暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、這い出る邪悪

アストリッドが出向く。緊急事態だから、当然だろう。

 

荒野で、戦闘が行われたという。ベヒモス一体が、ロロナと護衛を襲ったのだ。それ自体は別に構わない。護衛についていたクーデリアとトリスタンの戦闘力なら、どうにでもなるとアストリッドは知っていたからだ。

 

問題は、同時に現れたモンスターである。

 

数名の戦士とアストリッドが開発中の荒れ地に出向いた時には、死体の検分は終わっていた。

 

一応、死体そのものと、レポートを見せてもらう。

 

荒れ地に横たえられた死体は、どう見てもワームだ。ただし、あまりにも既存のものとは大きさが違いすぎる。

 

このサイズだと、人を襲うことも出来るだろう。

 

「幸い、動きはさほど早くは無い様子です。 パワーも一人前の戦士であれば、充分に対応できるでしょう」

 

「うむ……」

 

検分をした魔術師に、空返事。

 

少し前まで、アストリッドはオルトガラクセンの内部で、調査作業をしていたのだ。どうもそちらでも、おかしな事が多数起きているのである。

 

今まで目撃されなかったモンスターが、多数姿を見せているのだ。しかもいずれもが、高い戦闘能力を備えていた。

 

ジェームズが来た。此奴も、元は歴戦の勇士だった男だ。こんなワーム程度に遅れは取らないだろうけれど。やはり、懸念はしている様子だ。

 

「何だそいつは。 俺は長くアーランドにいるが、はじめて見るぞ」

 

「これから死体を持ち帰って、改めて調査する。 魔術師が念入りに調査して、他にもいるようなら全て駆除はするが。 油断はしないようにな」

 

「分かっているさ。 せっかく緑化が始まったんだ。 そんなカスモンスターに、引っかき回されてたまるかよ」

 

「頼むぞ」

 

アストリッドだって、緑化がどれだけ大事な作業かは分かっている。

 

この世界は、一度死んだ。理由については公表できないが、既にアストリッドの中では固まってもいる。

 

緑化は世界を再生させる重要な作業。

 

そしてアーランドでは、少なくとも年々確実に進行してもいる。このまま自然環境を再生させていけば、やがては辺境諸国にも技術力を伝播できる。そしてロロナには、それが出来るだけの才能が備えてある。

 

そう、備わっているでは無い。備えてあるのだ。

 

だからこそに、邪魔をする存在は許しがたい。もしも、ワームが何かしらの存在に寄って造り出されたとしたら。

 

考えられるものは。

 

ホムンクルス達を呼び集める。

 

結局、今作成中の完全体も含めて、男の子のホムンクルスは実用に移せなかった。いや、何名かはいるが、女の子型に比べると、どうしても体が弱いのだ。

 

「お前達、この荒れ地が開拓されるまで、命に掛けても守り抜け」

 

「分かりました、マスター」

 

「おい、そいつらは、あくまで一時的に此処を守っているんじゃないのか? こっちとしても、手練れが守りについてくれるのは嬉しいんだがな」

 

「増やすだけだ」

 

手間が増えるが、仕方が無い。ホムンクルスはどうせ増産するつもりだったのだ。王にアストリッドから申請して、此処に廻す分を作るだけ。その分ロロナで遊べなくなるが、仕方が無い。

 

はっきり言って、今のこの世界にとって、森は宝石などとは比べものにならないほどの価値がある。

 

アーランド近隣の森などはその典型。

 

保水も環境保全も、少し手を入れるだけでこなしてくれる、人類の宝だ。

 

勿論、森を作り上げる技術も同じ。

 

アストリッドだって、天才とは言え限界がある。体が幾つもある訳では無いのだ。

 

護衛の戦士達を見回すと、アストリッドは指示を出しておいた。

 

「私はこのベヒモスとワームを、一旦王立の研究施設に持ち込む。 追って指示を出すまで、この場所の護衛を頼むぞ」

 

「了解」

 

「アーランドのために!」

 

その場の全員で、アーランドのためにと敬礼をかわした。

 

正直アーランドの事は嫌いだが、事はそれ以上の問題だ。今は他の連中と、連携を強めていくしかない。

 

思わず腕組みをしてしまう。

 

ロロナには勿論教えるわけにはいかない問題だ。

 

クーデリアは違和感に気付いているようだが、あれはあれで、独自の考えで動いている。

 

今の時点で、プロジェクトが空中分解する畏れはないが。少しばかりこの問題は、大きくなる可能性が高い。

 

今のうちに、対策を練った方が良いだろう。

 

早めにアトリエに戻る。

 

ロロナは嬉しそうに、栄養剤の調合に励んでいた。そういえば、ジェームズが土作りについて、有用な知識を教えておいたとか言っていた。

 

良手だ。ロロナは才能はあるが、頭が致命的に悪い。そうやって思考をそらしておけば、すぐに他に考えが到らなくなる。

 

まずは、ホムンクルスの生産からだ。

 

予定を前倒しして、何体か納品しなければなるまい。しばらくは徹夜が続く。

 

ロロナで遊んでストレスを発散できるのは、だいぶ先になりそうだった。

 

 

 

オルトガ遺跡に出向いたステルクは、思わず呻いていた。

 

積み上げられている無数の死体。

 

アストリッドから報告があったとおり、どれもステルクが見たことが無いものばかりだ。オルトガラクセンに何度も潜ったステルクだが、それでも此処にあるモンスターの死体は、よく分からないものばかりである。

 

ベヒモスの死体もある。

 

ただ、検分してみると、妙なことに気付く。

 

どれもこれもが、既存のものよりだいぶ強いのだ。

 

「おでましですか?」

 

「ライアン殿」

 

皮肉混じりの声に振り返ると。ロロナの父であるライアンがいた。

 

まだ手に剣を持っている。つまり、警戒中という事だ。

 

ロロナの母であるロアナは、遺跡の入り口の方を警戒している様子だ。今の時点で、オルトガラクセンを調査中のメンバーは、全員引き上げさせている。

 

このモンスターは少しばかり異常だ。

 

危険を考慮して、一旦人員を引き上げるのはやむを得ない。また一から調査のし直しになるが、それも仕方が無い事だった。

 

「少し前から、オルトガラクセンには異常な力を持つモンスターが出没するようになったと聞いている。 それがついに表まで出てきたか」

 

「そのようで。 オルトガラクセンの解析が重要なのはわかりますがね。 私としては、一旦封鎖して、精鋭だけで時間を掛けて中を捜索するのを提案しますわ」

 

「……そう、だな」

 

王が何というかは分からない。

 

フリクセル夫妻の本音はこうだろう。プロジェクトを一旦凍結するべきだ。

 

しかし、そうはいかない。

 

「大陸中央部の強国が、いつまでも手をこまねいていてくれれば、このようなプロジェクトは進めなくても良いのだがな」

 

「今のままでは、いずれ力を更に増した列強によって、アーランドをはじめとする辺境諸国は蹂躙される、ですか?」

 

「その通りだ」

 

皮肉に、ライアンは口の端をつり上げた。

 

元々、修羅の国として存在したアーランドだ。今更、滅ぶのは仕方が無いとでもいうのだろうか。

 

だが、この国でも、生きている民は大勢いる。

 

そして、荒れ地を緑化し、死に果てた土地をよみがえらせてきたという意味で。アーランドが今、世界的に持っている意味は、大きい。

 

西にあるアールズなどは、最果ての国とさえ言われていて、更に此処より環境が過酷だと聞いているけれど。

 

それは、あくまでマンパワーの問題でもある。

 

「けが人の様子は」

 

「ありゃあ、戦線復帰は無理でしょうね。 ホムンクルスとやらが、前線に回ってくるのはいつですか?」

 

「まだ試運転中だ。 しばらくは、此処を死守して欲しい」

 

「まあ、我々下っ端は、命令に従うだけですがね。 ただ、あんなモンスターが大挙してまた出てきたら、いずれは抑えきれなくなりますよ、と」

 

頷くと、ステルクは一度現場を後にした。

 

すぐにプロジェクトの会議が招集されたので、それに参加する。王も、今回の事態に関しては、重要視しているようだった。

 

既に検分済みの死体のレポートが廻される。

 

ざっと目を通すが、既存のモンスターよりも、だいぶ戦闘力が高いとある。ベヒモスは特にそれが顕著だという。

 

「この戦闘力だと、オルトガラクセンの深部に住まうドラゴン族に匹敵するな」

 

「歴戦の使い手達でも、かなりの苦戦を強いられました。 しばらくは、オルトガラクセンに潜るのは止めた方が無難かと思われます」

 

ステルクが提案すると、王は渋い顔をする。

 

挙手したのはエスティだ。彼女から、説明をしてくれるというのだろう。

 

「大陸中央部の大国、スピア連邦で、重要な発表がありました」

 

スピアと言えば、アーランドの百倍に達する人口を誇る、大陸中央部の雄だ。軍事力も優れていて、錬金術師も数名抱えていると聞いている。

 

アーランドと直接国境を接してはいないが、前から警戒を強めている相手である。

 

「この度、スピアでは、複数の国家を連邦に編入することを宣言。 その名簿が、これです」

 

レポートが配られる。

 

思わず呻いたのは、その中には明らかにスピアと敵対している国が、複数あった事だ。つまり編入というのは、実力行使を意味している。

 

スピアは富国強兵で知られる大国だ。首都近辺を緑化する作業も進めているというが、それ以上に人類の国家を力でまとめる事に熱心でもある。確か数年前にも、幾つかの小国を蹂躙して、制圧しているはずだ。

 

勿論、アーランドでも迂闊に手を出せる相手ではない。

 

相当な使い手も複数いる。中には、アーランドを裏切って、逃げ込んだ者までいるという話だ。

 

「スピア連邦の軍事力から言って、この編入は速やかに行われるでしょう。 更に、この編入作業に反発した他の国々でも、今のスピアは実力で排除できる事かと思われます」

 

「つまり、プロジェクトは」

 

「更に進めるほかない、という事だ」

 

王は立ち上がると、咳払いした。

 

これから、プロジェクトの先頭に立つ、というのである。

 

「アーランドの宝は人材だ。 だから、無為に失うわけにはいかぬ。 これより危険度が高いオルトガラクセンの探索には、私が率先して当たる」

 

「陛下!」

 

「勿論、安全は期するつもりだ。 アストリッド、負担を掛けることになるが、ホムンクルスの量産を急げ。 私は最精鋭とともに、オルトガラクセンの調査と、モンスターの掃討を続行する。 作業は前倒しになってしまうが、すまぬな。 完成体の納品も、期日通りに頼むぞ」

 

「お言葉とあれば」

 

青い顔をしているクーデリアが、一瞬だけ視界に入った。

 

予想以上に状況がまずいことに気付いているのだろう。ロロナに対する負担も、今後は更に増すことが確実だ。

 

「今回の課題については、どうなっている」

 

「ジェームズの報告によると、品質は問題なし。 予定通りに進めることが可能だという事です」

 

「緑化だけは、急いでも結果を出すことが出来ぬからな……」

 

王が悔しげに嘆息する。

 

今回の緑化が上手く行ったら、更に何カ所かに着手。そうすることで、アーランドの南部の広大な荒野を、一気に緑化することが可能だ。

 

そうなれば、土地の保水力があがり、周辺に幾つかの村を増設することも出来る。そればかりか、森の周辺に田畑を作る事によって、更に食糧生産を引き上げる事も出来る。民の数も増やせるだろう。

 

今回、ロロナにさせている作業は、その第一歩。

 

今後も定期的に栄養剤を納品させて、緑化を加速させる狙いがある。今までどうしても着手できなかった地域の緑化は、それだけ大きな意味があるのだ。

 

幸い、近頃は雨が多い。

 

緑化は今の時点では順調だ。オルトガラクセンのモンスターが這い出して来るという突発的ハプニングと、確実に覇道を進める大陸中央部の列強の動きがなければ、もっと穏やかに話を進めることが出来たのだが。

 

しかし前者は兎も角、後者はわかりきっていた事だ。だからこそ、プロジェクトを九年がかりで行っているのである。

 

何もしなければ、蹂躙の劫火だけが、アーランドの未来にある。

 

「辺境各国の反応は」

 

「既に幾つかの国からは書状が来ています。 プロジェクトの進展について問うものもある様子です」

 

「近々、対応せねばなるまい。 メリオダス、頼むぞ」

 

「お任せを」

 

文官として、この国を守っている大臣は。一礼。

 

後は、計画の前倒しが出来ないか、見直しが必要になるだろう。

 

ロロナだけが、何も知らない。

 

世界の状況と、自分が置かれている立場を。ステルクはそれを哀れだと思うが。何もしてやれなかった。

 

会議が終了すると、めいめい会議室を出て行く。

 

真っ青なまま座っていたクーデリアを、父のフォイエルバッハ卿が一瞥。声も掛けずに、出て行った。

 

ステルクは部屋を出ると、王に追いつく。そのまま、一緒に歩きながら、話した。

 

「オルトガラクセンには、誰を伴う予定ですか」

 

「探索の経験が豊富なフリクセル夫妻に、アストリッド。 それに君とエスティかな」

 

「それは。 総力戦の態勢ですね」

 

「その通りだ。 私が本気である事が、分かったかな」

 

冗談めいて言う王だが、その目は笑っていない。

 

オルトガラクセンの最深部には、まだまだ未知の技術が眠っている。それらを持ち帰ることが、現在の急務。

 

そして出来れば、モンスターの異常発生の根源も、叩いておかなければならないだろう。

 

「一月以内に、モンスターの異常発生を解決する」

 

「しかし、ロロナの周辺環境が気になります。 調整を行ってきたとはいえ、あまりにも急激なハードルの嵩上げは、失敗につながるのでは」

 

「そのために急ぐのだ。 これ以上、負担を増やすわけにもいくまい」

 

地下から出て、地上に。

 

雨が降っていた。

 

荒野の方は大丈夫だろうか。ロロナは今頃嬉々として調合に励んでいるのだろうが。その周囲には、無限の闇が広がっている。

 

早速、出陣すると、王がふれを出した。

 

この様子だと、数日はオルトガラクセンから帰還できないだろう。アストリッドはホムンクルスに掛かりっきりだから、フリクセル夫妻とステルク、エスティだけで王の周囲を固めることになる。

 

今まで構造が完全に分かっているオルトガラクセンの地下は、七層。予想では、その倍以上、広がりがある。

 

アストリッドは十二層まで足を踏み入れたことがあるようだが、其処までの道のりは危険すぎて確保できていない。

 

文字通り、決死の探索となるだろう。

 

すぐに準備が整えられ、王と供にオルトガラクセンに向かう。

 

荷駄の人員も含めて、精鋭十名のみと言う編成だ。

 

一度だけ、ステルクはアーランドに振り返った。

 

もう、帰る事は出来ないかもしれない。

 

この国は、岐路に立たされている。そう、ステルクは思った。

 

 

 

(続)








原作でもオルトガラクセンは重要ダンジョンで、極めて危険な場所です。

内部に複数ドラゴンがいるここに、アーランドから子供の足で一日でいけてしまう。

それくらいアーランドってのは色々危うい街なのだという証拠ではありますね。

本作ではその危険度に、更に磨きが掛かっています。

屈強なアーランド人ですら、まだ最深部までいけてはいないほどなのです。






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