暗黒錬金術師伝説3 暗黒!ロロナのアトリエ   作:dwwyakata@2024

46 / 121




ここで解説が入りますが。

アストリッドさんにとって唯一の家族だったお師匠様の専門分野はホムンクルス。それも、この分野に関しては右に出る存在がいないほどでした。

その特化型の才能で犠牲になるように。

他の事ができない人だったのです。






緑の絨毯の影で
序、目覚め


それは、ノウハウの蓄積だ。

 

錬金術は、基本的に先人の遺産を積み上げていくものである。アストリッドでさえ、単独ではそれほど凄い発明を成し遂げることは出来ないだろう。今アストリッドが着手しているホムンクルスの生産などは、その最たるものだ。

 

ホムンクルスについては、思い入れも深い。

 

何しろ、アストリッドの師匠が、唯一にして絶対の才能を持っていた分野だから、である。

 

部屋に林立する硝子の培養槽には、数体の調整中ホムンクルス。

 

そして、師匠が残した技術に基づいて作り上げた、最高の戦闘用ホムンクルスが、眠っている。

 

現在、最後の調整中だ。

 

性別は女。

 

ホムンクルスの研究を把握してからも、だが。やはり天才であるアストリッドにも、ホムンクルスは難しい。錬金術の究極と言って良い存在でもあるのだから、当然だろう。人間を、作る。

 

それは、錬金術にとって、究極の目標だ。

 

そして師匠は、それだけに特化した、極めて偏った才能の持ち主だった。事実、ホムンクルスの実用化は。無能だ役立たずだと罵られた師匠がいなければ、今なお理論さえ実現できなかっただろう。

 

調整が終わった一体を、培養槽から引っ張り出す。

 

名前など、どうでもいい。だから、数字でつけている。

 

「お前の名前は26だ。 把握したか?」

 

「はい。 把握いたしました」

 

「すぐにそれを読んで頭に入れるように」

 

「了解です、マスター」

 

感情がない顔には、何の闇もない。だからこそ、人間からは怖れられる。幸い、このアーランドは、武力が尊ばれる国。

 

実戦で役立つところを見せてから、ホムンクルス達も多少は周囲に優しく接して貰えるようになったようだ。

 

これで、緑化中の荒野に配備するホムンクルスの代替要員は確保できた。

 

数日徹夜が続いたが、どうにかなる。

 

幾つかの薬草をブレンドし、ネクタルを加えた栄養液を口にすると、アストリッドはもう一度意識を整え直した。

 

ホムンクルス達に服を着せると、すぐに王宮に連れて行く。

 

先輩のホムンクルス達に顔合わせをさせた後は、エスティと話そうと思ったが。そういえば彼奴は、今オルトガラクセンの攻略中だ。今頃、強力なモンスターの群れを、王やステルクと一緒に、薙ぎ払っていることだろう。

 

代理の少し頼りない女騎士に、状況を聞く。

 

エスティの妹なのだが、はっきり言って戦闘力以外に見るところが無い人物である。仕事も滞らせてしまっているようだ。

 

優秀な親から、常に優秀な子が産まれるわけではない。

 

ましてや、教育と努力で、素質は眠ったままにもなるし、開花もする。おどおどしている娘、確かフィリーとかいう名前だが、家に引きこもって、滅多に出てくる事も無いと言う。

 

戦士としては、相応の実力者らしいのだが。それなのに人間恐怖症とは、どういうことなのだろう。

 

「ホムンクルス達は何か問題を起こしていないか」

 

「平気ですけれど、あの子達、不気味です。 表情がなくて、可愛くない……」

 

「当人の前で、よくもまあそう言うことを言えるな。 感心するぞ」

 

青ざめたフィリーに、21から26までを引き渡す。ぞろぞろ並んで入ってきたホムンクルス達に、フィリーは小さな悲鳴を上げた。

 

現在、荒野の警備に当たっているのは6体。これで代替要員が揃ったことになる。元々ベテランのアーランド戦士並みの実力を有しているホムンクルスは、少し教えるだけで、即戦力として使用可能だ。

 

更に、これから完成体を納入した後は。毎月ホムンクルスを量産して、納品していくことになる。

 

各地の警備や前線の監視など、仕事はいくらでもある。

 

ただでさえ、人材を宝とするアーランドだ。戦闘力を備えた者は、いくらでもほしがる。必要な納品量を達成するには数年はかかるだろう。その頃には、アーランドの軍事力は、倍以上になっているのだ。

 

あくびをしながら、アトリエに戻る。

 

窓から、ロロナの様子を覗く。

 

ロロナは嬉々として栄養剤を調合している。ツボに入ったのだろう。多分、程なく次の納品に向けて出かけるはずだ。

 

自室に音もなく戻ると、培養槽の中に浮かんでいる完成体を見上げた。

 

多分、誰も知らないだろうけれど。

 

この完成体は。

 

他と同じように、幼い女の子の姿をしている。美しい黄金の髪を持つこの完成体の基礎部分には。

 

誰からも愛されず。

 

誰にも理解されなかった。

 

アストリッドの、最愛の人を用いている。勿論、存在の情報を利用している、というだけだ。

 

体調を崩した時、見舞いに来る者さえいなかった。

 

すぐに成果が出る学問ではないから。それが、誰もが理解しなかった理由だった。それにしか、才能がなかったことが。無能と罵られる理由だった。

 

アストリッドが、今ホムンクルスを大量生産できるのは、この人のおかげ。

 

この人こそ。「無能」と呼ばれた、アストリッドの先代錬金術師。そして、複雑な家庭事情を持つアストリッドにとっては、実の母にも等しい人だ。直接ではないが、ロロナにも、クーデリアにも関係がある。クーデリアしか覚えていないようだが。この人がいなければ、ある技術は完成していなかった。つまり、二人は生きてはいられなかったのだ。

 

既に、意識はある。

 

もう少し調整したら、この液体の中から出してやらなければならないだろう。それにしても、皮肉な話だ。

 

人間の情報を解析し、複製するという研究を、実用段階にまで進めたこの人が。その研究で、また新しい命を得るのだから。

 

勿論、人間の人格は記憶と経験にて作られる。

 

前のあの人ではない事は分かっている。

 

世間的には、ぱっとしない容姿だと師匠は言われていた。だが、アストリッドにとって、この造形こそ至高だ。

 

早く培養槽から出してあげたい。

 

知能も戦闘能力も、他のホムンクルスとは比較にならない完成体だ。名前は、既に決めてある。

 

過去の偉大なる錬金術師から取った。

 

調整をしてから、一休みする。

 

もう少し発育を促進してから、出してやるとしよう。

 

さあ、パラケルスス。もう少ししたら、お前を日の下に出してやることが出来る。そうすれば、お前は。かっての汚名を拭う、最強の存在として、アーランドに名を残すのだ。無能だから迫害された。役立たずだから馬鹿にされた。

 

存在価値が無いとまで言われて。あんなに悲惨な病床に、アストリッド以外の誰も来ることがなかった。

 

アストリッドの歪んだ人格は、此処から来ている。

 

だが、今更そんな人格、変える気は無い。

 

普通の人間が如何に残虐で冷酷な存在か、嫌と言うほど思い知らされているからだ。

 

明後日には、完成するか。

 

勿論完成後は、実働でレポートをとり、更に改良を進める必要があるだろう。最終的には、誰にも見下されず、誰からも敬意を払われ、この国を代表するとまで言われる師匠を、アストリッドが作り直すのだ。

 

楽しみだ。

 

疲れが溜まっているので、早めに休む。

 

ロロナは、遅くまで調合を続けている様子だった。








アストリッドさんがいかに歪んでいるか。

この話だけである程度分かるかと思います。

誰からも受け入れられなかったアストリッドさんの唯一の家族を奪った存在、「愚民」への憎悪。

それがアストリッドさんの心の中で、いまでもマグマとなって煮えたぎっているのです。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。