが、ロロナは頷く。
この人がプロで。近年の錬金術師が、街の信頼を失っていて。そして、ロロナが頑張れば、その信頼を取り戻せて。
そうなれば、側にいるクーデリアの立場だって良くなることが、分かっているからだ。
「分かりました。 まず第一陣は、どれくらいの量を、いつまでに運んでくれば良いですか?」
「質にもよるが、そうだな。 樽一杯は欲しい所だ。 あの辺りの工事が、一週間以内には終わる。 これからはしばらく雨も降るし、水量については問題ないだろう。 栄養剤を投入するのは、土地を耕してからだから、十日という所だな」
出来るかと聞かれたので、頷く。
そうかとだけ応えると、ジェームズ老人は、部下らしい若者達の所に歩いて行った。背中には凄い筋肉が盛り上がっていたし、農作業で鍛えることを怠っていないのだろう。
「プロだけど、不愉快な相手ね」
「でも、くーちゃん、突っかからなかったね」
「あんたと同じよ。 あの老人、言うだけのことはあるわ」
くすくすとロロナが笑うけれど。
あまり、クーデリアは嬉しそうでは無い。
とにかく、最初にやれば良い事は分かった。ホムの手もあるし、今なら栄養剤を大量に用意することも、難しくない。
問題は、品質を確保すること。
そのためには、アトリエに戻ってから、念入りに調査しなければならないだろう。
昔はアーランドの要だった錬金術師ですが、先々代の錬金術師の時代から信頼を失ったという事情があります。
先々代は実は無能と言うわけではなかったのですが(原作では無能呼ばわりされていましたが、あのアストリッドさんが慕うくらいだったので原作でも人格者だったのでしょう)、特化した研究をしていたため、アーランドの分かりやすい役にはすぐには立てなかったのです。
その先々代の弟子である本作のアストリッドさんは、師匠が周囲から冷遇されていたことを非常に恨んでいます。
性格からして色々終わっているアストリッドさんを受け入れてくれたのは師匠だけだった。そしてその師匠の研究は、実は長期的な目線で見ると非常に役立つものだったからです。
アストリッドさんはかくして真面目に仕事をしない錬金術師となりました。
街の人の錬金術師に対する冷たい目線は、この二世代にわたる溝が要因となっているのです。
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